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第二十八話 魔剣


 下半身が大蛇の様な姿に変身するオルクール。それと同時に、辺りにいた他の騎士達も次々と姿を変貌させる。


「きゃああぁぁ!」

「化け物……」

「逃げろぉぉ!」


 騎士たちの装着していた鎧は、内側から膨れ上がった肉体によって弾け飛び、その異様な姿を白日のもとに晒す。

 鋭い眼光は獰猛さに満ち溢れ、耳まで裂けた口から覗く牙はノコギリの様にびっしりと生え揃っている。ぬらぬらと光る鱗を纏うその姿は、所謂リザードマンという風貌だ。

 その凶悪な姿に変貌した騎士達を見て、村人達は阿鼻叫喚に陥る。のだが……


「いや、獣人差別してるお前らが人間辞めてるのはどうなんだ!?」


 俺は思わずツッコミを口走ってしまった。いや、でもしかたねえだろう。むしろ、獣人の方が人間に近いまであるぞ?

 そんな俺のツッコミに、一瞬辺りの空気が凍りつく。


「言われてみれば……」

「確かに」

「そこんとこどうなんだい?」


 少し冷静になってしまった村人から問いかけられた元騎士も、微妙な表情で仲間同士顔を見合わせている。は虫類顔って表情見分けづらいのかとおもえば、意外とそうでも無いんだな。


「えっと、あの……」

「オルクール様、どうなんでしょうか?」

「お前たちは本物の馬鹿ですか!? そんなことはどうでもいいでしょうに! はやくそのマレビトを殺すのです!!」


 オルクールの一声にハッと我に返る騎士達。

 ちっ、このまま緩い空気に流されてくれれば良かったものを。

 そんな事を考えていると、チャチャル達ノームがやっと追い付いてきたようだ。


「ヒ、ヒロは、速すぎるのだ!」

「まったくだ……しかし、なんだ! この村を包む禍々しい気配は」

「疲れてるだろうけど、もう一働き頼むぜチャチャル、ディモン! 村の人たちを助けてやってくれ」


 状況を見て察したのか、力強く頷く二人。

 俺はまずは人質になりかねないアンナとピピルさんを助けに向かう。


「やらせてなるものか! マレビトより先に、その獣人を確保するのです!!」

「「はっ!」」

「遅い!」


 格納庫ワープでアンナの側に飛ぶと、アンナを捕まえようとしていた騎士の太ももに剣を突き立てる。

 騎士は全身鎧を着用していたので、当然太ももにも金属の防具が備わっていたが、俺の新たな武器……《斬鉄》にかかれば事もない。



 名称:斬鉄

 分類:丙式剣型魔導具

 神聖なる力によって生まれた魔法剣。使用者の魔力を吸収し、ただただ切れ味と丈夫さを上昇させるだけの効果しか持たないが、材質が魔力吸収効率に秀でているヴェラキア鉱故に、もはや魔剣と呼ばれても差し支えの無い程の力を持つ。また、神聖力を纏うため、退魔の加護を持つ。

 その刃はただこの世の全てを断つために存在する……が、魔力を吸収していない状態では、ただの棒と変わらない。



 チャチャルの力によって生まれたこの剣は、面白いことに魔力を吸収させていなければ、剣の刃の部分を触っても薄皮一枚切ることができない。

 これは物理的な法則を無視した力だそうで、凄まじい力の代償として実際の刃が鋭いのに何も切ることができないという相剋と呼ばれるものらしい。だが、魔力を吸収させた時の切れ味はもはやチートであり、うっかり地面に落としてしまった時にはそのまま地面の中に消えかけた。

 そんな切れ味の斬鉄にかかれば、金属鎧など存在しないに等しい。


「わざわざ殺されに来ると……え? なにこれ」


 本人はまだ気がついていないようだ。既に右足が体から離れ、バランスを保てなくなっていることに。

 騎士は、俺を捕まえようと一歩踏み込んだつもりが、その足が無いという事態を体がぐらりと倒れ始めてから気がつく。あまりの切れ味に血が出るのも一瞬遅れている辺り、斬鉄のやばさがわかる。


「またつまらぬ物を斬ってしまった……」


 俺は前世のSAMURAIが放つ決め台詞を言いつつ残心をし、ゆっくりとアンナへと近づく。背後からようやく事態を把握して、パニックに陥った騎士の叫び声が聞こえてくるが知ったことではない。


「待たせたね、アンナ。もう大丈夫だから」

「ヒ、ロ……さん?」

「すぐに縄を切るから……っと、こいつを使うのはまずいな」


 斬鉄だと手元が狂うと悲惨な事になりそうだ。切れすぎるのも考えものである。

 俺は格納庫にしまっていたナイフを取りだし、アンナの体を縛っていた縄を断ち切る。

 と、自由の身となったアンナは、直ぐ様俺の胸に飛び込んできた。


「ヒロさん、ヒロさん!」

「怖かったろう? もう大丈夫だから」


 出来るだけ平然を装って、アンナを安心させるべく声を出す……が、さきほどから俺の頬に当たるアンナのうさ耳のフサフサ感で頬がにやけそうになってしまう。


「あー、その、なんだ。出来れば俺も助けて貰いたいんだが……」


 そんな俺たちの邪魔をしようと声をかけてくる筋肉ダルマ。もう少し待て。


「いやいやいや、可笑しいだろ!? 助けろよ!?」

「もー、ちょっとは空気を読んでくださいよピピルさん」

「いちゃつくのは後でいくらでもやればいいだろ!? それよりもオルクールをどうにかするのが先だろうに!」


 まぁそう言われれば、確かにそうか。仕方がないのでピピルさんの縄も切って解放してあげることにした。


「ありがとうよ……でもなぜだ、素直に礼を言いづらい気がするのは……」

「さぁ? 気のせいでしょう。それよりオルクールです」

「ヒロ……まぁいい。とりあえず、あのデカブツをどうにかせねば村が潰される」


 チャチャル達ノームがまとわりつくようにオルクールに牽制を仕掛けてくれているおかげで、なんとかまだ村に大きな被害は出てはいない。

 だが、ノーム達も巨大な体を持つオルクールに決定打が打てないので、このままだとじり貧だろう。


「俺はオルクールに仕掛けます。ピピルさんはアンナを連れて、他の村人の避難を手伝ってあげてください」

「しかし……」

「まだ騎士達も残っていますし、戦える人も限られている。お願いします」


 村の猟師や大工などの戦える人は、なんとか騎士達を数で押してはいる。が、そこはやはり腐っても訓練された騎士。

 戦いとなると素人では出来ることが限られている。ちらりと見えたが、リッチの親父さんが負傷して運ばれていたし、結構ヤバイ雰囲気だ。


「素早く頭を潰す必要があります。俺が奴を仕留めます」

「……わかった。だが、命は粗末にしてくれるなよ」

「ピピルさんも。アンナ、もう少しだけ頑張れるかい?」


 視線をむけると、アンナは口をぎゅっとつぐんで大きく頷いた。


「よし、いい子だ。それじゃあ、お願いします」

「おう! お前さんには言いたいことが沢山あるんだ。無事でいてくれよ」

「了解!」


 騎士達に包囲されつつある村人達の方へ向かうピピルさんとアンナを見送りつつ、俺は空を見上げる。

 そこには、ノーム達の牽制を制したオルクールが、ニタリと笑みを浮かべていた。


「まさか、亜人同士が手を組んでいるとは予想外でしたよ。だが、所詮は雑魚の集まり。蛇邪神(ゴーゴン)様の加護を持つ私の敵ではないわ!」

「う、うぅ……ヒロ、気をつけるのだ……」


 オルクールの激しい抵抗によって散り散りに吹き飛ばされたチャチャル達。これだけの体格差があるのに、勇気を持って立ち向かったこいつらはやっぱりすげえわ。


「よく持ちこたえてくれた。あとは、任せろ」

「ふははははは! マレビト一人で何ができる! さぁ、その身を、その魂を! 蛇邪神様に捧げるのだ!!」

「出来るさ。お前を倒すことぐらいはな」


 鎌首をもたげるようにして勢いをつけたオルクールが、俺めがけて体当たりを仕掛けてくる。

 勢いといい、サイズといい、まるで大型トラックが突っ込んでくるかのようだ。

 だが、そんな直線的な攻撃など意味はない。


「【格納庫】」


 呪文と共に開いた入り口に身を翻すと、直ぐ様出口の位置をオルクールの背後に調整する。

 最初のうちは狙った場所に出られないこともあったが、ベラシア村での練習によって今では自由自在でござい。


「き、消えた!?」

「いいのか? そんなよそ見なんかしてて」

「なっ、後ろか!?」


 俺の声に反応したオルクールが、体を捻ってこちらに尾擊を繰り出してくる。だが、既にその尾は別たれている。

 斬鉄をオルクールの蛇の体の部分に振り下ろすと、豆腐に包丁を落とすかのような抵抗の無さですっぱりと断ち切れた。


「ぎゃあぁああぁぁぁっ!!」

「うわ、喧しい! お前もっとクールキャラな見た目なら貫き通せよ!」

「わ、私の、私の体がぁぁぁ……」


 こんな姿になってもどっこい生きてるオルクール。そう言えば前世ではヒロというあだ名から、ど根性なカエルが売りなアニメの主人公の名前に似てると囃し立てられたこともあったなぁ。

 ……うん、なんとなく思い出して腹がたったから、オルクールに八つ当たりしとこう。

 腰から下が無い状態のオルクールは、地面でジタバタともがいていた。俺はその胴体を踏みつけて剣を首筋にぴたりと当てる。


「やい、オルクール。てめぇの知ってることを洗いざらい話しやがれ!」

「ひ、ひぃいぃぃ」


 もう涙なのか鼻水なのかわからない液体にまみれ、ぐちゃぐちゃの泥だらけの顔。せっかくのイケメンもこうなったら形無しだな。

 さて、何から聞いたらいいのだろうか。そう思っていると、急にオルクールがピタリと止まって口角を吊り上げた。


「いかん、ヒロ! 後ろだ!!」


 ピピルさんの怒声が聞こえて来て、振り向いたその瞬間。

 目の前に迫って来ていた蛇の体によって、俺は吹き飛ばされてしまったのであった。

※斬鉄はちゃんと川で洗浄済みです。

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