其の11「不器用な優しさ」
ご無沙汰してしまいました(汗)
一ヶ月振りの投稿となります。
再開します。
「観察対象、言えば……」
「ん?」
不憫な長月の境遇に同情していた皐月だったが、ふと水無月が発言したコトで現実に引き戻された。
「戦闘現場にもうひとりおったやろ?
アヤメはんと同心はんの他にもうひとり……」
「ああ、香里かあ……」
水無月が現れる直前まで話していた少女の名が出され、皐月は何故かうっすら笑みを浮かべる。
「弥生に聞いたけど、その子、ひとつ以前の戦闘現場にもおったそうやないかい。」
「ああ。さっき話に出た、”水無月が笹野さんと出くわした”トカゲの事件な。」
不思議な縁がある子だ、と皐月は改めて思った。自身がヒーローとして変身して戦った事件に立て続けに居合わせた少女。
どちらの事件でも香里の存在は大きく、ありがたかった……。
と、皐月が思いを巡らせていると、
「その子…………大丈夫なんか?」
「え?」
姉貴分から真剣な口調で思わぬ問い掛けがなされた。
「ああ。
あの子は大きな怪我もしてないし、ケアが必要なトラウマも特には……」
そうだ、激戦と化したクライマックスの場に居合わせたのは、アヤメと笹野の他に、香里もだったのだ。
実際に水無月が顔を付き合わせていないのは香里だけだった。
そりゃ、実際に様子を観察していないのだから水無月には分からないよな。と皐月は頷く。
でも先程話をしたときは兄貴のコトで悩んでいる以外では普通だったし、それも最後には吹っ切った様子だった、と思い返す。
何も問題はない……
と、皐月が考えていたところだった。
「せやない。」
「?」
どうやら自分の回答は水無月の求めていた物とは異なっていたらしい。だとすれば目の前の姉貴分は、自身に何を尋ねたかったのだろうか。”香里の何が大丈夫なのか”を確認したかったのだろうか。
質問の意図が読めず、首を傾げた皐月の様子に、問いた質問の言葉がイマイチだったと察した水無月は、今度は伝わるように皐月に尋ねたのだった。
「その子…………皐月の、ヒーローの正体に勘づいたり、悪用したりする子やないんか、聞いとるんや。」
「…………は?」
水無月の言葉の意味が分からず、皐月の思考は停止していた。
言葉は耳に届いていた。だが、意味が分からず、一言発するのがやっとだった。
「何を言い出すのかと思ったら……
香里はそんな子じゃないよ。」
「”そんな子”言うんはどっちについてや?
”正体勘づくような聡い子やない”いう意味か?
あるいは……」
「悪巧みするような子じゃない、っていう意味。」
皐月は呆れるように水無月に告げた。
何を言い出すのかと思いきや、バカバカしい……
一笑にふしてこの場の話は終わりにしようとする皐月だったが、水無月の方はそのつもりはないようで、尚も皐月に食いつく。
「なんで断言出来るんや?
皐月。お前、そう断言出来るほど、その子のコト知っとるんか。」
その言葉に、皐月はムッとして答える。
「付き合いはまだ短いさ。
けど、解るんだ……あの子はそんな子じゃない。」
「根拠は?」
イラっとした感情を込め、つい強い口調で告げてしまった皐月。が、受けた水無月はそれを物ともせず、尚も真剣に尋ねる。
「…………アタシの勘。」
とっさに言い返せる言葉を提示出来ず、皐月はあやふやな論拠を出してしまう。
「皐月。そんな勘なんてあやふやなもんで妄目的に信じろ、言われて”はい、さようか”と納得出来るかい。
あの香里言う子が何処かの悪党の回しモン、いう可能性は否定できひんやろ。」
「あの子が?」
皐月は半ばバカにした風に鼻で笑いながら答える。
ありえない。それこそ、あれが全て演技だとしたら女優賞を総嘗めに出来るほどだ。
「断言出来るほど、その子のコト知らんやろ。」
それは事実だ。
自分は彼女のコトを庇えるほど、彼女のコトを何も知らない。
自分が香里について知ってるコトと言えば、親父さんが亡くなって、住んでいた田舎から行方知らずになっている兄貴を捜して上京してきたコト。
自分の紹介で”月見亭”に現在は腰を下ろしているコト。
お美代さんから聞いた、家事は得意で、接客はまだ不馴れなコト。でも従業員や客には好意的に接して貰っているコト……
そんなコトくらいだ。
言われてみれば、何処の、なんていう土地から来たのかも、それはおろか彼女の年齢すら自分は知らない。
金物屋の末吉にナンパされていたコト、一緒に猫の親子を助けたコト、お美代さんやアヤメと話したコト……
目撃したコトを記憶からかき集めてもそんなに思い出は多くない。
「……あの子は、春菜や、アヤメを、
危険に迫った存在を、身の危険も省みず身体を張って助けようとしてたよ。」
「言いにくいけどなあ、皐月。
それが手段かもしれへんやろ。
そうやっていい人、演じてヒーローに近寄ろうとする……
で、近しくなって、やがてヒーローの正体を掴もうとする……
ない、と断言出来るか?」
そう告げる水無月の言葉は溜め息混じりだった。
本来水無月は暦衆における諜報役。
言ってみれば”他人にいい顔をして取り入り、その実、必要な情報を手にいれる”という、まさに現在、自身が説いたコトを実地で行なっているのが水無月なのだ。
そういう人種の人間は間違いなく存在している。
それを知っている水無月は、だからこそ皐月に警戒しろ、と説いているのだ。
…………尚、これは実は水無月の優しさである。
心を知ってからというものの、些か猪突猛進的になりがちになってしまった皐月を気遣った、少々考えなしに動いてしまう妹分が傷つかないように気遣った、彼女なりの優しさである。
……水無月本人は恥ずかしがって絶対皐月本人には告げないコトだが。
優しさの思考で、けれど決してそれを表には出さず、あくまで険しい表情で皐月を見る水無月。
自身はその件の少女に実際に会っていないのだ。現状持ち合わせているのは弥生と卯月から得た僅かな情報と、映像から得た印象のみ。会っていない以上、悪人か、善人か。演技か本心かの判断が自身には出来ない。
自分の能力は対象に会わないと使えないのだ。
実際に”志賀アヤメ”と”笹野兵衛”は会って理解した。このふたりは問題ない。皐月に危害を加えようとする類いの人種ではないと確認出来た。
だが、”先崎香里”も同じとは分からないのだ。
分からない以上は警戒するに越したコトはない。
可愛い妹分を必要以上に傷つけないためにもだ。
そんな感情をおくびにも出さず、水無月は皐月の発言を待った。
恐らく妹分は釈然としない表情で、ブツブツ文句を言いながらも、これで「分かった」と回答し、話を終えるだろう。
あるいは「もういい!」と怒り出してこの場を去ろうとするだろうか。
「水無月……」
ひとつの区切りをつけたのだろう。目の前の妹分は沈黙を破り、口を開いた。
「ないよ。」
「?」
「断言する。香里にそれはない。
あの子はそんな企みを持つ子じゃない。」
話は次回に続きます。




