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第2話 実技試験Ⅱ

 「おい、新しいやつが来たぞ!」


 「また? どんだけ恥知らずなのよ」


 「そう言うな。あのバカのおかげでルチアーノ様の剣舞がまた見られるんだから」


 「さっきの子はすぐやられちゃったからね。今度は出来るだけ長引かせて欲しいけど」


 「関係ないよ。どんだけ剣が達者でも1秒で終わるか1時間かかるかはルチアーノ様次第だ」


 「おい、小僧! 調子乗るなよ!」


 「ルチアーノ様! 可愛がってあげてください!」







 散々な文句が四方から飛び交ってくる。


 観客席にはエリスの生徒や教師、中には明らかに位の高そうな老人の姿もちらほら垣間見える。


 ルチアーノってそんなに凄い人なのか……。


 彼の元へゆっくり進む。不思議と緊張はあまり走らなかった。連日の出来事で感覚が麻痺してきているのかもしれない。


 ルチアーノの前に立った。


 「おや……、君は受験者という事で良いのかな?」


 落ち着きのある、ゆったりとした声色だった。近くで見るとよく分かる。恐ろしい美形だ。


 やはり目を引くのは紅い(まなこ)。全てを見透かされてしまうようで直視ができない。表情は安穏さを保っているが、全身からは強靭な生命力のような見えないオーラが滲み出ていた。


 今まで出会った事のない人間。伝聞で耳にした話は全て事実だろうとフェイトは確信した。


 「はい。剣の腕を見てくれると聞いたので」


 よし、声は震えなかった。相手がどれ程だろうが関係ない。


 俺は剣に関しては誰にも負けない。


 「良かった。まだ4人しか志願者が居なくてね。退屈していたんだよ」


 「ルールを教えてください」


 「好きに切り掛かってもらって構わない。そこにある受験者に用意されたごく一般的な鉄製の長剣を使ってくれ。勿論、魔法を付与しても問題ないよ」


 「……あなたからは攻撃してこないんですか?」


 「君の能力を十分判断できた頃合いで仕掛けさせてもらう。でも心配はない。すぐに魔法師がヒーリングしてくれる。それにもちろん手加減はするからね」


 柔らかい微笑みと共にルチアーノはそう言った。




 当然だが、


 舐められている。




 俺は昔から剣術が異様に得意だった。幾度か神父様に稽古をつけてもらったが、神父様では相手にならなかった。天賦の才だと孤児院では誰からも褒められた。


 確かにそうかもしれない。()えるのだ。剣の動きが。理屈ではない、本能的な勘が教えてくれる。  


 証明する時が来た。俺の剣が誰よりも速く、誰よりも強いことを。


 


 ルチアーノはフェイトへ一挙手一投足を吟味するかのようにじっと紅い瞳を向けていた。身体は弛緩し切っていて、口ぶりも余裕綽々。しかし、どうしてか一切の隙がないように見えた。


 「いつでも始めていいからね。君の準備ができたら剣を抜くといい」


 その言葉と同時にフェイトはルチアーノへ一気に駆け出した。そのまま右斜め上から切り込む。


 それを見て、ルチアーノが鞘に手をかけた。剣先が左下から撫でるように登ってくる。




 その程度か? ルチアーノ!




 フェイトは一瞬で剣を左に持ち替え、身体を反時計周りに捻った。同時に剣が巻き込まれるように空転する。そして今度は遠心力を使って、右斜め『下』から一撃を振るった。


 上下を逆転させる攻め方はフェイトの十八番だった。居合に限らず、力を打ち消すためには反作用の力を加えるしかない。フェイトにとってルチアーノの動きは完全に予想通りだった。右上からの攻撃なら左下で防いでくる。当然ルチアーノには右下の隙が生まれる。そこを叩けば勝負は決まる。


 しかし、変則的なフェイトの動きは読まれていたのかルチアーノは大きく後退した。鳴動と共にフェイトの会心の一撃は空を切った。


 館内が一気に静まり返る。ルチアーノが身を守るために引いた、それは今日の試験で初めての事だった。




 「……、君の名前を聞いていなかったね」


 「フェイトです」


 「そうか、フェイト君か……」


 反芻するようにフェイトの名を噛み締めるとルチアーノが剣を構えた。あらゆる攻撃に対応できる八相の構えだ。


 「君を完全に侮っていた。無礼を詫びさせて欲しい」




 つまり、ここからが本番という事か……。




 フェイトは呼吸を整え、剣を右手に戻す。


 


 なら俺も本気で行かなきゃな。




 ――『紅眼の構え』


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