表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾風堂々!ダイアレスター ~オエドタウン岡っ引き小町捕物帖~  作者: 発素勇気
第1幕「オエドタウンの守り神」の巻
9/88

其の7「未熟なアタシ」

「あの、皐月さん。」

「……なんだい。」


 毒舌少女アイに翻弄される皐月を見かね、香里がこわごわ助け船を出す。


「あの木の上、降りられない猫がいるみたいです。」

「え?」


 香里に言われ、眼を凝らして木の上の方を見上げる。

 

 なるほど、確かに猫が枝のトコロにいる。

 耳を澄ませばミーミーニャアニャア鳴き声が聴こえてくるではないか。


「……いわれるまえにきづくべき。」

「やかましいわい!!」


 半分はお前のせいで気づかなかったんじゃ!とアイに突っ込みを入れつつ、皐月はようやく状況を理解する。


「おリカがきづいたんですよ、ネコがいる、って。」


 もうひとりの男の子、眼鏡を掛けた少年コウイチが発言する。


「ネコさんおりられなくてこまってるの。

 さつきおねーさん。ネコさん、たすけてあげて。」


 第一発見者であるところの最後の少女、おさげ髪のリカが皐月にお願いする。


 ちなみに余談だが、この面子の中で生意気じゃなく唯一素直なのがこの娘。

 少し気弱なのが玉に傷なのだが。



「おれたちのぜいきんできゅうりょうもらってんだろ。

 こんなときこそそっせんしてうごけよ、こうぼくー。」


 子供は一体、何処でこういう言い回しを覚えてくるのか。

 まさかのゲンタのこうぼく発言に皐月は反論をいれる。


「いろいろツッコみたいが、ひとつだけにしておこう。

 アタシの給料は笹野さん個人から出されてるのであって、税金から貰ってるわけではない。」


 ツッコむべき点はそこではないと思うのだが。


「……しせいのたみ、いたいけなこどもがこんがんしてるんだ。

 そっせんしてうごけ、おかっぴき。」

「いや、どう考えてもお前の影響だろ!!

 いたいけな子供が毒吐くようになってるぞ!!

 悪影響およぼしてるぞ!!!!」


 アイ(毒の元凶)にツッコミを入れる皐月。

 ”オエドタウンの子供は進んでるんですねえ……”と香里にいらん誤解を与えていたのであった。



ーーーーーーーーーーーーー



「ところでおまえ、だれだ?」

「あ、これはどうも気づかず…… 先崎香里って言います。」


 放ってはおけない、と木登りを始める皐月。

 下では香里と子供たちが挨拶を交わしていた。


「かおり、ってのか。まあまあかわいいじゃねえか。

 まあなかよくしてやってもいいぜ。」

「ふふ、ありがとうございます。

 宜しくお願い致します。」


 ゲンタの生意気発言に眉ひとつ動かさず、

 むしろ微笑ましい物を見ているように接する香里。


 しかしアレだな。

 香里よ、アンタまたナンパされてるぞ。


 まあ相手は年端もいかないガキんちょなワケだが……



 などと考えながら木を昇っていく皐月。

 

 助けを待っている()()()()の猫がいる枝はかなり高めの所に生えている枝だ。

 枝が太めのようなので、ネコはもちろん、皐月が辿り着いて体重を掛けても、折れる心配はないだろう。



 焦る必要はないのだ。



 しかし、皐月はやや思考に焦りを交えていた。

 トカゲの事件を追っているはずなのに、気づけば現在、猫を助けようと木に登っている。

 次々と事件に首を突っ込んで、現在どれも中途半端になってしまっている。

 自分の要領の悪さに、やや苛立ちと焦りを覚えてしまう。


 ならばせめて、この猫はパッパと救出してしまおう。

 こういう身体(からだ)を使った解決案件は、得意中の得意だ。


 そう考えつつ皐月は一目散に猫のいる枝を目指し、ひょいひょいと登ってゆく。



 鍛えた身体を駆使し、あっという間に目標の木の枝に辿り着く皐月。

 その身軽さは、軽業師が見掛けたらスカウトに駆け寄ってくるレベルだ。



 ミーミー、と鳴く猫に真正面から相対した皐月。


 被対象の猫を警戒させないように、猫の顎辺りに指を差し出し、

 匂いを嗅がせて警戒心を解く。


 猫の体を下から持ち上げ、腕の中に抱え込む。

 まだ()()のようだ。

 皐月の掌と同じか、やや大きいくらいの大きさだった。


 この子くらいの大きさなら、片手で抱えて下にラクラク降りられるだろう。



 無事に救出完了だ。



 さあ降りよう、と思っていたところで思わぬ声がかかる。








 ニャアニャア……








 何処からか猫の鳴き声が聞こえた。

 が、皐月が保護したキジトラは鳴いていない。

 鳴き声が違う…


 

 ……もう一匹いる?



 皐月はそれに気づき、周りを見渡す。

 が、何処にも他に猫の姿はない。



「皐月さん、下です!」



 地上から声が届く。

 声を掛けたのは香里だ。


 言われて身を乗りだし、下を覗き込む。



 二段ほど下の枝に、もう一匹の猫がいた。


 ()()()の猫だ。

 もしかしたらこの猫の親かもしれない。


「しまった……」


 キジトラの仔猫にばかり眼が行き、皐月は茶トラの猫がいる枝に気づかず通りすぎてしまったのだ。


 仔猫がミーミーと暴れだす。

 親の顔が眼に入って興奮してしまったのかもしれない。


「わわわ、暴れるなって。落ち着け……」


 皐月は一旦、身を引っ込め、木の枝に座り込む。


 さて困った。どうするか。


 まさか二匹いるとは思っていなかった。

 いや、それでも登っている途中で気がついていれば、茶トラを肩の上なり頭の上なりに乗せて、一緒に登ってこれたのだ。


 これは皐月のミスだった。


 キジトラは興奮してしまっている。

 この子を抱えたまま降りられないだろう。

 暴れて落としでもしたら、ケガをさせてしまう。


 この子を一旦ココにおいて、先に茶トラを助けるか?

 いや、おそらくもうキジトラはジッとしてくれないだろう。


 

 キジトラを両腕で抱き締め、天を仰ぐ皐月。


 どうすれば………

 


 




 「皐月さん。」








 香里の声がした。

 それも地上ではなく、もっと近くから。


 キジトラを抱えたまま、ゆっくり下を見る皐月。





 そこには茶トラを抱えた香里がいた。




「アンタ……」

「ふふ、田舎者を甘く見ないでください。

 木登りは得意なんですよ?

 よく登ってましたから。」


 助けにきてくれた。

 自分だけじゃどうしようもない、困った場面に駆け付けてくれた。


「あ、いや、危ないだろ。

 もし落ちでもしたら……」

「それは皐月さんも同じですよ。」


 自分の手が届かない相手を拾い上げてくれた。


「だけどな……」

「お手伝いしたかったんですよ。

 手助けしたかったんです、貴女を。」


 動けなくなってしまったマヌケな自分をフォローしに動いてくれた。


「お節介かもしれませんが、困っている貴女を手助けしたくて、体が動いちゃったんです。」


 もしかしたら溢れ落としてしまったかもしれない命、溢れ落とさないように、自らの手を貸し出してくれた。


「困っていた私を助けてくれて、兄を捜すと言った私に、力になる、と言ってくれた貴女。

 嬉しかったんです、私。

 そんな貴女を、私は助けたかったんです。」

 

 ……力になりに来てくれた。


 

「一人で抱え込もうとしないで下さい。

 声を上げてくれれば、手を差し伸べるコトができます。

 微々たるコトでも、何か手助け出来るコトがあります。


 私にも手を出させてください、貴女の頑張りに。」


 

 香里は恐らく、この猫の救出劇について言及しているのだ。

 そうだろう、だって彼女は何も知らないのだ。


 皐月のコトも、皐月の素性 抱えている事情のコトも、

 皐月のもう一つの仕事のコトも……


 けれど、だけれども、

 この少女の言葉は、皐月の胸にひどく染み渡った。



 一人でなんでも解決してやろうと意気込みすぎるな、と言われているようで。


 突っ走った結果、守るべき民は勿論のこと、自らも窮地におとしいれる事態になりかねないぞ、と言われているようで。





 特別な存在だからといって、誰も頼っちゃいけないなんて言ってない、

 抱えきれないのなら、声を出し、手助けを求めろ、と言われているようで……。





 ヒーローである自分を理解し、間違いを優しく指摘してくれている、そんな言葉に聞こえたのだった。






 「ありがとう、香里。」


 「どういたしまして、皐月さん。」




 この少女は、皐月の感謝の言葉に籠めた本当の意味を知らない。

 皐月が思ったことは、ただの符合、偶然の一致であり、ただの皐月の思い込みだ。

 ただ猫の救出の礼だと受け取っているだろう。

 でもそれでもいい。


 皐月は香里に深く、感謝の念を送るのであった。






ーーーーーーーーーーーーーーー



「やるじゃねえか、かおり。

 さすがオレがみこんだ女だぜ。」

「おみごとでした、かおりさん。」



 その後、猫の親子(仮)を伴い、皐月と香里は無事に下に降りた。

 香里はゲンタ、コウイチから誉め言葉をちょうだいする。


「ふふ、ありがとうございます。」


 お株はすっかり香里に取られたな、と皐月は微笑みながらその光景を眺める。

 猫二匹は地上に降ろされると、脇目も降らず走り去ってしまったのであった。


「礼の一つも言ったって、罰は当たらないと思うんだがねえ。」


 やれやれ、と皐月は溜め息をつく。


「……ネコあいてに、なにきたいしてるの。

 いいおとながメルヘンチックね。」


 やっとの思いで地上に帰ってきてからの猫のそっけない態度、

 そこへ毒舌少女の追い討ち。


 なんだかなあ……と思う皐月であった。


「ネコさん、きっとかんしゃしてるの。

 さつきおねーさん、どうもありがとう。」

「おリカぁ、アンタはいい娘だねぇ!

 きちんと礼を言える優しい いい娘だ!!」


 皐月へ感謝の言葉を口にしたおリカの素直さに嬉しくなった皐月は、おリカの頭をワシャワシャと撫でながら満面の笑みを浮かべながら褒める。


「……誰かさんも毒吐かずに見習ったらどうだい。」


 おリカの頭を撫でつつ、皐月はジト目でアイを観ながら呟いた。


「……ふん、おかっぴきがじぶんのしごとをしただけでなにをえらそうに。

 おまけにひとりじゃどうにもいかなくなって、たすけをもとめるしまつだ。

 もっとしょうじんするべきね。」


 アイの言葉に顔を歪める皐月。


 このガキは……

 と一瞬腹を立てそうになるが、

 しかし、アイの言ってるコトは的も射ている、と思い留まる。


「……そうだな。

 アタシもまだまだだ。

 お前の言う通り、精進するよ。」


 アイの言葉に反論せず、皐月は肯定する。


(アタシはまだまだ未熟だ。

 人間としても、

 岡っ引きとしても、


 そしてヒーローとしても……

 

 もっと精進しよう。

 多くの民の平和を、取り零さないように。)


 視線の先にはゲンタとコウイチと笑顔で話をする香里の姿。

 皐月は香里の姿に、改めて、この町を守る意思、そして精進する心を誓う。 


「?」


 そんな皐月の決意を知る由もなく、

 思っていた反応と違ったコトに、アイは首を傾げるのであった。




で、大変申し訳ありませんが、

これで書き溜め分はおしまいです。


出来れば今日中にはもう一話投稿したいです。


書き上がり次第投稿致しますので、お時間をいただきます。


少々お待ち下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ