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其の27「ヒーローVS矢車党」

久々に彼女が登場します。

(声だけですけど。)

 ときは少し遡る――――


 皐月の指示で、逃げ出した女性たちを率いて神授の森へ続く谷あいを駆けていた香里。


 が、先行していた集団の後を追い、合流した袴姿の女性、更科リンとの会話で、共に捕まっていたハズのアヤメがいないコトに初めて気づいたのだった。


「まさかまだ廃神社(あそこ)に……」


 青い顔で呟く香里。

 恐らくアヤメは脱出の際に逃げ遅れたのだろうと推察した。


「香里殿。」


 その香里に声を掛けるのは、剣術道場の師範代を任されているというリン。


「更科さん。」

「ここは我々に任せて助けに行ってやってくれ。」


 リンの提案に、後ろで聞いていた色違いの袴を着た女性の一人が、驚きながら口を挟んだ。

 リンの営む剣術道場の門下生だという、二人のうちの一人だ。


「師範代、それは危険では? 恐らくあの場はもう戦場になってます。

 そんなところへ彼女を送り戻すのは……」


「なればこそ、だ。

 そんな地に友人が一人、取り残されている。友ならば助けに行くべきだろう。」


 リンは険しい表情を浮かべながら、発言した女性の顔を見て返答する。

「それに……」と呟きながら、


「恐らくあの岡っ引き殿が残って戦っている。香里殿の友人が取り残されているというのなら、岡っ引き殿が守っているだろうが……

 誰かを守りながら戦う、というのは非常に難しいものだ。」


 リンはそこで一度言葉を区切り、再び香里の方に顔を向けた。


「岡っ引き殿も戦いづらいだろう。

 ならば香里殿が、その逃げ遅れた友人を引き受け、ここに戻ってくるべきだ。


 憂いがなくなれば岡っ引き殿も大いに戦えるかもしれないからな。」


 リンの言葉を受け、香里は強く頷いた。

 が、そのやり取りを受けて尚、不安が増す門下生の女。


「やはり危険です。どうしても行くと言うのなら、我らが岡っ引き殿の加勢に……」


「いえ、それはダメです。」


 今度は香里が出された提案を断った。


「貴女たちには、この人たちの護衛を頼みたいんです。まだ油断が出来ないこの状況で、この人たちが逃げきれるまでの安全のために。」


 不安そうにこちらのやり取りを見守る十人を超えた人数の女性たち。

 早く逃げよう、と眼で訴えている者もいる。


 これ以上友を助けにいく目的(自分の都合)で逃亡を遅らせるのは悪い。


「本来は私が皐月さんに頼まれていたコトだったのに、お任せしてしまって心苦しいんですが……」


 香里は申し訳ない、という思いを顔に浮かべ、リンの提案に乗る発言をした。リンに向け、頭を下げながら述べる。


「構わない。こちらへ向かっているという同心殿に合流すればいいのだろう? 香里殿の最初の役割はもう十分だ。あとは私達が引き継ぐ。

 こちらの心配はせずとも大丈夫だ。任せて貰おう。」


 リンがそれを受け、香里に向け頷く。


「ではせめて私だけでも。

 戦場に行くというのに、貴女一人では危険すぎです。私が貴女の護衛を……」


 門下生の女が香里に別の提案を持ちかける。

 その気遣いに感謝しつつも、香里は首を横に振った。


「お気持ちだけで十分です。

 貴重な戦力(あなた)は彼女たちのために……」


 あくまでも、他の女性を優先してくれ。

 香里はそう告げ、門下生の女から視線をずらし、リンの方を見る。 


「この人たちを頼みます。」

「任された。

 香里殿も、友人を無事に助け出したら我々を追って来るのだぞ。」


 お互いの発言にお互い頷き合い、香里はリンに後を任せ、来た道を引き返し始めた。

 


「どうかご武運を。」



 すれ違い様、不安そうに香里に言葉を告げる門下生の女。


「ありがとうございます。

 貴女たちも!」


 香里はそう返事をし、それを皮切りに駆け出し始める。


 その背中を見送り、リンは集団の先頭位置まで歩むと、振り返りながら一行に声を掛け、再び森へ向け一丸となって走りだしたのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーー





 鳥居の柱の影からこちらを見守る香里に誰も全く気づかず、この場にいる全員は現れたヒーローの姿に眼を奪われていた。


「ヒーロー……

 噂にあった、悪党をしばく、っていう酔狂なヤツか。


 まさか岡っ引きの小娘だったとは。」


 そう口にするのは、ヒーロー=皐月に真正面から相対する矢車党のボス。


「驚いたかい? なんだったらサインでも書いてやろうか?」


 皐月は軽口でこれを返す。


「”ヒーロー”、ってくらいだから、てっきり男だと思ってたぜ。」


「ああ。それ、よく言われるよ。」


 ボスはその発言は流し、さらに思ったことを口にする。


 ちなみに余談だが、笹野も香里に聞くまで男だと思い込んでいた。


「……つーか、女だったら”ヒロイン”じゃねえのか?

 ”ヒーロー”って言ってるから皆 勘違いするんだろ。」


 恐らく笹野も同じ理由で勘違いしていたのだろう。

 ボスは”間違ってるんじゃねえ?”と暗に皐月に指摘した。



「かもな。

 けど生憎、間違いじゃなく、理由があって”ヒーロー”って言ってる。

 アタシは”ヒロイン”じゃなくて、”ヒーロー”だ。



 知ってて敢えて”ヒーロー”って名乗ってる。」



 これを受けても皐月は涼しい表情で返答した。


 そう、実はちょっとした理由があるのだが……



「ほう、それは興味深いな。

 是非とも聞きたいもんだね、その理由とやらを。」


「残念だが却下。アンタみたいな刑務所行き確定のすぐ消えるヤツに教えるほど軽い理由じゃないからな。


 まあせいぜい檻の中であれこれ勝手に想像してくれや。」



 皐月はオーバーリアクションでボスの質問を無視。刑務所での暇潰しにしろ、と答えるに留めたのだった。



 断っておくが、皐月が英単語(エウロパ語)を勘違いしていたとか、そういうオチではないので悪しからず。




 ピーッ! ピーッ! ピーッ!………



 と、ここで電子音が鳴り響いた。


「なんだ、なんだ?」とキョロキョロ辺りを伺う外野の様子をよそに、皐月が左耳のパーツに指を当て、口を開いた。



「はい、もしも―――」


「”こら皐月!!

 一般人の前で変身したろ!!!”」


 

 大声で通信機越しに怒鳴り声を上げる相手。

 その声に皐月は思わず大きくのけ反ってしまう。




「いきなり怒鳴るなよ、弥生。

 鼓膜が破れたらどうすんだよ。」


 皐月は片目を閉じ、顔をしかめながら、通信機の向こうの相手に語り掛ける。


 暦衆、三の月。 天才発明家、弥生。


 久々の出番。何気に第二幕、初登場である。(※正確にはワンカット出ているが、爆睡中だった。)



「”ダイアレスターの正体は秘密だ、って翁からのお達しだろ! 忘れるんじゃない!!”」


「忘れたわけじゃないさ! アヤメだったら大丈夫!!

 付き合い長いし、言っちゃダメなコトの分別はついてる子だ!

 問題ない!!」



「なっ?」と皐月は振り返り、自身の足元で呆けていたアヤメに向け、いい笑顔で同意を求めた。


 が、当のアヤメは突然振られてもワケが分からず「へ?」と口にするのが精一杯だった。



 確認しておくが、弥生の声は当然のコトながら皐月にしか聞こえてない。



「”本人戸惑ってるだけだろうが!!

 あとで説明と口止め、しっかりしておけよ!!

 

 あと、翁がまたカンカンに怒るだろうから覚悟しとけ!!!

 ボクは知らん!!!”」


「だから怒鳴るな、って……」と皐月は呟きながら、再び弥生の声に身体をのけ反らした。



「悪い、待たせちまったか?」

「さっきから急に一人でなにやってるんだ、お前は。」


 とりあえず取り繕い、皐月はボスに声を掛けた。が、弥生の声が全く聞こえないボスには、皐月が一人で勝手にのけ反って、独り言を言ってるような、奇妙な光景にしか見えず、変な空気と化した状況に呆れたのだった。


「通信越しに怒鳴られちまったよ。

 安易に正体ばらすな、ってな。」


「天下のヒーローさまが怒られたか。なんとも締まらない話じゃねえか。」


 皐月が奇行に走った理由には納得したが、今度はその内容に思わず笑ってしまうボス。


「ま、大きい権力(チカラ)を持つ、ってコトは大変、って話さ。大きい影響力を持つ、ってコトは、そのチカラの使い方には気を配らなければいけない。


 チカラの使いどころを図ったり、誰に振るうかを考えたり……


 だからこそ使いどころを考えて、アタシはヒーローであるコトを隠し、むやみやたらにヒーローであるコトを笠にきたり、ましてやそれを私欲に振るったりしないよう心掛けてるのさ。


 よく考えもせず、自分勝手にチカラを振り回すと()()()()からね。」


 そう口にしながら、皐月は顎でボスの後ろを指し示す。

 そこには真っ青な顔を浮かべ、尻餅をつきながら地面に座り込んでいる男の姿。


「ツケが回ってきたんだよ、岩尾省吾。

 これまで自分の都合のためだけにチカラを使い、やりたい放題やってきたツケがな。」


 皐月は岩尾に向け険しい表情で言葉を投じる。そこにはボスとの会話のときとは打って代わり、軽口が叩けるようなノリの雰囲気は霧散し、真剣な怒りに満ちた気配を込めていた。



「多くの女性の……

 いやさ! その関係者には父親や恋人といった男もいたはずだ!!


 男女を問わず! たくさんの人間を泣かせてきたアンタの悪行!!


 ”肩書きや後ろ楯(権力)”の笠に隠れ、人々が見逃しても!!

 お天道様が見逃すわけがない!!!!」



 語り始めるうちに、ヒーローらしい芝居掛かった皐月お得意の口調へと自然に切り替わって行く。



 ……現在時刻は、満月が中天に差し掛かっている夜。お天道様はいないのだが、というのはこのノッているヒーローにいうのは野暮だろう。



 皐月はボスを指差し、岩尾から見栄を切る相手をボスに切り替える。

 腕を組んで聞いていたボスがそれに気づき、組んでいた腕を解くと、皐月に注目した。

 

「そのクズに乗っかり、悪事を働いた矢車党(アンタら)も他人事じゃあないよ!!!

 いや! ”女の敵と(それ)の関係”を抜きにしても、アンタらも裁かれる悪党には変わらなかったな!!

 さあ!! 始めようか!!!」



 皐月がそう宣言し、両足を開き、腰を落とす。

 臨戦態勢に入った。


 

 相対するボスは、二歩ほど横に歩き、岩尾を庇う位置で立ち止まる。

 軽口を叩いていた空気は嘘のように消え失せ、この男は真剣な表情を浮かべ、無言のまま、ゆっくりと右手を上げた。


 それを見た外野の構成員たちは、足早に、皐月とアヤメの回りを囲むように近寄ってきた。




「アヤメ……じっとして動くなよ……」




 皐月が後ろにいるアヤメに、ボリュームを落とした声で一言告げる。


 アヤメは「うんうん!!」と、声には出さなかったが、激しく首を縦に何度も振って答えた。






    「やれ!! お前ら!!!!」






 上げていた右手を下にはたくように下ろしながら、ボスが叫ぶ。


 この号令を合図に、構成員の幾人かが、皐月目掛け、「うおおお!!」と叫びながら、飛び掛かってきた。



   「オエドタウンの守り神………」



 皐月が呟きながら、一番早く接近してきた木刀を手にする男に相対し、構えに入った。


 右手を握り、拳を作り、敵の木刀が振り下ろされるよりも早く、自らの拳をアッパーカットのように振り上げ、顎にクリーンヒットさせる。


 襲いかかった木刀の男は、殴られた勢いのまま、後ろに吹き飛び、地面に仰向けに倒れ込むと、そのまま気を失った。



 皐月は振り上げた右拳を右頬の横に持っていき、左手を広げ、前に突き出す。



 ダイアレスター、攻撃の構え。



 そして構えを取ったまま大きく叫んだのだった。






 「ダイアレスター!!! 参る!!!!」






 


と、いうワケでバトルパート突入です。

...入るまでが長くてすみません(汗)


「なんで女主人公なのに、この作品はヒーローって言わせてるの?」ってツッコミがくるかなあ...とツッコミ待ちしてたんですが、誰もツッコまなかったので自主的に書いちゃいました(汗)


結果、バトルの前振りが長くなってすみませんですm(_ _;)m

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