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第二十四話 融合


 チャチャルへと駆け寄った俺たちは、ぼんやりと光る()()()の存在に気づいた。


「お前、その姿は……!」


 近づくに連れはっきりと見えるようになったその姿に、俺は驚きと胸の痛みを感じる。


「ガルフ……」


 淡い光の中で佇んでいたのは、俺がベラシア村で命を奪った筈のガルフであった。


「ヒロの知り合いなのだ? この人が草の呪いを内側から抑えてくれていたのだ!」

「え……? な、なんで……」


 ガルフにとって俺は(オーウェン)の意識を奪い、更には自分の命まで奪った怨敵のはず。草の中に居たのなら、俺を呪い殺そうとしてもおかしくない。


『ヒロ……』

「……」

『すまなかった』

「やめろよ……俺は、俺はお前に謝ってもらう立場じゃない」

『俺たち兄弟を救ってくれて、本当にありがとう。俺は、みんなから慕われるお前が羨ましかった。だが、そんな心の隙間を、この草に突かれた。その結果、危うく俺やオーウェンは村に危険を持ち込むところだった。村を救ってくれて、本当にありがとう』


 そう言ったガルフの表情は、生前俺に見せたことのないとても穏やかなものだった。その微笑みに俺の胸は後悔で一杯になる。


「もっと、もっといい方法があったのかもしれない。そう、ずっと後悔していた。ガルフも、オーウェンも……本当にすまなかった」


 ガルフは俺の謝罪に瞼を閉じ、首を横に振る。


『そう思うのなら、どうか俺の好きだった村を、アンナを救ってくれ。草に囚われていたオーウェンを通じて、村の状況はある程度知っている。どうか、頼む』

「あぁ、勿論だ! 約束する。必ず、村を……アンナを救う」


 満足そうに頷くガルフ。視線をチャチャルに向けると、頭を下げた。


『お前も、ありがとうな。俺を草から解放してくれて』

「なんのなんのなのだ。君が内側から抑えてくれてなかったら、ヤバイのはチャチャルの方だったのだ! 感謝なのだ!」

『……そうか。さて、それじゃあ俺はそろそろ逝くとするか』

「ま、待ってくれ!」


 光と共に消え去ろうとするガルフを、俺は慌てて呼び止める。

 今なら、あの力が使えるはずだ。ろり神様から授かった能力の残り二つの内、もっとも強力でかつ冒涜的な能力。俺が望んだ力のなかでも、唯一ろり神様が渋ったもの。


「ガルフ、俺と共に行かないか?」




 夕焼けの草原を俺たちは疾走する。

 基本的にノームは足の速い種族なようで、ヒトだったら直ぐにバテてしまいそうなスピードでしばらく走っている。


「それにしても、ヒロが精霊様の使徒だったとは驚きなのだ」

「まぁ、正確にはチャチャル達の言う精霊様じゃないだけどな。中身は一緒だけど」

「あれだけ強力な力を持つのも理解出来る。まさか、あのような権能を持つとは……」


 並走するディモンの視線は、俺の少し背後の空中を見る。

 そこには、半透明の姿のまま俺についてくるガルフの姿があった。


『まったく、本当に反則技だぜ。せっかく人が感動的な最後にしようと思ったのによう』

「まぁそう言うなって。いずれは器になる体も用意するから」


 そう、ガルフはあのまま消えることなく、俺と共にベラシア村へと向かっている。

 ろり神様から授かった権能のひとつ、【魂の軍勢(ソウル・レギオン)】。これは、俺と対象者のお互いが認めあった仲であった場合、死んだ魂を吸収して自らの力にすることが出来る能力である。

 ろり神様曰く、『魂の総量を一時的にとは言えちょろまかす事なので、あまり多用はして欲しくない』との事だ。まぁ俺が転生するにあたって言われていた様に、この世界の魂の総量は世界の器に対して少ないらしい。だから他の世界から魂を流入させるわけだが。

 なお、これを最初は動物で実験していたのだが、お互いに認め合うことなく殺傷してしまうので未だ成功していなかった。


『ま、俺もあのまま消えるのも癪だったしよ。それに、アンナに酷いことをしたあの女みてえな面した野郎にも、一泡ふかせたかったしな』

「それだ。ガルフ、いまベラシア村はどうなっているんだ?」

『状況は良くねえな。親父とお袋が話している内容的に、アンナは自宅で軟禁されているらしい。ピピルさんもオルクールってやつに良いようにこき使われてるみてえだ』

「くっ! 急がなければ」

「待て、ヒロ。今日は一先ず休息をとるぞ。俺や精霊様の加護があるチャチャルはまだしも、他の連中はそろそろへばってくる。それに日没も近い」


 見れば夕日は遥か地平線に沈みかけ、紫色の空には双子の月が登り始めていた。


「そうなのだ。それに、ヒロの折れてしまった剣も造り直さなきゃなのだ」

「そういえばそんな事も言っていたな。だが、どうやって造り直すんだ?」

「忘れたのだ? ノームは大地と、鉱石と共に生きる種族なのだ。では、一旦ここで夜営をしつつ、ヒロの武器を造り直すのだ!」

「わかった。皆のもの! ここで小休止をとる。各自、武具の準備と休息を怠るな。二人組の交代制で警戒にもあたれ」

「「「はい!」」」


 総勢で二十人ほどのノームがおり、それぞれがディモンの号令に従って行動する。彼らもまた、ノーム狩りで親兄弟を失った者たちであり、皆まだ若いノームばかりである。しかし、そんな集まりでも生きていくためには、リーダーであるチャチャルやディモンの統率に従って、集団の強みを活かしていくしかないのだ。


「さて、それではヒロ。剣の欠片をこちらへ」

「おう。これでいいか?」


 俺は折れた剣をチャチャルに渡す。剣先の方もアースドレイクから引き抜いて洗浄済みだ。


「特別質の良いものではないけれど、中々の代物なのだ。特徴がないからこそ、特徴が付けられる良い素体になるのだ。では、ヴェラキア鉱も用意して……」


 目の前に剣とヴェラキア鉱を用意したチャチャルは、おもむろにそれらを手に持ち……


「いただきますなのだ」


 バリバリと噛み砕き始めた。


「えぇえ!? ちょ、おいいいいぃ!?」

「バーリバーリ、ムシャアムシャア」

「す、ストップ! ストーップ!!」

「落ち着け、ヒロ。これは剣を造り直すのに必要な事だ」

「いやいやいや、待って! どうみても剣が噛み砕かれてるよね!?」

「あ、ちょっと歯に挟まったのだ」

「そんな魚の小骨みたいに言わないで貰えますぅ!?」


 俺の制止も虚しく、剣の残骸と鉱石はチャチャルのお腹の中へと消えていった。折れた剣なので、いまさらどうのこうのは言わないけれど……


「うむ、やはり良い剣なのだ。口当たりが滑らかで美味しいのだ」

「もうツッコミを入れるのにも疲れたよ……そもそも、石切歯って剣とか金属もいけるのか? 強すぎない?」

「いけるわけないだろう。あんなの俺たちが真似すれば、口の中はずったずただ。これは巫女であるチャチャルだから出来る能力なのだ」

「能力?」

「そうだ。アースドレイクは体の中で鉱石同士を融合して、新たな鉱石を作り出した。チャチャルは、鉱石ではなく……」

「で、出るのだ!」


 チャチャルが急に立ち上がり、そう叫んだ。


「鉱石と金属を結びつけ、能力をあげることが出来るんだ」

「おええぇええええ!!」

「は?」『は?』


 目の前で繰り広げられる自主規制必須の光景。テレビならキラキラとしたエフェクトが出ることだろう。

 思わず目が点になる俺とガルムをよそに、目の前には色々とまみれた美しい青い刃の剣が転がっていた。

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