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其の24「いい女の価値」

ようやく来ました!!

第二幕で私が一番書きたかったところです!!!

ここまで長かったあ(泣)

 その声は凛とした、よく通る声だった。


 その場にいた者全員―――

 捕まった女たちにも、それを囲うように立っていた男たちにも、

 ボスにも、激昂していた岩尾にも、絶望していたアヤメにも、そして香里にも――


 そう、間違いなく全員の耳に届く発言だった。



 声の主を知っている香里、アヤメは勿論のコト、捕まった女性たちの中にも、声の主と交流がある者がチラホラおり、声の正体を知っている者は思わず笑みを浮かべた。



 全員が一斉に声のした方を見る。




 そこは廃たれた神社の参道の入り口。

 そびえ立つ高い岩に両脇を囲まれたこの空間、目印の大鳥居の下に立っていた。



 薄い朱色のラインが入った白い着物に身を包み、ポニーテイル調にまとめ上げた髪をなびかせ、堂々と立つ一人の少女……



「……何者です。」



 突然の来訪者に、それまでの怒りが一気に失せた岩尾が尋ねる。



「……南町奉行所、同心 笹野兵衛配下――



 人呼んで……岡っ引き小町、さ。」



 皐月がいた。



「皐月さん!!」

 声を上げたのは香里。


 香里の発言を皮切りに、捕まった女性たちが一斉に声を上げ始める。


「岡っ引き小町さん!」

「皐月ちゃん!!」

「岡っ引きさん!」


 一帯が騒々しくなる。


 皐月を知らない女たちも、皐月の名乗りと他の娘の反応から「助けが来た」と事態を飲み込み、同じく声を上げた。


 女たちを見張っていた矢車党の構成員たちはその光景に動揺し、ただオロオロと立ち竦むばかりだった。





「黙れ女たち!!!!!」




 だが、その空気が一瞬にして静まり返る。

 本殿前に立っていた男が怒鳴り声を上げたからだ。


 女たちは身体を強張らせ、口を閉ざす。



 静まり返ったのを見計らい、怒鳴った男、矢車党のボスが皐月に語り掛ける。


「岡っ引き、っつったな?

 よくここが分かったな?」


 ボスの問いに、皐月は不敵な笑みを浮かべて答える。


「ああ。アンタんトコの間抜け四人を締め上げて吐かせたよ。

 今頃、女の敵の真蔵ってクズと一緒に、仲良く番所にいるだろうけどな。」


 それを聞き、ボスは「ちっ」と舌打ちした。

 先程話題に出たヤスという配下たちのことだ。

 

 保険に置いておいたコトが裏目に出た、と内心 独吐いた。



「……南町の配下、って言いましたね? 

 というコトは大岡の配下ですか。

 なるほど、あの偽善者が手元に置きそうな人材だ。」



 ボスに代わり発言したのは岩尾省吾。



「……そういうアンタは北町の岩尾省吾だろ?

 なるほど、たしかに優秀な岩尾一族に相応しくない面構えだな。

 器の小ささが内面からツラに滲み出てるぜ?」



 意趣返し、とばかりに皐月が岩尾を挑発する。それを受け、嫌味な笑みを浮かべていた岩尾の顔が歪む。



「……捜査中止命令を無視したんですね?

  

 それはタブーですよ? 岡っ引きさん。

 はあ、さてさて、ルールを破ったバカのために、南町奉行所はえらいコトになりましたねえ。」



 切り札、とばかりに岩尾は”捜査中止命令”を口にした。それを楯にかわすつもりだろう。

 捜査中止命令(それ)は既に撤回されているのだが、奉行所を離れ、こんなところでバカなコトをしているこの男にそれを知る術はない。


 皐月は敢えて撤回の事実を口にはしなかった。油断を誘うためだ。

 自分を守る切り札があるうちはこの岩尾という男、醜態をさらし続けるだろうと皐月は踏んだのだ。

 逆にそれを失った際にはどんな行動に出るのかが読めない。


 笹野が駆けつけるまではこの男を逃がすつもりはないのだ。


「……お上が定めるルールなんかじゃなく、市井を懸命に生きる民を守るために動くのが岡っ引きだからな。」


 皐月は岩尾の発言に乗り、敢えてこういう言い回しで返事をした。


「ふふん」と岩尾は鼻で笑い、皐月をバカにする。


「たいした信念です。ですがその熱血漢が命取りですよ。

 ここを嗅ぎ付けた手腕と一人で来た度胸は誉めましょう……

  

 ですが、命令違反で現れたあなたです。仲間がいるはずはありません。手を貸せば、貸した者もお咎めを受けるわけですから……」



「まあ手を貸さなくてもお咎めなんですけどねえ」と岩尾は呟き、ククク……と笑った。



「おバカですねえ、あなたは。

 くだらない正義感でこんな女たちを助けるために、身を滅ぼす道を選ぶとは……


 まずこの人数相手に生きて帰れないでしょう。


 よしんば一人二人連れて逃げ帰れたとしても、帰った後は社会的に死にます。


 助けられなかった女の家族からは”何故ウチの娘も助けなかった、見捨てた”と罵られ、称賛の声なんか得られるワケもない。

  

 巻き添えで解雇された南町の同僚、上司、関係者からも怨嗟の声を浴びせられる始末が眼に見えている……」

 


 分かりませんねえ、と愉快そうに口にする岩尾。


「賢い選択は、こんな女たちを見捨てて、我が身可愛さに細々と岡っ引き生活を営んでいるコトでした。あなたの人生と引き換えにする、そんな価値があなたにとってこの女たちにあったんでしょうかねえ?」

 

「価値……」


「ん? なんですか?」


 黙って聞いていた皐月だったが、岩尾が口にした”価値”という単語に反応した。

 岩尾は皐月が何を呟いたのか聞き取れず、笑みを浮かべながら尋ねる。


「さっき、そこの娘がアンタに気持ちのいい啖呵を切っているのが聞こえたよ。

 なかなかに痛快な語りだったねえ。」


 「……」


 皐月が指差したのは香里。

 皐月がこの場に辿り着いたとき、ちょうど香里が岩尾相手に啖呵を切っていた場面だった。

 岩尾は侮辱された内容を思いだし、ブスッ、とした表情を浮かべる。




「それを受けてアンタ確かこう言ったよな?

  


 ”女の価値は男に使われてこそだ”、



 ”いい女の価値、ってのはその身体で

 男を満足させられるコトを言い、

 性格や思考は邪魔で女には必要なく、

 顔や身体で男を満足させる”、



 ”女の価値はそれで充分、むしろそれで全部だ”



 ………だったか? あってるか?」




「よく覚えてるなあ……」と感心したのは無言でこのやりとりに耳を傾けるボス。

 ちなみに彼は「最低発言を惜しげもなくよくかますよなあ……」くらいにしか思っておらず、聞き流していた。 



「言いましたね。それが?」


「”それが?”じゃねえよ!! このクズが!!!」



 岩尾の肯定の言葉に、皐月は激怒して答える。

 突然の皐月の怒りに、岩尾は眼を丸くし、ボスも驚きの表情を浮かべた。



「外見だけで価値を決めつけるのは最低だ!!

 女を外見だけでしか見ず、むしろそれで価値が決まるだぁ!?

 外見でしか見ず、選ばず!!

 むしろ内面は邪魔でそんなモンは邪魔で必要なしとは何にも分かってないね!!


 そんな何も分かってない最低男に、女の価値の何が分かるってんだ!!

 そんなクズに女を語って欲しくないね!!!」



 皐月は歩き出す。

 矢車党の構成員たちは、まるで金縛りにでもあったかのように動かずに、

 いや、動けずにいた。



「いいか!! よく聞けクズ!!

 いい女の価値、ってのはソコじゃない!!


 道場の娘さんなら、一心不乱に刀を振る姿が!

 商人の娘さんなら、お客に振る舞う笑顔が!

 遊郭のお姉さんなら、身体を張って、プライドを持って接する生き方が!!


 そういった積み重ねの先に、内から滲み出てきた物が!


 女を輝かせ! いい女にする!!」



 皐月は語りながらも歩みを止めない。

 捕まった女たちの輪に入り、上手く掻き分けながら進んで行く。

 ときに袴を着た武家の娘さんに眼を向け、見覚えのある商店の看板娘と眼を合わせ、知り合いの遊女に視線を傾け、それでも歩みを止めず、前を進む。



「自分の中にひとつ、譲れない何かを!

 大切にしたい何かを持って生きるとき!!

 女は! 人は輝き!! いい女になる!!

 女としての価値を上げるんだ!!!」



 女たちは皐月を見守る。

 眼を輝かせ、無言でうんうんと頷く。



「人は恋をする! 相手を好きになる!!

 好きになった相手の存在が、自分の中で大きくなり、やがてそれがそれまでの自分が大切にしていた物を越え、自分を占める一番大きな物になったとき!!


 人はそれを”愛”と呼ぶ!!


 誰かを慕い! 慕った相手を想い!!

 悩み! 苦しみ!! 笑い! 泣き!!

 相手に振り回され、けれどそれを嬉しく思い!!

 その相手のために全てを尽くせる!!

 例え自らの一番大切な、それまで大切にしていた物を捨ててでも!!

 それこそ自らの破滅と引き換えだとしても!!

 相手を守り、相手を立て、相手を思う!!



 そんな女が本当のいい女なんだ!!



 愛を知った者はそこまでのことが出来るんだ!!

 お前は知らないだろうが、そんな女がいるんだよ!!

 そんなことまで出来るのが、女って生き物なんだよ!!!」



 語りながら皐月の頭を過るのは一人の同心の姿。

 皐月はいい女……笹野兵衛を思い、語りを続ける。


 やがて歩みを止める皐月。

 立ち止まったのは香里の隣。

 岩尾、そして矢車党のボスと至近距離になった位置。

 



「男はそんな女に惹かれ、自分の物にしたい、添い遂げたい、って思うんじゃないのか!

 そう思わせられる輝く物、価値あるものを持つ女・・・


 それがいい女だ!!


 手放したくないと思わせるほど、”相手に尽くせる愛”を知る存在!!



 それが!!! いい女なんだ!!!」




 皐月は右手を前に突きだし、岩尾を指差す。

「覚えておけ!!」と前振りし、皐月はその右手を自らの胸の前に持って来て、親指で自身の胸を指した。





「いい女の価値、ってのは見た目じゃない!! (ここ)にあるんだ!!!」






 それを受け、岩尾は「ふん!」と鼻を鳴らし、ボスは「おおぉ」と感心した。

 対称的な反応だ。



「覚えておけ!!

 男もそうだ!!

 女のために動ける存在!! この男のためになら全てを捧げられると女に思わせる存在!!

 そういう男にこそ、いい女は相応しい!!」



 これは大岡のことだ。笹野(いい女)の価値をきちんと見いだしている、お似合いの男、いい男だ、と、皐月はここにはいない大岡を誉めた。そういう男も間違いなく存在している、自分は知っている、という意を込めた発言だ。


 いや、もしかしたら暗に霜月のコトも含んだのかもしれない。



「ここに集めた女を、ただ外見でしか価値を見いだせない眼が曇ったクズたちには、一生分からない価値が女にはある!!


 ここにいる全員の真の価値を見いだせないアンタらに、女を語る資格はないし!!

 連れていく権利もありはしない!!!」



 皐月は左右をゆっくり振り返りながら発言した。

 皐月を見守る女たちは皆、皐月を力強い輝いた眼で見つめていた。





 そして皐月は一度眼を閉じ、一呼吸置くと、真正面の男二人を見据え、最後の啖呵を切った。



「分かったら諦め、男を磨いて出直してきな!!








 刑務所(磨く場所)への案内役は、僭越ながらアタシがやらせて貰おう!!!」





 



...そして気づけば、第一幕の話数を超えた(汗)

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