其の14「口は災いの元」
本日二回目の投稿です。
そして一応言っておきましょう。
残酷描写?があります。ご注意を...
それまで霜月のコトしか眼に入っていなかったのだろう。
突然の女の声に、真蔵は眼を見開いて声の主を捜した。
若い女、それこそまだ”男も知らない”ような子どものような女。
そういう印象を真蔵は抱いたのであった。
「もういいだろう霜月。
待っていた証言もご機嫌で語ってくれたんだ。
……っていうかな。」
女はそこまで言うと、大きく深呼吸して続けた。
「いい加減このクズの声聞くのも我慢の限界なんだよ……!」
怒りの表情で、女は真蔵を睨み付ける。
前言撤回、真蔵は女に”鬼”を彷彿とさせる恐怖の印象を受けるのであった………。
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「そ、蒼太さん。なんなんだよこの女は!!」
動揺したのだろう。真蔵は霜月を「さんづけ」で呼び、問いかけた。
「俺さまの妹分だよ。てめえも聞いたコトくらいあんだろ?
”岡っ引き小町”って名前くらいはよ。」
真蔵は霜月を一度見て、慌てて皐月を見返す。
「こいつが!?
え!? 蒼太の妹分!!?」
皐月の気迫に気負わされたのであろう。
顔を真っ青にした真蔵は、一歩二歩と後ずさった。
「……よくも女をバカにしてくれたね?
何がアンタの道具だって?
何がアンタの生きる糧だって?
女、バカにするのも大概にしな?」
皐月も語りながら一歩二歩とジリジリ真蔵を追う。
「……殺すなよ?」
「当たり前だ。アタシゃもう殺し屋じゃないんだよ。
ただ以降、女相手にしたときに舐めたコトを二度と考えないように身体に教え込むだけさ。」
右手の拳を左手で包み、パキパキと指を鳴らす。
「そうじゃなくてな。いや、それもそうなんだが……
それ以前にな、まだコイツには女たちの行方吐いて貰う必要がある、って言ってんだ。」
「やりすぎるな、って意味だ」と霜月は締めた。
それを聞いて「ああ」と合点がいった皐月。
霜月の方に顔を向ける皐月。
「悪い忘れてた。
けど逆を言えばさ……」
皐月は真蔵を見ながら続きを笑顔で口にする。
「……口さえ聞ければあとは問題ない、ってコトだよな?」
ただし、眼が全く笑っていなかった。
「ひいぃぃ!!!」
真蔵は慌てると、胸元を手で探った。
何かを内側から出すと、それを口に咥える。
小さな笛のようだった。
「!」
「!」
霜月も皐月もそれが何かに気づく、
が、
特に止めようとはしなかった。
真蔵は大きく息を吸うと、それを思いっきり吹く。
ピィィィィィ!!
甲高い音が辺りに響き渡る。
霜月は顔をしかめ、皐月は両手で耳を塞いだ。
「……うるせえな。」
霜月が苦言を漏らす。
「………で?」
皐月は顔をしかめながら、真蔵に尋ねる。
「へ、へへへ。
余裕はここまでだぜ?」
真蔵は弱々しく笑みを浮かべて呟く。
と、そこで、
ガラッ! ガラッ!
と、周りの長屋の扉が一斉に開いた。
「……どっから来んのかと思ったら、周りの家からかい。」
皐月はジト眼で呆れながら呟く。
「これで”近所迷惑だ、うるせえぞ!”って怒鳴られて終わったらウケるんだがな。」
霜月が軽口を吐く。
「何、軽口叩いてやがるんだ!!
囲まれてんだぞ!! 焦ろや!!!」
あまりに余裕な二人の態度が勘に障ったらしく、真蔵は怒鳴り付ける。
「だってたかだか四人だろ? それも見たところ丸腰な普通の人間じゃねえか。」
涼しげな表情で答える霜月。
「……舐めるなよ? 小僧。
”我々”の腹を探ってたんだ、生きて帰れると思うなよ?」
囲んだ男の一人が霜月に語りかける。
「へえ……」
霜月はそれを聞き届け、笑みを浮かべる。
「? 何がおかしい?」
男がいぶかしげな表情で霜月に問いかけるが、彼はそれには答えない。
「聞いたか? 皐月。ラッキーだな。」
「全くだ。」
笑顔で皐月に振る霜月。
そして皐月も笑顔でそれに答える。
男は、いや、男を含めてこの場にいる敵全員が気づいていない。
今のは明らかな失言だ、というコトに。
「アンタらこのクズと違って、組織の人間なんだろ?
大方、”真蔵の護衛”と銘打って、その実、秘密を真蔵が漏らさないか見張ってた。
あるいはアタシたちのような人間が現れたら始末するように待機してた、
真蔵をエサにしてな。」
「!!?」
真蔵が驚愕の表情を浮かべる。
聞かされていなかった、という顔だろう。
「さっきまでの俺さまの暴力でお前を助けずにただ見てただけ、ってのがその証拠だよ。」
真蔵が霜月を見る。
「けど失敗だったなあ、真蔵。」
霜月がいい笑顔で真蔵を見る。
「今、そこのガタイの良いのが良いコト口走ってくれたぜ?
”我々の腹”ってな。
自分は組織の人間だって告白してくれたんだ。
ってコトは、だ。」
相対する男を顎で示した霜月はそのまま視線は真蔵のまま語りを続ける。
「”女の居所”吐かせるのは、アイツらでよくなったワケだ。」
真蔵を始め、敵全員が首を傾げる。
「コイツは何が言いたいんだ?」と。
その回答を口にしたのは、霜月ではなく、
「……これで手加減なくアンタをいたぶれるワケだ、アタシは。」
皐月だった。
そこでようやく真蔵は二人の笑顔と、先程の会話の真意を理解した。
”吐く役が別にいてくれたぞ”
”マジか、じゃあコイツは用済みじゃん”
”「聞いたか? 皐月。ラッキーだな。」”
”「全くだ。」”
こういう意味だったのである。
「ひぃいぃぃぃぃぃ!!!!!」
顔面蒼白となり、その場で尻餅を着いて座り込んでしまう真蔵。
恐怖でガタガタ震えだしもした。
「大人しくしてりゃあ骨折くらいで済んだかもしれないのに、小賢しく仲間なんか呼ぶからこうなんだよ? まあいずれにしても、だ。」
恐怖に怯える真蔵に、霜月は笑顔で追い討ちを掛ける。
「ホストは廃業だ、な。」
ただし、眼は全く笑っていなかった。
「ひ、ひえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
真蔵はその眼を受け、耐えきれず、奇声を上げながら、形振り構わずなんとか立ち上がると、明後日の方向に走り出してしまった。
「行け皐月! ここは俺さまに任せな!!」
「頼む!!!」
皐月は駆けていった真蔵を追い駆けようと、その場で大きく跳躍すると、長屋の屋根に飛び乗り、そのまま真蔵の走っていった方角へ駆けていく。
「追わせるな!あの娘を止めろ!!!」
声を上げるのは先程失言を溢したガタイの良い男。
どうやらこの男がこの場でのリーダーのようだ。
リーダーの命令に、他の三人は皐月を追おうとする。
しかし、
「おっとぉ!!」
うちの一人、一番先頭で駆け出そうとしていた男を、霜月が飛び蹴りで倒す。
脚は男の頭をクリーンヒットしており、この一撃でノビてしまった。
「なっ!!?」
リーダーを含めた三人は動揺する。
「お前たちの相手は俺さまだ。
アイツら追いたかったら、俺さま倒してみせな?」
行く手を遮るようにして、霜月は堂々と立ち塞がる。
首元のネクタイを緩めながら、霜月は宣言する。
「光栄に思えよ? ヤローども。
どうせ相手するのなら、俺さまホントは男よりも女相手が一番なんだぜ?
そんな俺さまが直々に相手してやるんだ。
感謝しながら逝きな!!!」
月明かりを背にして叫ぶ色男。
その姿は実に様になっていた。
「貴様、一体………」
リーダーの男が呟く。
霜月は不敵に笑い、こう答えた。
「及ばずながら、女の幸せを守るために戦う………
ただのホストさ!!!!」
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霜月が足止めをしてくれている間、皐月は真蔵を追い掛け走っていた。
真蔵ががむしゃらに走り、逃げ込んだのは森の中だった。
歓楽エリアに隣接するこの森は神授エリアと呼ばれる箇所だ。
先日のトカゲ案件の折に、トカゲメカ=西龍1号の稼働実験が再三行なわれ、目撃されていたエリアである。
この森を突っ切ると森の中を切り開いて建てられた建物「高岡神社」がある。
組織のメンバーである”高岡兄妹”こと”神在月”と”神無月”が普段いる神社だ。
時刻は現在、月が出始めた頃。
月明かりに照らされて、本来は暗闇であろう木々の中も有り難いコトに肉眼で視界が確保出来る明るさだった。
「(見つけた!!)」
木々を抜けて走る真蔵の背を捉え、皐月は速度を上げる。
「(絶対に逃がさないよ!!!)」
ひとっ飛びで追いすがるコトの出来る距離まで接近した皐月は、そこから地面を大きく力強く蹴り、真蔵に一気に迫った。
気配に気づいた真蔵が振り返ると、そこには皐月の足があった。
「なっ!!??」
「はあっ!!!!」
クリーンヒット。
皐月の飛び蹴りが女の敵の頬に直撃。
女の敵=真蔵はその勢いのまま吹き飛ぶと、近くに生えていた木にそのまま激突。
「ぎゃっ!!!!!」
木に背中から叩きつけられた真蔵は、奇声を上げると、そのまま座り込むようにズリ落ちた。
蹴り飛ばした地点からそれなりに吹っ飛んだため、皐月が真蔵の元に辿り着くまで少々時間を要した。
「ふう……さて。」
真蔵の姿を確認した皐月はそのまま真蔵に近づくと、まず首元に手をやり、脈を確認。
死んでないコトを確かめた。
死んではいないが、反応がないところを見ると、気絶しているようだ。
「やれやれ……」
皐月は溜め息をつくと、首に当てていた手を引っ込め……ずにそのまま肩の上に乗せ、
「オラッ!!!」
思いっきり力を入れた。
ゴキッ、という嫌な音と共に、
「ぎゃああああああ!!???」
真蔵は目を覚ました。
悲鳴のおまけ付きで。
「痛え痛え痛え!!!!」
右手で左肩を押さえながら悶え叫ぶ真蔵。
「痛いのは当然だろ。
肩外してやったんだから。」
皐月は両腕を腰に当て、悪びれもせず告げる。
「さて、目が覚めたようだね。クズ。
一応木にぶつかったショックで記憶喪失になってないか確認しようじゃないか。
アタシが誰か分かるかい?」
はっ! っと息を呑むと真蔵は痛みを忘れガタガタ震えだした。
「お…お……鬼」
顔面蒼白になりながら、真蔵はそう口にした。
「はあ……」と溜め息をついたかと思うと皐月は無表情で真蔵の頬を平手ではたいた。ビンタだ。
パンッ、とこれまた良い音が響いた。
「ぐ!?」と真蔵が強制的にビンタで横を向かされると、外れた肩が連動して痛みが響いた。
「あだだだだだ!!!?」
皐月は真蔵の胸ぐらを掴む。
「誰が鬼だ、誰が!?」
「お、岡っ引き小町ともあろう女がこんなコトしていいのかよ。
明らかに逸脱行為だろ、やりすぎだ。」
痛みからか、恐怖からか、あるいはその両方からか、真蔵は顔をしかめながら言葉を絞り出した。
「よし、記憶ばっちり!」
真蔵の言葉なんざ聞く耳もたん、とばかりに皐月は乱暴に掴んでいた服を離す。
尚、離された際に再び木に叩きつけられ、肩の痛みが脳天に響き、「ぐあああ!!」と真蔵が叫んだ。
「さて、と。
記憶がある、ってコトは、だ。
自分の行ないも覚えている、ってコトで。
つまりは、だ。」
皐月は腕を組んでわざとらしくその場で「うん、うん」と頷く。
「……死刑執行ターイム♪」
台詞に音符がついてるが、全く笑ってない皐月。
真蔵は震えながら、命乞いを始める。
「ま、待て! 待ってくれ!!
言う!! 言うから!!
ヤツらのアジト! お、女の場所!!
な!! 待ってくれ!!!」
「聞いてなかったのか? それはもういい、って言ったろ?
霜月がやってるからな。」
「悪かった! 反省してる!!
もうしないから!! な!!!!」
「もう遅い。そんな時間はとっくに過ぎた。」
「お、岡っ引きがここまでしていいのかよ!?
人殺しは流石にダメだろ!!!!」
何故か眼が背けられない真蔵。
腰も抜けてしまったようで、上手く動けない。
が、なんとか逃げようと、右手で地面を叩く。
とそんな右手を……
ダンッ!!
と皐月が踏みつけた。
「うがああああああああ!!!????」
「この期に及んでまだ逃げよう、っていうその姿勢が気に入らんね。
あ、そうそう。
岡っ引きがココまでするのか? だっけ?
最後に女の敵でクズのアンタに教えておいてやろう………」
皐月は果たしてどんな表情をしているのか。
月明かりが逆光となり、その顔色が伺いしれなかった。
「悪党には人権なんてなし♪」
ひとつ言えるコトがある。
この女を本気で怒らせてはいけない、というコトだ。
「この町を泣かす、どころか、女を泣かせるクズに!
死んだ方がましと思えるような鉄槌じゃ、オラアアアアアアア!!!!!!」
「ぎゃあああああああああ!!!!!!!」
神授の森に怒りの雄叫びと恐怖の叫びが木霊するのであった。
ホントにどーしてこーなった?
霜月の方がよっぽどヒーローやってるぞ、皐月(汗)
一応フォローしておきましょうか。
死人は出てませんので、あしからず...




