其の1「感謝の意を込めての」
〔皆々さま!! 長らくお待たせ致しましたあ!!
さんざん焦らしてようやく登場!!
第3幕の開幕でございます!!!
ひとつ!! 非道な悪に鉄槌を!!!
ふたつ!! 不幸な人は作らない!!!
みっつ!! 見事に未来を守り抜く!!!
熱きヒーローの活躍描く!! 異世界ファンタジー時代劇!!!!
町を守り! 女を守り!! 笑顔を守るヒーローよ!!!
此度の君は何を守るのか!!!
”覚悟”とは何か! ”友情”とはなんぞや!!!
その是非を問おう!!! 第3幕!!!!
いざ!! はじまり、はじまり~~~~!!!〕
「山民結社 矢車党」を名乗る悪党集団と、その悪党と繋がっていた悪辣奉行「岩尾省吾」の手による"連続女性誘拐事件"の解決から二週間が経った。
あの事件のあと、北町奉行所は勿論、皐月が所属する南町奉行所を始め、東西の奉行所、更にはオエド城まで影響は波及し、一時混乱に襲われていた。
なんせオエドタウンの平和を担うべき四大奉行所の一角のトップが不正に走っており、それが明るみに出たのだ。
当然のコトながら岩尾省吾は失脚。
幾人もの被害女性たちの証言もあり、言い逃れは許されない状況だったのだ。後ろ楯の一切も失った岩尾にはこの結末は回避できる術はなく、投獄となった。
しかして最後までこの男は反省の色を見せず、口を開けば「叔父上が見捨てるワケがない!岩尾一族に喧嘩を売ったんだ、タダで済むワケがない!」と助けが来るという意の旨を述べ続け、またそれを疑っていないかの様相だった。
いや、そう思い込もうとしていたのだろうか。眼は血走り、狂気の表情を浮かべ、次第にやつれながらも、岩尾省吾はずっと怨みの言葉や助けを求める言葉を繰り返し、それしか口にしなかったのだった。
また岩尾省吾を北町奉行に雇用し、事ある毎に裏で隠蔽工作をしていた彼の叔父、"人材登用方"の岩尾 温穂守 厳徳もまた一時、非難の眼を向けられたのだが、こちらはとある人物が仲裁に入り、事なきを得る。
犬山 和公守 時定。
オエド城内にてナンバー3の実力を持つ老中である。
和公守は事前に温穂守と取引をし、岩尾省吾を切る代わりにその身と地位の保護を約束していた。
その際、和公守は他の岩尾一族からの報復も懸念し、その動きがないように立ち振る舞っていたのだった。温穂守の身を自らの預かりにすることで、岩尾一族に貸しを作りつつ、オエド城内の周りからの攻撃から彼を守り、そして岩尾省吾の報復を防ぐ盾にしたのだった。
城内ナンバー3の和公守預かりとなった温穂守は、和公守の飼い犬となるも、城内の他の要職陣からの中傷から保護される形になり、以前よりも行動の制限が掛けられはしたものの、彼はその地位を守ることを選び、この状況を甘んじて受け入れたのだった。
北町奉行所には監査の手が入り、岩尾の息が掛かっていた、悪事に手を染めていた同類の悪徳役人も数多く捕まり、残ったのは数えられる人数の人間のみ。
北町奉行所は活動が困難となり、他三ヶ所の西・東・南町奉行所から役人が出向するコトでなんとか機能を保つコトにしたのだった。
南町奉行所からも笹野はじめ、多くの同心や岡っ引きが業務応援に駆り出され、場合によっては大岡が出張って北町奉行所の運営を回していたのだった。
東西の奉行所にとっては青天の霹靂な事態ではあったものの、とくに忙しかったのは南町奉行所であろう。
北町の通常業務の代行に加え、捕縛した「矢車党」の取り調べなど、実際に逮捕を行なった事件の当事者としてやらなければならないコトが山積みだった。
矢車党の党員は、現場にいてヒーローにのされた党員は余すコトなく全員捕縛。しかしボスの証言で実は別任務についていて難を逃れた(逃げ延びた)党員が数名いるコトが判明。
そちらは追跡捜査が掛けられたが、この数日、未だ発見には至っていない。
更にあの事件の折、矢車党、並びに岩尾省吾が接触しようとし、商品と称して女性たちを引き渡そうとしていた取引相手こと奴隷商人も既に逃げ仰せていた。
ボスの装備していたプロテクターやあの矢車砲を用立てていたのもこの商人だったらしい。
こちらも追跡捜査を掛けられる事案となった。
南町奉行所の所属であり、同心笹野の配下である皐月もまた、この二週間、事件の後処理や北町奉行所の応援業務、あるいは笹野や多くの同心が一時抜けた南町奉行所の穴を埋めるべく奔走しており、目の回る忙しさに追われていたのだが………
ーーーーーーーーーーーーーー、
「…………なんでBBQ?」
皐月は現在、川原で困惑していた。
「笹野さんの提案なんですよ。」
そう皐月に答えるのは、テーブルに皿を配膳していたアヤメだった。
この二週間、忙しさに目を回わしていた皐月が、前日、笹野に「明日は予定を空けておけ」と声を掛けられ、当日の昼前に川原に足を運ぶようにと言付かったのだが、
言われたとおり顔を出した川原では、既に数多くの人が集まり談笑して賑わいを見せていた。
用意されたテーブルで飲み物を片手に笑顔で何かの話にふける者たち、子供連れで水辺でワイワイ騒ぐ幼い子供を見守りながらやはり笑顔で話に興じる者たち、
アヤメを手伝い、コンロの傍で串の火加減を見たり、追加の野菜や肉を切りながらお喋りに興じる者たちなど、賑やかな光景だった。
少し離れた場所に眼を凝らすと、何故か木刀で打ち合いをしている者たちもいたが……
いずれも集まったのは見覚えがある顔たちばかりだった。
「笹野さんが、事件で捕まった女性たちに、お詫びの気持ちも込めて祝勝会をしよう、って声を掛けたんですよ。」
皐月にそう声を掛けてきたのは香里だった。
「忙しくて延ばし延ばしになってしまったけど、ようやく時間が取れたから今日やろう、ってコトになった、と。」
そう口にしながら香里は「ハイ、どうぞ」と皐月にジュースの入った紙コップを手渡してきた。
それを「ありがと」と受け取った皐月は、一口、口に含んで喉を軽く潤す。
「まあそういうお詫びをしなければ気が済まない、っていうのは真面目な笹野さんらしいから、それは構わないんだけど……」
そう口にしながら皐月の視線は一番遠くで行なわれている木刀の打ち合いだ。
袴を着た女性二人が剣檄を行なっている光景。それを数人の色違いの袴を着た女性たちが見守っていた。
打ち合いをしている二人の内一人は剣術道場の師範代と名乗っていた若い女性だった。名を「更科リン」と言ったか。事件のあとに事情聴取を兼ねて道場に挨拶に行った皐月は、そこで彼女の名前と身分を初めて知らされたのだった。
若くして道場の師範代を任されるという彼女を素直に称賛し、逃亡劇に一役買ってくれた彼女に感謝の意を伝えた皐月だったが、逆に彼女と門下生たちから「あのときの啖呵は見事だった」と誉められ、そのあとの矢車党の捕縛までの時間稼ぎを絶賛されてしまい、終いには「入門しないか」と勧誘の言葉まで頂戴してしまった。
やんわりと断ったが、勧誘はしばらく続くな、と皐月は苦笑を浮かべた。
余談だが事情聴取の折、皐月は「真面目なリンが何故捕まったのか」という質問を投げ掛けたのだが、回答は濁され、最後まで答えを聞き出せなかった。まあもう済んだコトであるし、それは事件には関係ない事柄なので、追求しても詮なきコトなのであるが……
まあそんな、事件で大活躍だった更科道場の面々がこんな川原で練習試合している相手を皐月は苦笑いを浮かべながら見つめる。
「祝勝会、っていうけど女が集まってんだ。なんで川原でBBQよ?」
女が集まって催し……普通なら華やかにお茶会とかじゃないのだろうか。
そんな感想を呟きながら、たった今相手から一本を取ったのであろう、笑みを浮かべ堂々立つ笹野さんに眼をやった。
見れば回りの門下生たちから拍手が沸き起こっていた。
「いや、最初は何処か屋内でやろう、って考えてたらしいですよ。」
皐月の疑問に答えるのはアヤメ。
「で、月見亭の食堂を借りきってやろうか、って女将さんに相談を持ち掛けてたんですけど、人数が多いから入りきれないだろう、って結論になって……」
捕まった当事者の女性たちだけでなく、その恋人や友人、家族まで招待しようとしたら、それは広い月見亭の食堂でも収まりきらないだろう。
「で、会場が川原になったのか。」
「はい、場所は提供出来ないけど、人手は出すから、って。それで私や香里さんが出張してお手伝いです。」
アヤメがそう言うと、隣で作業していた香里も口を開く。
「更に言えば、女将さん、二人の危ないところを助けてくれた笹野さんに、人手だけでも出してお礼したい、って。
怖い思いをした当事者でもある私たちを人選に選んだのは、”手伝いがてら楽しんでおいで”、っていう理由みたいです。」
香里がそう話すと、アヤメは「そうだったの!?」と驚いていた。月見亭の女将ことお美代はアヤメには真意を伝えていなかったようだ。
ーーーーーーーーーー
皐月は事件のあと、無論、月見亭にも顔を出していた。
事件の解決直後、変身を解いたその足でまず向かったのが月見亭だった。帰宅に向かう香里とアヤメと合流し、二人を送りつつ、お美代に朝帰りとなってしまった経緯を伝えたのが皐月だった。
トカゲの事件から間を置かず、再び香里を危険に巻き込んでしまい、かつ、今度はアヤメも巻き込まれたもんだから、お美代は顔を青くしていた。
が、皐月が「心配を掛けないために、お美代さんにウソをつくコトも出来たが、お美代さん相手に誤魔化しや取り繕いはしたくなかった、心労を与えてしまい申し訳ない。」と真摯に頭を下げ、もう脅威は去って安全なコトを伝えると、一先ずの安堵を覚えてくれた様子だった。
「心配するな、と言われたって心配してしまうのが”お袋さん”というものなんですよ、皐月さん。」
と言ったお美代の言葉が、皐月には申し訳なくもあり、同時に不謹慎ながらも嬉しくもあった。
「二人もそうですし、従業員みんなも言わずもがな……
ですが、私は貴女も大事に思ってるんですからね、皐月さん。」
別れ際にお美代が皐月に向け、口にした言葉が胸に沁みた。
「ありがとう」というありきたりな言葉しか思い付かなかった自分の語彙力のなさがほんの少しうらめしかった。自分がどれだけ嬉しかったかお美代に伝わったか分からない。
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「……お美代さんも来られれば良かったんだけどなあ。」
椅子に腰掛け、そう呟いた皐月。
それを耳にしたアヤメと香里は顔を見合わせ、笑顔を浮かべる。
「……小町さんがそう言ってた、って伝えますよ。」
「きっと喜びますよ、女将さん。」
二人がそんなコトを言うものだから、皐月はふいに照れ臭くなり、二人から顔を逸らし、後ろ頭をポリポリと後ろ手に掻いた。
ふと、逸らした視線の先でとある人物と眼が合う。
長い黒髪を靡かせながらこちらに向け歩いてくる人物、袴姿の美人。
本日の主催者。同心、笹野兵衛だった。
リンに試合に勝った笹野は、手拭いで顔の汗を拭きながらこちらに向け、近づいてきたのだった。
「来ていたか、皐月。」
皐月に声を掛ける笹野。先程までの試合の高揚感が抜けてないのか、あるいはこの催しを行なえるコトが嬉しいのか。
楽しそうな笑みを浮かべていた。
「見てたよ笹野さん。剣術道場の師範代に見事に勝ってたね。」
「デスクワークが主の私だが、これでも現役の同心なんだ。負けられんさ。」
凛々しく微笑む笹野に皐月はパチパチと拍手を贈る。
「茶化すな」と笹野に呟かれるが、淡く微笑んだ皐月は「茶化してないよ」と返す。
ふっ、と笹野は笑みを浮かべると、香里に声を掛け、紙コップを一つ受けとる。
「いいの? 笹野さん。
道場の人たちが”次は自分と仕合って欲しい”って熱視線を送ってるよ?」
皐月が笹野に軽口を飛ばす。
「それはあとだ。一先ずやるコトがあるだろ?」
笹野はそれに流し目で皐月を見つつ答える。
皐月と笹野が話している間に、香里と、手伝いに回ったアヤメが、場に集まった全員に飲み物を配り終えていたようだ。各々自由に談笑していた者たちが話を一旦切り上げ、こちらに注目していた。
否、主催者である笹野に注目していた。
「みな、今日は良く集まってくれた。先日の事件の折、怖い思いをしたものだろう。
だが幸いなコトに、誰一人最悪を迎えず、今日という日を迎えられた。」
笑顔で語り始める笹野。しかし、ここまで口にしたあと、その顔から笑みが消える。
「……本来はあってはならない”奉行職の者が市井の民の平和を脅かす”という、申し訳ない事態を引き起こしてしまったコトを、同じ奉行職に身を置く者の一人として、深くお詫び申し上げる。
申し訳なかった!!」
コップの中身を溢さないようにしながら、笹野は頭を下げる。
「そんなコトないよ!」
「同心さん! アンタは悪くない!!」
「娘を助けてくれてありがとうよ!!」
「ありがとうございます! 同心さん!!」
が、ここに集まった者の内、誰一人としてそんな笹野に非難の声を浴びせる者はいなかった。
事件に巻き込まれた当人たちは勿論のコト、その家族たちもこの場に集まっていたが、みな、笹野に感謝の想いを込めて声を掛けた。
その声を受け、笹野はゆっくりと頭を上げる。泣きそうな顔で笑みを浮かべ、礼の言葉を口にした。
「ありがとうみんな……。
ささやかだが、詫びの気持ちと、今日という日を迎えられためでたい想いを込め、食事会を設けさせて頂いた。
今日は無礼講だ! この平和を満喫しよう!!」
笹野は頭を上げ、コップを掲げる。
「同心さんありがとう!!」
「平和万歳!!」
「盛り上がりましょう!!」
笹野は全員を見渡し、コップが行き渡っているコトを確認する。
隣で座る皐月と眼が合う。
皐月は笑顔で頷いていた。
笹野は頷き返し、再び笑みを浮かべ、高らかに宣言した。
「みな、ありがとう!!
平和に乾杯!!!!」
「「「「かんぱーーい!」」」」
大変お待たせ致しました!!!
『疾風堂々!ダイアレスター』第3幕=第3話、始まりました。
今日中にもう一話を上げたいです。
どうぞ宜しくお願い致します!!m(_ _)m




