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疾風堂々!ダイアレスター ~オエドタウン岡っ引き小町捕物帖~  作者: 発素勇気
第1幕「オエドタウンの守り神」の巻
4/88

其の2「三つの教訓」

 市井の人々の平和と安全を守ることが仕事の岡っ引きという職業。


 トラブルや事件が起これば迅速に……

 そう、疾風(はやて)の如く現場に駆けつけるのがモットーな訳だが、

 ただ事件が起こるのを、呑気に待つばかりでは能がない。


 何かが起こる兆候、前触れを情報として得る。

 情報を集め、事前に事件を察する。

 可能ならば、事件に発展する前に叩き潰す。

 あるいは、それに備える……


 そういうことのために、岡っ引きはそれぞれ、

 市井に、独自の情報源を持っている。



 俗にいう、情報屋である。



 皐月も何人か自前の情報屋を抱えており、

 風変わりな料理屋台の店主、一造もまた、

 皐月の情報屋の一人なのである。



 庶民の噂話は存外バカに出来ない。

 屋台に来て何気なく口に出された話題が、実は大きな事件に繋がっている……なんてコトもザラにある。


 世間話の流れで、皐月は一造から話を聞き始める。



「ところで一造さん……

 最近なんか変わった噂とか聞かない?」


 別に一造を情報屋扱いしていることを、皐月は隠していない。


 一造自身に過去、面と向かって「事件に結び付くかもしれないから、何か変わった話を聞いたら教えてくれ。」とお願いしてあり、一造もそれを快諾している。


 まあ、今日は特に、何か事件の捜査中、というワケではないため、

 本当に世間話の延長なワケなのだが。


 備えあれば憂いなし。

 何か自分の預かり知らぬところで、誰かの暗躍が始まっている可能性もある。


 世間話とはいえ、仕事の一環として、話を聞き始める。




「噂ねえ…

 そういえば昨日、タイヤキを分けあって食ってた仲睦まじいカップルが変な話してたなあ…」


 ”昨日はタイヤキ屋台だったのか……”

 と、いうなかば呆れた感想を呑み込み、

 先を促す皐月。


「変な話、って?」

「まあ話半分に聞いてくれや。

 神社の傍に森があんだろ?」

「神社、って高丘神社?」

 

 高丘神社はオエドタウンの中でも比較的大きめの神社。

 ”皐月の身内”がそこで働いているため、皐月もよく顔を出す。


「そうそう。

 なんでも化けモンが出るらしいぜ?」

「化けモンだあ?」


 化けモンといっても、ピンからキリまでいるだろう。

 妖怪の類いから、怪物から……

 一発芸がとんでもない衝撃レベルの芸人から、顔が怖いオッサンまで。


 存在、能力、外見的特徴……

 何を以て化け物とするか。



「化けモン、って……

 まさかオバケとか怪獣、なんて言い出すんじゃないだろうね?」

「そのまさか。」

「ええぇ………」


 呆れを通り越して、ドン引きムードを顔に出す皐月。


 尚これは余談だが、皐月は幽霊、妖怪の類いを一切信じていない。

 唯一いると信じてる存在は”妖精さん”だけである。


「オバケや怪獣なんかが存在するのは創作物の世界だけだよ。何かと見間違えたんだろ? きっと。」

「ほう、じゃあ皐の字(さつのじ)は、火ィ吹く三メートル超えの羽根の生えたトカゲって何と見間違えたものだと推察するね?」

「化けモンじゃねえか!!」


 秒で主張をひっくり返す岡っ引きさん。

 このやり取りは端から見ていると投げ銭を投じたくなるレベルだ。

 やってる本人たちは大真面目だが、コントをやってる光景に見えてしまうのは気のせいだろうか。


「え、何?

 火ィ吹く羽根生えたトカゲ?

 しかも体長三メートル超えだぁ?

 いつからオエドタウンは怪獣映画の舞台になった!?」

「ああ、なんかの撮影、って可能性あるよな。

 なるほど、流石 皐の字だ。名推理。」


 自分の発言にそういう意図はなかったのだが、なるほど、確かに。

 その可能性は大いにありうる。


 ならば上司の同心に、撮影許可が出ていたかどうかを確認すれば真偽が明らかになろう……

 そう納得していた皐月は、


「ただ地面の焼け焦げがそのまんまだとか、なんか壊された瓦礫の類いが片付けられずにそのまんまだとか、普通なら造形物(セット)を用意してやるはずの物が、そのまんま放置されてるらしいけどな。」


 明らかに撮影じゃねえな、という結論に落ち着いた。




ーーーーーーーーーーーーー




 情報をくれた一造に礼を告げ、屋台を後にした皐月。


 ”幽霊、妖怪の類いを一切信じない(※妖精さんを除く)”皐月だが、今回だけは噂の正体を推察しかね首をひねっていた。

 

 (たち)の悪い夢や幻覚を観ていた、と一蹴するのは容易いのだが、どうやら目撃者が複数いるらしく、かつ、目撃された現場に焼け焦げやら瓦礫やらの証拠が残っているのが、噂に妙な信憑性を持たせていた。


 片付けを怠る、マナーの悪い撮影……

 そんな結論ならば、まだ現実味があるのだが……


 岡っ引きとしてではなく、皐月のもうひとつの顔のほうの勘が何かを囁く。


 ”何か、大きな事件に繋がっている。”と。




 とりあえず、どっかの映像会社の撮影か何かの許可が出てなかったか、一応上司に確認しに番所に顔を出すか。


 いや、それとも、現場は高丘神社の近くの森……

 あの兄妹(あいつら)が何か情報を持ってるかもしれないから、話を聞きに行くか……


 行き先を決めあぐね、町中をフラフラ歩く皐月。

 考え事をしていたこともあいまって、向かいから歩いてきた男に気づかずにぶつかってしまう。


「あ、っと。ごめんな…。」


 ぶつかってきた男はひとこと、「……気ぃつけな。」と小さい声で呟くと、皐月から離れ……





「……ちょっと待ちな。」





 …ようとしたところを、皐月に突然腕を掴まれる。


「…なんだ? …謝罪なら充分……いてて!!!」

「なんだ、声 出るじゃないか。男ならボソボソ喋らず、そのくらい元気よく話しな!」


 変わらず小さい声で話そうとしていた男だったが、突然皐月に腕をねじ上げられ、痛みで大声をあげる。


「離せよ女! いきなり何しやがんだ!」

「なにすんだ、はコッチの台詞だ。ったく、油断も隙もないね。」

「あたた! 腕! 腕折れる!! 離しやがれ!!!」


 

 喚く男の手から、ポトッ、と何かが地面に落ちる。



「……ったく、岡っ引きから財布をスろうなんざ、ふてえ野郎だな。」


 ぶつかった男はスリ。


 考え事をしており、注意力が散漫だった皐月を標的に選び、狙ったワケだが、いかんせん相手が悪かった。


 ”アタシとしたコトが迂闊だったねえ”と内心恥じ入りながら、皐月は男の手を離すと、地面に落ちた自らの財布を拾い上げる。







 拾い上げた瞬間だった。






 ふと気配に気づきとっさに横に飛び退く。 

 眼が血走ったスリが、拳を振り抜いた態勢でそこにいた。


「……恥かかせやがって。

 …ムカつく女だ。」


 騒ぎに気づいたのか。

 なんだ、なんだ、と町人たちが集まり始める。

 ざわつき始める空気の中、皐月はわざとらしく溜め息をつく。


「……ったく、スリだけに飽きたらず、今度は岡っ引きに殴りかかるワケか。

 本当に図太いやつだね、アンタ。」

 

 ある意味感心する皐月。

 大げさに肩をすくめるオーバーリアクションをするのだが、

 これが勘に障ったか、スリは皐月を睨み付ける。


「岡っ引きだか風邪っぴきだか知らねえが関係ねえ……

 てめえはムカつく。だからぶっ飛ばす。」


 見たところ皐月よりも少し年上だろうか。

 背は皐月よりも断然高く、そこそこ鍛えている様子がうかがえる。

 男と女の体格さもあいまって、皐月の方がより華奢な印象があった。

 が、皐月は全く動じておらず、余裕の表情を浮かべていた。


「……なんか面白いギャグ言った気がしたけど、周りのガヤで聴きのがしちまったよ。

 風邪引きがどうしたって? 自分の寒いギャグで風邪ひいたってか?

 風邪で熱上がったからヒートアップしてケンカ売っちまったのかい?


 なんならいい医者紹介しようかい?」


 ギャラリーが現れたことでテンションが若干上がったらしく、

 ただ番所に連行すればいいものを、要らん煽りを始める皐月。


 男はどうやら煽りに慣れてはいないらしく…


 いや、一般人は煽りに慣れる生活なんか送るワケないのだが、


 まあともかく、スリは更に激情し、顔を真っ赤にする。




「……その医者にはてめえが通え。」


 スリ男が皐月に殴りかかる。




「……アンタに与える教訓は三つだ。」


 男の右腕が皐月の顔面に迫る。

 が、皐月は涼しげな表情で、その拳を見つめる。

 見つめながら発言を続ける。


「まずひとつ、もっとハキハキ喋りな。さっきみたく腹から声出せ。

 せっかく悪くないセンスの発言してんのに聞き取りにくい。」


 皐月は首を傾け、男の拳をかわす。

 男は驚き、今度は左腕で拳を作り、避けた位置にある頭めがけ殴りかかる。


「ふたつ、気が短すぎる。もっと気は大きく持て。

 怒りすぎると血圧上がり易くなって早死にするよ。」

 

 やはり首を傾けて拳をかわす。


「くそっ!!」


 左腕を退き、再び右拳で皐月の顔を殴ろうと、腰を落とすスリ男。


「そしてみっつ……。」


 ややアッパーカット気味に右腕を突き上げる男。


 が、その拳は空を切り、

 突然 視界から皐月が消える。






 



 「―パンチ、ってのは、こうやるんだよ。」








 皐月の声が聞こえたと思った瞬間、男は腹に衝撃を感じた。

 皐月の拳がスリ男の土手っ腹にめり込んでいたのである。


「ガ……ハッ!」


 後退り、腹を押さえ、膝をつく男。

 口から涎を垂らし、脂汗を流し、そのまま地面に倒れ込む。



「相手をよく見てからケンカを売りな。」



 意識を手放した男の耳には、その()()()()の教訓は届かなかったのであった。




三つと宣言したのに、うっかり四つ言っちゃうさっちゃん。


続きの其の3は、10時頃投稿致します。


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