其の5「思いやりと心のすれ違い」
この話を投稿するに当たり、ひとつ前の話に手を加えました。
香里の台詞と悩みが変わってます。
今回の話と噛み合わなかった為、前話を修正させて頂きました。
うん、これが香里だ。以前のような考えを香里はしない!!これが正しい!!
香里の印象を変えましたのでそちらを読んで頂いてから今回を読んで頂けると幸いです。
宜しくお願い致しますm(_ _)m
「……はあ。」
皐月とアヤメの会話を盗み聞きしたあと、香里はブルーな気持ちに包まれていた。
思いがけず知ってしまったヒーローの正体。
それを覚悟もなしに知ってしまった自分。
皐月の人となりを伺い知ってしまい、何か力になりたい、と思っても、何も出来ない非力な自分。
自分に何が出来るのか、何をすればいいのか。
いっそのこと皐月本人に「正体を知ってしまいました。何か私に出来るコトはありませんか?」と面と向かって聞いてしまえばスッキリするのだろうが、
あの誘拐事件の折、皐月は正体を明かしたコトを上司に怒られた、と口にしていた。
そしてアヤメとの先程の会話で口にしていたことから、自分の正体を知る者はもう増やしたくない、という考えのようだった。
何か事情があり、秘密にしているヒーローの正体。
それをアヤメにバラしたのはアヤメが皐月にとって心許せる友だから、という例外なのだろう。
だったらほぼ一般人で、ただの顔見知りに過ぎない自分が「秘密をしりました」と皐月に告げたところで、彼女に心労を与えてしまうだけではないだろうか……
一体どうすれば………
と、グルグル考えながら悩んでいたところ――
「香里! 焦げてる、焦げてる!!」
という慌てた声でハッと我に帰る香里。
「わわわ……」
煙を上げる肉を慌ててトングで掴み、炭火コンロの網から避難させる香里。
差し出された皿に焦げた肉を乗せ、一先ずの事なきを得たものの、改めてその焦げた肉に視線を落とす。
「あやや……真っ黒焦げだね、こりゃ。」
皿を差し出した主が黒くなった肉に眼を向け呑気な声でそう言う。
「ご、ごめんなさい。ぼおっとしてしまって……」
そう謝罪の言葉を口にしつつ、香里は皿の持ち主を見る。
「………皐月さん。」
皐月だった。
「どうしたんだい? 香里。顔暗いけど……」
と皐月が香里に尋ねる。
香里の苦悩を知らない皐月からすれば、急に暗くなってしまった香里を心配し、思いやった気持ちから出た言葉なのだが、
この場合はBADな発言だ。
香里の暗い表情を生み出している原因が尋ねたのだから。
「…………」
皐月の心配そうな表情に居たたまれなくなり、香里は眼を逸らす。
「何か悩みゴトかい?よければ聞くけど……」
「……いえ。」
まさか「貴女のコトです」とは言えなかった。
別に言ってしまっても構わないと思うのだが、香里の皐月への気遣いがその発言を留まらせてしまう。
「あ、もしかして………」
皐月が何かに気づいたように香里を見る。
盗み聞きがバレたのだろうか、とやましい気持ちがある香里は思わず身体を強張らせる。
「兄貴のコトで何かあった?」
ズコっと香里は身体を傾ける。
身構えていただけに余計にズッコけてしまった。
「そうではなく……」
「抱えていた事件も粗方片付いたからさ。そろそろ手伝いたい、って思ってさ。」
香里が違うと答えたのだが、皐月はそのか細い声で紡ぎ出された否定の言葉に気づかず、行方不明の兄貴のコトだという前提で話を進めてしまった。
皐月は黒焦げ肉が乗った皿を持ったまま、近くにあった椅子に腰かける。
香里にも「まあ座んなよ。」と促し、話を再開する。
「事件事件でお互いバタバタしてたけどさ、ずっと気になってるんだよ。香里の兄貴は見つかったのかな、って。」
皐月は椅子に腰かけた香里を見ながら口にする。
「ごめんな。力になる、って言ってたのに後回し、後回しになっちゃって。」
「いえ……」
皐月の優しさが嬉しかった。が、同時に辛かった。
この町を守る人気の岡っ引き小町で、更には悪党相手に危険を省みず戦うヒーロー。
そんな人物に、田舎者である自分の事情を忘れずに気にかけて貰っているのが堪らなく嬉しくあり、けれど、本来兄のコトが第一でなければならず、そのために上京してきたハズなのにヒーローのコトに気を取られている自分の至らなさを指摘されているようで辛かった。
「あれから二週間。何か耳に入った?」
皐月の質問に、香里は無言で左右に首を振る。
「そっか……。」
皐月は腕を組んで、神妙な顔つきで下を見る。
何か策を、と考えているんだろう。が、真剣に悩んでくれている場面、香里は別のコトを考えてしまっていた。
「どうして……」
「ん?」
「どうしてそんなに親身になってくれるんですか?」
香里は考えていた疑問を口に出す。
何故彼女はここまで自分を気に掛けているのだろうか。
何故ただの田舎者の自分の兄を捜すことを気遣ってくれているのだろうか。
「それは……」
「それは?」
「……約束したろ? 力になる、って。」
「………もう充分力になって貰ってると思います。」
月見亭という拠点を紹介してもらい、女将さんを始めそこの従業員たちにも、訪れる客たちにも自分は本当に好くしてもらっている。
それは全て皐月のおかげだ。
皐月が「オエドタウン一番の宿」を紹介してくれたからだ。
それで充分なのに、この岡っ引きは更に力になってくれようとしている。
「これだけでも充分なのに……一体どうして。」
香里は尋ねる。皐月の真意を。
「香里。アンタにはこのオエドタウンで平和に暮らして欲しいんだよ。穏やかに、オエドタウンの一員として。」
ここで誤解が生じてしまった。
皐月は香里を、「オエドタウンに住む一員=友」として、香里を助けたい、という想いを込めた。
自分の愛するこの街で、そこの一員として、守りたい友として、その平和な生活を享受して欲しい、と告げたのだ。
だが、香里は別の意味に捉えてしまった。
皐月は誰にでも優しいヒーロー。市井の民を平等に守るヒーローという存在。
香里には「その他大勢として穏やかに平和に生きて欲しい。」と聞こえてしまった。
密かに期待していたのだろう。
自身は皐月の特別な「友」で、だからこそ気に掛けて貰っているのではないだろうか、と。
自惚れていたのかもしれない。自分はアヤメと同様に、ヒーローの正体を明かして貰える程の友人なのかもしれない、と。
危険に首は突っ込まず、穏やかに生きて欲しい、という皐月の思いやった発言は、
一般人として出しゃ張ってはいけない、という注意勧告に香里は受け取ってしまった。
皐月は誰にでも平等に優しい。
例えそこにいるのが誰でも、例え香里でなくとも、同じように心を痛め、同様に親身になって悩んでくれる。
それはそれで素晴らしいコトだ。
けれど自分は彼女にとって特別ではなかった。
友達と言える仲なのか、あるいは友だとしても、腹を割って話が出来るくらいの友ではまだないのだ。
自惚れてはいけない。自分はまだ皐月にとってはまだその他大勢の中の一人に過ぎないのだ。
ならば皐月に「ヒーローの正体を知ってしまった」と告げるのは負担になってしまう。
彼女は言った。
”市井の民に希望を与えるのがヒーローであり、不安や負担を強いるのは本意ではない”と。
皐月を助けたい。ここまで親身に田舎者の自分の力になってくれてる彼女の力になりたい、と願う香里の気持ちにブレはない。
それは皐月の発言を受けても揺るがない決意。
彼女にとって自分は市井の民に過ぎぬのであれば、黙っているコトが彼女にとって為になる。
「知らないフリをするコト」が、彼女にとっての一番の力、助けになるのだ、と。
隠し通そう。
香里は密かに、そう決めたのだった。
「ありがとうございます、皐月さん。」
香里は皐月に礼を告げる。
その表情は先程までの不安に揺れるモノではなく、ひとつ、確かなものを得たしっかりした顔だった。
「私は私でなんとか頑張りますよ。何かあれば皐月さんに相談します。
そのときは力を貸して下さい。
皐月さんも何かあったら言ってくださいね、微力ながら力になりますから。」
「そうかい? ありがとう香里。」
それは誤解が招いた結論。
皐月は香里を思いやり、大切に思うから危険に身を置いて欲しくない、と告げた。
香里は皐月を思いやり、距離を置き、知らないフリをするコトが力になる、と結論付けた。
互いが互いを思いやる心が、総じて二人の心の距離を開けてしまう。
皐月は気がついていない。香里が自身から一歩引いたコトを。
香里は気がついていない。皐月は香里が思っている以上に自身を気に掛けているコトを……。
そう、香里は「自分の行なう言動に後悔は抱かないし、全部納得して動く」という少女なんです。
...そう書けたかなあ(汗)
......っていうかそれどころじゃないか、話の展開が。
今日はこのあと16時にまた投稿しますm(_ _)m




