其の40「熱き心の鉄槌を!」
対矢車党ボス戦、決着です。
「まだだ……」
かき集めた女たちを失い、手下を全員やられ、心の拠り所、切り札たる自身の絶対の自信の象徴だった”矢車”を破壊されたボス。
四つん這いの状態で項垂れていたこの男、地につけていた右手を握りしめ、心身ボロボロの状態にも関わらず、身体を起こし、皐月を睨み付けた。
「……俺は負けねえ……負けてねえ!」
そう口にし、作った握り拳をダンッ!、と地面に叩きつけると、
「……ぐおおおおおおお………!」
気合いの声を上げながら、無理矢理立ち上がった。
「来いよヒーロー…… 部下も、俺の矢も、そして矢車砲もやられた俺だがな……
まだひとつ残ってるもんがあんだぜ……」
フラフラの身体で、もう小突いただけでも倒れそうな様子なのに、この男は皐月に相対した。
「最後に残ったもんを見せてやる……
……矢車党のボスの意地だ!」
そう呟いた男は、
「……うおおおおおおお!!!」
と雄叫びを上げる。
アレストアローのビーム攻撃を見事に決め、危なげなく着地していた皐月は黙ってボスの姿を見届けていたが、雄たけびと共に立ち上がった男の様子に素直に感心し、目を見開いた。
「……敵ながら天晴れ! 良い根性だ!!
でも賞賛に値するのはその一点だけ!
アンタのやってきたコトは、絶対に誉められたもんじゃない!!」
立ち上がったボスの姿に、皐月は言葉を投げ掛ける。
「終わりにするよ……」
皐月はそう締めると、アレストアローの弦を右手で摘まみ、引き絞る。
ボスから眼を離さず、左腕を横水平に伸ばし、照準を横に、正確にはやや地面に向け、右手の弦を手離す。
アレストアローはビームを発射し、少し離れた地面で着弾。
すると、着弾地点にあったそれが、衝撃で空中で回転しながらこちらに向かって飛んできた。
左手に握っていたアレストアローを手離し、その場に落とした皐月は、自身に向け飛来したそれを、天高く真っ直ぐ突き上げた左腕で、ノールックで掴む。
先刻、手離していたアレストロッドである。
「矢車党に心を折られた人たちは大勢いるだろう……」
眼を閉じながら、皐月は左片手でクルクルとロッドを回し、
「悪党にたくさんの物を奪われた者が大勢いるだろう……」
器用に胸の前でロッドを回転させたまま右手に持ち代え、やはりクルクル回し、
「因果応報。その与えてきた分だけ、奪ってきた分だけ、そのツケを払ってもらう……」
回しながら頭の上にロッドを持ってくると、両手を使って頭の上で回転させ、
眼を見開くと、ビュッという風切り音をたてながら左手で大きくロッドを振り、石突き部分をドンッ! と地面に叩きつけた。
「アンタが持ってるその全て! 残ったその意地までその全て!!
この一撃で折らせてもらおうか!!!」
「……折れるもんなら折ってみろおおおお!!!!!」
皐月の叫びに、ボスも叫び声で応える。
叫びを皮切りに、ボスは壊れた矢車砲の傍に転がる、本来は”弾丸”だったはずの銛を拾い上げ、皐月目掛け次々と投擲し始めた。
「”場の空気は最高潮だ!
決めろ、皐月!!!!!”」
「おう!!!!」
こちらに向け投げつけられる銛を左手のアレストロッドで払いながら、皐月は弥生の宣言に答える。
とどめ技発動の時である。
アレストチェンジャーを取りだし、側面のレバーを二回倒す皐月。
ガシャン! ガシャン! という二回の効果音ののちに、女性の声のガイダンス音声が響く。
「”Full drive, Personality ――――”」
アレストチェンジャーから信号が送られ、ツールのリミッターが解除される。アレストロッドが光を帯び、発光をし出す。
皐月はボスへ向け猛然と駆け出す。
もう投げる力にも乏しいボスが皐月に向け投げつける銛を、皐月は光を帯びたアレストロッドで払い落としつつ、悠然とボスに近づいていく。
「この町から笑顔を奪い!!
この町を泣かせる愚かな輩に!!!
――――熱き心の鉄槌を!!!!」
アレストロッドが帯びる光の発光が最大限を迎え、アレストチェンジャーから声が響く。
「”―――”Rod breaker",
stand by , ready ”―――!!!!」
それすなわち、エンドスキル発動可能の合図。
「おおおおおおおおお!!!!」
待ち構えるボスが雄叫びを上げる。
「はああああああああ!!!!」
皐月も負けじと叫び声を上げる。
気合いと気合いのぶつかり合い。
先に動いたのはボス。手にした銛をバットのようにフルスイングして皐月に振るった。
皐月は前転し、そのスイングをかわす。
「一撃必壊!!!」
皐月の叫びとほぼ同時に、アレストロッドの形状に変化が起こる。石突き部と反対のロッド先端部、備えられてるパーツが展開、変形し、二股状になった。
アレストロッドのギミック、刺又形態の”ロッドホルダー”である。
ボスの懐に飛び込んだ皐月は、屈みながらその二股部でボスの特殊プロテクターの胴体部を突く。
「ダイアレスター!!!
ロッドブレイカアアアアア!!!!」
二股部が万力のように、あるいはペンチのように、外から内へ圧力を掛け、メキメキと音をたてながら絞られる。
「ぐ!!! があああああああああ!!!」
特殊プロテクターにさらに亀裂が走り、その圧力にボスが叫び声を上げる。
「”Let's do it!!!!”」
「だああああありゃああああああ!!!」
アレストチェンジャーから声が響くのとほぼ同時に、皐月はアレストロッドを両手で持ち、ロッドホルダーでボスを掴んだまま、ボスの身体ごとロッドを持ち上げ、大きく振りかぶると、地面にボスを叩きつけたのだった。
それはさながら豪快な餅つきのような動作。
アレストロッドが杵なら地面が臼、さしづめボスが憐れなモチといったところだろうか。
「ぐはっ!! がっっっ!!! はっ!!!」
ダアアアアアン!! という凄まじい音と共にボスの身体は地面に叩きつけられ、その衝撃でボスの纏うプロテクターも半壊。
地面に着くタイミングで、ロッドの万力状態は解除され、ボスは地面に叩きつけられると、そのまま地面をバウンド、そこから二度ほど小さなバウンドをこなし、最終的に地面に仰向けになって倒れ込んで止まったのだった。
地面にアレストロッドを振り下ろした体勢で残身していた皐月は、ボスが動かそうとしていた腕が、呻き声と共に力なく地面に落ちたのを確認し、通信機越しに弥生に確認を取る。
「弥生?」
「”ちょっと待て……どうだい? 卯月。”」
「”……サーモグラフィで確認。高感度センサーでもその男の呼吸音を拾えてますぅ。大丈夫、その男は生きてますぅ。”」
「”だってさ、ヒーロー。”」
弥生と卯月の報告を聞き、皐月は「ふぅぅぅぅ……」と深く溜め息をついた。
しばらくそのまま俯いていたが、やがて意を決し、皐月が顔を上げる。
「よし!! 勧善無敵の大勝利!!!」
正義を勧め、悪は絶対許さない。
向かうところに敵は無し。
アレストロッドを掲げ、ヒーローダイアレスター、堂々の勝利宣言である。
「”We did it!!!”」
アレストチェンジャーから勝鬨の言葉が流れ、これにて終息……
と、気を抜いていた皐月だったが、
「……嘘だ!! うそだああああ!!!」
突如、耳に届いた声でハッと我に返った。
慌てて声が届いた方向へ皐月は眼をやる。
「”今の声………北町奉行か!”」
弥生が慌てた声で通信を入れてきた。
事件の黒幕、北町奉行 岩尾省吾。
ボスとの戦いで完全に存在が頭から吹っ飛んでいた。
それは皐月のみならず、弥生と卯月も同様だった。
声が響いたのは大鳥居の柱の付近。
矢車砲による銛の連射からの逃走劇の際、皐月は流れ弾の危険を考え、極力大鳥居の方へは駆けないよう配慮していた。
ボスが倒れた現在、改めて皐月はそちらに眼をやる。
そこには四人の人影があった。
香里とアヤメ、そして刀の峰打ちで切り払われ、今まさに、白目を向いて倒れようとしている岩尾省吾。
最後のひとりは、その岩尾を叩き伏せた、黒髪の長い髪をなびかせ、刀を残身している凛とした女同心―――
「来てくれたか……」
その姿を確認し、嬉しそうに呟く皐月。
―――女同心、笹野兵衛の姿がそこにあった。
駆けつけた彼女と黒幕のやり取り。
皐月がボスと戦っていた裏で何があったのか。
次回、もうひとつの決着編です。




