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第3話 実技試験III

――新体育館――




 一瞬の瞬きも許さない激戦が繰り広げられていた。


 エリス史上最も優れた生徒と(うた)われるルチアーノ、相反するは今年入学予定の新入生フェイト。当初ルチアーノ目的に集まった観客は名も知れぬ少年の登場でさらに盛り上がりを見せていた。




 押し潰されそうになりながら必死に戦いを覗くポーラ。フェイトの活躍に目を踊らせていた。


 「ね、ねぇ、貴方」


 邪魔をするなと言いたげに声の方向へ振り向くポーラ。先程フェイトに詰め寄っていた銀髪の少女だった。


 「……? はい?」


 「あの人と知り合いなんでしょ? 何者なのよ」


 「誰ですかあなたは」


 ポーラは警戒心を強める。知らない人には気を付けろときつくフェイトに言い聞かされていた。


 「ごめんなさいね。私はリエル。今年エリスに入学することになってるわ」


 「……、ポーラです」


 「ポーラね。それであの人とはどういう関係なの?」


 リエルはあの人、つまり今ルチアーノと剣を交えているフェイトを指し示した。




 どういう関係……?




 それはポーラにとって難しい問いかけだった。


 「……守るべき人?」


 「え? もしかして恋人?」


 「ち、ちがう! ちがいやす!」


 思いもよらない言葉に首をぶんぶん振るポーラ。勢い余って舌を噛んでしまう。


 そんな様子を苦笑いしながらリエルは見ていた。


 「あはは、まあ良いけど。でもさ……」


 「?」


 「羨ましいな。あの人、あれだけ剣が得意なら魔法も絶対上手だもん。きっとワインに行くんだろうな……」


 「……リエルさんは魔法が苦手なんですか?」


 「自慢じゃないけど、基本属性使えませ〜ん!」


 基本属性、つまり炎、水、電気を扱えない。ポーラと同じだった。


 「……私も、使えない」


 「え!? そうなの! 良かったぁ〜!」


 歓喜と共にポーラに抱きつくリエル。


 「不安だったんだよ! こんな凄い人ばっかの所来ちゃってさ! それでお願いなんだけど……、あの人に頼んで魔法教えてもらうことって出来ないかな!?」




 「フェイトは1(ファースト)しか魔法は使えない。落ちこぼれです」

 



 「……え?」







 ルチアーノの一閃がフェイトの頬をかすめる。ギリギリのところで躱すとすぐさま眼を狙った回転切りを見舞った。急所を的確に捉えたはずの刹那の一振りはまたもや空を切る。ルチアーノは仰反るとそのまま後方転回を繰り返した。どうやら体技もこなせるらしい。


 「『風虎斬』」


 回避の延長でルチアーノが鋭く剣を払った。剣先から渦を巻いた虎が飛び出してきた。実態がないとはとても思えない、野性の暴力だった。




 おい、剣の試験だろ! アリかよそんなの!




 咄嗟にフェイトも魔法で対応する。


 「『近眼の診断』!」


 名称:ウィンドタイガー

 特徴:速い




 ……あっそ!




 風で出来た虎はフェイトの元へ直進してきた。左右へのフェイントを交えて後方へいなす。同時に腹の部分を斬り上げた。肉を断つような手応えを感じる。しかし、緊張が途切れた一瞬の間にどこから鋭い気配を察知した。




 ……っ! くる!




 ウィンドタイガーの消滅を確認させる暇すら与えず、突然現れたルチアーノ。そのまま空中から地を割るような一撃を放った。


 避けきれず剣で防ぐフェイト。ぶつかり合った鉄の塊が火花を散らした。


 (つば)迫り合いの中、ルチアーノは未だ涼しげな表情を浮かべていた。


 「それにしても驚いた。最近は魔法にカマかけて剣を疎かにする者も多くてね。こんなに楽しい試合は久しぶりだったよ」


 「……っ、まだ、終わってませんよ……」


 全力で剣を抑え込むフェイト。体格の差から生まれる必然的な力の差は徐々にフェイトを苦しめていった。

 

 「いや、フェイト君の実力は十分把握できた。あまり1人に時間をとっていると次がつかえるからね」




 くっ……、ちくしょう……。




 この状態に持ち込まれてしまってはフェイトの勝ちは絶望的だった。


 初めて剣で負ける。認めたくない現実がフェイトの頭を支配していた。


 同時に思う。仕方がないのではないか。相手は歳も離れているし、勝手に魔法まで使ってきた。技術的な問題なら解決のしようがあるが、これでは勝負の土台にも立てていない。初めからフェアな試合ではなかったのだ。




 ……本当にそうだろうか。




 ルチアーノは最初、剣に魔法を付与しても構わないと言っていた。つまりそれができる前提の話ということだ。孤児院で神父様とやりあった時、神父様は相手にならなかった。それは純粋な剣の腕のみで戦っていたからだ。でも、もし魔法を使われていたら? そもそも実戦において、ただ剣を振るうだけの機会が存在するのだろうか。




 俺は一方的なルールで勝ち続けていただけだった……。




 剣が戦闘において有効な手段であるのは間違いない。それは、この魔法全盛期時代においても、未だエリスが剣術の授業を取り入れていることが証明している。でもそれだけでは足りないのだ。


 剣と魔法は融合させなければいけない。




 「……くっく」


 「何かおかしいかな?」


 「いえ、今更当たり前のことに気付けたもので」


 「私にも教えてくれないか」


 「どうかな……。ルチアーノさんならとっくにご存知のはずだから」


 疲れ果てていたはずの両腕に力が戻るのを感じる。どこからか、頭の中に聞いたことも見たこともない魔法の数々が流れ込んできた。


 不思議な感覚だった。以前リヴを召喚した時と同じようだ。






 よし、


 ――ここから『逆転』だ



次回、ルチアーノ戦決着……!


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