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其の17「彼女たちの危機」

本日二回目の投稿です。


「こんにちは。いやもうこんばんは、かな?」



 街道を歩く香里とアヤメの前に突然一人の男が横から二人の行く手を遮るように現れた。


 二人に向け笑顔で挨拶の言葉を告げる男。

 歳は四十前後かそこらか。気持ち目尻や頬にシワがある。

 長髪ではないのだが髪を後ろに束ねており、うなじより上の辺りに短い束ねた髪がちょんまげのようにちょこんとあったのが印象的だった。


 当然オエドタウンに来て日が浅い香里の知り合いではなく、香里はアヤメの知人かと思い、彼女を見る。

 

 が、彼女もまた首を傾げていた。



「ええ~と……ごめんなさい、どちら様でしたでしょうか?」


 アヤメが恐縮しながら男に尋ねる。

 知り合いや友達ではない。となれば後は月見亭に来る客だろう。以前泊まりに来たコトがある客か、あるいは食事に来たコトがある客か……

 顔に全く見覚えがなかったが、一回か二回しか来たコトがない客ならばそういうコトもある。

 余談だが一見の客の方はアヤメの顔は忘れられないものだ。可愛い顔で、ここらでは他にいない洋風の衣装を着込んでいるのだ。

 印象に残るのである。


 まあとにかく戸惑うアヤメに、男は笑いながら答える。


「ああ、いやいや。会うのは初めてだよ。

 紛らわしくてごめんごめん。

 お嬢さんくらい可愛いと、いろんな男が言い寄ってきて相手の顔なんかいちいち覚えてられないだろうからそりゃ分かんないよな。」


「すまんすまん」と男は謝った。


 それを受けアヤメは上機嫌。


「え~、そんな。

 たしかにデートとかは誘われますけど、そんなたくさんではないですよぉ。」


 両手を両頬に当て、身体をくねらせる。


「なんと。そりゃ男たちの見る目がねえなあ。彼氏とかいるのかい?」


 男は大袈裟に驚くと、アヤメに近づき質問をする。


「それがいないんですよねえ。絶賛彼氏募集中なんですよぉ。何処かにいい男の人はいないかなあ、って待ってるんですけどねぇ。」


 とアヤメも男に近づき、男を観察する。


 身体を鍛えているようで、服の上からも分かるくらいの筋肉、がっしりした胸板。

 無精髭なんかはなく、清潔感がある整った顔。

 そして渋いいい声。


 良物件だ、とアヤメは見据えた。



「んじゃ誘ってもいいかな? ぶっちゃけるとコレ、ナンパなんだわ。

 お嬢さん可愛いから声掛けさせて貰ったのよ。おじさんに付き合ってくれると凄え嬉しいワケよ、どうかな?」



 ガハハ、と笑うと、いい笑顔でアヤメを見据え返す男。腕を組んで、アヤメの方に身を乗り出す。

 あっさりとナンパだ、というサッパリした態度も気に入ったアヤメは着いていこう、と心に決めた。

 

「是非……」

 と笑顔で頷こうとしたときだった。




「お断りします。」




 と断りの返事が聞こえた。

 アヤメは言っていない。

 振り返ると香里が真剣な表情で見ていた。


「残念ながら私たちこれから仕事場に帰るところで時間がないんですよ。

 申し訳ありませんが他を当たってくれませんか?」


 真面目な顔で尚、断りの文言を口にする香里に、アヤメは「そんなあ」という表情を浮かべる。


「香里さん、そんな固いコト言わないで。

 仕事だったら女将さんが上手く回してくれるだろうし……」


 とアヤメが未練たらしく口にする。


「悪い悪い。こちらのお嬢さんだけ口説いてたらそりゃ面白くねえわな。アンタも当然来ていいからさ。一緒に行こうぜ?」


「おじさま素敵、太っ腹♪」とアヤメは後ろの男に告げ、「だろ?」と男はガハハと笑う。


「香里さん、こんなチャンスないですよ? 行きましょうよ♪」


 とアヤメは笑顔で香里を誘う。

 男も後ろからアヤメに近づき、アヤメの肩を抱くと、一緒に「行きましょうよ」と香里を誘う。


 それを見た香里の表情は険しくなり、男に叫ぶ。


「アヤメさんから離れて下さい!!」


 ビックリしたアヤメは男の顔を見上げる。男もビックリしてアヤメを見る。顔を見合わせ、そして二人揃って香里の顔を見る。


「何を怒ってるんですか?」

「お嬢さん顔が怖いぜ? 美人が台無しだ、笑ってくれよ。」


 キョトンとした二人の顔とは対照的に、香里は険しい表情のまま口を開く。



「アヤメさん。皐月さんの話を忘れたんですか。思い出してください。」


「小町さん? 小町さん、って……」


 ここまで言われ、浮かれていたアヤメはようやく察した。

 紅潮していた顔はみるみる青くなり、身体を強張らせた。


「? なんの話だ?」


 男はキョトンとした顔で、香里とアヤメの顔を交互に見る。ただ、アヤメの肩に置いた手は離さなかった。



「……ここ最近、若い女性を狙って、次々と拐う事件が起こっているとか。なので女性に声を掛ける方が現れたら気を付けるように、と、知り合いの岡っ引きさんから注意されているんですよ。」



 香里は男に向けて淡々と、しかしながら真剣な表情で答える。

 

「誰彼疑って過ごすのは嫌いなんですよ。

 貴方も疑われるのは嫌ではないですか?


 誤解だとおっしゃるのなら、今すぐアヤメさんの肩から手を離して、少し離れて頂けませんか?」


 お願いします、と香里は締めた。


 キョトンとした表情でそれを聞いていた男。

 不安そうな表情で男を見上げるアヤメの顔を見返し、目を閉じ一度空を仰いだかと思ったら、再びアヤメを見て、穏やかな笑顔を浮かべた。


「そうかそうか。そういうコトだったのか。そりゃあ警戒するわな、当然だ。」


 ガハハ、と笑い出す男。


 アヤメもそれを見てホッとしたのか、疲れた顔を浮かべながら笑みを浮かべる。


 











 「俺たちのコトを知ってたのなら当然だな。」









 アヤメの表情が微笑みのまま固まった。


「えっ?」と思った瞬間、アヤメの身体が男に強引に抱き寄せられ、左肩にあったはずの男の手はアヤメの右肩に来ている。

 男に抱え込まれた形だ。ふと右頬辺りに気配を感じたので、恐る恐る見ると、そこにはナイフがあった。


「アヤメさん!!」


 駆け寄ろうとした香里。

 だが四人の男が何処からか現れ、香里の行く手を遮る。


「お、っと動くなよ?俺も傷つけたくねえんだ。」


 アヤメにナイフを突きつけながらちょんまげ男が口にする。



「……商品価値が下がるから、ですか?」



 香里は険しい顔で眉を潜めながらも、笑みを浮かべて発言する。


 それを聞き、ちょんまげ男は「ヒュ~」と口笛を吹いた。


「いろいろと察しがいいお嬢さんだ。香里ちゃん、だっけ? おじさん個人的には頭のいい女は嫌いじゃないぜ?」


 笑みを浮かべ、香里を見るちょんまげ男。


「けど今は頭の良さとか性格とかはどうでもいいんだよなあ。重要なのは見た目だ。可愛ければ中身は気にしてない。

 ああ。この言い方だと語弊があるな。香里ちゃんも可愛いから合格だぜ? 一緒に連れてくから悲観するなよ?」


 ちっとも嬉しくない、

 が、相手に呑まれてはダメだ、と香里は笑みを浮かべながら「それはどうも。」と口にした。


「女性はもう充分集めたんじゃないですか? それなのにまだ集めているんですか。節操がないですねえ。」

 と、香里はちょんまげ男を煽る。やりようによってはアヤメだけでも解放出来ないか、その糸口を探るためだ。少しでも会話を続けたい。


「この状況でその発言。いい度胸だな?

 ああ、怒ってるんじゃなくて、感心してるんだぜ?

 大抵の女は囲まれたり刃物出されたり、

 ……あとは今みたいに人質取られたら悲鳴のひとつもあげるもんだ。


 こんな風にな?」


 と、男はナイフをアヤメの右頬から前の方に持ってきた。


「ひっ!!」とアヤメが声を上げる。


 香里の眉がますます険しく寄る。

「傷つけるのは本意じゃない」といった男の言葉は本音だろう。だから無闇にアヤメを怪我させるコトはない、と分かっていた。

 が、それと怒りの感情は別だ。見るとアヤメは震えていた。

 無意味にアヤメを怖がらせるちょんまげ男に、香里は怒りを覚えていた。


「女性のエスコートの仕方がなってませんね。見せるなら刃物じゃなくて花束にすべきです。同じ震わせるなら喜びで震わせたらいかがですか? スマートに女性は落ちますよ?

 喜びという名の悲鳴も聞けますか。」


 一歩も引かず、動じない香里の姿を見て、男は思わずポカンとした。


 が、次の瞬間。


「ガハハ! お前ホントに面白えな!!

 いい女だ! 商品として出荷するのが惜しいくらいだ!」


 いい笑顔で香里に向かって告げた。


 自分に意識が向いてくれればアヤメを解放してくれるか?香里はちょんまげ男をさらに揺さぶってみる。


「私は貴方に今のところ魅力の欠片も感じていませんね。少しいいところを見せてくれたら気も変わるかもしれませんよ?」


「ほう?」とちょんまげ男は面白い物を見る好奇な眼で香里を観察する。



「言いたいコトは分かった。このお嬢さん、アヤメちゃん、だったか。彼女を離して自分を代わりにしろ、ってんだろ?」


 

 いけるか? と思った香里。

 表情には出さず、男の回答を待つ。



「……悪くない提案だがダメだな。このアヤメちゃんは高く売れそうなんでな。

 それに()()に頼まれたノルマはあと二人……香里ちゃん一人じゃ足りないんだよなあ、残念。」


 ダメか、と香里は内心ほぞを噛む。


「まあ香里ちゃんは気に入ったから、俺が手元においてもいいんだよなあ。となるとノルマに一人届かない。

 帰りがてら、あと一人どっかで拐うか?」


 さらっととんでもない発言を口にし始めたちょんまげ男。


 やりすぎたか、と内心慌てた香里。

 これ以上被害が増えるのは避けたい。 


 誘拐にまた走らせるくらいなら、ここで捕まってアジトに引き上げさせたほうが穏便だ、と香里は判断した。


 と、ここまで考えたときだった。場で動く者が現れた。アヤメだった。


「うわああああん!! やだやだ!!

 まだいい男捕まえてもいないのに、ワケわかんないヤツの慰み物になんかなりたくないいい!!」


「あ、おい!! 暴れるな、って!!!」


 身体を揺さぶって泣き叫ぶアヤメに、ちょんまげ男は慌ててナイフを遠ざけ、より強くアヤメの身体を抱き締めた。


 ちょんまげ男がアヤメに気を取られた。


 今がチャンス、と香里はとっさに近くの男の腰に下げているナイフを奪った。

 香里を囲んだ四人の男たちも、ちょんまげ男とアヤメに眼を奪われていたので、香里の行動に反応するのが遅れた。



「なっ!!」

「動かないでください!!!」



 香里が叫び、ナイフの刃を突きつける。





 ()()()()()()()()、だ。




 四人の男は勿論、ちょんまげ男も、暴れていたはずのアヤメも呆気にとられ、動きを止めた。



「……なんの真似だ?」



 困惑し、本当に意味が理解できないちょんまげ男は、香里に戸惑いながら尋ねる。


「拐うのは私たちで最後にしてください。

 これ以上被害女性を増やさない、と約束してください。


 で、なければ、ここで死にます。」


 真剣な眼で発言する香里。

 徐々にナイフを喉に近づける。


「待て、動くな。」


 ちょんまげ男が口にする。言った相手は香里にではなく、こっそり近づこうとした他の男にであった。


「しかしボス……」


 ちょんまげ男に対して返す取り巻きの一人。

 香里はそれを聞き逃さなかった。


「ボス……まさか貴方が?」


 香里がいぶかしげな表情でちょんまげ男を見つめる。

 ちっ、と舌打ちするちょんまげ男。


「……事件の黒幕、ってやつだな。」

「頭領自ら誘拐を働いてるんですか?」


 思わず尋ねてしまった香里。ただあまり触れて欲しくなかったようで、バツが悪そうに頭を掻いた。

 無論アヤメを抱き締めたまま、器用にナイフを持ったままの手で。


「今夜が()()()()()なのに、数が足りねえ、ってんだから出張ったんだよ。不甲斐ない部下ばっかだからな。」


 良いことを聞いた、と香里は心の中でほくそえんだ。


「今夜が期日……正確にはもう数時間ですか?

 で、ノルマはあと二人。

 困りましたね? ここで私が死んだら数が足りない。

 時間がない中、あと一人を拐いますか?捕まえられるかどうか分かりませんが……」


 男は、ボスと呼ばれたちょんまげ男は、黙って香里を見つめた。

 笑みも苛立ちも怒りも感じない、真面目な表情だった。


「……他の女に手を出さず、ここで引き上げれば、お前は着いてくるんだな?」


 ちょんまげ男が静かに香里に質問した。


「約束しましょう。おとなしく貴方たちに捕まる、と。」


 挑発的に、かつ笑顔で、香里は答える。



 ここで決まる。

 臆した瞬間、相手のペースになる。




 香里はそう思い、決して弱気な態度を欠片も見せずに、強気な気持ちを笑顔に、視線に乗せた。

 数秒互いに見つめあった香里とちょんまげ男。



 やがて男が大きくため息をついたと思ったら、


「いいだろう。お前らで最後だ。

 黙って着いてくれば他の女に手は出さない。約束してやる。」


 と呆れたように口にした。


「アヤメさん、行きますよ。

 覚悟してくださいね?」


 香里は自分に突きつけたナイフを下ろしながら、笑顔でアヤメに告げた。


 ちょんまげ男はアヤメを解放し、アヤメの背中を押し、無言で、香里の方に行け、と顎で促した。


 呆けていたアヤメだったが、冷静になり、頭が回り始めたのか、ようやく成り行きが把握出来、叫び出す。


「……って何も好転してないじゃないですか!!! 結局私たち拐われるんでしょう!??」


 確かにアヤメのいう通りだった。

 このやりとり、結果としては何も好転してはいない。

 せいぜい未来の起こり得たかもしれない驚異を取り除いただけだ。


 香里もアヤメも、結局は拐われる。


「全くその通りだ。香里ちゃんよ。

 何を企んでるんだい?」


 ナイフをしまいながら、ちょんまげ男は香里に尋ねる。


「別に企んではいませんよ?

 願っているコトはありますけど。」


 香里は奪ったナイフを持ち主の男に返しながら、ちょんまげ男に答える。


「願ってる? なんだい? 聞かせてくれよ?」


 腕を組んで面白そうに尋ねるちょんまげ男。


 

「貴方たち全員が捕まって、女性たちが無事に解放されるコトを願ってます。

 ぶっちゃけると、貴方たちの破滅を願ってますね。」


 

 さらっと言った香里に、部下であろう男たちは怒ったようだが、それはすぐに収まる。

 ちょんまげ男が豪快に笑ったからだ。

 

「ガハハハ!! そりゃそうだわな!!

 んじゃあ神にでも願っておいてくれや!!」


「いくぞ!!」とちょんまげ男が口にし、彼を先頭に街道を外れて進み始めた。

 香里とアヤメは部下四人に囲まれる形で歩かされた。


 もうだめだ、と意気消沈するアヤメに、香里は小声で、アヤメにしか聞こえないように告げた。


「(皐月さんが必ず来ます。)」


 その言葉にアヤメは香里の顔を見る。


「(末吉さんから聞いた話では、皐月さん、何かに気づいて駆けていったそうです。

 大丈夫、皐月さんは必ず助けに来てくれます。)」


  

 そう、香里は信じていた。全く疑いもせず、ただ信じていた。



 必ず皐月が助けに来てくれる、と。



 何故そこまで信じられるのかは彼女にも分かってなかったが、全く恐れていなかったのはこれが理由だった。

 それは確信に近かった。


 

       皐月は来る。



 根拠は全くない。

 そもそも、まだ二回しか会っていない相手だ。


 なのに香里は皐月を信じきる。



 なんてことはない、先程ちょんまげ男に告げた願いは、皐月に願っているコトを口にしただけなのである。


 あとは本人が来るのを待つばかり。




 



 時刻は夜を迎えた頃。皐月が真蔵の家に霜月と辿り着いた頃だった。






 皐月はまだ知らない。香里とアヤメが捕まったコトを。





   ―――待ってますよ、皐月さん。




 図らずしも、「神に願え」と言ったちょんまげ男の発言。

 そうとは知らないが、香里は神に願う形になっていたわけだ。




 そう「皐月(オエドタウンの守り神)」に。





十二月、本当に忙しくて(汗)

たくさん時間が空いてしまってすみませんでした

m(_ _)m


今月、更新速度がどうなるか全く読めません。

どうか気長にお待ちいただければ幸いです。


どうかひとつ、よろしくお願いいたします。

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