表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜の転生賢者は、過酷な異世界に行っても休めない  作者: 赤坂しぐれ
第一章 過労死から始まる異世界転生編
1/52

第一話 死忙


 人の為に動ける男になれ。

 それが、父さんの最期の言葉だった。父さんが亡くなったのは、俺が小学生の時のこと。仕事中の不幸な事故らしい。昼休みが終わり、五時間目の授業中に校長先生が教室に来たことを、なぜか良く覚えている。

 病院に母さんと駆けつけた頃には、父さんはもう殆ど意識がなかった。それでも、今際の時に俺が来たことを感じたのか、ゆっくりと俺の頭を撫でながら、最期の言葉をくれた。


 あれから十三年。俺は天国の父さんに胸を張れる、立派な人間になれただろうか?


「おいっ! てめぇ! 聞いてんのか!」


 目の前にいる、いまにも頭の血管が切れそうな後藤理雄先輩、通称ゴリオ先輩の真っ赤な顔を眺めながら、ぼんやりとそんな事を考える。


「おいっ! てめぇ! 聞いてんのか?」


 最後だけちょっと変えてくる、間違い探しの様な問いは勘弁して欲しい。こちとら五徹明けで朦朧としていて、立っているのも奇跡の状態なのだ。

 さて、ゴリオ先輩が何故こんなに怒り心頭なのか。その理由は、取引先からの一本の電話であった。内容は何でもない製品欠陥。恐らく、生産過程で何らかのミスがあり、それが偶然にも様々な検査を掻い潜ってお客様の元に不幸にも届いてしまったのだろう。

 正直笑えない話である。この小さな欠陥が、もしかすれば何千、いや何万の人の命を奪いかねないからだ。だからこそ、俺はこの仕事に誇りと遣り甲斐を感じている。とまぁそんなことはさておき、色々省くと今回の件をゴリオ先輩は俺のせいにしたいらしい。だが……


「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが……これ、ゴリ……じゃなかった、後藤先輩の担当部署ですよね? 俺、このラインに携わってないんですけど」


 俺は作業履歴をパソコンで表示しつつ、反論材料をクリックして暗転させていく。

 見事見事、今回問題になっている部分の担当は、綺麗さっぱりゴリオ先輩の名前が載ってある。むしろ、なんでこんな記録が残ってるのに、俺のせいに出来ると思ったんだこの人は。

 というか、もう仕事を上がらせて欲しい。無茶な納期スケジュールも重なり、この三日で寝れた時間は仮眠室での二時間程なのだ。


「ふぁ~……流石にあくびが止まらな、い……」


 ……ん? なんだ? あれ? おれ、なんでたおれて……



 俺の意識は、そこで暗転した。




「あ、れ? ここは?」


 気がつけば、俺は何もない真っ白な部屋に、全裸で横たわっていた。

 一瞬これは夢かとも思ったが、人間の感覚とは不思議なもので、何となくいまの状況が夢なのかそうでないかがわかる。


「あっ! これ、死んだのか」


 自分の手を見つめながら、握ったり開いたりして確認する。うん、見事に透けてーら。雪見だ○ふくの皮もビックリの透け透けだ。


「ほっほっ、理解が早くて助かるのう」

「さて、こんな状況で俺に話しかけてくる人は誰でしょうーか! 正解は神様!!」

「む? お主、妙にテンションが高いのう」

「すみません、五徹明けなもんで」

「そうか……人間、五徹をしつつ働けるほどに頑丈ではないんじゃがのう……まったく、無理をするもんじゃわい」

「元気があればなんでもできます」

「元気がなくなったから、こうなっておるのじゃろう」

「ぐうの音もでませんね、はっはっはっ」


 振り返れば、白髪の老人が穏やかな表情でこちらを見つめていた。老人は不思議な雰囲気があった。初めて会うのに、何処か懐かしさを感じるというか。


「そりゃあそうじゃ。人を含め、すべての生き物はワシの子の様なものじゃからのう」

「神様……そうなると俺は、あの百年に一人の美女と言われるハジカンと親戚となってしまうが、よろしいか!?」

「よろしいわけないじゃろう。概念上の話じゃ。お主は馬鹿なのか?」

「違うのかぁ、それは残念だ。して、神様。俺はこれからどうなるんです?」

「ふむ……お主、もしも生まれ変わることが出来るなら、新たな人生を送ってみたくはないか?」


 神様が長い髭を擦りながら、そんな問いを投げ掛けてくる。

 こんな場所で神様とタイマン。このそそる状況下、サブカルチャーに傾倒する俺にとって正直な話、その言葉を待っていた。


「それはもしや、いま流行りの異世界転生とかいうやつですか?」


 ニヤリと笑みを浮かべる俺。それに対し、何故か神様は少し引いた表情を浮かべる。


「え、なにそれ怖い。転生が流行ってるとか思われてんの? え、嘘でしょ? 転生とか普通は死んだ記憶が残るし、色んな苦しみを知ったまま生きなきゃいけないから、結構しんどいのに……そんなものが流行ってるとか、なにそれ地獄かな?」

「え? あれ? だって、転生してチートでばばーん!みたいなお話が流行ってるじゃないですか」

「人間の妄想とワシを混同するでない馬鹿者。確かに、ワシもこうやって人間に転生を呼び掛けることはあるが、数百年に一度くらいのもんじゃ。転生を呼び掛けるのは人間だけではないしのう」

「なんと、人間以外も異世界転生を?」

「むしろなんで人間だけが出来ると勘違いしておるのじゃ? その意識は切り替えんと危ないぞい。なんじゃったかのう……そう、『人間病』というやつか。ワシにとっては人間も花も魚も、みーんな同じ子であるのに、人間は妙に自分達を過大評価し、特別だと思う節がある。まぁ、そういうちょっと馬鹿な部分も、我が子ながらいとおしく感じるのじゃがのう、ほっほっほっ」


 一瞬、俺の背にはどっと汗が吹き出した。

 そうだよ、この御老人がもしも本当に神と呼ばれる存在であれば、俺はそこいらの沼に住む微生物と同等の価値なのだ。

 調子に乗っていた。これからはもっと謙虚に生きよう。部屋の隅の観葉植物のように……もう死んでるけど。


「まぁそう卑下するもんでもない。あまり我が子の中で優劣をつけるのは良くないが、それでも人間は子の中では優秀だと感心はしておる」

「そうですか……ところで、先程からもしかして心の中を読んでおられる?」

「それくらい出来て当然じゃわい。さて、あまり時間もないしのう。此度は数百年に一度の機会、人間を転生させようと思うのじゃが、受け……」

「受けます!!」

「めっちゃ食い気味にくるのう。だが、やる気があることは良いことじゃ。では、軽く説明するぞい」


 神様からの説明はざっくり言えば、『異世界で適当に過ごして欲しい』ということだった。

 俺たちの住む世界には生物が存在できる絶対的な飽和数が存在する、らしい。俺はあまり頭が良いほうではないので良くわからないが。とにかく、世界という枠の中に存在できる生物の数は有限だそうな。

 しかし、いまの地球は一定のバランスの上で、歴史上まれに見るくらいに安定しているそうな。バランス崩壊を起こしたときの被害はさておき。

 なので、人類もそうだが、生物の全体数がかなりヤバイことになってきているらしい。枠はパンパン、このままでは世界という器に亀裂が入って、最悪の場合に崩壊を起こすとかなんとか。


「そう、そこでお主の出番なのじゃ」


 くっ、いちいち脳内回想に合いの手を入れないでいただきたい!


「そう言いながら脳内で会話するのもどうかと思うぞい?」


 確かに。まぁ、そんな訳で俺が異世界に行くと、俺を通じて世界同士に繋がりができる。そして、その繋がりを共有して、向こう側の世界の持つ生物の許容数をちょいとお借りする訳だ。


「でも神様、それって向こうの世界の神様とかに怒られないの?」

「平気平気。向こうは向こうで、好き勝手いじれる玩ち……ごっほごっほ、自分の世界を平定するための使徒ができるからのう」

「いま明らかに玩具っていいかけたよね? ね?」

「まぁ似たようなもんじゃわい。いいではないか! お主は向こうで不思議な力で大活躍! 向こうの神も玩具が手に入って満足! ワシも世界の規模を大きく出来て万々歳! 三方良しとはこの事じゃ!」

「もう誤魔化す気もねえのかよ……でも、良いですよ。行きます」

「そうか、では早速……」

「あっ! ちょっと待って!」


 色々とあって、学生時代からあまり親しい友人と呼べる者はいなかったが、それでも現世に少しばかりの心残りはある。

 さすがに、『いきなり逝きました、はいさようなら』で違う世界にいくほど薄情な人間に育った覚えはない。


「なんじゃ? やっぱり行くのは無しとか言うと、来世は腸内細菌ビブリオにするぞい?」

「さらっと恐ろしい事いうの止めてくれません!? そうじゃなくて……出来れば、最後に母さんに別れの挨拶をしたい思いまして」

 はじめましての方ははじめまして。そうでない方も、はじめまして。赤坂です。

 何を気が狂ったのか、久しぶりに書く内容が転生ものだし、一話で転生してないしで、既にお前……ってなってることでしょう。残念ながら、転生するのは三話目だし、なんなら異世界に行くのは四話目だばーかばーか! 

 あっ、すみません、石を投げないでください……調子に乗ってすみません……


 という訳で始まりました『元社畜の転生賢者は、過酷な異世界に行っても休まない』。

 本作は、流行り廃りなんて知らねぇ、俺は転生させるならバックグラウンドも書きたいし、神はヒトを特別扱いしないってスタンスで書いてます。正直、人を選ぶ作品です。

 なので、伸びようが伸びまいがしりません。俺の好きな様に書くんだ!俺は自由だ!というスタンスで書いてきますので、どうぞよろしくお願いします。

 ちなみに、しばらくは毎日更新です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ