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元社畜の転生賢者は、過酷な異世界に行っても休めない  作者: 赤坂しぐれ
第一章 過労死から始まる異世界転生編
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第三話 現実


「この道を行けば、どうなるものか」


 俺は顎を突き出し某元国会議員レスラーの物真似をしながら、何もない真っ直ぐな道を歩いていた。もうかれこれ数時間歩いている気がするが、実際のところはわからない。

 一切変わることない景色。

 昇りも沈みもせず、一切の暑さを感じさせない太陽。

 真っ白で一直線な道。

 これらが俺の感覚を奪っていたからだ。


「うん、これは普通の人だったら発狂してるよね?」


 幸いというべきか、単純作業で構成されたテーマパークで仕事をしていた俺にとって、ひたすらに同じ景色を眺めながら歩くことはそこまで苦痛ではない。足を動かせば前に進むし、進めば先に目的地があることを知っているからだ。

 終わりの見えない不具合出しや、目的の不透明な仕様書に基づいて製品を弄くるデスマーチなんかより、遥かに楽だ。それに、魂の体だからかどれだけ歩いても疲れない。


「しかし、いつまでこうやって歩くのやら。流石に飽きては来たぞ……おっ?」


 愚痴を呟きながらも前に進んでいると、遥か向こうの方に一件の家が見えてきた。なんというか、ヘーベ○ハウスのアレの様な簡単なデザインである。もしかすれば『ハーイ!』と言ってくれるかもしれない。

 ただ、それでも何の変化も無かった旅路に現れた家に、俺は内心とても喜んだ。


「もしかして、あれが異世界の神様の家なのだろうか」


 高鳴る鼓動を抑えつつ、俺は家に近づいていく。

 家はとても簡素なものだった。屋根があって壁があって、玄関と小さな窓が二つ。平屋のそれは、まさに小屋と呼んで差し支えのないものだ。


「さぁて、どんな神様かな……ごめんくださーい!」


 俺は玄関についていたノッカーを叩く。カンッカンッと小気味良い音が鳴ると、中から住人が顔を覗かせた。


「誰じゃこんな場所に……」

「は? なんで神様がこんな所にいるの? 瞬間移動?」

「なんじゃ藪から棒に。ここがワシの家なんじゃから、ワシが居って当然じゃろう!」


 プンスカと頭から煙をあげる神様。

 いや、だってさ……こんな所に住んでるなら、一緒に連れてきてくれてもいいじゃんか。


「連れてくるもなにも、お主とは初めて出会ったのに、出来るはずがなかろう」

「へぁ? 初めて? おいおい、神様もボケが来るもんなのか? 今日会ったばかりじゃねーか」

「何を言っておる。むむ? お主のその気配……大方、《テラ》から来た異世界人じゃろ?」

「えっと、テラが何かはわからないけど、異世界に向かってこの道を来たのは間違いないです。て言うか、本当に俺の知ってる神様じゃないの?」


 俺の目の前に立つ老人は、どこをどう見ても先程俺と話していた神様だ。寸分違わないサイズ感もそうだし、右目の下にあるほくろも一緒だ。


「あぁ、なるほどのう。お主にとっては、ワシもテラの神も同じ神じゃから、同一視のイメージがお主にそう見せとるだけじゃのう。ワシら神は一定の外見をしておらん。むしろ、性別も年齢も存在せんからに、ワシの姿や言葉遣いを作り出しておるのは、お主の脳じゃ」

「な、なんだってー!? じゃあ、俺が強く願えば神様の姿形は自由自在なのか!?」

「そ、その通りではあるが……一度固定してしもうたイメージはなかなか覆らんぞ?」

「はっ、任せろ。こう見えて、妄想と現実を結びつけるのは得意なんだ。そのせいで、中学の時に口から妄想を垂れ流して、みんなにドン引かれたけどな!!」

「お主、難儀じゃのう……」


 飽きれ顔の神様をそのままに、俺は瞼を閉じて強くイメージする。

 目指すイメージは既にできている。こちとら、異世界に行くことを妄想して幾星霜。俺にとっての神様はこうであってもらわねば困る。


「見えた!!」


 カッと目を見開く。すると、目の前に立っていた老人は、まるで粘土人形をいじくるかの様に、その姿をみるみる内に変えていく。

 そして、変化が終わってその場に立っていたのは、金髪に碧眼の、ろりっ子神様であった。


「ブラボー! オー、ブラボー! ちょろいぜ!」

「なんと、こやつ……自分の中の固定概念をあっさりと崩しおったわ。というか、何故に童女の姿にしておいて老人の様な口調のままなのじゃ?」

「ばっきゃろう! 金髪、碧眼とくれば、のじゃ口調にCV:田村ゆ○りさんだるろぅ!?」

「いや、誰じゃそいつ……」

「とにかく、これで俺は神に敬意を持って接することが出来る」

「むしろい今までは無かったのか!?」


 うむ、やはり神様といえばこうでなくてはいけない。よし、いつかまた元の世界の神様に会う機会があったら、黒髪ツインテの巨乳どじっ子にしてやろう。CVは雨○天さんだ。


「して、ろりっ子よ」

「お主、本当に敬意ある? ねぇ?」

「まぁまぁ。で、ろり神様よ。俺はこの世界で何をすればいい?」

「む? 向こうの神から聞いておらぬのか?」

「向こうの黒髪巨乳(予定)神からは好きに生きればいいと言われた。が、それは向こうの神様の都合だろ? こっちの神様的には何をして欲しいのかなって」

「なんじゃ、そんなことか。まぁワシとしても何も思惑がないわけではないが、とりあえず当面は世界で無事生き残ってもらうことが最優先事項じゃな」

「なにか含みがありそうだな……っていうか、生き残ってってことは、結構過酷な感じ?」

「うむ、テラに比べれば死が身近じゃろうな。お主が頭に描いておる魔法や剣の世界ではあるが、過酷さはその想像よりも遥かに厳しい。例えば、ゴブリンという種族はおる」


 ろり神様が空中を撫でると、その部分にホワイトボードの様な白いキャンバスが現れた。


「それ、向こうの神様も似たようなの使ってたけど、俺にも使えない?」

「ん? こんなもんで良ければ授けよう。それでじゃ、ゴブリンと聞くとお主はどんな特徴を想像する?」

「えっと……体は子供程度で、簡単な武器が使えて、でも知能が低いから雑魚扱いされる」

「なるほど、なるほど……うむ、お主と同じ事を言った別の世界から来た転生者がおったのう。その末路を見せてやろう」


 ろり神様がキャンバスに触れると、なにやら映像が浮かんできた。


『はぁ、はぁ、嘘だ、ろ! 嫌だ! 死にたくない!』


 映像に映し出された顔立ちの良い男は、顔中の穴という穴から水分を吐き出しながら、森の中を転がるように走っていた。


『ソッチ、行クゾ』

『牙ノ方角、カカレ』

『罠、起動』


 男の背後から何やら声が聞こえるが、その姿は見えない。いや……よく見れば微かに、背景と同化しているなにかが見える。恐らく話の感じでは、これがゴブリンなのだろう。

 見事な迷彩によって、森の風景に紛れている。こんなの遭遇しても見つけられる自信はない。


「あぁ、ちなみにこの声はワシが特別に聞こえるようにしておる。実際は小声過ぎて、この男には聞こえておらぬ」


 そうこうしている内に、映像の男が急に転倒した。森の中だから、木の根っこにでも躓いたのだろうか。と、男の足元がアップで映し出される。


「うっ、これは……」

「酷いもんじゃろ? これは木々の枝を鋭く研いだ物を組み合わせて柵状にし、ブッシュに隠しておったのだ。ご丁寧に、毒草を磨り潰したものと糞尿を混ぜ、枝の先に塗っておるのぅ」

「ご、極悪過ぎるだろ……」

「頑丈な革鎧を纏っておるとはいえ、太股など布しか無い場所もあるからのう。そこに刺されば、ほれ」


 男は痛みに表情を歪める。が、直ぐにその表情がするんっと抜け落ち、口からだらしなく涎を垂らし、瞳孔が開き始めた。


「あれは神経毒にやられたのう。即死はせんが、男には既に意識と呼べるものは存在せん」


 そして動けなくなった男は、追いついてきたゴブリンにより、そのまま滅多打ちにされて事切れた。

 目の前で繰り広げられた惨劇に、俺は酸っぱいものが込み上げてくる感覚に襲われる。が、この体では吐くものもないのだろう、ただただ胸を焼くような嫌悪感だけが残る。


「わかったかのう? これが、異世界の《現実》なのじゃ。確かに凄まじい魔法も強力な武器も存在する。さっきの男とて、決して弱い者ではない。これでも加護はいくつも与えたからのう。だが、自分の固定概念や思い込みが、その力を弱くしてしもうたのだ」

「そんな、バナナ……」

「ゴブリンはモンスターではない。れっきとした《人類》じゃ。ヒトと同じように武器を手にし、言語を用いてコミュニケーションを取り、作戦を立てて獲物を追う。そして、ヒトよりも身体能力で勝り、森の知識に精通する。森のゴブリンは最強の暗殺者だと思ったほうがよいぞ」


 そう言ってニヤリと笑う、ろり神様。半月状につり上がったその笑みが、俺にはなにか恐ろしいものに思えた。


「さて、では聞こう。お主はどんな能力を望む?」

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