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其の38「弥生の思考とその手腕」

遅くなりました、投稿します。

対矢車砲攻略編(前編)。

 神授の森エリア、天狗岳のふもと。山間に位置する廃神社。四方を高い山々に囲まれた閉鎖空間にて、凄まじい光景が繰り広げられていた。


 ガガガガガとけたたましい音を掻き立てながら、凄まじい勢いで地面に次々と突き刺さっていく金属の銛。


 苔がむしっていたり、ひびが入っていた無数の灯籠は流れ(だま)に当たり見るも無惨に次々と破壊されていた。


 地面に突き刺さっている銛は何かを追った後のよう、まるで船の航跡を可視化したかのように道を作っており、その道は今尚作られている最中だった。



 銛の道はある意味、彼女の辿ったルートの可視化。彼女の航跡。


 絶え間なく作られていく銛の道に追いつかれまいと敷地内を縦横無尽に駆ける彼女は、この町のヒーロー、ダイアレスター。



 今、彼女の表情に余裕の二文字はなかった。




「まったく途切れる気配がないぞ! あの銛!!」


 懸命に走る皐月。時にはジグザグに、時には折り返し、あるいは出来た銛の束を大跳躍で飛び越え、休むことなく敷地内をひたすら走り回っていた。


「"本当にどういう原理だ? 最初に視認したとき、あの矢車砲には供給ケーブルやそれに準ずる機構は台車に繋がれてなかった……


 なのに休むことなくこの砲撃は続けられてる……"」


 うーむ、という唸り声を上げながら通信機越しに弥生の独り言が皐月の耳に届く。


「"考えられるのはまず、あのボス以外に絶えず銛を矢車砲に供給している存在が別にいるコト。"」


「"サーモグラフィで確認しましたが、あのお堂の中や矢車砲の周辺には()()()()()ですぅ。"」


 弥生の考察を、卯月がのんびりした口調で否定する。


「"次に考えられるのは、あの矢車砲が一台きりじゃなく何台も用意してあって、あのボスは一台の弾丸を撃ち終わったら使い捨てにして即、次の矢車砲に切り替えてる。"」


「"それでもこれだけの弾丸()を途切れさせるコトなく撃ち続けるのは無理がありますう。射出されるリズムに変化が起きたり、切り替えのタイミングで射出の途切れは発生するはずですぅ。"」


「"加えてそれだけの台数の矢車砲を隠して収納しておくスペースはあのお堂じゃ無理、か。"」


 卯月の否定意見に、弥生は自らも無理がある部分を意見に加える。


「"逆転の発想で、実はあの男がせっせと補充している、というのはぁ?"」


 と、逆に卯月が弥生に考えを述べてみる。


「"ないな。発射ボタンで片手が塞がった状態で、片手間で出来る作業量じゃない。例え一回スイッチを入れたらあとは電源を切るまでフルオートだったとしても、一人でこの量を絶えず補給するのはかなりキツイだろ。"」


 が、弥生も否定意見で締める。





「あのさ!!! 盛り上がるなら謎の究明じゃなくて対策案にしてくんないか!!!」


 ある程度考察しつつも、それらしい解答案が出ない弥生と卯月の意見合戦に、皐月が待ったを掛ける。


「"そうは言うが皐月。供給方法が掴めれば、そこを断つコトでこの弾丸の雨は止まるだろ。"」


「"否定した意見でしたけどぉ、仮に補給要員が他にいたとしたらぁ、その人物を取り逃がすことになったりしますぅ。"」


「"他にも考えられる可能性は挙げておかないと、取り逃がしとか思いがけない不測の事態を招きかねないしだな―――"」


 と、ここまで弥生が口にしたところで皐月が口を挟む。



「言いたいことは分かる! スンゴイ分かる!! けどこっちの意見も汲んでくれ!!!




 現状(いま)、既に余裕がないんだよぉぉぉぉ!!!」




 弥生と卯月がディスカッションしている間も、こうして弥生にツッコんでいる間も、皐月は絶えず走っているのだ。


 スタミナにも限界はある。


 最後の弥生への叫びは涙目であった。



「”分かった、分かった。お前のスタミナなら問題ないって思ってたけど、いつ追いつかれるか不安だもんな。”」


「”ストレスで皐月さんの精神力がやられる前に倒しましょぉ。”」


「お前らのマイペースな言動にもやられそうだよ!! アタシゃ!!!!!」




 まあ言葉の内容はともかく、研究所コンビが現状の打破に思考を移してくれたため、皐月は内心安堵した。


「”策はいくつかあるが、確認したいコトもいくつかある。よく聞けよ皐月。”」


 耳に届く弥生の声も心なしかキリッとした物に聞こえる気がする。

 

「冗談抜きで余裕はないからな! 悪いが手短に頼む!!」


 聞き漏らすコトのないように、皐月も弥生の声に意識を傾ける。


「”まず早急にやって欲しいのはあの矢車砲をじっくり観察してくれ。走りながらで構わない。”」


「!? 見ればいいのか!!?」


 皐月が弥生に尋ねる。


「”考えてる策のどれを実行するかを決めるためにも、あの矢車砲の構造を確認したい。

 お前、ここまで逃げるのに集中してて、ときおりチラリとしか矢車砲を見てないからな。”」


「”映像解析するための判断材料が、皐月さんが見た物、つまりぃ、ゴーグルモニターから送られてくる映像しかないんですぅ。皐月さんが見てくれないと我々も解析が出来ませぇん。”」


 そういうことか、と皐月は納得する。


「真正面からがいいのか!?」


「”いや、矢車砲(あいつ)の前を横切りながらでいい。矢車砲を見ながら駆け抜けろ、一回でいい。ゆっくり走るとか気遣いはいらないぞ。”」


「距離は!? 近い方がいいか!!?」


「”気にしなくていい。研究所(こちら)で映像を調節する。

 見ることを意識しすぎて銛に当たるなよ。”」


「了解!!」


 


 弥生の言葉に了解の言葉で返した皐月は、口にするやいなや、その場で急ブレーキを掛け、急速に身体の向きを反転。今走ってきた道を引き返す軌道で走り始める。


「”始めるよ! 卯月!!”」

「”了解ですぅ!!”」


 皐月は目線を矢車砲に向けながら、一直線に駆ける。



「むっ!!!!」 


 皐月のその行動に、若干の焦りの声を上げるのは矢車砲にて銛を射ち続けるボス。


 狙ったわけではなかったのだが、皐月が取ったこの軌道は、ボスに取っては皐月を狙いにくいコースだったのだ。


 皐月は地面に撃ち込まれ続け、航跡と化していた銛の道と平行して走っていたが、ボスから見れば、その銛の道は皐月の姿を遮る銛の生垣と化していたのだ。


「舐めるな!!!」


 地面に撃ち込まれている銛の一本一本の長さは精々一メートル前後。その銛の束で出来た生垣は皐月の身長よりも気持ち低いものだ。皐月の身体は遮っても、頭は見えている。


 ボスは矢車砲の台座を上に向け、照準を皐月の身体から頭に変えると、そのまま銛の連射を続ける。 


「!! 読んだあああ!!!」


 ボスも周到なもので、皐月がまっすぐ駆けていると悟ると、皐月の頭そのものではなく、そのやや前、皐月の進行方向の先に銛の照準を合わせ、そこに来るであろう皐月の頭を待ち構え、銛を射出させる。


「そっちこそ! ヒーロー舐めんなああ!!」


 皐月は矢車砲の映像を研究所に送るため、極力視界を遮らせられない。左手に握りしめたアレストロッドで、直撃コースを飛んできた銛をはたき落とす。




「”………3Dスキャン、解析完了ですぅ!”」


「”………これならイケる!

 皐月! もういいぞ!!!”」


「よっしゃあ!!!!」


 弥生の言葉を合図に、皐月は矢車砲から眼を離し、前を向くと、駆ける速度を上げた。


 余談だが、このとき、弥生は研究所にて、送られてくる映像のズームアップと荒い画像の解像度向上処理を、送られてきた瞬間から開始し、処理をしつつ処理をした映像をそのままアシスタントの卯月のパソコンに送り、立ち上げた3Dスキャンソフトで解析を始めた卯月のデータを見る、という離れ業を一挙に行なっていた。


 皐月は”今見た物の解析があっという間に終わった不思議”に気がついてはいなかったが……


 全ては皐月の負担を極力短く済ませるためも弥生の気遣いの賜物であった。



「くそ!!!!」


 駆ける速度を速められたため、ボスは皐月の頭を狙い損ね、悔しさを込めた声を無意識に呟く。



「作戦決まった!!?」


 皐月が左耳の通信機に語り掛ける。


「”ああ、予想通りだった!

 皐月、”(アロー)”を()べ!”」


「!? ”(アロー)”!?」


 何かを解析していた弥生から返ってきた回答がまさかのツール召喚の提案。


「”あの無尽蔵のリロードの謎はまだ解けてないけど、それは一先ず置いておこう。今解析したのは銛の発射機構、つまりどんな方法であの銛を大砲から射出しているか、という確認だ。”」


「”火薬式の劇鉄発火ですぅ。一般的な火器の発射方法ですぅ。”」


「”矢車砲の内部で銛を射出するのに必要な適量の火薬を燃焼させて、その勢いで銛を発射させてる。”」


 その分の火薬も。適宜補充しなきゃいけないんだが……とは弥生の独り言。


「それと”(アロー)”となんの関係が!?」






「” ”(アロー)”の射撃で砲口内部を狙って、矢車砲を内部から爆発させる!”」








次回後編です。

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