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プロローグ 無料100連スキルガチャ

 「優勝おめでとうございます! 今の率直なお気持ちを聞かせてください!」


 「嬉しいです……」


 いや、凄く恥ずかしいです!




 VRMMOFPS『ビートストライク』。

 FPS(ファースト・パーソン・シューター)と銘打っておきながら剣を取り入れた前衛的なゲームだ。広告や宣伝でも居合のシーンを前面に押し出している。

 

 数有るVRシューティングゲームの中でもまだ新しいこのゲームは、サウンドや動作に若干の問題を抱えながらも、圧倒的なグラフィックと独創的なシステムであれやこれやと国民的ゲームの一座を獲得してしまった。どちらかと言えばRPGを好むフェイトもすっかりビートストライクの魅力に取り憑かれ、今では暇を作っては銃を片手に、剣を振り回している。


 そしてビートストライク発売から半年、ついに公式に大会が開かれることになった。記念すべき初の大会とあって優勝賞金は相当のものであり、さらには次回アップデートに向けた催しも開かれるという。


 個人からでも参加できる、ということで試しに出場した結果……。


 「卓越した剣捌きでしたね。何か運動をやられていたんですか?」


 「いや、まあ、はい……」


 「エイムもバッチリでしたね! 精度を上げるコツを押してください」


 「な、慣れかな……。あはは……」


 なんだこの仕打ちは! 早く賞金貰って帰りたい!


 公式戦ルール:サバイバルで一位を獲得した喜びの束の間、フェイトはアリーナホールで開催される授与式に呼ばれていた。注目を浴びるのが苦手というわけではないフェイトだったが、観戦者が5万を超える公式戦とあっては話が違う。今もこの瞬間、光の速さでSNSや掲示板に速報が流れているだろう。もちろん、アバターやプレイヤーネームは実像とはかけ離れている為、プライバシーの問題はないはずだが……。


 回線切って強制的に現実世界に戻ってやろうか、なんてね。


 「『エイト』さんには賞金と……」


 フェイトとエイト……、もう少し捻った方が良かったかな?


 「スキルガチャをなんと100連分、先行でプレゼントします!!」


 その言葉に会場が一気に沸いた。


 やはり来たか……。


 裏でひそかに囁かれていた『スキルシステム』。次の大型アップデートで実装されると期待されていた。ビートストライクにRPGの要素が加わる。最高だ! こんな特大ニュースを授賞式に入れてくるとは、運営も洒落が効いている。


 ただ、おかげでさらに注目度が高まったけど。


 「ビートストライクでは次回アップデートで『スキルシステム』を導入する予定です! ポイントや配布されるチケットを使って『スキルガチャ』を引くことでスキルを使えるようになります」


 司会者の合図と共に、空間に巨大なガチャボックスが現れ、デモ映像が流れ始めた。ふんふん……、どうやらガチャが始まると裏向きのカードが腹から出てくるらしい。


 「まず、スキルを説明しないといけませんね! スキルとはいわゆる魔法のようなものです。炎を出したり、電気を操ったり。更には使い魔やモンスターを召喚するスキルもございます。そして、スキルにはレアリティが存在します。下から順にNR、R、SR、SSRとなっており、レアリティが高いほどガチャからは出にくくなります。また同じレアリティの中でも排出率は異なっており、SSRの中でも特別なスキルの的中率は天文学的数字となっているとか……。カードをめぐるのが楽しみですね!」


 4段階の確率……。100連がリアルマネーでどれほどの金額かはわからないけどSSRが引けたら相当儲けなのだろう。運にはあまり自信がないけど、公の場だ。運営もそんなに渋い確率にはしていないはず。逆に大量のSSRで他のプレイヤーに狙われたりして。


 「それでは早速記念すべき1回目! エイトさん、合図をお願いします!」


 「え? あ、はい。……? ガチャスタート……?」


 「「「スタート!」」」


 ……こんなんでいいのかよ!


 観衆の号令が引き金となりガチャボックスからカードが出てきた。


 「さあ、出てきたカードは……」


 NR火の玉


「おおっと、最初のスキルは『火の玉』! 炎属性の魔法ですがマッチの火ほどの威力です! (かじか)んだ指先でも温めてください!」


 炎属性のスキルか……。悪くないけどNRじゃきっとハズレなんだろう。


 次だ、次。


 「続いてのカードは……」


 NRアイスブレイク


 「ああ、またNR! 氷結状態を回復させる魔法ですが成功率は30%! しかも自分の氷結状態は治せない! ソロの方にはお勧めできない!」


 司会者さん、NRにいちいち突っ込まなくてもいいんですよ?


 「3回目は……」


 NRすいてき切り


 「なんとまたNR! 『すいてき切り』は剣に付与するスキルですが文字通り水滴が付着しただけ! なんの意味があるんでしょう!」


 NRの連続に観客席からブーイングが上がる。仮想空間だというのに熱気がひしひしと伝わってきた。


 っ……? 


 会場の空気に飲まれたのか。一瞬、酔いに近い不快感に襲われた。先ほどまで剣と銃を振り回していたのだ。疲れが溜まっていたのだろう。これが終わったら今日はもう寝ようかな。


 「またNR! 『砂埃』は相手の目を眩ませるスキル! ですが砂漠エリアでしか使えません! そして砂漠エリアはまだ未実装です!」


 「またまたNR! これで5連続とは運がない! ちなみにこの『でたらめ天気予報』では明日の天気を1/2の確率で当てることができます!」


 「またまたまたNR! 『ボムボム』は強力な爆裂系統の魔法です! 威力はわたパチくらい!」


 「またまた……」


 怒涛のNRラッシュ。それに負けず司会者も熱を上げ、会場を盛り上げていた。


 しかしそれどころではない。


 耳鳴りが頭を離れない。泥に包まれているような強烈な倦怠感も気のせいではない、接続不良だろうか? これまでのプレイではこんな事は一度も起きていなかったのに。


 「またまた……」







 「さあ86連目! そろそろR以上を見てみたい! おっとお前かNR! ん!? しかしこれは珍しい『使い魔ポーラ』です! 使い魔は召喚すると援護射撃を行ってくれますよ! ポーラは……、なるほど氷属性の魔法が得意なようです! 雪合戦では頼もしい相方になりそう!」


 「どんどん行きますよ! 『クールダウン』! 『やけど切り』! 『メタルショック』! 『ミニマムフロート』!」




 ダメだ、焦点さえ定まらない。立っているのもやっとだ。


 もうガチャはどうでも良い。一旦、休憩させてくれ。




 「さあ、残すところあと一回となってしまいました……。これまでの結果をまとめてみましょう!」




 NRヒール×5

 NR火の玉×4

 NRとっぷう切り×4

 NR静電気×3

 NRコットンバリア×3

 NR砂埃×3

 NRメタルショック×3

 NR口笛×3

 NRたんぽぽの舞×2

 NRグラスアイ×2

 NRスプラッシュ×2

 NRそよ風×2

 NRポイズンブレイク×2

 NRアイスブレイク×2

 NRエコボイス×2

 NRたつ切り×2

 NRすいてき切り×2

 NRアシッドパウダー×2

 NRガス攻撃×2

 NRマッドスティール×2

 NRハートブロー×2

 NRダブルブロー×2

 NRバックブロー×2

 NRウサギの聞き耳×2

 NRクールダウン×2

 NRウォームアップ×2

 NRボムボム×2

 NR言葉狩り×2

 NRバーンブレイク×1

 NRパラブレイク×1

 NRカーズブレイク×1

 NRチャーム×1

 NRとうせんぼう×1

 NRスキップウォーク×1

 NRマシュマロバズーカ×1

 NRカメレオンの尻尾×1

 NRモザイク×1

 NRミラーミラー×1

 NR足払い×1

 NR近眼の診断×1

 NRタイムミスト×1

 NRキャットメイク×1

 NR甘党×1

 NRケースバーイバーイケース×1

 NRサイレンサー×1

 NRやけど切り×1

 NR回転切り×1

 NRビリビリ切り×1

 NR金縛り×1

 NRゴー・バック・ジャンプ×1

 NRミニマムフロート×1

 NRでたらめ天気予報×1

 NR蛍の光×1

 NRこそどろの鍵×1

 NRバーサーク×1

 NR召喚獣リヴ×1

 NR召喚獣イヴ×1

 NR召喚獣ユピ×1

 NR使い魔ポーラ×1




 「……まさに圧巻! これ程までに運がない人間がこの世にいるとは! 召喚獣や使い魔を引けているのが不幸中の幸いでしょうか」


 ちくしょう、今のは聞こえたぞ。運がなくて悪かったな。


 ぁぁダメだ……! ツッコミを入れている場合ではない! 頭が、割れる! 痛い! どうなってるんだ! 俺は、今、立てているのか?

 吐き気が……、

 目眩が……、

 俺は今日……、

 

 何しにきたんだっけ……。


 「悲しいかな、これでラストのガチャです。しかし最後くらいは! R、いやSSRで終わりましょうよエイトさん!」


 そうですね、と返した言葉はちゃんと届いただろうか。


 そこでフェイトは膝をついた。




 混ざり合う視界がどこかで見た出鱈目な抽象画に酷似していた。煩いほど明るい色彩で完成されたイラストの中央には2人の子供が並んでいた。そのうちの1人の少女がこちらをじっと見つめている。


 少女が口を開いた。


 唄っているのか……


 叫んでいるのか……




 「さあ! 100連目のスキルは!……」


 どうせNRだろ。


 そう心の中で笑ったフェイトはそのまま意識を失った。




 事切れたかのように倒れたフェイトを何かが優しく照らしている。


 空間に浮かび出された巨大なカードは小さく形を変えてひらひらとフェイトの横に舞い降りた。






 SSR:『逆転』 全てのスキルを逆転させる


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