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其の13「夢を売る者と私欲を満たす者」

お待たせしました。

書き上がりましたので、投稿致します。


今回ちょっと長いです。

 皐月の発言を受け、何かに気づいた霜月は、受付のダンディ男と話すコトで、気付きを確信に変えると、ホストクラブを出るコトを提案。


 皐月は要領を得ないまま、けれども、霜月を信じて着いていくコトにした。


「悪い、俺 今日これで上がるわ。荒木さん、申し訳ないんだが……」と謝罪を口にする霜月に、荒木は嫌な顔一つせず、笑顔で送り出してくれる。


「指名入っても上手く断っておくし、周りにもフォロー頼んどくから」と言ってくれた荒木に霜月は勿論、皐月も深く感謝した。



 尚、入り口で呼び込みを張り切る聖也にも一声掛ける二人だったが、

 その際に聖也が皐月に顔を真っ赤にして「ま、また来てください。俺頑張るから」と告げたのは微笑ましい余談だ。


 当の皐月は何にも分かっておらず、ただ「頑張ってな、聖也さん」と深く考えずに答えていたが。


「やれやれ……」と口にした霜月の言葉は果たして、鈍感な皐月に向けたものだったのか。

 それとも客(ですらないある意味一般人)に惚れてしまった聖也への呆れだったのか。


 あるいはその両方だったのかもしれない。


 まあ、そんなこんなで、二人はホストクラブ「雅」を後にし、歓楽エリアのネオンの中へと消えていったのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「で? いい加減教えておくれでないかい、霜月。

 今アタシらは何処に向かってるんだい?」


 前を歩く霜月に、皐月は質問を投げ掛ける。



「……(うちの店)のホストの中にな、”真蔵(しんぞう)”ってのがいるのよ。

 ランキングでいうとナンバー10辺りで上がったり下がったりしてる中位から下位くらいのヤツなんだがな。


 そいつが最近、あまり出勤して来ないくせに、やたらと金遣いが荒くなった、って印象なワケよ。」



 霜月の言葉に、皐月は眼を見開く。



「それで?」



「いやな。俺さまも他のヤツから聞いただけなんだが、


 聞くところによるとだな、真蔵のヤツ。

 ”金づるを見つけた”だの”ちょっとした副業を始めた”だの、あと”女が俺に金を運んでくれるのよ”だの、他のヤツに嬉々として自慢してたらしい……。


 真蔵(そいつ)は元々サボりがちな上に、勤務態度も良くないヤツでな。

 顔立ちは悪くないくせに辛抱強さが足らない、自慢話が好きで我が強く、加えて短絡的なヤツだ。


 ”ランキング上位は無理だろう”、って皆で言ってたところに、謎の羽振りの良さ。

 ヤツの話振りから、どっか良いマダムの()()()にでもなったか、って噂してたんだが……」


「金づる」「副業」「女が金をもたらす」……、なるほど知らない者が聞けば”パトロン”でも見つけたかのようにも捉えられる発言だ。


 が、このタイミングで「誘拐事件」を知っている者が聞けば、いささか意味合いが変わってくる。



「なるほどね……真蔵、だっけ?

 その人()()()ねえ。」



 皐月は不敵な笑みを浮かべた。

 霜月はそれを見つつ、発言を続ける。


「アイツは中身はともかくとしてだ、女受けはする容姿だ。

 大方それを見込まれて雇われたんだろうよ。

 女を引っ掻けて犯人に渡せばそれだけで金が手に入るんだ。面倒なトークや身体張って酒飲んだりする手間が無しで大金が手に入る、ボロい副業だとでも考えたんだろうぜ。


 さっき荒木さんに確認したのはヤツの出勤日数だ。ここ数日は特に休んでやがる。

 本来は今日もシフトに入ってたはずだが、サボりだった。」


 皐月は得心がいった。

 ほぼ間違いなくそいつはクロだ。タイミングといい、聞くその真蔵という男の性格、言動といい、恐らく当たりだろう。


 無意識に握る手に力が入る。


「じゃあ今アタシたちが向かってるのは…」

 

 皐月の質問に、霜月は頷いてから答える。


真蔵(ヤツ)寝床(ヤサ)だ。

 あの野郎、この歓楽エリアの外れにある長屋に住んでる。


 ヤツが”商品”の運搬にまで携わってるのかまでは分からないが、それで部屋がもぬけの空でも何かしらの証拠はあんだろ?」


 いるかいないかはさて置いて、その寝倉には何かしらの手がかりがきっとある。


 


「ま……いてくれた方が俺さまにとっちゃ有り難いんだがな。」



 直接事件のコトを吐かせられるから……という意味では絶対にない。

 霜月がフフフ、と邪悪な笑みを浮かべる。


 気持ちは分かるが、その(ツラ)は止めて欲しい、と皐月は顔をひきつらせる。


「……何にしても、急ごう。」


 皐月は顔を引き締めると、霜月にそう提案。

「おう」と霜月は答え、頷くと、

自然と足が駆け足になる。先を走る、道を知った霜月の背中を見失うまいと、皐月も駆け足でそれを追うのであった。




ーーーーーーーーーーーーーー




「どわああああああ!!!」


 数分後、歓楽エリア外れの長屋密集区画。

 とある一軒の家の扉が吹っ飛んだ。


 正確には(なか)から人が外の路上に吹っ飛ばされ、それに伴って引き戸が吹っ飛んだ、というのが正しい。


「いきなりなにすんだよ、蒼太さん!

 俺が何やったってんだよ!!」


 皐月は呆れと共に半眼でその光景を眺めていた。


 あれから真蔵なる男の家に着いた二人だったワケだが、霜月は真蔵の家の扉をノックし在宅であるコトを確認すると、相手が扉を開けるのを待たずに勝手に家の中に入り込み、玄関に向かっていたであろう真蔵の首根っこを突然掴んだかと思ったら、外に放り投げたのである。



 ……ほぼ犯人(クロ)で間違いなかろうが、万が一無実だったらどうするんだ、この男は。



「何やった、だ!?

 てめえ知らばっくれてんじゃねえぞ!!

 てめえの胸に手を当てて聞いてみやがれ!」


 道に仰向けに倒れ込む真蔵を追い掛け、しゃがみ込んだ霜月は、真蔵の胸ぐらを掴み上げ怒鳴りつける。


「……し、仕事サボって家にいたのは、アレだ。確かに謝るけどよ。

 ……で、でもここまですることは!!!」


 真蔵の眼が泳いでいた。

 しどろもどろになりながらも、霜月に返答する。

 

「それじゃねえよ!!

 俺さまがそんな風紀委員みてえな男に見えるか!!

 サボったヤツを取り締まるお役人キャラか、俺は!!!

 アホかてめえ、とぼけんな、つってんだろうが!!!」


「取り締まるお役人キャラ」ならここにいるんだが……と皐月はジト眼で二人を見る。

 無論口には出さない。

 というか、皐月は霜月に任せ、今自分は口を出さないようにしていた。



「最近美人の女が次々拐われる事件が起こってるそうでな!!

 てめえなんか知ってるんじゃねえのか!? ああん!!?」


 それを聞いた途端、真蔵の顔色が明らかに変わったのを皐月も霜月も見逃さなかった。


「な、なんのことだよ!

 そんなコト俺ぁ全然……」


 と、真蔵の弁解はここで途切れた。


 霜月が真蔵の顔、頬を殴ったからだ。


「ぐ!?」と言いながら、真蔵が後頭部を地面に叩きつける。

 霜月が馬乗りになり、再び胸ぐらを掴まれ、上半身のみを真蔵は強引に持ち上げられた。


「何すんだよ!! 蒼太さん!!

 ホストの顔を殴りやがってよ!!!」


 真蔵が霜月に怒鳴る。

 至近距離で怒鳴り付けられ、霜月の顔に真蔵の唾が掛かるが、霜月はそんなコトには構わずに真蔵の顔を見つめる。


 先程までの怒りの表情は霜月の顔から消え失せ、真顔になった。



「お前怒ったよな? そりゃあなんでだ?」



 明らかに霜月の温度が変わった。

 見守る皐月はそれに気づくが、至近距離の真蔵は興奮しているせいか、それに気づかない。


「ざけんな!!

 顔はホストの命だろうが!!!

 仮にケンカしても顔は避ける、ってのが暗黙の了解だろ!!!

 腫れでもしたら商売上がったり………」





「ふざけてんのはてめえだあ!!!!!」




 

 霜月が本気で怒鳴る。

 真蔵の発言が、怒りが、一瞬で引っ込まされた。


 見守る皐月も一瞬、片眼を閉じて顔をしかめた。


「それは一体誰のためのこだわりだ。

 顔を守る、顔は商売道具、顔は命……


 そうだ、それはホストの矜持だ。

 守るべきルールだ、当然のコトだ。



 でもそれは誰のためのルールだ?

  

 客のための!

 女のために守るべきルールだろうが!!


 間違ってもてめえ自身のためのナルシストなルールじゃねえんだよ!!!!」


 真蔵は霜月の気迫に飲まれてしまっていた。

 口をパクパクさせるだけで、何も言えていない。


「俺らホストはな。来てくれる女に”夢”売ってんだよ。

 懸命に現実を生きて、必死こいて働く女たちがな、抱えきれない疲れを癒すために、ささやかな手伝いをやってんだよ。


 ”どうせアタシなんかモテない”、”誰も話を聞いてくれない”、”誰も構ってくれない”、”見向きもされない”……

 そんな心の闇を抱えた不器用な女たちのな、明日を生きよう、生きられる、って思わせられる手伝いを与えるのが俺たちの役目だろうが。



 ”こんな良い男がアタシを見て、構ってくれてる。アタシに価値を見出だしてくれている”って。

 ”こんなイケメンが、アタシは生きてていいんだよ、って言ってくれている”、

 って思わせるための道具なんだろうが。」


 霜月の胸ぐらを掴む手の力が強くなる。



「断じて自分自身のためのルールじゃねえんだよ!!!」



 

 

 聞いていた皐月の脳裏に、霜月の穏やかな笑みが浮かぶ。

 先程のホストクラブでのやりとりだ。

 思い返していた。



 ”俺さまは勿論のコト、ココで働くヤツらはみんな、お客様に夢を売ってんのよ。

 生きる、ってコトは楽しいコトばかりじゃないからな。

 生きる上で辛いコト、悲しいコト。


 そういったモンを上手く消化出来ない女性は実は結構多いワケだ。


 そんな不器用な子羊ちゃんたちの、明日を生きるための細やかな活力になるべく存在してるのが、俺ら、ってワケ。”



 ”俺らは高いと思わせないサービスをする努力をする。

 そういう世界だよ、ココはな。


 少なくとも、俺はそう心掛けてる。”



 自分ためじゃなく、見てくれる”誰か”のため。

 見てくれた人が”もう大丈夫”だと、

 ”これからも生きてゆける”と思ってくれる存在を心がけて立ち振る舞う。


 ヒーローとしての自分と重なった。


 霜月もまた、普段は見せないものの、そういった”誰かの幸せ”を願い、

 そして”そのための生き方”を貫く者なのである、


 と皐月は再認識した。


 誇りや信念を持ち合わせている霜月だからこそ、真蔵(あの男)の行なったコトは当然許せないのであり、それは皐月も同じなのである。


「夢を売るハズのホストに声を掛けられて、それを信じて着いていった女が見るものが、

 何処かに売り飛ばされる、なんて”悪夢”であっていいハズがない。


 良いわけがねえだろうが!!!」




 霜月が再び真蔵を殴らんと拳を振りかぶる。


 が、


「綺麗ゴト言ってんじゃねえぞ!!!」



 と真蔵は叫び、自らの胸ぐらを掴んでいた霜月の左手を自身の両手で掴んだこの男は、強引に霜月の身体を倒し、馬乗りになっている体勢から引き離した。


 霜月はとっさのコトにバランスを崩されたが、上手く地面に着地し、体勢を整える。


 身体が自由になった真蔵は、そのまま起き上がると、襟を正し、殴られた頬を触ってから、一息つく。

 霜月を、殺せるような眼で睨みながら真蔵は話し始めた。



「何が、生きる活力だ。何が夢を売るだ。


 んなもん全部綺麗ゴトじゃねえかよ。

 ナンバー3の地位だから言える余裕じゃねえかよ。


 俺はな! モテたくてこの世界入ったんだよ!!

 チヤホヤされたくて! それで金が入るから!! この世界飛び込んだんだよ!!!」


 それがどうだよ……と真蔵は続ける。


「いざホストになってみたらよ。

 やれ”自慢話よりも聞き上手になれ”だの、”女を立てろ”だの、挙げ句の果てには”無闇に女はベッドに誘うな”だの。


 一体俺はなんのためにホストになったんだ、つーの!

 俺は女のご機嫌伺いがしたくてこの業界に入ったワケじゃねえんだよ!!!」


 霜月が顔をしかめる。

 が、口は開かない。

 ……恐らく待っているんだろう。


「終いには”お前、ホスト向いてないんじゃないか”だと!!

 ふざけるんじゃねえよ!!!


 女なんか、俺の道具だ!!!

 俺が女のために尽くすんじゃねえ!


 女が俺が生きるための糧になるべきなんだよ!!!」


 その発言に、皐月がカチンと来たのだろう。

 思わず身を乗り出すのだが、霜月がそれに気づいて、さりげなく手を動かす。


 視線で”まだ動くな”と訴えた。


「そんなときだよ、そう思ってた時だった。

 燻ってた俺に声を掛けてきたヤツがいた。


 ”お前の容姿を活かして儲けられる話があるんだが、ノらないか?”ってな。

 ”お前の力が必要なんだ”ってな。」


 霜月も、そして皐月も真蔵を見る。


「最初は俺も半信半疑だったぜ?

 でもどうだよ。

 俺が声を掛けりゃあ女はホイホイ尻尾振って、なんにも疑わずに着いてきやがる。


 ちょっとデートしたあと、酔わせたりベッドでクタクタになって意識失なわせたらよ、あとは”アイツら”に身柄渡せばおしまい。


 礼金たんまり貰って俺は満足。”アイツら”も女が手に入ってご満悦。


 ボロい商売だったぜ? 俺の容姿を活かしたまさに天職、ってわけだ。」


 話してる内に気分が良くなったんだろう。真蔵は段々と笑みを浮かべる。


「そうだよ。俺は女を引っ掻けるテクは本物なんだ。

 ”アイツら”が言ったように、俺のテクニックは最初からこうやって使うべきだったんだよ!

 女は俺が生きる土台であり、道具なんだ。


 女のために、じゃなく、

 女が、俺のために、が本来のあり方なんだよ。


 これが正しいんだ、俺が正しいんだ。



 俺が燻ってるのが間違いなんだよ!

 俺が! そして女が手に入って喜ぶ奴らがそれで満足する!!


 そして!!」







「………そして、女が泣く、と。」







 一人の(クズ)の上機嫌の演説を、一人の女が不機嫌に断ちきった。









可能ならば今日中にもう一回投稿したいです。

次回に続きます。

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