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第1話 実技試験I

――第6実技演習場――

 

 


 教官としてはかなりラフな姿に思える。大胆に開けた胸元はどう考えても教育現場には適していなかった。


 しかしその眼差しは鋭い。受験者の才覚や技能を一寸も逃すまいと言った気迫が感じられる。


 「高位の魔法が使えるにしても、危険度は5(フィフス)までに抑えてください。会場が壊れてしまうので」


 安心してください。1(ファースト)しか打てないもんで。


 「行きます……。『火の玉』!」


 そうフェイトが唱えると、とろ火の様な微かな炎が彼の手の上に宿った――。




〜〜〜




 年に一度の入学試験とあって、エリス魔法科学校の混み具合はかなりのものだった。


 同じくらいの歳の少年少女が忙しなく行き来している。これから彼らと共に学校生活を送る、フェイトは不思議な気分になった。


 「オイ、試験の内容はどうなってる」


 「その前にリヴ、お前はいつまで俺の頭にしがみついているつもりだ?」


 「問題があるのか?」


 「……はぁ、試験の時はバックにでも入ってろよ」


 「いや、オレは『召喚獣』だ。オマエが願えば別の次元へ移動できる」


 「それを早く言ってくれ!」


 出てきた時とは万分の1程度の小さな穴が空間にできた。そこへ可愛い尻尾を振りながらリヴは消えていった。


 「フェイト、聞こうと思ってたんだけど」


 「どうしたポーラ?」


 「さっきの小さな龍は何?」


 「俺たちの仲間だよ」




 歩きながら試験概要を確認する。内容はシンプルで、『炎』、『水』、『雷』の基本属性魔法をそれぞれの実技演習場で行う。また自由に魔法を披露する所謂『なんでもあり』の試験も受けなければならない。そして評価対象にはならないが剣術の試験も行われるらしい。最後に覗いてみるか。


 「……ねえ、フェイト?」


 「うん? 寝起きで頭が回らないか?」


 「そうじゃなくて、私基本属性何も使えない」


 「ああ、その場合は受けなくていいってよ。なんでもあり試験だけでいい」


 「良かった。フェイトはどうするの?」


 「一旦3つの試験を回ってくるよ。ポーラも来るか?」


 「うん。もちろん」


 「じゃあ、最初は『炎』から行くか」




〜〜〜




 「ありがとうございました」


 試験は1人ずつ行われるため、周りのレベルは分からない。しかし演習場の焼け具合から相当な魔法が繰り広げられていたことは明白だった。


 「……炎属性魔法は苦手ですか?」


 ボードに書き込みを入れながら教官が尋ねてきた。


 「いえ」


 隠す必要もない。笑いながら返した。


 「どの魔法もこんなものです」


 「そうですか……」


 教官はじっとフェイトを見つめてきた。 


 まさか入学を諦めろとか言うんじゃないだろうな?足切りがあるなんて聞いてないぞ。


 「わかりました。では次に移ってください」


 「……? はい」


 訝しげにフェイトはその場を立ち去った。




 演習場の天井が騒がしい。何かが破ける音と同時に1人の男が落ちてきた。


 特に驚きもしない様子で教官が次の準備を始める。


 「おいおい、少しは突っ込んでくれよん」


 「最初から張り付いていることには気付いていましたから」


 「え!? そうなの? だったら普通に横で見てるんだった」


 「それで何のようですかバート先生」


 バートと呼ばれた男は衣服の汚れが気になるらしい。仕切りに埃を払う仕草をしている。


 「ねぇちょっとカスミちゃん? お掃除の魔法使ってよ」


 「それで何のようですかバート先生」


 「わかったよ! 出て行くよもう……。今年はどんな感じか生で見たかっただけさ」


 「……それで感想は?」


 「ん? まだ40人しか見てないからね〜。何とも。ただ」


 「ただ?」


 「最後の子は止めなくて良かったのかい? あれはもう成長の余地がないだろう」


 「私もそう思います」


 「なら入学を止めるべきだった。1年も経たないうちに訓練で死ぬぞ」


 「……」


 小気味良い音が鳴り響いた。壁に埋め込まれた時計の針が踊るように回っている。


 「次の受験者を呼びますがどうしますか?」


 「いや、もう出て行くよ」


 「最後まで見ていかれなくて宜しいんですか?」


 問いかけに返答は無かった。いつの間にかバートは姿を消していた。







 「どんな感じだった?」


 帰ってきたフェイトにポーラが不安げに近づく。


 「ん? まぁいつも通りだよ。次は『水』に行くよ。また試験の間は待たせる事になるけど悪いな」


 「大丈夫。ゆっくりで良い」


 『水』の試験はえっと、第10、11、13演習場か。ここからだと11が近いな。


 目的地を目指していると何やら遠くで騒ぎが起きている事に気づく。あの方角は……体育館? 


 体育館では確か剣の試験が行われているはずだ。ただ、評価に影響はない。受ける生徒なんて殆どいないと思ってたけど……。


 「なんか盛り上がってるな。行ってみる?」


 「フェイトが行くなら」


 そう言うと思った。







――新体育館前――



 異常な混み具合だった。そもそも体育館の中にすら入れない。


 そしてそれ以上に気になるのがこの大歓声。子供でも産まれたのか?


 「ポーラ! ちゃんと手握ってろよ!」


 揉みくちゃにされながら前へ進む。これ程の人混みは人生で初めてだった。


 やっとのことで体育館入り口へ到着する。アリーナホールのような構造だった。


 超満員の館内には剣術の試験が行われていた。一見普通の光景だが……。


 「何がそんなに面白いんだ?」


 疑問を口にした瞬間、すぐ隣にいた銀髪の少女が飛びかかってきた。


 「貴方! ルチアーノ様を知らないの?」


 「え? いきなりなに」


 「ルチアーノ様よ! 今受験者を相手にしてるでしょ!」


 ルチアーノ? 聞いたこともない。


 人混みの僅かな隙間から覗き見る。紅い目をした華奢な男が美しい剣舞をしていた。


 「あの、紅い目をしたのがルチアーノなのか?」


 「本当に知らないんだ……」


 少女が絶句した。


 「この学校の6年、つまり最上級生の主席よ。ただの主席なら毎年いるけどルチアーノ様はエリスの歴史史上最も優れた学生と言われているの。魔法の腕は教師が束になっても敵わないわ。その上剣の強さも圧倒的で箸一本でワインの同級生を片付けた事もあるって噂よ。それに加えてあの美貌、画家にでも描いてもらったんじゃないかってくらい綺麗でしょ? なのにそれを鼻にかけない優しさも持ち合わせていて、6年生の間ではルチアーノ様のおかげでクラスによる差別が殆どないのよ。さらに……」


 「わかったよ、すごい人なんだ」


 話が半分も入ってこなかった。しがみつくように聞いていたポーラの目がぐるぐるに回っている。


 ただ一つ疑問がある。


 何故生徒が教官をしているのか? いくら優秀で評価対象にならない剣の試験とはいえ教師が許すものなのか。


 「事前にこんな事知らされて無かったのに……。多分学校に頼まれてルチアーノ様が飛び入りで参加されたのね……」


 ふーん……。


 納得できないと口に出そうとした瞬間、さらなる歓声が沸いた。指揮棒のように振られた剣が旋風を起こす。ルチアーノの薙ぎ払うような動作とともに受験者が吹き飛ばされた。


 「凄い! かっこいい! ルチアーノ様!」


 可哀想に……気絶した少年は大丈夫なのか? 


 ルチアーノは軽く剣を振ると鞘に収めた。


 「ああ、もう終わりだぁ……」


 「え? そうなの?」


 「今のが最後の志願者だったのよ。ルチアーノ様と剣を交えたいなんてよっぽどのバカか恥知らずしか居ないからね」


 よっぽどのバカね……。


 背中に張り付いたポーラを優しく引き剥がす。頭を撫でてやると嬉しそうに目をつむった。


 「ちょっとここで待っててくれるか?」


 「……やっぱり行くの?」


 「やっぱり行くよ」


 




 終了ムードの漂う体育館に1人の少年が歩み出た。


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