其の7「帆風商会とサカイ訛りの女」
本日三回目の投稿になります。
新キャラ=暦衆のメンバーが登場します。
「あーーーー!!!!!」
そう驚きの声を上げたのは皐月。
現れたサカイ訛りの若い女を指差し、焦りながら大声を上げた。
「どうも、この度は帆風商会をご利用いただき、まことありがとうございますぅ。
あんさんが同心さんですな? ご注文いただきました追加分の食材、お届けにあがりました。」
が、眼鏡で髪を左にサイドアップしたこのサカイ訛りの女は、皐月の態度を全無視。
何事もないようにスルーして、笹野に近づくと、挨拶に入った。
「ああ。わざわざ済まない。ありがとう。
はて? 注文した際に来た者とは違うな。君は?」
笹野は首を傾げながらこの若い女を見る。
番所に来た商人は男だった。
「ご紹介が遅れました。自分、帆風商会の商人、名を
水無月 純
言います。
女だてらに商人やらせて貰っとります。
以後、お見知りおきを!」
なかなか元気な女だな、と笹野は若干気圧されながら頷く。
「同心の笹野兵衛だ。丁寧な挨拶痛み入る。」
彼女とは初対面……
と考え掛けたが、笹野の脳が待ったをかける。
「ん? 君とは以前、何処かで………」
そう呟きながら、笹野が記憶の照らし合わせを行なっていると……
「なんでお前がここにいるんだよ!?」
と配下の岡っ引きが件の女商人を指差しながら叫んでいた。
「……これが病院に診察来とるように見えるか? どう見ても商品の納品やないかい。お前アホちゃうか。」
と、水無月と名乗ったサカイ女はようやく皐月を横目で視認しながら呟いた。
……それもメンドくさそうに。
先程までの笹野に向けた良い笑顔が嘘のように。
「そうじゃなくて! なんでお前が来てるんだよ! って聞いてんだよ!!」
「キャンキャン吠えるなや、犬やあるまいし。」
「誰が犬だ! 誰が!!」
「小町さん知り合いなんですか?」
ある意味微笑ましい光景に口を挟んだのはアヤメ。
「知り合いも何もこいつは……」
「まあ親戚みたいなもんやね、お嬢さん。
……手ぇの掛かる従姉妹いうか、妹分いうか。」
腕を組みながらドヤ顔でアヤメに答える水無月。
「……思い出した。以前に私に伝言を届けに来てくれた人じゃないか?」
そう口にしたのは笹野だった。
「覚えてくれてたんですか? いやあ。顔覚えられるのは嬉しいわあ、商人として。商売人は他人に顔を覚えられてナンボのもんやさかい。」
そう。第1幕、トカゲロボの襲撃が始まった折、矢車党の事件の聞き込みをしていた笹野の元へ現れたサカイ訛りが印象的だった女。
彼女が水無月だったのである。
「やはりそうか。いや、あの節は世話になった。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう。」
笹野はそう言いながら右手を差し出した。
「そんな大袈裟な。照れますなあ。」
水無月も照れ笑いを浮かべながら自身の右手を差し出す、握手だ。
その様子をジト眼で見つめる皐月。
「(全く。あのとき伝言を”貸しだ”って言ってアタシに雑用やらせたくせに。)」
さらに言えば伝言の際、勝手に大岡勘助の名前を出して調子よく話をでっち上げたせいでコッチは肝を冷やしたんだ……と考えていた皐月。
「ん? 皐月と親戚??
あのとき君は皐月を知らないような話じゃなかったか?」
………………笹野の指摘で再び肝が冷えた。
握手をしていた水無月が笑顔で固まる。
「(……どーすんだ!! 水無月!!!)」
皐月が無言で水無月を睨む。
「……………………………………あのあと同心さんに言ったように、この岡っ引きさんに借りを身体で返して貰いましてな? 以来ビックリ意気投合。
あっちゅう間に親戚同然の仲、ちゅうワケですねん!」
水無月は何事もないかのように平静を装いながら笹野の手を離し、皐月の傍に駆け寄ると、横に並んでから彼女の肩を親しげに抱き寄せた。
「(……いや! ムリあんだろ!! その言い訳!!!)」
「(やかまし!! 話合わしとき!!!)」
小声で文句を言い合う二人。
一体誰がこんな取り繕った言い訳で納得するんだ、と皐月が思ったところ……
「…………ほう! そうだったのか!!
なんだ皐月、言ってくれれば良かったのに!」
……自身の上司があっさり信じたのだった。
「えーーーー………っと。水無月さん、でしたっけ?」
「ほいほい!! なんでっしゃろ!!?」
一人笑顔で納得している笹野はさておき。
端から見ても変な空気になっているコトを察したアヤメが話題を変えるべく水無月に声を掛ける。
いたたまれなくなった水無月はそれに乗り、やや食い気味に取り繕った笑顔でそれに応えた。
尚、皐月は「大丈夫か、この上司……」と彼女が詐欺に引っ掛からないかと本気で心配していたため、反応しなかった。
「えーーーー……っと。
………あ。追加の食材はどちらに………?」
「ああ、それでっか。」
どうやらアヤメは話題を変えたかったようだが、何か具体例が有って話し掛けたワケではなかったようだ。
ちょっと悩んだように間を空け、そして思い付いたように質問を口にした。
「ウチのモンに順次運ばせてますさかい、安心しとくれやす。量があるよって、力仕事が得意な連中に任せたんですわ。
……と言うとる間にホラここにも。」
「え?
あ、ホントだ! いつの間に!?」
水無月がアヤメの横を指で指し示すと、それにならいアヤメは首を動かした。
するとコンロから少し離した位置に段ボールが音もなく積み上がっていた。
人の気配も全くなく、積み重ねる作業の音もなかったためアヤメは気づかなかった。
「手品みたい……」とアヤメが感心していた横で、皐月はジト眼で明後日の方向をジッと見ていた。ただし、身体はおろか、首すらも微動だに動かさず、視線だけであるが。
「(……相変わらず水無月に使われてるなあ、アイツは。)」
アヤメ(は勿論、実は笹野もだが)は気づいていなかったが、皐月はこの作業をした男にちゃんと気づいており、
――というか彼の登場で皐月は放心状態から現実に戻ったのだが――
彼が一言ボソッと皐月に向け、
「……なんで拙者がこんなコトを……」
と呟いていたのもきちんと聞き届けており、音もなくこの場を去った彼の背もきちんと見送っていたのだった。
余談だが、会場を訪れた帆風商会の男手は複数人おり、彼らは参加者と和気あいあいと話しながら納品していたのだが、皐月たちの元へ商品を届けた彼が運んだテーブルだけは、気づかぬ内に段ボールが積まれていたため、気づいた女性たちは近くにいた他の商会人が運んだのだと勝手に勘違いし、礼を告げていた。
……運んだ当人は誰にも気づかれていないため、誰からも礼の言葉を貰っていない。
…………一番多く段ボールを運んだのに………。
「(暦衆の任務を考えたら気配を気取られずに隠密行動出来るのは強みだけど、ここまで来たら日常生活に支障をきたさないかい、アイツ……)」
と、皐月は自身のみが気づいたもうひとりの仲間に呆れと同情の視線を送り、視線をさりげなく水無月たちの方へと戻すのであった。
そんなコトは露知らず、水無月始めこの場の皐月を除いた三人は、もう一人いた存在を始めから終わりまで意識せずに話を続けるのであった。
尚、水無月も皐月同様、彼には気づいていたのだが、こちらは分かってて存在を無視してるのだから質が悪い、と追記しておこう。
一人とは言いませんでしたよ(笑)
はい、名も出ない空気の彼も仲間の一人です。
っていうか真の新キャラは彼ひとりだよな、水無月は1幕で出てんだから(苦笑)
第1幕で書いてから、再登場まで約5ヶ月...ようやく名前が出せました、水無月(泣)




