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其の15「武家と町人と尊いもの」

第3幕ゲスト=キーキャラクター。

ようやく登場です。

...第2幕のときのゲスト、アヤメはもうちょっと登場早かったんだけどなあ(汗)

 男たちに熱い視線とともに散々持て囃された香里だったが、一通り会話を終えると”香里フィーバー”の熱は収まった模様で、自然と波は去っていった。


「オエドタウンの方々は優しいですが、そのパワーも凄まじいですねえ」


 とは香里の談。


 さらに言えば、洋子と恵子の半ばプロレスに発展した掛け合い(漫才)に男連中が燃え上がり、興味の対象が移っていったコトも事態の収拾を早めた要因のひとつと言えよう。


 恵子の反撃は勇ましいというよりも微笑ましいもので、その光景はさしずめ”虎に挑む猫”といったところだったため、勝敗の結果は火を見るより明らかだったが、観戦していた人々からはその挑んだ勇気を称えられ惜しみない拍手と称賛の声が贈られた。



 で、現在、チヤホヤの中心は恵子に向けられており、香里は真紀とふたり、落ち着いて話をしていた。



「……恵子さんも頑張りましたが、洋子さんの方が一枚も二枚も上手(うわて)でした。

 

 …………私、プロレスなるものには明るくないのですが、あの最後の挙動、なんという名なのでしょうか。」


「………すみません、私も不勉強でして。」


 真紀の問いに、香里は苦笑して答える。

 なかなかド派手な技だったため、観客が沸いていた。


 洋子よ……その身体能力ならば、あの脱出劇の折、君も戦力になったのではなかろうか。




 同じことを思ったのだろう。香里も真紀も苦笑したまま固まっていた。


「…………一之瀬さん、今日はお一人で?」


 変な空気になってしまったコトを感じていた香里は真紀に話題を振る。


「ええ……我が家は武家とはいえ、それほど格式がある家ではないので、”武家だから町人の催しになんか出るな”などといった偏見もないので、”行ってこい”、と。」


 真紀の何気ない言葉に、香里は反応する。


「……普通、武家の方は町人に偏見があるものなんですか?」


 意外なコトを聞いた、という顔で尋ねてきた香里の反応に、今度は真紀が戸惑う。


「……ごめんなさい。私、田舎者なもので、オエドタウンの常識がまだ分からなくて。」


 香里が補足を入れる。

「ああ。」と得心を得たと頷き、真紀は解説を始める。


「……先代の将軍、”紀年(きねん)”さまが開国を始めとした政治改革に着手された折、それまであった武家と町人の溝がより深まりまして。


 ……それまで”刀だ”、”武力だ”、と言われていた時代が終わりを告げ、”金銭”が物をいう時代を迎えました。


 町人は訪れた泰平の世に安心し、外国から押し寄せた娯楽や文化を受け入れ、生活の中に取り入れ順応していきましたが、


 武家の多くは適応出来ず、未だ旧時代の価値観と概念にとらわれているのです。」


 一之瀬家(じぶんのいえ)は庶民に近い家柄だから、市井の民とも平和に交流出来ているが、中には「我らがこのミズホ国を担っている」と自惚れ、町人、商人、農民といった者たちを見下しているという者が未だにいるという。


 とはいえ真紀もまた、これまで町人に深く触れる機会がなかったため、このパーティーでの皆の振るまいに驚きを表していたワケであったのだが……


「……私もまた、武家の娘(知ったかぶり)だったようです。市井の民はこうも元気で、こうも自由で、楽しそうで…………」


 そう口にしながら真紀は視線を人だかりに向ける。

 恵子が周りに揉まれ、洋子が不機嫌に話している光景。人々が笑い、肩を叩きあう光景。


 それを見て、真紀は穏やかに微笑んだ。



「……私は自分が如何に狭い世界で生きてきたのかを、此度の騒動で思い知りました。」


 真紀の顔をみて、香里もフッと笑顔になる。


「香里さん……」


 真紀は笑顔で香里に呼び掛ける。


「……私に感謝している、と言ってくれた貴女の言葉が嬉しかったです。ありがとうございます。」


 突然お礼を告げられ、香里は驚く。


「……それだけではありません。あの事件の折、縛られていた私の縄を解き、私なんかの力を貸して欲しい、と告げ頼ってくれた貴女の言動に感謝しています。

 勇気を持ってあの場を先導した貴女の行動に、私は感謝しています。」


 それは皐月の指示があって、かつ笹野の来訪を確信していたから出来ていたコトだったわけだが……と香里は内心戸惑う。


「……狭い私の世界。”町人の知り合い”が全くいないワケではありませんが、それでも数えられるほどしかいません。”利益”や”損得感情”抜きで付き合っている者は皆無でしょう……


 或いはそれが”武家の人間の常識”なのかもしれませんが……」


 スッ……と真紀は香里に手を差し伸べる。


「……武家の常識なんかよりも、私は私の感じた素直な気持ちを優先させたいです。

 ……私の友人になってくれたら、嬉しく思います。」


 驚きはしたが、すぐに笑みに戻った香里は真紀の顔を見つめながら述べる。


「一之瀬さん。私はそんなに偉そうに褒め称えられるコトはしていません。ただ出来るコトをして、思ったことを口にしているだけです。」


 そう口にしつつ、香里は真紀の差し出された手を握る。


「けどそんな偉くない私が、現在(いま)思ったコトを口にするとこうです……


 ”宜しくお願いします”。」


 両者の笑みが濃くなる。


「私も田舎から出てきて日が浅いので、友人が増えるのは嬉しいです。

 ありがとうございます、一之瀬さん。」


「……”真紀”と。

 ……友人にはそう呼ばれたいです、香里さん。」


「分かりました、真紀さん。」


 フフッ、と握手しながら微笑みあう香里と真紀。




 

 実はこっそり二人のやり取りを数人の男が「尊い……」と呟きながら見守っていたが、香里も真紀も全く気づいていなかったのは余談である。



ーーーーーーーーーーーー




「一之瀬さま。」


 握手を交わしたそののち、しばらく歓談していた香里と真紀の元へ来訪者が現れる。


 白髪の老人だった。


 その男性は歳は恐らく七十は越えているであろうに、それでも腰は曲がっておらず、しっかりとした足取りでこちらへと近づいてきたのち、はっきりとした声で声を掛けてきたのだった。

 






 何故か香里の顔をガン見しながら。









「…………一之瀬真紀さんはこちらの方ですが。」


 戸惑いながらも香里はなんとかそう口にする。


「此度は大変な目に遭われましたな、一之瀬さま。旦那さまも驚いておりましたぞ。」


 が、香里の声は耳に届いていないのか、老人は人違いを気にしないまま、香里に話し掛け続けた。


「……あのぉ。ですから私は真紀さんではなく……」

「……相変わらずですね、三太夫(さんだゆう)さん。」


 マイペースに話続ける老人に、少々恐くなり始めた香里だったが、隣の当人、真紀が助け船を出してくれた。



「……やや? 一之瀬さま。いつの間にそちらに? 流石は武家の方。素早いですな?」

「……私は忍者ではないのですが。」


 三太夫と呼ばれた老人は、真紀の声でようやく本物の真紀を認識したようで、トンチンカンな意見を口にしながらそちらに視線をずらした。


「真紀さんお知り合いですか?」


 香里が真紀に尋ねる。

 当初香里は”一之瀬真紀”の顔を知らないまま話し掛けてきた縁遠い男かといぶかしんだワケだったが、当の真紀が老人の名を口にしたため、確認に入ったのだ。


淡路三太夫(あわじさんだゆう)さん。

 私の知り合いの家に仕える執事さんです。」


「今更ですな? 一之瀬さま。

 彩谷家に仕えて早六十と三年。

 まあ執事というよりも世話役、といった方が正解ですかな?」


 と、ドヤ顔で語る三太夫。


「……あの、真紀さんは隣です。」


 が、語り掛けた相手は何故か香里だった。


 ”一之瀬さま”と呼び掛けているのに何故初対面の自分に話し掛けるのだろうか? と香里は困惑する。


 もしや眼が悪くてよく視えておられないのでは……


 と勘ぐっていたところ、回答が告げられた。




「じいやはすこし、あたまがボケてきはじめている………

 あまりふかくうけとめないほうがつかれないぞ。」




 身体をズラし、声のした方に眼をやる香里。



 三太夫の後ろに少女がいた。


 おかっぱの髪型に色白の肌。少しつり目がちな(まなこ)に、特徴的な”毒舌”……


「あ…………」


 声の主に気づいた香里が声を漏らす。

 そこには見知った顔が立っていた。




 

「…………ひさしぶりだな、まきねえ。

 それからかおり、いがいなところでさいかいだ。」





 毒舌少女、アイの登場である。






というコトでアイがようやく話に合流しました。

ですが香里サイドの話がもうちょい続きます。

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