其の10「水無月、来訪の理由」
書き上がりましたんで投稿致します。
本日二回目の投稿になります。
「……あの子やろ? 今回皐月の秘密知った娘は。」
もくもくと食材を口に運んでいた水無月が、皿の上のナスを見ながら発言する。
「え?」
突然の回答に皐月は戸惑いの反応を見せる。
「”志賀アヤメ”言うたな。弥生に映像見してもろてたけど、ホンマにあんな格好しとるんやな。一目で分かったわ。」
うん、イケるでコレ。と今度はナスを口に運びながら水無月は告げた。
「弥生から聞いたんやろ? お前の秘密知ってもうた人、その後経過観察しとる、って。」
あ、と合点がいった顔を皐月が浮かべる。
「じゃあ今回水無月が来たのって……」
「面通しや。
これからチョコチョコあの子ぉに会うことになるさかい。不自然にならへんようになあ。」
と言いながら、視線はこっちに向けず、水無月は炭火コンロに眼を落とし、ちょうどいい焼き加減になった肉をトングで掴んで自身の皿に移す。
「悪い……仕事増やしちゃって……」
まさか来訪理由が自身がおかした軽率な行動の尻拭いだったとは……。
先ほどまでの悪態は何処へやら……皐月はテンションを下げ、水無月に謝る。
「ほんまやでぇ、皐月。
アヤメぉに自然に近づくために、たまたま聞き付けた今回のパーティー利用させてもろたけど、赤(字)出してもうたわ。
食って元取らんとやっとれんわ。」
と水無月は半ば愚痴に近い言葉を発しながら、肉を口に運ぶ。
「……申し訳ない。」
皐月は素直に頭を下げる。
と、ここで水無月は初めて皐月を見る。
「…………と言うんは建前で。
ホンマは新しいルートの開拓も兼ねとるんやけどな。」
ん? と頭を下げていた皐月は地面を見ながら眼を見開く。
「今回の事件で北町奉行所はメタメタやろ? 北町に御用達で卸してた中尾商会も元々奉行の岩尾省吾とやりたい放題やってたコトバレて手ぇ引く、って話や。
再編した後の北町奉行所の御用商人枠はどないする? っちゅう話や。」
ここまで聞いて皐月はバッと頭を勢い良く上げる。
「北町の膿を出した立役者、大岡勘助と笹野兵衛……発言力は強いやろなあ……」
水無月の表情は欲丸出しのゲヒた笑顔だった。
「おま、お前……」
「顔売っといて損はないやろ。
笹野兵衛の可愛い皐月に商人やっとる姉貴分がおる……
仲良うしとってからウチがそれとなく聞く……”北町の御用商人枠、どないします?”と……
妹分思いで優しい気の利く水無月ちゃんを気に入った笹野兵衛は、さてどないするやろなあ……」
と、水無月はわざとらしく恍惚とした表情と仕草で天を仰いだ。
「取っ掛かりとしては今日のウチの言動、申し分ない、思うなあ。」
ここまで語った水無月を、皐月は固まったままただ呆然と眺めていた。
「……御用商人目的で取り入っても懐柔されない、って笹野さん念推ししてたぞ?」
「”南町は”、やろ?」
皐月がなんとか絞り出した反論ですら、邪悪な笑みで余裕に返す水無月。
「未来のコトは誰にも分からん。けど未来に損をするか得をするか、先を見据えて行動は出来る。ま、下拵えやな。
例え現在、端から見て損しとるように見えてもやな、最終的に儲かれば問題ないやろ。それも元手よりも多くな。」
ふふん、と水無月は得意気に笑った。
それを見た皐月は、ドッと疲れたようにその場に座り込んだ。
「真面目に謝って損したわ。」
「そらアカンで皐月。一方的に損したらアカン。」
「……誰のせいだ、誰の。」
まだややぎこちなくも、いつもの皐月の調子に戻った様子を見て、水無月は商人らしい、ドケチな彼女らしいツッコミを入れる。
皐月は安堵と呆れが混じりあった溜め息を吐きながらそれに返すのであった。
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「でも今回弥生に教えられて初めて知ったよ、経過観察なんてしてる、って。
水無月がやってたんだな。」
地べたに座り込んでいた皐月は、やがて落ち着きと調子を取り戻し、水無月が着くテーブルの席に腰を移し、水無月の横でピーマンを口にしながら質問していた。
「せやな。主にウチと長月とでな。」
「え? アイツも??」
皐月は水無月の回答に驚く。
「諜報役のお前はともかく、本来戦闘要員である長月が?」
「けどアイツ、バイトマニアであちこちで働いとるやろ? 溶け込むにはうってつけの人材やからな。」
皐月の疑問に水無月が納得の回答を続ける。
「今日もいたけど、アイツ接客業とか対人商売大丈夫なのか?
あんなに影薄いとまともに出来ないだろ?」
皐月が思っていた疑問を水無月に尋ねる。
疑問は話題に出た仲間の男、今日も顔を見せ、誰からも気づいて貰えなかった空気男、九の月”長月”について。
「いや、問題あらへんよ?
アイツ人当たりはいいさかい、すぐ他人に好かれる犬みたいなヤツやからな。」
「……話し掛けても気づいて貰えなかったり、逆に存在が映らなくて話し掛けられなかったり……」
「長月曰く、”意識して存在感出せば気づいて貰える”らしいわ。気ぃ抜いたり何か他に気ぃとられたり、集中したりしてると空気になってまうらしいで。」
「…………普通逆だろ。意識して気配消すんだろ。」
気配を消したり、悟られないように存在感を消す術は皐月も心得ている。が、それは意識してやるものなのであって、長月の言ってるコトは皐月からするとトンチンカンな事象に思えてならなかった。
「……まあ実際、出勤しとるのに欠勤扱いされて給料引かれたり、途中で勝手に早退した思われて首になったりしたコトもあったみたいやな。」
「問題あるじゃねえか……」
水無月から語られる長月の失敗談に皐月は呆れて見せた。
「まあでも誰かさんみたく悪目立ちせんと周囲に溶け込めるんは諜報活動する上では強みやな。岡っ引き小町はん。」
「悪目立ちしてて悪かったな。」
まあある意味皐月と長月は対局の存在である。
片や目立ってナンボ、存在感をアピールして、いるだけで人々の希望に、あるいは悪党への牽制、抑止力へとならんと立ち振る舞う岡っ引きでありヒーローである皐月。
片や存在を消し、いつのまにか周囲に溶け込み任務をこなす長月。
余談だが、長月自身はこの自らの体質をすごく気にしており、普通に過ごしていても目立つ皐月を物凄く羨んでいるのだが、皐月はそれを知らない。
「まあ戦闘面や施設潜入任務はウチやらんから任務方面でどんだけ重宝するんかは知らへんが、長月のチカラは”情報収集や諜報活動”でも役に立っとる、ちゅう話や。」
「なるほど。」
と皐月は一応の納得を示す。
暦衆では組織のメンバー毎に役割が分けられており、時には専念、時には協力、連携をして与えられた任務に当たる。
皐月は分類に分ければ戦闘要員だ。
睦月も、霜月も、そして長月も分類としては戦闘要員に入る。
第2幕で霜月が語っていたが、本来は葉月も戦闘要員に振り分けられるらしい。
……皐月は彼女が戦っているところを一度も見たコトがないワケだが。
それとは逆に、一切戦闘には向かず、ただ各々の得意分野に特化し、その特殊能力を駆使して戦闘要員をサポートするメンバーがいる。
例えば弥生はその天才的な頭脳を駆使して研究や分析、開発を行なう研究員。
卯月は彼女が持つ特殊な能力を買われ、主に弥生のサポートに当たっている。
尚、特殊な能力という観点に注目すれば一番特別な能力を持っているのは最年少の神無月である。
彼女はその能力故にひとり特別な任務に常時専任している。兄の神在月はそんな彼女の保護者兼戦闘要員だ。
翁こと師走は各メンバーに指示を出す統括リーダー。
戦闘能力を持たない者は代わりに特殊な能力を駆使してサポートに徹して戦闘要員を助けるように確立されている。
まあ今回語られたように本来戦闘要員である長月が情報収集役として立ち回ったり、
霜月がホストクラブで女性相手に諜報活動を行なったり、葉月が遊郭で男相手に重要情報を入手していたり、と戦闘要員も情報収集能力に長けているワケでもあるので、厳密な線引きがあるワケではないのだが。
と、ここで皐月がハタと気づく。
「文月は?」
皐月が口にしたのは七の月のコト。
彼女は諜報要員であり、一切の戦闘は出来ない。
文月もヒーローに携わった一般人のその後の経過観察に参加しているのか、という質問だった。
「やることあるけど、アイツ、対人折衝好まんやろ?
こっそり観察と報告はやるけど、対象に接触して会話する必要あるときはウチか長月が基本やる。」
「まあ文月は他人にモテる容姿だけど、アイツ自身はメンドくさがりだからな。」
「それも極度の、やからな。」
あれで性格がマメだったらその容姿を活かして情報収集活動で一番の活躍をみせるはずだった。
それこそ男女を問わずにモテる人物のため、霜月も葉月も超える情報収集が可能なのだ。
当の本人が極度のモノグサな性格でなければ、だが。
で、噂をされている張本人はこの頃、五の月と六の月が本人の預かり知らぬところで自身の話をしているとは露知らず、突然のくしゃみに襲われ、これを理由に(表向きの)仕事をサボれないか、なんて考えていたのだった。
「んじゃあ今回長月も連れてきたのは面通し?」
「それもあるけど、今回はバイトの率が高いな、アイツは。」
基本的に経過観察は水無月と長月で行なっていると告げた水無月の言葉に、皐月は確認を取る。
長月に観察対象の顔をきちんと確認させておくつもりで連れてきたのか?という質問。
が、返ってきたのは予想と違う回答だった。
「……また借金?」
「水無月個人からな。」
長月が慢性的に金欠に襲われ、水無月個人から借金をしているコトは知っている。
それもべらぼうに高い利息で、だ。
で、借金を理由に水無月にいいようにこきつかわれている。
長月の趣味がいろいろなバイトをするコトだとは知っているが、その実、働いても働いても(その影の薄い体質故に)満足な収入を得られず、このドケチから借金を重ね、その結果金を返すためにひたすらバイトに励んでいるという負のループに陥っているのでは?
バイトは実は趣味などではないのでは……?という考えが皐月の脳裏を過った。
「……長月が水無月から離れる日は来るのか。」
皐月が遠い眼をしながら呟く。
「ないやろ。」
水無月が非情な一言をあっさりと断言した。
暦衆のコト書いてる時は楽しいです♪
全員の設定は決まってますので、早くみんな出したい!!




