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其の6「笹野兵衛のノロケ話」

本日二回目の投稿になります。


...これ言うほどノロケになってるかな?

 香里との気持ちのすれ違いに気づかず、皐月は再び人賑わうコンロの周りに舞い戻り、楽しげな空気に混じったのだった。


「皐月さん、食べてますか?」

「これ焼けてますよ、食べて下さい。」

「岡っ引き小町さん、呑んでますかあ?」


 この祝勝会において、皐月は笹野と同様の勢いで周りからチヤホヤされていた。


 捕まった皆々が一番不安に感じていた場面に颯爽と現れ、気持ちのいい啖呵をゲス相手に言い放ち、そして逃走劇の立役者となったのだ。


 捕まった当事者たちは勿論のコト、その家族や恋人、友達たちも参加しているこのパーティー、

 当事者の知り合いたちは口を揃えて


「岡っ引きさん、娘をありがとう。」

「この()を助けてくれて本当にありがとう。」


 と皐月に礼の言葉を送った。



 皐月はその言葉に


「みんな無事で良かったよ。間に合って本当に良かった。


 みんなとこうして楽しく騒げて本当に良かった!」


 と返し、拍手を貰っていた。






「けれど本当に貴女が無事で良かった。」


 と皐月に告げたのは道場の師範代、更科リン。

 逃走劇の折、脱出に一役買い、笹野が率いる町方の一団に合流するまで、誘拐されていた女性たちを引率、護衛していた彼女もまた、今日のパーティーではもてなされる側だった。

 

 道場の門下生にジュースを注がれながら、リンは皐月に語りかける。


 「貴女を残し戦場を離れはしたが、内心気が気ではなかったのだ。更に香里殿もその友人殿も戦場に残ったと聞いてな。

  番所で待機を命じられたものの、その実、貴女を助けに駆けつけたかったのだが……」


 申し訳ない、とリンは口にした。


「ありがとう、更科さん。」


「聞けば戦場にはヒーロー殿が駆けつけて、悪人を成敗したとか……

()の者にも礼を言いたかったが……」


 余談だが彼女、道場の師範代を任されてはいるがまだ二十歳(はたち)そこそこなんだとか……


 話し方だけを見てしまえばどうも歳よりくさく感じてしまう。笹野といい彼女といい、何故武家の人間はこうも古めかしい言い方をするのだろうか。

 武家特有の話し方講座でもあるのだろうか……



「ヒーローさんかぁ。どんな人だったの?」

「私も会ってみたいなあ。」



 周りにいた者たちがそう口にする。

 

 尚、事件の当事者たちには、事件の顛末として、巷で噂の「ヒーロー」が事件解決に駆けつけ、矢車党(あくとう)を壊滅させるのに活躍した、と説明がなされていた。


 これは笹野の語りだ。


 まあ放っておいても新聞やらTVやらが報道したからいずれ彼女らの耳にも入ったワケだが、生真面目な笹野は「自分の手柄ではない」と「ヒーロー殿の手柄を横取りするつもりはない」ときちんと関係者らに自分の口で説明したのだった。


 と言っても実際にヒーローの戦い(かつやく)をその眼で見たのは香里とアヤメだけだったので、その辺りの説明(というか、好奇心から来る質問攻めへの対応、というか)は二人に任されていた。


 皐月はアヤメと香里の誤魔化しによって、ヒーローが駆けつけた折、逃げた他の雑魚を追って現場を離れていたコトになっていた為である。


 ちなみにこれ、口からでまかせであるため、実際は逃げた雑魚はいないから怪しまれるかという懸念があったが、矢車党の党員の人数なんて誰も把握していなかったため、誤魔化せたという逸話があったり、なかったり。


 まあ最終的には上司である大岡勘助が上手く言いくるめた、というのもあった。



「皐月さんは見たの? 噂のヒーロー。」



 眼を輝かせながら、好奇心に駆られた一人が皐月に尋ねる。


「まあね。アヤメと香里を任せたのもあったし……」



 ハハハ……と愛想笑いを加えながら答える皐月。



「(見たも何も、本人だからねえ……)」

 と絶対に口に出せないコトを考えながら、曖昧に答えるのだった。



「ヒーロー殿か……あの悪党の一団を単身で壊滅させてしまうほどの腕前……

 一度手合わせ願いたいものだ……」


 コップのジュースを口にしながら、リンはそう笑みを浮かべながら呟く。

 先程の笹野との手合わせといい、どうも彼女は強い人間を見ると手合わせを願い出たくなる性分のようだ。


 まあ皐月は嘘をつく(こういう)コトに慣れているため表情に出さずはぐらかすのは得意だったのだが、内心ハラハラしていたのはその皐月の横で給仕をしていたアヤメ。

 ひきつった笑顔で皆にコンロで焼けた肉や魚介類を配っていた。



「こ、小町さん。おかわりどうですか?」


 笑顔で皐月に振るアヤメ。その声はどこか棒読みだった。


「……アタシはいいからアヤメ、自分も食べたらどうだい?」


 アヤメの様子に、皐月は心の中で溜め息をつくと、給仕ばかりしていて自分はほとんど食べてないアヤメを気遣い――



 をしているフリを装い、そっと小声で話し掛けた。



「(大丈夫だから……堅くならなくても。)」


「(ごめんなさい。)」


「(まあこういうのは慣れだから……)」


「(……早く慣れます。)」





「(……ごめんな、付き合わせて。)」

 最後の言葉は申し訳なさそうに告げた皐月。するとアヤメは興奮し、


「いいえ! 小町さんは何も悪くありません!!」

 と突然大きな声を出した。



 周りからすればアヤメが突然何かに駆られたように叫んだ様に映った。



 突然のコトに「なんだ、なんだ?」とアヤメにみな注目する。


「………ホントアタシばっか食って悪いな。でもそんな張り切ってフォローしてくんなくても大丈夫だから。」



 と、皐月はアヤメの突拍子もない(ように見えてしまった)発言にフォローを入れる。


 周りは「ああ」と合点がいったように頷き、中にはクスクスと笑い出す者もいた。



「そうだぞアヤメくん。給仕は大変助かるが、君も参加者の一員なんだ。遠慮せず自分も食べてくれたまえ。」



 と、アヤメの背後から声を掛けてくる人物。


 「笹野さん。」


 笑顔で現れた笹野に、皐月も笑顔で答える。



「……食材が少し心許ないか? まあ直に追加が来るはずだから、遠慮せずに食べてくれたまえ。」


 笹野の登場に、辺りの娘たちは黄色い声を上げて色めき立ち、笹野の言葉に「はーい」と可愛く答えていた。


 と、皐月はここでとある懸念を抱き、そっと小声で笹野に尋ねた。



「……笹野さん大丈夫? その……(コッチ)の方は。」



 親指と人差し指で輪っかを作り、笹野に質問の意図を伝える皐月。


 当事者だけでなく、その関係者まで参加しているこのBBQパーティー。人数が多いコトから、開始当初かなりの量があったはずの肉や食材の山がこの短い時間で少なくなっていた。


 そこに追加の食材が来る……費用もバカにならないはずだろう。


 町方の経費で落ちるハズがないし、清廉潔白を好む笹野(この人)が不正に金を流用するワケがない。ならばこの催しに懸かる費用は全て自腹のハズ……



「いいんだ。こんなコトくらいしか出来ないからな。」


「でもさ、結構な額じゃないの?」


 

 場合によっては自分も援助を……という考えが頭を過る皐月。


 ……言うほど皐月も懐に余裕があるワケではないのだが。


 と、そんなコトを考えていると、笹野の顔が突然赤くなり出した。






「その…………勘助さまが……自分も出す……と。」



 そう呟いた笹野の表情は、自分が普段見知っているキリッとした凛々しい印象からは想像できないくらい、愛らしいものだった。


「”此度の件でお前が心を痛め、それをなんらかの形で償いたいと言うのなら、私も力にならせてくれ”と………その……」


 モジモジしながら普段の彼女からは考えられないような愛らしい仕草で、たどたどしく笹野は話す。



「……何か進展した?」

「え!!?」


 皐月がニヤニヤしながら笹野に尋ねると、どういうワケか笹野ではなく、アヤメが驚いた表情を浮かべた。


「勘助さま、って、町奉行の大岡さまですよね! 小町さんや同心さんの上司の!

 え? え?? お二人はそういう!???」


 恋バナには敏感なアヤメが食いつく。

 一方の笹野は空を仰ぎ、こちらを見ない。


 が、耳まで真っ赤になっており、見てるこっちが赤面してしまうくらい恥ずかしがってるコトが伺いしれた。



「し……進展、と……言うか……

 まあ……その……なんだ………


 落ち着いたら……一緒に住まないか……と。」


「「おおお!!!」」


 皐月とアヤメは声を揃えて感嘆の声を上げる。


 尚、皐月は大岡が落ち込んだ笹野を再起させるために、「好きだ」と告白したコトは知らない。


 が、今回のこの事件で奔走した折、笹野もそして大岡も、互いが互いを愛しているというコトに触れた。事件の解決を迎え、きっと何か変化があったのだろうな、とは思っていたのだが、よもや同棲宣言とは……。


「笹野さん、結婚すんの?」

「けっ!!!!」


 皐月の発言に驚きの反応を見せるのはやはり笹野、ではなくアヤメ。


 顔を真っ赤にして、口に両手を当て、息を飲み込むアヤメ。



 ………それは笹野が取るべきリアクションなのではなかろうか。


 

「………今すぐ、というワケではないが……

 …………いずれは………」


「「おおお!!!!!!」」


 

 身体を捻り、顔を背け、決してこちらを見ずに語る笹野。


 耳どころか、首まで真っ赤になっている彼女は、一体どんな表情でコレを語っているのだろうか。



 今回の矢車党の誘拐事件は解決を迎えたワケだが、それを受け、現在北町奉行所が機能不全を起こしている状況だ。


 とてもじゃないが大岡も笹野もその対応に追われ、忙しいため、祝言どころではない。


 加えて、「いざ結婚します」と言っても「ハイ、そうですか」で済ませられるワケではないのだ。

 実際に祝言を上げるのはもっと先の話になるだろう。



 かつて何処の馬の骨とも分からぬ暴漢に襲われ、貞操の危機に曝された彼女を、白馬に乗った王子の如く助けに駆けつけた恩人。


 その恩人と紆余曲折を経て結ばれる。


 なんともめでたい話ではなかろうか。




「おめでとう笹野さん。」

「おめでとうございます! 同心さん!!」


 まだ気が早い……と答える笹野だったが、内心満更でもない様子だった。



 


「(ヒーロー(アタシ)も頑張った甲斐があったってもんだよ……)」




「それじゃあ今回のパーティーは大岡(旦那)さまとの初めての共同作業というワケですねぇ。」


 感慨に浸っていた皐月の横で、アヤメがそんなコトを口走る。



 ……初めての共同作業?



 なんかが違う気が…………



「う、うむ? ……そうなる………な」


え!? と皐月は笹野を見る。


「優しい旦那さまですね! 奥さまのために援助して下さって!!

 これが内助の効!??


 そんな素敵な旦那さまと所帯を持つ、かぁ。

 きゃーーー、私もあやかりたいですぅ♪」


 アヤメよ……いろいろ間違ってるし、暴走し始めているぞ…… 


「奥さま………

 私が勘助さまの……奥さま……


 素敵な旦那さま……女房”役”じゃあなく……勘助さまの……妻…………」


 この上司、あまりの嬉しさに発言がポンコツになってるな。


 皐月は幸せムードで違う世界に飛んでいき掛けている二人についてゆけず、ジト眼で呆れていたが、流石にやってられなくなり、


 わざとらしく大きな咳払いをした。


「えー………んん! んんん!!!」


 その咳払いを切っ掛けにして、ようやく二人は現実に舞い戻ってきたのだった。



「じゃあ笹野さん。今日の催しの費用は大丈夫なんだね?」



 話を戻そう、と皐月は笹野にそう話を振った。


「ああ。問題ない、大丈夫だ。」


「素敵な旦那さまの援助で、ですよね?」


「アヤメ。それはもういいから……」


「えーー?」


 分かっててわざとそう茶化しに入ったアヤメにツッコミを入れ、「黙っておくように。」と眼で訴えかけると「はーい。」とアヤメは発言を控え、皐月は話の軌道を修正した。


 と、熱が冷め平静を取り戻した笹野が、思い出したように発言する。





「ああ、それとな。何処から話を聞き付けて来たのか知らんが、とある商会が安く卸してくれてな。かなりトクな値段で用意してくれたのだ。」


「………え? それ大丈夫なの???」


 よもや怪しい出所の食材とか、曰く付きの食材なのでは?

 もしくは笹野さん騙されているんじゃ……


 と狼狽え出す皐月。


 が、その様子を見て笹野が笑いながら答える。


「大丈夫だ。きちんと有名な商会だし、食材のルートもハッキリしてる。怪しいコトや詐欺の心配はない。」


「……本当にぃ?」


 皐月がジト眼で笹野を見る。


「何て言う商会ですか?」


 黙っていたアヤメが質問を口にする。



「ああ。帆風(ほかぜ)商会だ。」

「え!?」


 

 笹野の回答に、皐月は大声で驚いてみせた。


「なんだ? 皐月。何かマズイのか?」


「あ~、いやあ、別に~……」


 皐月の反応に笹野は訝しげに尋ねた。



「? 確かに有名な商会ですよね。食材から家具まで手広くやってる大手の商会。

  ミズホ国内で幅広く交易してる……」


「…………らしいねぇ。」


 アヤメの解説に皐月は眼を逸らしながら曖昧に頷く。


「「?」」


 皐月の反応に首を傾げる笹野とアヤメ。

 何か問題があるのだろうか、と感じていた。



 実は皐月はその商会についてはよく知っていた。耳にしたコトがある、なんてレベルではない。よく出入りしているのだ。


 現に約二週間前、そこで雑用を手伝わされたばかり。


 そう、この帆風商会には、皐月の身内、すなわち”十二月暦衆”の仲間(メンバー)が一人在籍しているのだから……。




 

 「おまっとーさんですぅ。」






さて、次回新キャラ登場します。


このあと17時に投稿しますm(_ _)m

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