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其の42「皐月との誓い、香里の言葉」

大変お待たせ致しました。

続きを投稿させて頂きます。

 距離を置きながらも、互いに眼を合わせる二人。




 片や、穏やかに微笑む皐月(ヒーロー)

 片や、泣き出しそうな顔を浮かべる笹野(同心)






 訪れる数瞬の沈黙。それは破ったのは笹野だった。 






 カシャン! という音をたて、持っていた刀を地面に落とすと、笹野はその場に座り込み、ヒーローに向け土下座をした。






 「ヒーロー殿!! かたじけない!!」






 地に頭を擦り付けるほどの勢いで頭を下げる笹野。この行動に、皐月は勿論のコト、後ろで見ていた香里もアヤメも眼を丸くした。




 笹野が"一度は誘拐された女性たち(じぶんたち)を見捨てようとしていた"という事情を知らない香里とアヤメは、笹野のこの行動に大いに困惑したのだが、




 全てを承知している皐月は、再び淡く微笑む。






 確かに一度は道を間違えそうになってしまった笹野。そのまま罪悪感の重圧で潰れてしまう可能性もあった。




「………それでも――――」




 しかし笹野(彼女)は来た。駆けつけてくれた。




 お膳立ては整えたが、笹野本人が自らの意思で立ち上がってくれなければ、全ては無駄に終わるところだった。






 そして笹野は、皐月や大岡……彼女の知らない多くの人の助けを借りながらも、見事、自らの手で事件の黒幕に引導を渡したのだった。






 それを嬉しく思った皐月は、微笑みながら、小さく、そして短く呟いた。










「………それでも、貴女は来てくれた。」














  "来てくれた……私にも……




  いてくれたよ……手を差し伸べてくれる人……"










 皐月の言葉に、かつての記憶をダブらせる笹野。地に向けられた笹野の眼が見開かれる。






 「……ありがとう、笹野さん。」






  "ありがとう笹野さん……" 








 顔を上げ、ヒーローの顔を見る笹野。




「…………葵?」




 笹野の瞳に映るヒーローの姿に、かつて大切なコトを自分に教えてくれた少女の姿が被る。






 が、かぶりを振ってそれを否定する。


 笹野は現在の葵を知っている。その容姿と目の前のヒーローの姿は異なっていた。




「?」




 突然の笹野の言動に皐月は小首を傾げる。

 が、恐らくそれは辛いコトを考えているのではないのだろう、と笹野の表情から察した。




「……お疲れさま。」




 大丈夫だろう、と判断した皐月は、これ以上話をして正体がバレるのはまずいと考え、この場から去ろうと笹野に背を向ける。




「! ヒーロー殿!」




 が、そんな皐月の背に、笹野は慌てて声を掛ける。





 "貴女は何者なのか"


 "皐月とどういう繋がりがあるのか" 


 "どうして面倒なコトを承知で自分を助けてくれたのか"………





 聞きたいコトは山のようにあった。




 しかし笹野は葛藤してその言葉を呑み込む。








 "ヒーローなる者の正体を詮索するコトなかれ"








 特号案件として通達されている条項だ。

 きっとヒーロー(彼女)には聞かれたくない、深い事情があるのだろう。事情を抱えながらも、それでも人知れず戦っているのだろう。




 助けを求める誰かのために……




 そう考えた笹野は、聞きたかった質問を全部頭から捨て、別の言葉を投じた。






「……私は忘れません。貴女から受けたこの恩、一生忘れません。




 今一度、貴女に誓います。




 もう二度と迷うコトなく、弱き()を守るため、この身を邁進させる、と。




 (か弱き者)を助けるため、何にも臆するコトなく、戦い続ける、と。」






 その言葉を背中で受けた皐月は、少しだけ横を向き、肩越しに頷いた顔を見せると、無言で左手を上げ、サムズアップしてみせた。






 "信じる"という意を込めて。






 左手を下ろした皐月は、一言も喋らないまま、次の瞬間、眼にも止まらぬ素早さでフッ!と姿を消した。




 笹野は勿論のコト、その様子を見守っていた香里とアヤメも、ヒーロー(皐月)がどうやって消えたのか眼で追いきれず、突然姿を消したコトに驚き、




 笹野は思わず立ち上がり、香里も隠れていたアヤメも、キョロキョロと眼線を泳がせ、辺りを捜した。




 が、結局、三人の内、一人として皐月の姿を見つけるコトは叶わなかった。










「……終わったんですよね。」




 そう呟いたのはアヤメ。

 呆けた表情を浮かべながら、アヤメはゆっくりと香里の顔を見てさらに呟く。




「……私たち、………助かったん……ですよね……?」




 同じく呆けていた香里だったが、アヤメに話しかけられたコトにより、いずこかに姿を消したヒーローの存在から、目の前のアヤメに意識を向ける。




 アヤメと眼を合わせた香里は、穏やかに笑みを浮かべる。




「…………はい、終わりました。


 私たち、助かりましたよ、アヤメさん。」




 香里のその言葉を皮切りに、アヤメはその眼に涙を浮かべ、緊張が解け、腰が抜けたのかその場に座り込むと、わんわんと泣き出してしまった。






「怖かったよお!! もう帰れないかと思ったよおお!!」






 ワアワア泣き叫ぶアヤメを香里が抱き締める。それはさながら怖い夢を見て泣き出してしまった幼子をあやす、母親のように。




「大丈夫ですよ、アヤメさん。


 怖いコトは全部終わりました。




 大丈夫……もう大丈夫です……」






 


 しばらく辺りを捜していた笹野だったが、恐らくもう既にこの場を去ったのだろうと判断し、アヤメが泣き声を上げたのを切っ掛けに我に帰ると、溜め息と共に捜すのを諦め、空を見上げながら呟いた。




「……ありがとう、ヒーロー殿。」






 呟いたその表情は笑みを浮かべていた。








ーーーーーーーーーーー








 ヒーローへの礼を呟いたあと、笹野はゆっくりと二人に近づいてきた。




「同心さん。」




 アヤメをあやしながら香里が声を掛ける。




「二人とも、改めて謝らせて欲しい。遅れてすまなかった。」




 申し訳なさそうな表情を浮かべながら笹野は謝罪の言葉を告げる。




「いえ、充分に間に合いましたよ。


 おかげで私も不必要に殴られずにすみましたから。




 助かりました、ありがとうございます。」




 香里がそれを受け、穏やかに笹野に礼を述べる。




 が、そう口にした香里の言葉に、笹野は困惑した。香里は"岩尾の暴力から助けるのに遅れて申し訳なかった"と笹野の言葉を受け取っていたのがわかったからだ。




 が、当の笹野は"矢車党の悪事から救出する決断が遅れてすまなかった"と言ったつもりだった。




「いや、香里くん……


 私が謝りたかったのは……」




 生真面目な笹野は、それを訂正しようと言葉を口にするが、




「そういえば同心さん。


 他の方々は……更科さんや、逃げた皆さんはどうなったか知ってますか? 無事ですか?」




 香里が質問をぶつけ、笹野の言葉を遮った。






「え……。あ、ああ。




 大丈夫だ。部下たちと共にここへ向かう途中で女性たちの一団に出くわしてな。




 聞けば捕まった女性たちだと分かったからな。彼女たちからまだ現場に残された君たちふたりのコトを聞いてな。




 彼女たちは部下に任せ、取り急ぎ私がここに駆けつけた。」




 無事に保護したよ、という笹野の言葉に香里はホッと胸を撫で下ろした。




「ではもう大丈夫なんですね。」




「ああ。今頃は一番近くの番所に皆いるはずだ。


 君たち二人で全員救出完了だ。」




 笹野がなんとか笑みを浮かべながら、香里に告げた。




 だが、結果として全員助けられたといっても、一つ間違えれば何かが欠けた悲しい結末が待っていたかもしれないのだ。それもこれも全ては自らの不甲斐なさのせい、と笹野は再びその顔に影を落とす。




 やはりきちんと真実を口にして謝罪をしよう、と考えていたときだった。










「じゃあそれでいいじゃないですか。




 終わり良ければ全てよし。








 こうして同心さんは期待に応えて私たちを助けるために本当に来てくれました。




 他の方々も無事に助けられました。






 それでいいんですよ。」






 眼を伏せていた笹野が香里を見据える。




 香里は満面の笑みを浮かべていた。 






「過程はどうあれ、私たちは貴女のおかげでいつもの生活に戻れます。私たちにとってはそれが大事ですし、それで充分なんです。




 遅かれ早かれ貴女は最終的に動いてくれました。結果、貴女は間に合いました。皆を助ける結果に間に合いました。




 それでいいんですよ。」




 それでいいんです、と香里は結んだ。






 香里は笹野の具体的な後悔を何も知らない。けれど、ヒーローとのやり取りで、救出に関してすぐに動けないトラブルにまみえてしまっていたのだろう、と察した。




 そしてそのトラブルを悔いているコトを察した。




 だからこそ、そのことを引きずって欲しくなかったのだ。




 だからこそ、そんなことは何でもないことなんだよ、と伝えたかったのだ。






 何故ならば、現在(いま)こうして自分は売り飛ばされずにここにいられるのだから。




 明日からまた日常に戻れるのだから。




 それで充分なのだ、という思いだったのだ。






「……怖かっただろう、恐ろしかっただろう。」




 笹野はそれでも香里に言葉を投じる。


 言ってみれば今回の事件、自分は美味しいところを持っていっただけではないだろうか、という後味の悪さがあったのだ。




 捕まった際の恐怖を味わわせてしまったのは事実。しかもその時間を与えてしまったのは、自分が迷っていた時間のせいだ。




 それを拭えずに、ただ最後の最後に「助けてやったぞ」という結果だけ押し付けているように感ぜられていたのだろう。






「皐月さんが来てくれました。そしてヒーローさんがいました。




 私たちを恐怖から頑張れる元気をくれましたから。」 






 香里は意見を曲げることなく笹野に穏やかな笑みで答える。






「ならば礼の言葉と称賛の声は皐月とヒーロー殿にのみ送られるべきだ。


 私には罵声の言葉が浴びせられるのが相応しい………」




 拳を強く握りしめ、悲しい表情を浮かべる笹野。


 しかして尚、香里は首を左右に振り、笑顔で反論をした。






「皐月さんが言っていました。




 同心の笹野さんが駆けつけるから、必ず来るから、




 だからそれまで頑張ってくれ、って。」








 ”……同心の笹野さんがここに向かってる。


 タイミングを見て……”






 ”同心の笹野さんがこっちに向かっている。合図をしたら、助けた女たちを連れて、脱出してくれ。




 アタシはこいつらを足止めするから誘導出来ないんだ。アンタにしか頼めない。




 力を貸してくれ………!!”










「皐月さんは微塵も疑っていませんでしたよ、貴女が来ないなんてコトはない、って。




 それに私は知ってました、貴女が拐われた女性たちのために必死にその行方を捜していたのを。」




 何故? という表情を浮かべる笹野の疑問を察し、香里は「トカゲのロボットの事件のとき、少し話しましたよ?」と補足をいれた。




「懸命になっていた貴女の姿を私は知っています。そんな貴女を信じて動いた皐月さんの姿を見ています。




 だからこそ、その頑張りが現在(いま)勝利(この結果)に繋がりました。」




 香里はアヤメから離れ、立ち上がると笹野の前に立ち、その場でしゃがみこんだ。




 笹野の握りこまれた拳を取り、脇の位置から前に持ってくると、香里は両手で優しくその拳を包み込む、そのまま笹野の顔を下から見上げる。








「貴女の懸命な姿が、私たちを助けてくれたんですよ。」








 貴女が懸命だったから、皐月さんは力になるため動いたんです。




 貴女が誠実な人だったから、私は最後まで信じることが出来たんです。




 貴女が真っ直ぐな人だから、ヒーローさんが心動かされたんです。










 貴女という人だから、私たちは助けられた。だから私たちは他でもない、貴女に、貴女自身に言葉を送るんです。






「同心さん、助けてくれて、ありがとうございました。」














 ポタポタと笹野の拳を包み込んだ香里の手の甲に何かが落ちる。




 笹野の眼から涙が溢れていた。






「すまない……あ……ありがとう……




 かおりくん……ありがとう………ありが……」






 香里に言われた言葉で胸がいっぱいになってしまったのだろう。笹野は涙を流しながら、ありがとうという言葉をひたすら口にした。




 何か他の言葉を言おうとしても、もうありがとうというこの言葉しか口から出なかった。




 何も言えなかった。






 けれど香里はただ黙ってそれを聞いていた。


 淡い笑みを浮かべながら、黙って頷いていた。




 笹野が落ち着くまで、香里は黙ってそれを受け止めるのだった。







長くなったので分割致しました(汗)

なのでこの次がラストです。


書き上がり次第投稿いたします(今日中に)


本当に書きたかったエピローグ部分はこの次なので、書かせて頂きます、お待ちくださいませm(_ _)m

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