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第4話 実技試験Ⅳ

 「では、終わりにしよう」


 ルチアーノはそう言い放つとさらに力を込めた。薙ぎ払われたようにフェイトが飛ばされる。


 「『狭間のさざめき』」


 無数に切り刻まれた空間から得体の知れない気配を感じる。次の瞬間、漆黒の光線がフェイトに襲い掛かった。


 疾風怒濤の如くフィールドを駆け巡る。繰り出された光線がフェイトに吸い付くかの様に追尾していた。負けじと、壁や天井を活かし3次元の動きで光線を完璧に翻弄する。


 「まだそんな体力が残っていたとは……。驚いたな」


 「……っ」


 しかし、ルチアーノに近づくにつれ、攻撃は彼を守るかのように激しさを増していった。なかなか反撃の機会を見いだせない。


 膠着状態が続く。ふと一つの魔法が無造作に浮かんだ。


 「『バーストディメンション』……、え?」


 勝手に口からこぼれた魔法に驚くフェイト。自分で唱えておきながら聞き覚えのない魔法だ。どんな種類なのかもわからない。


 しかし、効力は抜群だった。飛び交っていた黒の熱線が凍りついたようにピタリと停止した。静寂が空間を包み込む。時間までもが呼吸を止めたようだった。


 ルチアーノの顔色が微かに強張る。好機がフェイトに訪れていた。


 一気にルチアーノに接近するフェイト。ノーガードの構えからはまたしても余裕が滲み出ていた。


 習得している剣の魔法を頭に並べる。どれもが通用するとは思えなかった。


 


 しかし、やるしかない!




 「『やけど切り』!!」


 いつものように小さな火花が散る程度かと思いきや、フェイトの剣は燃え盛るように紅蓮の炎を纏った。奇跡の連続が背中を押している!


 その猛撃を見るや否やルチアーノの口元が動いた。

 

 「その刃は届かない。『シリウス』」


 煌々と輝く星屑のバリアがルチアーノを包み込む。神聖なベールが灼熱の一撃を防いだ。


 聖域から弾き飛ばされたフェイトの剣が吠えるように更なる炎を昂らせた。紅の色彩が艶やかな蒼に変化した。


 再び剣を力強く握る。障壁の中心にルチアーノを捉えた。


 「だったら何度だって立ち向かってみせる!


 『インフェルノ』!!!」


 2度目の剣がバリアに突き刺さる。防壁を突破した手応えを確かにフェイトは感じた。ガラスが割れるような音と共に、『シリウス』は砕け散った。


 ルチアーノが姿を現す。この間合いなら外さない!




 届く! 俺の剣が! ついに!




 「終わりだ! ルチアーノ!!!」


 「『紫電一閃』」


 ルチアーノは臆することなく剣に雷撃を付与した。炎が迫る寸前で剣を構える。


 両者がぶつかり合った。凄まじい衝撃が地面に亀裂を走らせる。空間をも震え上がらせた衝突は均衡したかのように思えた。


 しかし美しい蒼の炎はさらに膨れ上がり、轟音と共にそのまま紫を飲み込んだ。


 館内から悲鳴が上がる。遠く離れた所にまで到達していた熱気から、その中心にいるルチアーノの凄惨さは想像に難くなかった。


 


 やばい! やり過ぎたか!?




 我に帰ったフェイトは自らが起こした炎の渦を遠巻き眺める。火事場の馬鹿力は明らかに度を超えていた。これでは死んでいてもおかしく無い。死者を生き返らせる魔法はこの世には存在しない。




 「『(みぞれ)嵐』」




 薄氷のような冷たい声が響いた。灼熱の炎は一瞬にして霧のように細かい氷の粒に姿を変え、フェイトの元へ激しく吹雪いた。


 ルチアーノは顔色一つ変えず、涼しげに佇んでいた。しかし先程まで握られていた剣が見えない。


 「降参だ。フェイト君」


 「え?」


 耳を疑うような言葉。降参……? そんな余裕綽々な『参った』が存在するはずがない。


 「君の攻撃で剣が溶けてしまったんだよ。これでは戦いを続けることができない。刃を守り抜けなかった私の負けだ」


 取ってつけたような理由にフェイトはたじろいだ。反論しようにも言葉が浮かばない。


 そしてこの耳をつんざくような歓声。ルチアーノの見事な脱出劇に観客が割れんばかりに盛り上がっていた。


 ルチアーノがフェイトの元へ優雅に進む。気取った足取りは悔しいが様になっていた。


 「この試験がクラス分けの評価に入らないのが非常に残念だよ。また君と剣を交える時が有れば、今度は負けないからね」


 「……これで終わりなんですか?」


 「次の生徒が来るかもわからない。それに君は他の試験を終えたのかい?」


 そうだ! まだ俺は炎の試験しか受けていない! ポーラに至ってはなんでもあり試験に行かせないと入学の基準すら満たせていないはずだった。


 「……ありがとうございました」


 足早にその場を去る。剣を突き立てたのはこちらだと言うのに、何故か恥ずかしい気分に犯されていた。 


 ポーラを探そうと目を配っていると誰かに抱きつかれた。


 「なんだ、今探そうと思っていたのに」


 「フェイト、頑張った」


 小さな手を伸ばしてフェイトの頭を撫でるポーラ。


 「よしよし、よしよし……」


 「やめろ! ほらまだ試験が残ってるんだから行くぞ」


 「あの!」


 体育館を出ようとしたところで呼び止められる。見覚えのある銀髪が光っていた。


 「ああ、さっきの五月蝿い人」


 「うるさくないわよ! って、そうじゃなくて私はリエル。ポーラの友達よ」


 友達!? 孤児院では年少の子供達には懐かれていたが同年代の友人は皆無だったはずだ。ポーラの成長にかすかな喜びを覚える。


 「良かったなポーラ!」


 「別に友達じゃ……」


 「そ、そんな事より貴方フェイトって言うのよね! さっきの試験本当凄かったわ! それでお願いがあって……」


 「それじゃ歩きながら聞くよ。俺達急いで試験受けなきゃいけないから」




 偶然訪れた最強との一戦は意外な形で幕を下ろした。今回の勝利が彼の学園生活に多大な影響を及ぼすことをフェイトはまだ知らない――。


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