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其の2「翁の拳骨」

本日二回目の投稿です。

暦衆の一人(=皐月の仲間)が登場します。


...まあ名前は出てたんだけどね。

 川原で始まったBBQ。皆、思い思いに好きな物を炭火のコンロで焼き上げ、口に運んでいく。


 皐月はああ言ったが、”華やかなお茶会”よりも、こうした”賑やかな立食パーティー”の方が皐月の性には合っていた。


 肉が好物な皐月は焼き上がる串に刺さった牛肉のグリルを熱さと格闘しながら豪快に頬張り、笑みを浮かべる。



 と、そこへアヤメが近づいてきて、皐月が持つ空の皿にトングで掴んだ焼き上がった野菜を置いていく。


「お野菜も食べなきゃダメですよ? 小町さん。」


「ありがと、アヤメ。」


 皐月は偏食がないため、装って貰ったピーマンやタマネギにも顔色ひとつ変えず箸をつける。



 それを不思議そうに見るアヤメの視線に気づき、皐月が声を掛ける。


「? どうかしたかい?」


「ごめんなさい、私てっきり”いやだ~”とか”いいよ野菜は~”とか言うかなって。」


「期待を裏切ってごめんよ。」


 ニシシ、と皐月は子供っぽい笑顔をアヤメに向ける。


「小町さん、って苦手なモノないんですかあ?」


 ふとアヤメが皐月にそんなコトを尋ねてみる。


 アヤメからすれば皐月は元々”岡っ引き小町”と呼ばれる町の人気者で、凄腕の岡っ引きという印象だったワケだが、先日の事件の折、彼女が街で話題の”ヒーロー”であったコトも知った。


 アヤメからすればかなりスゴい人物という心象になったワケだ。


 そんな”岡っ引き小町”の人間らしさというか、親近感が沸くような何かがないのか、と質問してみた。



「いや、そりゃあ普通に色々あるよ、苦手なモンは……」


 

 皐月の手が止まる。アヤメの言葉に何かを思い出したようだった。

 ふっ、と皐月の表情が変わる。顔から笑みが消え、真面目なモノになる。


「……小町さん?」


 雰囲気が変わったことをアヤメは肌で感じ、眉を潜める。


「なあアヤメ、忙しくて話が出来なかったけどさ。アタシ、アンタに謝らなきゃいけない、って思ってたんだ。」


 何か自分は皐月に謝られるようなコトをされただろうか。心当たりがないアヤメは内心、首を傾げながらも、真剣な趣の皐月の言葉に耳を傾ける。



「聞いてくれるかい? アタシの謝罪を……」


 皐月は語りながら思い出す。つい先日のコトである――――。






ーーーーーーーーーーーー






「バッカモォォォォォォォォン!!!」



 オエドタウンのとある建物に雷が落ちる。といっても雷とはあくまで例えであり、実際に天災が発生したわけではない。


 某所、木造家屋の外観に偽装されたとある建物。一見すると何らかの寮のような建造物。


 その建物の一角で一人の少女に顔を真っ赤にして怒声をぶつける存在がいた。



「そんなに怒鳴らなくても聴こえてるよ、翁。鼓膜が破れたらどうすんだよ。」


 顔をしかめながら両耳の穴を指で塞ぎながら抗議する少女、皐月である。




 が、このリアクションは彼女にとって失敗(ミス)だった。


「んがっ!!!」


 直後、彼女の脳天にゴンッ!と強烈な一撃が入る。

 怒鳴った主が、皐月の頭に拳骨を見舞ったのである。


 両手が塞がっていたため、脳天への防御がお留守だったのである。


「おおおおおぉぉぉぉ……」


 頭を抱え、その場にうずくまる皐月。



「ふん! 物覚えが悪い頭が少しは働くようになったかの?」


 そう発言した主は、踵を返し、床の間の前に着くと皐月の方を見ながらその場に座り、腕を組んで皐月を見つめる。


「……つぅぅぅ。頭パアになったらどうすんだよ!」


 頭を擦りながら皐月は涙目で床の間の前に陣取る老人を見る。




 老人は(よわい)七十は越えるであろう印象だったが、足腰は勿論、言動もハッキリとした持ち主。胸元まで伸びたアゴヒゲが特徴的な白髪の男。



 十二月(じゅうにつき)暦衆(こよみしゅう)、構成員の統括リーダー。十二の月”師走”。


 通称は(おきな)。ヒーロー活動を行なう皐月の直属の上司であり、”睦月”から”霜月”まで、皐月を含む組織のメンバーは全員、彼”師走”の部下なのである。


「ふん!! 頭の回転が鈍いモノには丁度いいショックじゃろうが。」


「アタシゃ古いテレビかい!!」


「テレビのほうがもうちょいマシじゃい! 叩けば直るんじゃから!!」


「電器屋呼べ!!」


「弥生が居ればいらんじゃろ!! 電器屋なんぞ!!!」


 



「………翁、話にボクを巻き込むな。っていうか話題がズレてるぞ。」



 縁側に座っていた弥生が呆れたようにツッコむ。

 ハッ、とした翁がバツが悪そうにわざとらしい咳払いをすると、居すまいを正して皐月と相対した。



「……皐月よ。なんで現在(いま)怒られているか、理解しとるか?」


 落ち着いたトーンで語り出す翁に、皐月も正座をしなおし、頭を片手で擦りながらブスッと呟く。


「…………一般人の前で変身して、正体バラしたから……」


「そうじゃ。

 弥生が開発した”アレストシステム”。

 使い方を誤れば、脅威とならん威力を孕んだ兵器。チカラを求めるモノによっては喉から手が出るほど欲しい技術の結晶。


 これを間宮皐月、一個人が所有するコトを知られんようにするため、所有者の詳細情報、つまり装着者の正体を秘密にしておるのじゃ。」


 ここまではよいな? と翁こと師走は視線で皐月に確認を取った。


「アレストシステムの所有者が露見すれば、善からぬコトを企むものは必ず所有者を狙う。


 アレストシステムそのものを、或いはその技術を我が物にせんがため。」



 天才科学者、弥生が開発したアレストシステム。そのシステム自体は装着者である皐月専用にチューンしているため、安易に他人が盗もうとしても装着はおろか、起動すら出来ないのが実状だ。


 だが、そこに使われている技術の詳細の一端でも入手出来れば、金に変えるコトは勿論、破壊活動に転用するコトは実に容易であろう。


 例えば皐月は普通に扱っているが、アレストチェンジャー。タバコの箱ほどのサイズの物に、アレストジャケット(鎧)やアレストテクター、各種アレストツールを分解圧縮し、普段は収納し、必要に応じて解凍展開させるというこの技術。


 エスタリカ合衆国にてとある産業企業組織が独自に開発し、独占していた技術であったが、組織が壊滅した折に技術が流出したのだが、その複雑な理論を再現、再構成させ、確立させたのは弥生の手腕である。


 並みの技術者の知識では再現は困難なこの技術。弥生の理論をフォーマットに敷けば使えるようになろう。


 他にも鎧や武器を構成する素材の合成比率。通信技術。身体能力を向上させるアクチュエーターの設計技術などなど……


 例え”ダイアレスター”となれずとも、ダイアレスターの技術を悪事に転用出来る情報が山のように込められている。



 心なき者の手にこれらの技術が行かぬようする配慮。それが装着者の正体を秘密にする理由のひとつである。



「また、装着してからの皐月には勝てぬ、と割り切り、正体を探って、生身の時のお前を狙う輩もおるやもしれん。」



 皐月の日常を守るための配慮。これも理由のひとつである。



 無論、第2幕で皐月が矢車党のボスに告げた「自らが権力という名の私欲に溺れぬための戒め」という理由も、正体を隠す理由のひとつなわけだ。


「アタシの実力は知ってるだろ?そんな簡単にヤられるほどヤワじゃ……」


「寝込みを襲われたり、食事に毒を盛られない、とも限らないだろ。」


 皐月の反論に、弥生がツッコむ。


「それに気づかないアタシじゃないし、何よりアタシに毒は効かないの知ってるだろ。」


「じゃあお前、四六時中そんな可能性を疑って、気を張って生活送るのか。

 親しい友人が何気なく振る舞った茶や菓子を疑いながら口にするのか。旅行に行って自分一人寝ずの番をして過ごすのか。


 それで笑顔で生活を送れるのかい。」


 再度の皐月の反論にも、弥生は否を唱える。

 言葉を詰まらせる皐月。そこへ翁も言葉を連ねる。


「そして何より……お前の正体を知っていそうだ、という理由で友人が悪党に狙われる可能性が生まれる。」


 この者ならヒーロー=ダイアレスターの正体や情報を知っているかもしれない、と悪党が知人、友人……皐月と親しいものを狙う可能性が生まれる。


 もしくは、ダイアレスターの弱点(アキレス腱)として、人質に取る可能性が生まれる。



「”自分はヒーローの正体を知っている”、”自分はヒーローと親しい”……そう自慢して優越感に浸りたいために、うっかり宣伝して回り、それを耳にした悪党にその者が狙われるやもしれぬ。」


 翁が重苦しい顔つきで皐月に言葉を紡ぐ。


「アヤメは大丈夫だよ。誰かしこに宣伝するような()じゃない……」


「お主が言うのならそうじゃろう。」


「じゃあなんでだよ。」


 皐月のアヤメを信じて庇う発言。しかして意外なコトに翁はコレには否定意見をぶつけなかった。”じゃあ殴られ損じゃないか”、と言わんばかりに皐月は翁を睨む。



「お前はある一つの可能性に気づいておらん。頭からすっぽりとその意見を抜け落としていた。だから叱った。」



 そう、ここまで説明したことは皐月も承知している可能性の話。既に幾度もダイアレスターとして戦いをこなしてきた皐月に何度も確認してきた事項だ。


 が、翁はとある可能性を懸念しており、それを先だって聞いた弥生も、翁の懸念に賛同し、それを皐月に諭すために、今回この場に居合わせたのだった。







「皐月、そのアヤメって()。覚悟があってお前の正体を知ったのか?」







 口を開いたのは弥生だった。



「……覚悟?」



 弥生の思いもよらぬ発言に、皐月は弥生の方に顔を向けながら尋ねる。


 覚悟……何に対する覚悟だろうか。



「”ダイアレスター”は市井の民の希望だ。だが同時に悪党からすれば脅威であると同時に忌むべき存在だ。そんな悪党から狙われる”ダイアレスター”の秘密を共有するんだぞ。



 知る覚悟があって、秘密を共有する覚悟があったと確信したから正体をバラしたのか? 違うだろ?」



 弥生の言葉に皐月は詰まる。


 あのとき、皐月はその場のノリで変身した側面が大きい。黙っていてくれ、と約束してから変身したが、重大な秘密を知る覚悟はあるか、という問いはしなかった。


「一方的に秘密を押し付けられ、更には命の危険を晒すかもしれない重大な秘密をワケも分からずいきなり共有させられたんだ。


 秘密の重さに押し潰されたら、皐月、お前、あのアヤメという()の人生に責任持てるのか?」



「そんな大袈裟な……」

「そんな大袈裟なことじゃ。」


 弥生の言葉に皐月は慌て、反論を口に仕掛けるが、それを翁が口を挟み、留める。



「お前の正体が露見したら、お前が狙われ、お前が普通の生活が送れなくなる、というのは先に話したとおり……。


 正体を知った一般人が悪党に、”ダイアレスターが誰か吐け”と狙われる可能性が生まれる、またはダイアレスターの弱点として人質にされる可能性が生まれる、というのも話したとおり……。



 だがな皐月。実際にそうはならなくても、一般人は”正体を知っている自分が悪党に狙われるかも”という不安を抱えながら生きて行くコトになるかもしれん。」



 実際はそうはならないかもしれない。否、普通に生活をしていれば、そうそう悪党に狙われるコトには繋がらないだろう。


 しかし、一般人が思いがけず、言ってみれば”知ってはいけない機密事項”を知ってしまったのだ。


 もし自分から秘密が漏れてしまったら? あるいは秘密を知る自分が狙われてしまうのでは?


 そんな強迫観念に駆られてしまう可能性が存在している。


 一般人のみんながみんな、強い心を持っている訳ではないのだ。知ってしまった事象の重さに心を病んでしまう可能性がある。




「お前はその可能性を考えていなかった。」




 弥生がそう言葉を結んだ。


 それを聞き届け、皐月は顔を青くしていた。


 


「一般人がヒーローの正体を知ってしまう、という”抱える不安の重さ”を考慮していなかった。お前のその軽薄さに怒ったんじゃぞ、皐月。」


 翁がダメ押しとばかりに皐月に言葉を投げ掛ける。



「……そんなコト、全然考えてなかった…」

 そう呟いた皐月の表情は暗かった。



「済んだコトはもう戻せん。

 皐月、そのアヤメという()のケアはしっかりしとくんじゃ。


 また、改めてきちんと話をし、謝罪をするんじゃぞ。」



 翁の言葉に、落ち込む皐月は小さく無言で頷くのが精一杯だった。



「………まあ、現在に到る(いま)までの戦いでもお前の正体を知った一般人はいたからな。ヒーロー(お前)の最初の戦いも、一般人の眼の前(まえ)での変身だった。


 そういう状況に慣れてしまって、お前の気が軽くなってしまうのも仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないよ。」


 コトの重大さに大きなショックを受けた皐月の様子に、弥生は不憫に思ったのか、フォローを入れる。



「……もしかして、今まで助けてきた人のたちの中にもいたのかな……その……」

 皐月が弱々しく弥生を見ながら尋ねる。


「いや。把握している者たちにそういった様子は見受けられない。

 ダイアレスターの正体を知ってしまった人の数はそう多くないから、ときどき確認してるけど、病んだ様子はないから、そこは安心していいよ。」


 弥生の言葉に、皐月は”経過観察をしていたのか”と自らが知らない情報に驚きつつも、ホッと胸を撫で下ろす。

 疲れた顔に弱々しくも笑みが浮かぶ。


「皐月、これは教訓だ。」

 弥生が口を開く。


「確かに今に到るまで、病んでしまった者は現れていない……。

 けど、アヤメというその()が第一号にならないとも限らないし、あるいはそうならなくとも、未だ見ぬこれから先助けるコトになるであろう者の中から現れる可能性もあるんだ。


 これからは一層、ダイアレスターの正体を安易にバラさないように心掛けろよ。」


「……分かった。」


 弥生の言葉に、皐月は真剣な表情で頷く。


 ……弥生はこう語ったが、実は皐月に諭す傍ら、弥生は自身にも言い聞かせていた。弥生自身、翁にこの懸念の可能性を聞かされるまで、全く考えていなかったのだ。一般人が何もしなくとも病んでしまう可能性を。


 皐月には言わなかったが、弥生自身、反省していた。


 何故翁がそこまで強くダイアレスターの変身を一般人の前で禁じているのかをきちんと理解していなかった。翁の命令で、皐月がかつて救った人々をときどき観察していたが、何故そんなコトをわざわざするのかをちゃんと理解していなかった。


 今回もただ、お決まりを破ったから、お小言を頂戴してお終い、と軽く考えていたのだ。


 少なくとも矢車党を倒したあの時点では、弥生もそう軽く考えていたのだ。



「(ほ~んと、人の心の機微は苦手分野だね、ボクは。)」


 姉貴分としての面子(かお)があるため、皐月には悟られないようにポーカーフェイスを貫き、皐月を叱る立場に回ったが、内心大きく反省していた弥生だった。



 チラッと翁を見る弥生。


 皐月は落ち込んでいて気づかなかったが、翁はその弥生のアイコンタクトに気づいており、目線で弥生に語り掛けていた。



「(いい薬になったかの?)」



 それを受け、弥生は溜め息混じりにやはり視線で答える。



「(……効きすぎなくらいにね。皐月にも。そしてボクにも。)」



 翁はその返事にわずかに口角を上げる。

大きなチカラには大きな責任が伴う。慢心は思いもよらぬ被害や結果を招き寄せてしまう恐れがある。大きなチカラを扱う時には、あるいは少しの恐れを抱くくらいが丁度いい。


 場合によっては調子に乗ってしまいがちな皐月にそれを思い出させるコトに成功したようだ。



 内心ほくそ笑みながらも、それを顔にはおくびも出さず、翁は皐月に話しかける。



「よいか皐月。考えなしで戦うんじゃないぞ。お前の行動ひとつで、お前にとって思いもよらぬ形で誰かを傷つけてしまう可能性があるんじゃ。それだけ”ダイアレスターのチカラ”というものは大きい。


 破壊力、権力、存在の影響力……


 ダイアレスターの与えるチカラはそれだけ大きなチカラを孕んでおる。


 これからはより一層、そのチカラの重さを自覚するのじゃぞ。」



ーーーーーーーーーーーー







長くなってしまったので、ここで区切ります。


...こんな重い展開にさせるつもりなかったのに、なんでこうなった?(汗)


まあこの翁の説教があとに活きると思えばなんとか...(笑)

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