第二十二話 地竜
「なかなか足が速いな。氏族では俺が一番の足なんだが」
「そりゃあどうも。まあこれでも少しは足に自信があるんだ」
ディモンと並走しながらそんな他愛もない会話を交わす。
どうもノームの年齢というものはわかり辛い。辞書によれば、男は髭が生えていない時期は無いと言われているほど、小さい時より髭が生えている。生まれたての時点で産毛が見えるそうな。
一応解析で見たので、このディモンという男が17歳というのは知っている。が、それにしては冷静すぎないだろうか。まるでオッサンと喋っているようだ。まぁ実際、俺も本当はオッサンではあるのだが。
「そろそろ鉱石のある場所につく。準備はいいか?」
「鉱脈があるって……鉄鉱石の話だよな? あんなもの、山とかに行くものじゃないのか?」
辺りを見渡しても、それらしき山は見えない。むしろ、到着したのは見晴らしのいい平原であった。
しかも、準備はいいかと聞かれても……。
「そういえばツルハシとか持ってないぞ?」
「……ヒロ、お前はさっきから何を言っているんだ?」
「んんん? なんか俺とディモンの間で、認識の齟齬がある気がするんだが……」
と、その時であった。突然足元がガクガクと大きく振動し始めた。
「……来る!」
「え? は? ちょ、なにが……」
物凄い勢いでその場から飛び退くディモン。俺は一瞬遅れた状態から、とりあえず訳もわからないまま同じように飛び退いた。
間一髪とはまさにこれ。
俺が飛び退いた地面は、まるで地中を爆破したかのように土砂を吹き飛ばしながら弾けた。
「や、やばい! 格納庫!」
直ぐ様格納庫を展開して中に潜ろうとする。しかし、それよりも弾け飛んでくる土砂は速く、俺は背中に思いっきり土砂のつぶてを食らってしまった。
「いっだあああい!」
そしてそのまま格納庫に転がり込むと、とりあえず入り口を閉めてなんとか緊急避難を済ませる。
背中に関しては、二重に張った革で作られた鎧のお陰でなんとか無事であったが、剥き出しだった腕などに石が突き刺さり、なかなかに酷い有様だ。
「くそ、なんなんだいったい! いててて」
ひとまず大きな破片を抜きつつ、回復剤を傷口に振りかけていく。回復剤は人体の治癒スピードを飛躍的に上昇させる効果があり、多少の傷であればしばらくすれば塞がってくれる。が、当然ながら体に負担は大きいので、あまり多用できるものではない。
少しすると、傷口にうっすらと膜が出来てきて、傷が塞がろうとしているのが見えた。何度か見てきた光景であるが、やはりなんというか、ファンタジーな光景である。
だが、そんな事ばかりに気をとられている場合ではない。残してきたディモンも心配であるし、俺は外の様子を窺う。すると、地面から天に向かって延びる巨大な物体が目に飛び込んできた。
「こいつは、ワーム?」
地面から突きだした長い胴体はまるで芋虫の様で、その先にある顔面には大きな円環状の口と、退化してほとんどなくなってしまった瞳が微かに見える。口の周りと頭部に無数の触覚が存在しており、地中の様子や地上の音を振動で感知しているのだろう。
しかし、あの巨大な体をどうやって維持しているのだろうか?
芋虫であれば、あの様な巨体だと自重でつぶれてしまうだろう。かといって、ミミズの様な雰囲気もない。そもそも内骨格の生物はあそこまで大きくなれるとも思えない。
例えば、この世界の重力が地球に比べて軽いとかならまだしも、そんな様子もいままで見当たらない。あとは地球との大きな違いである『魔力』によるものなのか。だが、体の維持に魔力を使うのは流石に効率的ではない気がする。
「考えられるとすれば、外骨格の生物。つまり、あれで既に成体の姿って線かな」
蛇や伝説の生物、『竜』なんかが該当する。そう考えれば、あそこまででかいのにも理屈があう。ちょっとした雑居ビルにも匹敵する大きさだし。
そんな事を考えながら考察していると、何やらワームの周りをちょこまかと動く影が見えた。
「あれは……ディモン!?」
よくよく見てみれば、小さなディモンが斧を手にワームに切りかかっている。
傷口が小さすぎるので、ワームも何をされているのか気づいていないみたい、まるで頭上のハエを追い払うかの様に体をくねらせている。その動きに合わせてディモンは軽やかな動きで飛び回り、またワームの体に新しい傷口を作っていく。
「小さいディモンが頑張ってるのに、俺が引きこもってちゃいけないよな。それに、早く鉄鉱石を採りにいかなきゃだし。よし、いっちょやるか、な!!」
俺はワームの頭頂部に格納庫の出口を定めると、そのまま勢い良く落下しつつ剣を抜く。そして、落下の力も加えた一撃を、そのままワームの脳天にお見舞いする。
が、やはり予想は的中していた。ワームの頭には頭蓋骨があり、なんとか剣は刺さったものの、途中で止まってしまった。
「ちっ! かったいな! おわ!?」
頭蓋骨に刺さった剣は抜くにも刺すにも動かせず、更には驚いたワームが思いっきり頭を振ったもんだから、俺は危うく振り落とされそうになってしまった。
なんとか剣を握って耐える。しかし、その時であった。衝撃と勢いに剣の耐久力が負けてしまい、そのまま中程からばっきりと折れてしまったのだ。
「わああああ!? 俺の武器がああああ!!」
握りしめた剣の柄と共に吹き飛ばされてしまった。幸いにも剣はちゃんとワームの脳に届いていたのだろう。
頭上の傷口からは血やらなんやらが吹き出し、ワームは力なく地面に向かって倒れこんでいった。
「あ、ディモン」
空中を舞う俺が目にした、目が点になったままのディモンと、ゆっくりと倒れてくるワーム。
多分ディモンにもなにか作戦があったのだろう。その予定がいきなり変わったら、そりゃ驚くさ。まぁ何はともあれ。
「格納庫!」
俺は格納庫ワープでディモンの直ぐ側に移動し、そのままディモンを抱えて脱出する。
危機一髪。なんとかワームの倒れる地点から脱出するのと同時に、背後から凄い振動が伝わってきた。
「やぁ、ディモン。大丈夫だったか?」
「……あれは、お前がやったのか?」
「まぁなんとかな。でも、武器が失くなっちまった」
片手に持っていた剣の残骸を見せると、ディモンはニヤリと笑った。
「大丈夫だ。これだけデカいアースドレイクならば、巫女に食べさせる分の鉱石をとっても余る。お前の武器を作る分くらいはあるだろう」
「は? 鉱石? アースドレイク?」
言われた俺は、解析で先程のワームを調べる。すると、確かに名前は《アースドレイク》と書かれていた。
“名称:アースドレイク(ヴェラキア鉱種)
爬虫綱有鱗目地竜亜目アースドレイク科
地中を生活圏とする地竜の一種。雑食性であり、普段は地中に潜り、獲物が頭上を通るのを待って狩りをする。
成長期には様々な鉱石を食べて体を構成する成分を摂取する。その際に別の鉱石同士が結合し、自然には存在しない鉱石が生まれることから、別名《鍛冶師の宝物庫》とも呼ばれる。”
んん? なんか、えらく詳細にわかるようになってないか?
前までは成分とかその物の構成とかはわかったはずだが……これじゃまるで百科事典さんみたいじゃないか。
と、思い百科辞典を出そうとしたが、何故か俺の道具入れの中に百科事典はなかった。
焦った俺が道具入れをひっくり返して探そうとすると、突如頭の中に声が響いてくるのであった。
すみません、ほんとすみません。最近イラストの方で色々と動いていたので、更新が遅くなりました。
また更新再開していきます。




