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其の36「最弱のツール」

少し遅れましたが、今日の分投稿します。

 肩で息をしながら、ボスは皐月に声を掛ける。


「……やってくれるじゃねえか、小娘……」


 息も絶え絶え呟く矢車党ボス。まさか自分がここまでダメージを受けるとは全く想像していなかったのだろう。


 その言葉には動揺の感情も見受けられた。


 皐月は右手で、左脇に”キープ ア クロス(たすき掛け)”のロープで絡め取られたままになっていた銛の柄を掴むと、グイッと力尽くで引っこ抜く。


 尚、(異物)が抜けたコトをセンサーが感知し、ロープを排出している背部のドライブバックパック(スーツエンジン部)が余分なロープを巻き取り始め、左腕も正常にたすき掛けされた状態になった。


 自由に動かせるようになった左腕でも銛の柄を持ち、両手で銛を持った皐月は、それを胸の前に持ってくると……


「ふっ!!!」


 右膝を銛に叩きつけ、銛を真ん中から真っ二つに折ってしまった。


 バキッ!! という鈍い音と共に二本になった銛を、ポイっと捨てると、皐月は笑みを浮かべながらボスに語り掛ける。


「バカの一つ覚えみたいに同じ技ばっか使ってるからだよ。いい加減、眼も慣れて対処法の一つも思い付くってもんさ。」


「磨きあげた渾身の技が、”バカの一つ覚え”か……」


 皐月の言葉に、ボスは呆れたように笑う。


「一つのコトに頑なに拘ることを、人は”頑固”っていうらしいぜ?知らなかったのなら教えておいてやる。」


 どっかで聞いたような台詞を吐く皐月。


「対応されないようにいろいろな手段()を持っておくのも大事だし、一つに拘らない柔軟さと、頭の柔らかさが必要ってことさ。」


「”お前が言うな”」


 黙って聞いていたが堪えきれず、モニタールームの弥生がとうとう突っ込んでしまった。


「なんだよ、弥生。アタシの作戦見ただろ?柔軟な発想の勝利じゃないか。」


「”たしかに”キープ ア クロス”をあんな使い方する発想はなかった。まあ感心はしたが、無茶な使い方しやがって。”」


 両の腰に手を当て、ふふん、とどや顔でのけ反る皐月。


 と、ここで二人の会話に口が挟まれる。


「”得意になってるところを申し訳ありませんが皐月さぁん。まだ終わってません。ボスに動きがありますぅ”」


「!」


 卯月の言葉を受け、皐月は再びボスを見る。


 ボスは立て膝の姿勢のまま確かに何かをしていた。


 それを見た皐月は顔を歪め、舌打ちをした。



「……もう一本持ってやがったのか。」



 忌々しそうに呟く皐月。

ボスは背中に両手を回し、二本の棒を取り出すと、それを胸の前で合体させ、新たな銛を作り出していたのだった。


 出した銛を杖代わりにし、ググッとなんとか立ち上がったボス。しかしダメージが膝にも来ているのか、その姿はふらふらと覚束ない様子だった。



「足に来てるみたいだけど大丈夫かい?」


 皐月は腕組みしながらその様子を眺めつつ、そうボスに問いかける。


 それを受け、ボスはハハッと乾いた笑い声をあげた。


「……やった本人がそれを聞くか?」


 ごもっとも、と皐月は思いながらフッと笑う。

 が、それも一瞬だった。表情を引き締め、ボスに言葉を投げ掛ける。


「年貢の納め時だろ。そのボロボロの身体じゃもうさっきの突き技なんか繰り出せっこない。かといって他にあるのはちゃちなナイフ一本のみ。」


 右手を前に突きだし、人差し指で皐月はボスを指差す。


「諦めてお縄に突きな。」




 訪れる瞬間的な静寂。




 黙って見つめあう皐月とボス。


 そして、先に口を開いたのはボスだった。


 

「……他にあるのはちゃちなナイフ一本()()、か。」


 フッと笑うボス。

 観念して自嘲したか、と思った皐月だったが、

 

 そうではない、とすぐに悟る。


 フラフラの身体で、ボスは銛を構えたのだ。


 

「往生際が悪いね……」


 

 口ではそう言いつつ、皐月は肌で感じていた。ボスがまとう殺気が全く衰えていないコトを。


 いや、


「(……さっきまでよりも感じる圧迫感が強くなった、か?



 こいつ、まだ諦めてない。まだ何かあるな。)」



 もう先程までの爆発的な動きの立ち振舞いは出来ないだろうが、それを抜きにして、まだ何かを隠し持っている、と察した皐月。


 この状況を鑑みるに、カウンター系の技か何かだろうか。

 攻めから受けに戦術を切り替え、皐月の攻撃力をそのまま返す、とか。



「……ツールを呼ぼう。」



 皐月が呟く。たどり着いた結論は何か武器(ツール)を使うこと。


「”? この状況でか。あとは捕まえるだけじゃないのか?”」


 皐月の呟きにいぶかしげに弥生が尋ねる。


「ああ。あの男、まだ何か隠してる。

 こっからまだなんかあるよ。」


 考えすぎじゃないのか、という言葉を飲み込む弥生。皐月の言葉が真剣だったからだ。恐らく映像越しでは伝わらない何かを現場の皐月は感じ取っているのだろうと察した。


「”仮にアイツが何かドデカイ攻撃を用意していたとしよう。だが、それを放つアイツ自身の身体はもうボロボロだ。”」


「……技の反動に耐えられずに自滅するのを待て、ってか?」


 皐月が弥生に尋ねる。

 が、弥生の回答はNO。そういうコトが言いたいわけではなかったようだ。


「”違う。その攻撃を掻い潜って皐月がツールで攻撃を加えようとする……どのツールでも攻撃力が高すぎて、現在(いま)のあの男は恐らく耐えられないはずだ。”」


 ここまでの説明を聞き、皐月は弥生の言いたいコトを察した。


「……殺してしまう可能性がある。」


 そう呟いた皐月の表情がますます険しくなる。

 皐月にとって、殺しは禁忌(タブー)だ。岡っ引きとしてだけではなく、皐月という人間の根幹(アイデンティティ)に関わってくる最大の禁忌(タブー)である。


 それを弥生も分かっているから皐月に説明を入れたのだった。


 だが素手で受けるとしたら、今度はこちらがやられてしまう可能性がある。殺さない気遣いをした結果、逆に返り討ちにあった、としたらそれは笑えないジョークだ。



「”………”(ロッド)”を使え。”」



 弥生から一つの回答が出た。


「アレストロッド?」


「”七つのツールの中で一番攻撃力が低いのが”(ロッド)”だ。ある程度距離を保って相手を攻撃出来るのも利点が大きい。


 あの男が何を狙っているのか分からないが、不用意に接近しなければ使えない近接装備の”(ナックル)”や”(ソード)”よりもいいだろう。”」


 そう弥生が説明し、


「”……遠距離攻撃に優れた”(バスター)”は勿論、恐らく”(アロー)”でも威力が大きすぎますぅ。”」


 卯月が補足を入れた。




 皐月の忠告に頷き、ツール召喚に入る。


「サンキュー、弥生、卯月。

 知恵を絞ってくれて感謝する。」


 右手でアレストチェンジャーを取りだし、顔の横の位置に持ってくる皐月。


 それを見たボスの眉が一瞬潜んだ。


 構わず皐月はアレストチェンジャーの背面部にあるスイッチを入れ、チェンジャー側面のレバーを展開させる。


「おいで、”(ロッド)”。」


 皐月はボスから眼を離さず、ノールックでチェンジャーに呼び掛け、側面のレバーを親指の腹で倒す。


 ガシャン! という効果音が鳴り、そして女性の声に聞こえる音声ガイダンスがチェンジャーから響く。



      「”Tool choice!

       [Arrest rod],

       come on!!”」



 アレストチェンジャーから光の粒子が現れる。皐月は空いている左手を前に突きだし、集まる粒子が形を作り、実体を持った時点でそれを掴む。


 左の片手でそれをクルクルとバトン回しのバトンのように回転させ、ある程度回したところで、アレストチェンジャーを仕舞い、空いた右手でもパシッとそれを掴む。


 両手で掴み、それで攻撃の構えを取った皐月はそれの名をおもむろに叫ぶ。




     「アレストロッド!!」




「……ここにきて武器(追い討ち)とか、お前さん鬼じゃないか?」


 皐月のツールの召喚を見届けたボスがそんな感想を口にする。


「……アンタを侮ってない証拠さ。」


 皐月がそれに返答する。


「…………俺がまだ何かやる、と?」

「思ってるね。」


 ボスの質問に間を置かずに答える皐月。


 

「矢車党のボスの本気があんなもんじゃない、と思ってるね。」



 と、続けた。


 それを聞いたボスは眼を丸くし、皐月をまじまじと見つめる。


「……まだ俺の本気を見たい、ってコトかい。」


 ボスのその呟きに、皐月は口角を上げる。


「……それは”まだ手段()を隠してる”、って吐いてるのと同意だよ。」


 皐月の返事に、ボスは面食らったように驚く。


 ”見抜かれた”という感情ではない。この期に及んでまだ本気を見せていなかったというボスの言葉をハッタリと受け取らず、真実だとこの娘は信じているコトにだ。


 そしてそれを受けて尚、この娘は侮らず、更に勝つ気でいる、というコトにボスは驚いたのだった。





 数瞬の沈黙。






 ボスは意を決したような表情を浮かべ、皐月に語り掛けた。






「……お前さん。”矢車党”って名前、どういう意味か知ってるか?」







 唐突な質問に、皐月は毒気を抜かれ、思わずポカンとしてしまった。


「……知らないよ。

 普通に考えてアンタの名前なんじゃないの?」


 ついぞ今日に至るまで存在すら知らなかった組織なのだ。由来なんぞ知る由もない。


 皐月はよく考えずにパッと思ったコトを口にした。


「……そいつは不正解だ。

 第一、俺の名前は矢車じゃねえ。」


 そうだったのか、と皐月は素直に信じた。


「んじゃ、正解は?」


 と、皐月は別の答えを一ミリも考えずに解答をボスに促した。

 単純に興味がなかったからである。


「……”残念ながらその申し出は却下。”

 ”病院か好事家の家のベッドの上ででも暇潰しに考えな。”


 ……なんてな。」


 そう笑みを浮かべながら、ボスは何処かで聞いたような台詞を口にした。一種の意趣返しだろう。

 皐月がムッ、という表情を浮かべたのを見て、ボスは続きを口にする。


「……そう言いたいところだったが、状況が状況だ。答えざるをえないな。」


 と、ボスがこう口にしたコトで皐月は察した。


「そうか。アンタの”本気”が、名の由来、ってコトかい。」


 技かなんなのかはまだ分からないが、恐らく”矢車なんちゃら”という存在が、この組織の名を冠した象徴なのだろう。


 だからボスはこんな問いを口にしたのだ、と皐月は察したのだった。


 皐月の反応を見て、ボスが満足そうに笑った。





「……光栄に思えよ、ヒーロー。

 ”矢車”の真髄を味わわせてやる。」







次回、ボスの本気が登場。

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