其の43「価値ある女へ」
お待たせ致しました。本日2回目の投稿です。
そして第2幕、完結です!!!
「香里には感謝だなあ……
笹野さんのフォローをして貰っちゃってさあ……」
アヤメと香里、笹野のやり取りをこっそり見守る影がいた。
皐月である。
この閉鎖空間の入り口に位置する大鳥居、その鳥居のてっぺんに彼女はいた。
人は意識しないと、自分の頭より上にあるものは気づけない。というが、そもそも十メートル以上はあろう大鳥居の上に人がいるとは考えないものだ。
笹野に別れを告げた皐月はあのとき、スーツの能力で飛躍的に上がっている跳躍力を用いて、一瞬でこの大鳥居のてっぺんにジャンプしたのだ。
三人の動向を見守りつつ、高感度センサーで三人の会話を聞いていた。
「アタシもまだまだだなあ……
笹野さんに手柄を与えればそれで自信回復って思ってたよ。
香里のフォローがなかったら、笹野さん、罪悪感とヒーローへの誓いで働くマシーンに成り果ててたかもしれないな。
これは反省だ……」
座り込んで会話を聞いていた皐月は、頬杖をつき、やがて溜め息とともに反省の言葉を口にした。
「”……人の心の機微は難しい。3Dスキャンを使えば物の構造、中身は解析できるが、人の心の中までは解析出来ないからな。
ボクも心ってヤツは苦手分野だ。”」
そう返事を送るのは弥生。
「香里がいてくれて良かったよ…」
苦笑した表情を浮かべた皐月がそう呟く。
「そういや、初めて会ったときも似たようなコト言ってたっけ、あの娘……」
”私を助けたことは結果論だった、って言いましたけど、それでもいいんじゃないですか?
大事なのは、何故動いたかよりも、どういう結果になったか……
…まあ理由が大事な時もありますけど、
今回は、結果として、一人の田舎者の女が助けられた。
貴女の思惑はともかく、貴女の行動で助かったんです。
儲けものじゃないですか、私からすればね。”
「終わり良ければ全て良し。いい言葉だよなあ。」
アタシも使おう、とは皐月の言。
「”確かに”終わりが良ければ”……な。
皐月、忘れてるだろうが、一般人の前で変身した件、翁は怒ってるからな?
きっちり叱られに来い。”」
「…………………………忘れてた。」
弥生の言葉に笑顔だった皐月の顔がみるみる青くなっていく。
「なあ弥生、なんとか取り成してくんない?」
「”ボクは知らん。”」
「卯月ぃ、助けてくれよ~。」
「”知らないですぅ。”」
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「香里さん……」
笹野が落ち着いた頃を見計らって、アヤメが香里に声を掛ける。
「……ごめんなさい香里さん。私、香里さんに謝らないと……」
香里がアヤメの方を見て、そして内心小首を傾げる。何に対する謝罪なのか心当たりがなかったからだ。
「あの北町奉行に殴られそうになったのも、他の方々と逃げてたのに引き返してきたのも、全部私がどんくさかったせいじゃないですか。」
ああ、そんなコトか、と香里は笑みで返す。
「そもそも今回捕まったのも、私が小町さんの忠告を忘れて、浮かれてあのボスのナンパに引っ掛かったのが発端でしたし……」
「もう済んだコトですよ。
そもそも捕まるコトも、引き返したコトも、あと殴られそうになったコトも……
全部私が最終的に自分で決めて動いた結果です。アヤメさんが気に病むほどでは……」
「じゃあ反省にします。」
アヤメの発言に今度は眼に見えるように首を本当に傾げる香里。
「後悔じゃなくて反省です。
これから生きていく上で、同じような失敗をしないための教訓です。」
この発言に、香里は勿論、一緒に聞いていた笹野もまた”ほお”とある種の感心の声を上げた。
「今回の事件、色々考えさせられました、
私、小町さんのあの啖呵、すごく胸に刺さりました。」
”いい女の価値、ってのは見た目じゃない!! 心にあるんだ!!!”
「私、これまでいい男を捕まえるためにはまず可愛い格好だ、って見た目ばっかり気にして、肝心の中身を磨くことを疎かにしてました……。
そんな中身がない女じゃ、女を見た目でしか判断しない、ゲスな男しか寄ってこなくて当然です。」
”積み重ねの先に、内から滲み出てきた物が!
女を輝かせ! いい女にする!!
自分の中にひとつ、譲れない何かを! 大切にしたい何かを持って生きるとき!!
女は! 人は輝き!! いい女になる!!
女としての価値を上げるんだ!!!”
「内から滲み出る良いものなんてないなあ、って。積み重ねてきた大事にしてるものなんて何もないなあ……って。
そんな中身スカスカの女にいい男はそりゃあ惹かれないよなあ、って納得しちゃいました。」
香里も笹野も黙って耳を傾ける。
そんなことはない、アヤメにはアヤメのいいところがある、と言うことは簡単だった。けれどそれは根拠の全くない気休めの言葉だ。
アヤメはこの瞬間、決意を込めて語っていると伝わった。それが分かった二人は口を挟まず、ただアヤメの言葉を聞き届ける。
「恋はたくさんしてきました。片想いも、両想いも……
けど私はまだ、愛を知りません。」
”人は恋をする! 相手を好きになる!!
好きになった相手の存在が、自分の中で大きくなり、やがてそれがそれまでの自分が大切にしていた物を越え、自分を占める一番大きな物になったとき!!
人はそれを”愛”と呼ぶ!!”
「私は本当の”愛”を知りません。」
”誰かを慕い! 慕った相手を想い!!
悩み! 苦しみ!! 笑い! 泣き!!
相手に振り回され、けれどそれを嬉しく思い!!
その相手のために全てを尽くせる!!
例え自らの一番大切な、それまで大切にしていた物を捨ててでも!! それこそ自らの破滅と引き換えだとしても!!
相手を守り、相手を立て、相手を思う!!”
「それほど想える相手を持ったことはありませんし、相手にそこまでのコトを思ったコトはありませんでした。
自分をそこまで想ってくれた男の人もいませんでした。」
”愛を知った者はそこまでのことが出来るんだ!!
お前は知らないだろうが、そんな女がいるんだよ!!
そんなことまで出来るのが、女って生き物なんだよ!!!”
「自らの身の破滅を引き換えにしてまでも、相手を想い、相手に全てを捧げられるほどの愛。
私はまだ”愛”したコトがない未熟な女です。」
”男が手放したくないと思わせるほど、”相手に尽くせる愛”を知る存在!!
それが!!! いい女なんだ!!!”
「でも、私も”愛”を知りたいです。」
それまで淡々と述べてきたアヤメだったが、「愛を知りたい」というこの言葉は、強く意思を込めて言った。
「女の子ですもん、恋はしたいです。恋愛はしたいです。
自分を一番に見てくれて、自分を一番大切にしてくれる相手が欲しいです。」
若干照れを含ませながらも、恋愛の相手が欲しい、と口にするアヤメ。
「小町さんは、私たちが知らないだけで、そんな真実の愛を知る女はいる、と断言しました。
現実にそんないい女がいて、そんな女性を好いたいい男がいる、というのなら、私もそれを見本に自分もそうなりたいです。」
余談だが皐月が口にし、アヤメが見本にしたいと言った笹野は目の前にいた。
演説を聞いてない笹野はピンとこなかったし、事情を知らないアヤメが笹野のコトだと察するのは無理からぬコトだったが……。
「香里さん、同心さん。」
改めてアヤメが二人に呼び掛ける。
「そんないい男が見つけてくれるように、
私も自分を磨きます。
いい女になるために。
―――価値がある女になるために。」
アヤメは決意の言葉で締めた。
「………価値ある女へ、か。」
そう呟いたのは笹野だった。
「アヤメくん……だったな。
恋愛は私も疎いが、価値がある女になりたい、というのはよく分かる。
おとこ………その、
……大切に思ってくれる方のため、その方に相応しい女でありたい、とは私も思うところだ。」
泣き腫らした顔、しかしそこには今笑顔が浮かんでいた。
「私もまだまだ未熟だ。
お互い研鑽したいものだな。」
笹野は立ち上がり、アヤメに歩み寄り、ポンとアヤメの肩に手を置く。
「同心さん。」
「相手が手放したくない、と思ってくれるいい女になりたいな。
いい男にとって値千金、価値ある女になれるように頑張ろう。」
「はい!!!」
互いに笑顔で頷きあうアヤメと笹野。
笹野は大岡の隣にいて相応しいと思われるため、また、自分自身で隣に相応しいと胸を張っていられるように。
アヤメは未だ見ぬ誰かに見つけてもらうため、また、自分自身いい女だと胸を張って生きていけるように。
誰かにとって、価値のある、いい女になる決意を交わしたのだった。
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そんな二人の決意を距離を置いて見守る香里。元気を取り戻した笹野とアヤメの顔を見て、ホッと胸を撫で下ろした彼女だったが、
ふと笑みを解き、真剣な表情で、空を仰いだ。
空は長かった闇を終え、薄暗くも間違いなく夜明けを迎えようとしていた。
価値ある女………その単語を受け、香里はふと思ったのだ。自分にはどんな価値があるのだろう、と。
オエドタウンを訪れまだ三日、いや、四日目を迎えようとしている。
この街で自分は何が出来るのだろうか、
どう生きていくべきなのだろうか。
月見亭という拠点を得てまだ三日、この街での自分の役割はまだ掴めていない。
まだ本格的に捜し始めてもいない自らの実兄、松吉。
彼はこのオエドタウンで自らの役割、価値を見いだしているのだろうか。
そして、もしや彼の隣には、自分が知らぬ伴侶がいるのだろうか。
その人は兄と愛を持って生きているのだろうか。
”アタシはこいつらを足止めするから誘導出来ないんだ。アンタにしか頼めない。”
”力を貸してくれ………!!”
ふと過るのは皐月の姿。絶大な腕力と権力を持ちながらも、決してそれに驕らず、人知れず正体を隠し、人々を助けるために戦う岡っ引き。
彼女は恋愛は分からない、といった様子だった。しかし間近に熱い愛を持つ人がいて、その人を助けたいといった。そして恋愛は解らなくても、街への愛は持っているコトは読み取れた。
街を、そしてそこに住む人々を愛しているからこそ、彼女は戦えるのだろう。
形は違えど、皐月もまた「愛」の形を知っている。自身で愛を持っている。
愛を知るものは相手のため、その身の破滅を厭わず相手を守る、とは皐月も演説し、自らも口にしたフレーズだ。
皐月は街への愛を持っているから、傷つきながらも街を、人々を守れている。
男女の恋愛は互いを尊重しあい、そして守りあう形なんだろう。
兄もまたそんな夫婦像を貫いているのだろうか。
ならば自分は?
皐月に愛の形の一つを述べたが、それはあくまで知っているだけ。持っている訳ではない。
私にはまだ「誰もいない」し、「(皐月にとっての街に当たる)何かを持っていない」………
愛について、そして自らのこの街での在り方について考えさせられた今回の事件。
兄を捜し、この街で暮らすうちに見えてくるのだろうか………
そんな考えに思いを巡らせながら、香里は登り始めた朝日を眺めていた。
偶然にも皐月が街を守る話題のヒーローである、と知ってしまった少女、先崎香里。
彼女はまだ知らない。やがて、自らも皐月の傍らで肩を並べて街を守るため走り回るコトになるコトを。
彼女は未だ、自らの役割に気がついていない……。
「………そういえば香里くん、アヤメくん。
皐月のヤツはどうした? 何処にいる?」
「「あ………」」
笹野の何気ない呟きに、香里とアヤメは各々、笹野を誤魔化すための知恵を絞りながら四苦八苦になったのだった。
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登り始めた日の光を受け、皐月も立ち上がり、撤収の様相を見せる。
「長い夜だったなあ……
けど、ようやく夜明けだ。
アタシゃ、クタクタだよ……」
「”ボクもおんなじだよ。もう昼夜逆転生活さ。”」
「”……弥生さんはいつもどおりではぁ。”」
「”……言うねえ、卯月。”」
明けない夜はない、とはよく言ったものだ。
数多くの女性たち、そしてその家族たちを恐怖に陥れていた夜は、一人のヒーローの活躍により、平和という名の夜明けを迎えたのだった。
「……オエドタウンに平和が戻る、ってね。」
皐月が笑顔で呟く。
今日は今日、明日は明日の風が吹く。
昨日は不吉な風だとしても、今日には正義の風が吹き、それはやがて平和を呼び込み、明日には穏やかな風となろう。
オエドタウンには悪を許さぬ疾風が吹く。
心優しき熱き風、悪を許さぬ強き風。
疾風堂々ダイアレスター、堂々の勝利宣言であった。
「んじゃあ帰って寝るか!!」
疲れたー……と言って延びをする皐月。
「”平和はいいけどな皐月。
引き上げる前にちゃんと回収しとけよ?
”刃”と”弓”と”棍”………”」
「…………完璧に忘れてた。」
〔『疾風堂々!ダイアレスター』第2幕、
これにて閉幕!!
第3幕へと続きます!!!!
まずはこれまで!!!!!!〕
気づけばもう3月....
第2幕(第2話)で5ヶ月掛かるとは思っても見ませんでした(泣)
第1幕の約倍の量....
なんとか2幕を完結出来ましたのも、読んでいただいている皆様のおかげです!!ありがとうございます!!
このあと、ちょっと時間を空けて第3幕の予告を上げますので、そちらも宜しくお願い致します!
m(_ _)m




