其の8「男の心理と娘たちの好み」
本日二回目の投稿です。
待望の食事、それも食べたかったカツ丼の出現に、皐月はテンションを上げ、早速笑顔で食べ始めるのであった。
それを見届け、お美代は、「あとは若い娘たちで楽しんでくださいね」と席を外れて仕事に戻ってしまった。
アヤメは「お茶を淹れますね」と席を立ち、
現在、テーブルにはカツ丼を食べる皐月と、向かい合わせに座る香里の二人だけである。
「……あのさ、香里。
兄貴のコト、なんか分かったかい?」
肉を頬張り飲み込むと、皐月は香里に今、一番聞きたいコトを尋ねた。
「いえ。あれからまだ二日ですから。
まだこれからですね。」
香里は苦笑しながら答える。
香里曰く、皐月と別れた後(※香里は皐月がヒーローとは知らない)春菜やお美代、他の宿泊客と共に、離れた場所へ一時避難。
しかし、猫のトラマルが逃げてしまったため春菜がそれを追い、宿泊客の誘導から離れられないお美代に代わり春菜を追いかけ、トカゲメカが暴れる商店エリアに行き着き、騒動に巻き込まれたのだという。
そこから先は皐月も知ってはいたが、それを口にするわけにもいかず、黙って「ヒーローさんに助けられた」という香里の話に、内心照れながら、かつ、それを顔に出さないように取り繕って報告を聞き続ける。
その後、避難先で春菜と別れ、お美代の手伝いをしながら月見亭へ戻りその日の夜から月見亭での仕事の手伝いを始めたそうだ。
なので、実質兄貴の捜索は昨日の空いた数時間のみしか、まだ行なっていないそうで、今日もこれからアヤメを伴い、買い物がてらこの町の案内を受けつつ、兄貴を捜すらしい。
報告の途中に戻ってきたアヤメを交え、今日までのコトと、これからのコトを聞き終えた皐月。
本当なら自分も彼女の兄貴捜しを手伝ってやりたいと思う皐月だったのだが……
「(申し訳ないが、今日も手伝えないな……)」
カツ丼を食べ終え、アヤメの淹れてくれたお茶で一息つきつつ、皐月は眉を潜めた。
「小町さんはなんか手掛かりとか知らないんですか?
顔広いんだし、何か知ってそうな気がするんですけど……」
同じくお茶をすすりつつ、メイド服のウェイトレスは皐月にそう問いかける。
「いや…申し訳ないけど、先崎って名字にも、松吉って名前で働く男にも心当たりが全くないねえ。
もし仮に偽名でも使われてるならお手上げだ。」
皐月は何気なく言った言葉だったが、二人は思いもしなかった意見に目を見開く。
「偽名……ですか? 兄がわざわざ違う名を使ってる……」
「……そっか、ありえない話ではないですよね。
香里さんが知らない名前で生活してる可能性……」
例えば”田舎者である”というコトを恥じて、プロフィールの一切を偽って暮らしている、とか。
何か事情があって、別名やアダ名で通している、とか。
アヤメは好感触に受け取ったが、皐月は話ながら「悪いコトに手を染めていたら、偽名を使うよな」と岡っ引きのクセでつい口にしてしまったと気づく。
……果たして香里はどっちに受け取ったものなのか。
「悪い香里、深い意味はないんだ。つい仕事のクセで言ってしまっただけなんだ。気にしないでくれ。」
いずれにせよ、今どうしているのか分からない兄貴を悪い印象に仕立てあげてしまうのは本意ではない。
皐月は慌ててフォローを入れる。
「……大丈夫ですよ、皐月さん。そう気に病まないで下さい。」
気にしないでくれ、と発言した自分が逆に気に病まないでくれ、とフォローされてしまった。
後ろ頭を掻きながら、皐月は、なんだかなあ、と思う。
「気にしたのなら小町さん。このあと私たち町に出ますから、一緒に捜索を手伝ってくださいよ? それで帳消しにしましょ。」
空気を読んで、アヤメが笑顔でフォローを入れてくれる。
普段なら皐月も「よし、そうしよう」とその提案に乗るところなのだが……
「申し訳ないけど、今事件の捜査中なんだ……
時間がなくてさ、悪いんだけど……」
ここへは食事をしに顔を出しに来たわけで、それが終わった今、自分は捜査に戻らなくてはいけない。
皐月は申し訳ない、という思いを込めて、頭を下げる。
「いえ、大丈夫ですよ、皐月さん。
お気持ちだけ頂きます。」
「ありがとうございます」と香里は結んだ。
一方フォローを入れたつもりが、余計な一言になってしまい、アヤメは気まずそうな表情を浮かべる。
「えーと……こ、小町さん。
お昼も食べずに捜査、って何か厄介な事件ですか?」
話題を変えるべく、ひきつった顔でアヤメは皐月に尋ねた。
「っと、そうだな。香里もアヤメも、
これから町に出るのなら気に留めておいて欲しいんだけど、
実は………」
皐月の真面目な、深刻そうな表情に、二人は姿勢を正して耳を傾けるのであった。
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「なんですかそれ!! 女の敵ですね!!」
そう口にするアヤメの顔は怒りのあまり険しくなる。
あまりの剣幕に、皐月も香里も少し身を引いてしまう。
「そんなのが蔓延ってるなんて許せない! 小町さん! 絶対犯人捕まえて下さいね!!」
皐月は「お、おう」と返事をどもってしまう。
「皐月さん……」
ここでビクつきながら、恐る恐る話しかけるのは香里。
ガルルルッ、っと今にも物理的に噛みつき出しそうなアヤメを横目に、皐月は香里の方を見る。
「犯人の手掛かりも潜伏先も見つかってないんですよね?」
「ああ、情けないことにな。」
皐月は肘をテーブルにつき、手に頬を乗せため息をつく。
参ったよなあ、と溢しながら、これから何処に向かうべきかを考える。
「実行犯はおそらく複数人。中にはお金で雇われてる臨時のアルバイトとかいるんじゃないですかね。最近羽振りが急に良くなった、なんて人がいたら怪しくないですか?」
………時が止まる。
正確には、皐月もアヤメも、香里の発言に驚き、ピタッ、っと動きを止め、マジマジと彼女を見つめる。
「あ、あれ?
ごめんなさい、的はずれなコト言ってました?」
真顔で四つの瞳に覗き込まれ、いたたまれなくなった香里は、恐縮してしまい、焦って謝り始めた。
「……香里、アンタ岡っ引き向いてるかも。」
「え?」と香里は皐月の方に顔を向ける。
香里本人は気づいていないが、これは犯人を捜す上でありがたいヒントのひとつだ。
まあ悪行のことを「臨時アルバイト」と称してしまうのはユニークな表現だとは思うが。
「そうだよなあ。犯人が組織立ってるからと言っても、自分のトコの人員だけで賄うとは限らない。口止めして人雇う可能性あるよな……」
人手が余っている大規模な組織ならないかもしれないし、あるいは情報が外部に漏れるリスクを懸念して、人を雇うというコトはしないかもしれない。
けれどそんなコトはまだ分からない。
ターゲットを選別するのに、ナンパ慣れした男とか、無理矢理連れていくのに腕っぷしのいい男とか、そういう男を臨時に金で招き入れる可能性は確かにある。
そういう線を追うのはありだろう。
「香里ありがとう!」
皐月は身を乗り出すと、呆けている香里の手をテーブルを跨いで掴み、ブンブンと大きく上下に振る。
「お役に立てたのなら良かったです。」
香里の顔にも笑みが浮かぶ。
取っ掛かりが出来た。さて後は……
「……それで小町さん、何処を捜すんですか?」
……さて、どの辺りを捜せばいいのやら。
アヤメのもっともな疑問に、皐月はピタッと腕を止め、
「ホントだよ……」とションボリ項垂れるのであった。
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「男が女をナンパしたくなるスポット、って何処だ?」
腕を組み、うーんと唸る皐月。
「資料の中で、最も事件数が多い箇所とか?」
香里が皐月に思い付いたことを告げる。
「それが偏りがあんまないんだよ。場所じゃなくて多分人で狙ってる。」
「じゃあ小町さん。ナンパスポットを調べても意味ないんじゃ?」
「うーん……」
アヤメの指摘で、皐月は再び唸る。
一体何処のエリアで”金回りが最近良くなった者”を捜せばいいのか。
「そもそも男、ってヤツは、どういう女をナンパしたくなるもんなんだ?」
その心理が分からない。
なのでここは、この根本的な疑問について考えてみよう、
と皐月は男にモテる、ナンパされる女二人に聞いてみるコトにした。
三人寄れば文殊の知恵。
幸い、自分含め、ここには三人の若い女が集まっている。
男に口説かれない皐月一人なら分からないコトも三人集まれば……
「女の人を口説いたことないから分かりません。」
「男になったことないから分かりません。」
やはり分からない、という結論に至るコトが判明するのであった……
「じゃあ逆に考えよう。
香里もアヤメもさ、どういう男にだったら口説かれたい?」
逆転の発想というやつである。
女しかいないこの空間で、女の心理から犯人を探ってみるコトにした皐月。
この質問に、香里は「うーん…」と目を閉じ天井を仰ぎ始め、
アヤメは両頬に両手を添え、クネクネと体を捻り始める。
「そうですね。私はやっぱりカッコよくて、清潔で、そこはかとなく気品が漂ってる感じの男性が好みです。
年上で落ち着いている感じの人がいいなあ。」
と答えるのはアヤメ。
「男の方ですか……
考えたことなかったですが……
一生懸命頑張ってる人に惹かれますかねえ。
懸命に何かに取り組んで、努力したりする姿に魅力を感じます。」
とは香里の談。
アヤメはともかく、香里の意見は容姿ではなく、内面が重視のようなので、これは参考に出来ない。
いや、職人とかプロフェッショナルの職業の人物なら当てはまるのか……
「そういう小町さんはどうなんですか?」
アヤメが期待のこもった視線で皐月を見る。
「アタシ? 恋愛とか考えたことないけど……
そうだねえ……」
眼を閉じ、考えてみる皐月。
自分はどんな人物が好みなのだろうか。
「まあ強いていうなら、根性ある男がいいねえ。
簡単には物事を投げ出さず、諦めない、逃げ出さない、
で、なんだかんだで何でも最後にはやりきる男。
こんな根性持ってる男は好きだな、アタシゃ。」
と笑顔で答える皐月。
……これも香里と同じで参考には出来ない意見だ。
ここからなんだかんだで恋バナに発展してしまう場。
皐月が「世の中、男だけに限らず女もそうだが、根性がないヤツがたくさんいる。もっと鍛えねば」と言えば、
アヤメが「そうです、一回や二回フラれても諦めない根性は大事です!」と返し、
香里が「何か経験が?」と尋ねれば、
「よくぞ聞いてくれました! 以前ね!!」とアヤメが体験談を語り始める。
事件の捜査も、兄の捜索も何処へやら。
事件の取っ掛かりを捜す相談は、いつしか若い女性たちのお茶会へとすり変わった始末である。
……そもそも「どういう男に口説かれたい?」という質問から間違ってただろう。
書かなかっただけで、皐月はちゃんと「いただきます」も「ごちそうさま」もしています。
今日中にまだ投稿したいです!
まだ書きますよー!!




