其の18「妹分に説教された日」
時間は戻って現在。
皐月の話に戻ります。
話は戻って現在へ。
皐月が霜月と話をしていた頃に帰ってくる。
香里とアヤメが捕まったコトは露知らず、皐月は霜月から敵のアジト、つまり被害女性たちが捕まっているであろう場所について聞いていた。
「天狗岳の麓?
この神授の森から目と鼻の先じゃないか。」
腕を組みながら、皐月は霜月に言った。
「だな。そこに今は使われてない廃れた神社があって、奴らそこをねぐらにしてるらしい。」
霜月は顔がボコボコになり二枚目の原型を留めていない真蔵を今更ながら縛り上げながら答える。
まあ気絶しているため放っておいても問題なかったのだが、この数分の間に呻き声を上げ始めたので、もしや眼を覚ますか、と考えた霜月が、今更ながら縛り始めたのだ。
暴れても怖くはないが、万に一つ、逃げ出されたら面倒だからだ。
大事な生き証人なのだから。
……その割りには扱いが酷かった気もしなくなくはないのだが。
まあとにもかくにも、縛り終えた霜月は皐月に得た情報を伝えていた。
「で? あいつら何者だい?
左近守とは関係無さそうだけど。」
「ああ、全く別件だ。
なんでも”矢車党”とか名乗ってたな。
俺も聞き覚えないんだけどな。」
霜月が縛り上げて真蔵の家に放り込んでおいたという男たち。
尋問した際に判明したのが”矢車党”という敵の名前と、アジトの場所、そして……
「そして取引が今夜、ってコトか。」
皐月が呟く。それを聞き、霜月が頷く。
「んじゃあ時間もないコトだし、ボチボチ行けよ、皐月。
俺はこの女の敵と、あのバカたち四人を番所にでも運んどくからよ。」
霜月が皐月を促す。
が、当の皐月は後ろ頭を掻きながら、「んー……」と唸ると、困ったように顔をしかめた。
「なんだよ? なにか問題か?」
「ああ。実は待ってるんだよね。」
「待ってる? 何をだ?」
皐月の意図が分からず、霜月は首を捻る。
この期に及んでまだ待つコトが何かあっただろうか。
「睦月を待ってるんだよ。
正確には睦月に頼んだ、和公守さまへのお願いの成果、だな。」
そういえば、と霜月頷いた。
「そういや店でお前言ってたよな?
捜査中止命令の撤回を和公守さまに頼んでる、って。
なんだっけ? お前の上司の……」
「笹野さん」
「そうそう。彼女と町奉行を憂いなく動かせるように、だっけ?
お前も面倒なコトするなあ、って聞いてたわ。」
「うるさいよ」と皐月はジト眼で霜月を睨みながら呟いた。
「で、その成果を聞き届けてから行きたいワケ、か。
もういいんじゃねえ? 多分上手く行ってるよ。信じて行っちまえよ。」
無責任に言う霜月に、皐月は溜め息をつく。
「簡単に言うけどさ。手柄を笹野さんに譲りたいの、こっちは。
タイミングもあるだろ? きちんと確認してから行きたいんだよ。」
「でもお前睦月に連絡取ったの?
自分が何処にいるのか」
…………空気が凍る。
「やべ。そういや何も決めてねえや。」
「アホかお前! お前が何処にいるか分かんなきゃ睦月も報告のしようがないだろうが!!
敵のアジト分かったのついさっきなんだから、あいつも場所の知りようがないだろうが!」
霜月の指摘で皐月も自分の抜け具合にようやく気づいた。
さらに言えば睦月には連絡の取りようがない(※睦月は携帯通信機を持ってないから)。
「参ったな、こりゃ。」
「本当に参りましたよ、皐月。」
と、気配もなく後ろから突然声が届いた。
そこには当たり前のように糸目男がいた。
「のわっ!?」という声を上げ、皐月が大袈裟にその場から飛び退いた。
「……驚きましたか? ビックリしましたか?」
お決まりの台詞を吐く睦月。だがいつもの元気がなく、お約束だから呟きました、という感じだ。
何処か疲れている印象も受ける。
「どうした睦月。なんかお疲れだな?」
霜月が睦月に問いかける。
「お疲れどころではありませんよ、霜月。
本当に大変だったんですからね?」
と、弱々しい声で霜月に答える睦月。
「何? もしかして上手くいかなかった?」
皐月が恐る恐る不安そうに尋ねた。
「いえ、そこは大丈夫です。
今頃は捜査中止は撤回されてますよ?
和公守さまもすぐに動いてくれましたからね。」
それを聞き、皐月は「良かった」と安堵の溜め息をついた。
「んじゃあ問題ないじゃねえか。なにが大変だったんだ?」
霜月が再び睦月に尋ねる。
「わたしが、大変だったんですよ。」
人差し指で自分を差しながら、睦月が発言する。
「まず皐月。ダメじゃないですか、集合場所を決めておかないと。
報告しようにも貴女の居場所が掴めなくて苦労しましたよ。」
やっぱソコか、と霜月は納得していた。
「ごめんごめん!」と皐月は謝っていた。
余談だが昼に皐月と話し、別れた際にそれに気づかなかった睦月のせいもあると思うが。
あと携帯通信機を持ち歩かないでいる睦月の態度にも問題がある、と思う。
「そんなんでよくココが分かったな?」
やはり尋ねるのは霜月。
「……最終的には弥生のところに顔を出しました。アレストチェンジャーの電波を追って貰って、それで位置を掴んだんです。」
いわゆるGPSのようなものだ。
睦月はそれで皐月を居所をようやく掴み、ここまでやってきたのだという。
「ん?」
皐月がふと気づき、首を傾げる。
「弥生んトコに顔出したんなら、そこからアレストチェンジャーに呼び掛ければ良かったんじゃない?」
何も考えずに発言した皐月だったが、それはどうやら禁句だったようだ。
睦月の動きが止まった。
いや、思い付かなかった、とか、言われてみれば……というリアクションではない。
何かがあったのだ、弥生の所で。
「……実は逃げてきたんですよ。」
眼を合わせずに睦月が顔を逸らしながら呟いた。
「逃げる? なんで??」
皐月が更に尋ねる。
睦月がこの案件で逃げる要素が果たして何処にあったのだろうか。
「どういうワケか私が女性陣たちからバッシングを受けまして。
行く先々で”女の敵を放っておくな”だの、”皐月にきっちりやれって伝えろ”だの、
……それだけならまだしも、何故か怒りの矛先が私に。
”都合のいいように使ってポイしてる”だの、”借りを返さず濁して逃げる”だの、”女は男の道具じゃない”だの……
私、事件に関係ないのに……」
まあ事件には関係はない、のだが、話題がまずかったのだろう。
いつも飄々とかわす睦月への不満がこれ幸い便乗だ、とばかりに集中したわけだ。
……結構的を射ている発言も多々ありそうだ。
身から出た錆、普段の睦月の態度から出た自業自得だろう。
「……その感じだと、弥生のところ以外にも顔を出したのかい?」
皐月が睦月の発言の中に、「借り」だの「貸し」だのという単語を聞き付けて尋ねる。
大方、水無月と文月だろう、と皐月は察した。
「……ええ。一応形だけのとはいえ、主君である和公守さまにお伺い立てるワケですからね。女性陣の総意、っていう名目を取りたくて。
……流石に神無月のところには行ってませんよ?」
何も言ってないのだが、睦月は「ちゃんと気遣いはしてますよ」と言わんばかりにそう付け加えた。
まあ最年少の神無月には聞かせなくてもいい内容だろう。
「……水無月と文月から散々怒られ、葉月には色々文句を言われ、弥生と卯月からは白い目で見られましたね。
とくに卯月のあの眼が怖かった……」
それはちょっと意外。
卯月が怒ってるイメージは想像が出来ないな、と皐月は思った。
「……特に気まずかったのは弥生ですよ。
翁から和公守さまの報告が返ってきて、いざ皐月に報告を。
と思ったら、何処にいるのかが分からないんですから。
仕方なしに弥生のところにもう一度行きましたよ。」
で、急いで位置情報を盗み見て、逃げるように来た、というワケらしい。
「位置情報を見たときはこの近くの家の辺りだったので、ひとまず向かいました。
で、あとはしらみ潰しですよ。
ああ。途中、なんか叫んだでしょう?
あれで森だって分かったんです。」
どうやらあの、女の敵を仕留めた時の声で、睦月は皐月の位置を大体把握したようだ。
が、この神授の森も広い上に、皐月は逃げ惑うクズを追い掛け回して走り回ったから、睦月はすぐに見つけられなかったようである。
「もう少し早けりゃ、真蔵の家の前で尋問してる俺と合流出来たのにな」と霜月が横で呟いた。
……霜月はよくノーヒントで森の中の皐月を見つけられたものである。
「まあ普段、人をからかったり、煙に巻いたような行動ばっかしてるからこうなんだよ。ちったあ反省しな。」
と霜月が睦月に説教じみた発言を投げ掛ける。弟分に兄貴分が叱られる、という珍しい光景だ。
が、それが面白くなかったようで、睦月がムッ、とした態度で霜月に返す。
「普段女性のお尻ばかり追い掛けて、取っ替え引っ替えしている貴方には言われたくありませんね。」
睦月の発言に、霜月もカチンと来たようで、やはりムッ、とした態度で返す。
「んだと? 俺は女をベッドの上以外で泣かせる趣味はねえぞ? 都合よく女を利用しようって態度は取った覚えはねえな。」
「どうですかね? 知らぬは本人ばかりなり、なんじゃないんですか? 貴方が気づいてないだけで泣いてる女性がいない、と言い切れますか?」
「話すり替えてんじゃねえぞ。今はお前の普段の態度治せ、って話だろうが。
暦衆の女が一致でお前に不満持ってる、ってコトだろ?
女の敵は俺さまの敵だ。姐さんに代わって俺がしばいてやろうか?」
ほほう、と睦月が不敵に笑う。
「面白いですね?
久々にやりますか?最後に戦ってからどのくらい成長したか、兄が見てあげましょうか?」
と、黙って見ていたらいつの間にかヒートアップしてちょっと収拾がつかなくなっていた。
慌てた皐月が、急いで止めに入る。
「二人ともストップ、ストップ!!!」
睦月と霜月、二人揃って皐月を見る。
「頼んだアタシが言うのもなんなんだけどさ。今回は睦月が悪いよ。霜月は悪くない!」
睦月は「なっ!?」と眼を開いて驚き、霜月は「ほらな?」とほくそえんだ。
「普段の態度のせいで今回、皆から不満が出ちゃったんだろ?だったら自業自得だ。
それで疲れたからって霜月に当たるんじゃないの。」
「むむむ」と睦月は黙りこむ。
「でもな霜月。アンタもだよ?」
「! 俺さまがなんだよ?」
皐月が霜月にも振り、彼は内心戸惑った。
「アタシは今回、こうして一緒に動いたからさ、霜月のホントは熱くて誇りを持ってるコトなんか知れたけどさ。そんなのこうやって過ごさなきゃ伝わらないもんなんだよ。
加えて普段は睦月の言う通り本当に女の尻ばっか追っかけて、取っ替え引っ替えしてるだろ?
そういう普段の態度だから皆が誤解するんだよ。
普段の態度を改めるように反省しなきゃいけないのは霜月もなんだからね。」
「わかった?」と皐月は結んだ。
男二人はそれぞれ「お、おう。わかった、すまん」「分かりました、すみません」とシュンとしてしまった。
「ん。分かれば宜しい!」
と皐月が締める。
それを見届け、呆気に取られた二人の男。
顔を見合わせると、何故か可笑しくなってしまい、ふいに二人揃って声を出して笑い出したのだった。
突然のコトに、ドヤ顔を浮かべていた皐月も、「なんだなんだ?」と戸惑った。
「まさか皐月に説教される日が来るとは思いませんでしたよ。貴女も成長してるんですね。」
睦月が指で涙を拭いながらそう呟いた。
「なんだ遅れてるな睦月。
俺さまちゃあんと知ってたぜ?皐月が成長してるんだ、ってな。」
いい笑顔を浮かべながら霜月は睦月に語りかける。
「失礼しました。確かに今回のコトは私が悪いです。
霜月、当たって悪かったですね。
申し訳ありません。」
素直に謝罪の言葉を口にした睦月に、霜月は勿論、皐月も面食らった。
場の空気が変になってしまったため、いたたまれなくなった睦月が「私だって謝ることがありますよ」と眉を潜めながら呟いた。
「あー、いや。まあなんだ。
俺さまも言い過ぎたかも、な?
すまん睦月。」
霜月も頬を掻きながら謝罪の言葉を口にした。
それを聞き届け、皐月も再び笑顔で「うんうん♪」と頷いた。
「さて、これにて一件落着としよう。
落ち着いたところで話を戻そうよ?」
皐月が睦月の顔を見る。
「睦月。頼んでた件、大丈夫って言ってたね?」
引き締めた表情で睦月に尋ねる。
「ええ抜かりなく。」
睦月が頷く。
それを受け、うっすら微笑む皐月。
これで憂いなく動けるはずだ。
詳細を聞こうとした皐月。
が、その前に先に睦月が口を開いた。
「皐月。貴女の上司……
ああ……笹野兵衛ではなく、その上の。
大岡備前上は凄い男ですね。感心しましたよ。」
和公守でもなく笹野でもなく、
何故か大岡の名が睦月の口から出た。
予定ではあと2、3話でヒーローパートに入れるはずです(汗)
もう少々お待ちくださいませm(_ _)m




