其の7「彼女との再会と熱心なファン」
大変お待たせ致しました(汗)
リアルの方の仕事が忙しく、全く執筆の時間が取れませんでした(大汗)
まさか一週間、空いてしまうとは(泣)
再開そして再会します。
「そっか、あの子、上手くやってるんだ。」
皐月は穏やかな笑顔で、隣の席に腰掛けるお美代にそう呟く。
「ええ、皐月さんが見込んだ通りいい子ですね。
まだ今日で三日目ですけど、他の従業員たちにも可愛がられて、なんとかやれてるみたいですよ。」
お美代もまた皐月に穏やかな笑顔で返す。
月見亭食堂フロア。
この広い部屋の中、四人掛けのテーブル席の一つに皐月は陣取り、女将のお美代はその隣の席に座っていた。
忙しいランチタイムを過ぎて落ち着いた食堂。
食事客がいなくなったこの時間、食堂には皐月と女将の声のみが響いていた。
料理長である寡黙がちな、けれどスゴ腕の料理人も昼休憩を取っており、
ウェイトレスのアヤメは、皐月がまだお昼を取っていないと聞くと、慌ててバックヤードに引っ込んでいる料理長を呼びに駆けて行ってしまった。
二人を待つ間、皐月は女将であるお美代と世間話と洒落込んだのである。
話題は二日前からここ、月見亭に腰を据えた上京したての娘のコト。
そう、先崎香里のコトである。
「手伝い、っていう話だったけど、あの子何をやってるの?」
「とりあえずは何が出来るかを見るためにいろいろな仕事を一通りやって貰っているんですが、あの子すごいですね。大抵のコトは無難にこなせるみたいで…」
香里曰く、田舎で家事全般をこなしていたため、野菜の皮剥きから食器洗いを始め、洗濯から掃除は出来るとのコト。
お美代はそんな香里に月見亭流のやり方を最初に教えただけで、あとは問題なくやれているらしい。
接客もあの容姿だ。まだ不慣れな様子だったそうだが、たどたどしい言葉使いでも、あの可愛らしさと良い笑顔で乗り切ってる、とはお美代の談。
そして何より、一生懸命な姿勢が内外にて好感を持たれているようで……
「現在も荒磯さんに着いて、何かやっていたようですよ?」
荒磯さん、とはここの料理長の名だ。
空いたこの時間に料理長から何か手解きをされている、とのコト。
……あの料理長、腕は確かだが、接客には向かない職人肌だったはずだ。
少なくとも皐月はあの人には、いつも無愛想で、寡黙で、世間話が出来るタイプではない、という印象を持っていた。
香里はそんな男の懐に入り込めるというコトなのか。
魔性の女なのか。
……モテる女は違う、というヤツなのか。
まあとにもかくにも、お美代を始め、ここの従業員たちとの間でもなんとか上手くやれてると聞き、月見亭を紹介した皐月もホッと胸を撫で下ろす思いだ。
「小町さーん。」
ふいにアヤメの声が後ろの方から響く。
休憩を取っていた料理長を無事に捕まえてきたのだろう。
振り返ると二つの人影。
一人はウェイトレスのアヤメ。だが、もう一人は料理長ではなかった。
束ねた長い黒髪をなびかせ、落ち着いた桃色の着物に身を包んだその容姿。
「香里。」
「……こんにちは、皐月さん。」
あれから二日、たかが二日。
されど、その顔を二日振りに見れて、なんとなく嬉しくなった皐月。
皐月と香里、二日振りの再会である。
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「荒磯さんに小町さんのコト伝えたら、すぐに厨房に入って料理始めてくれましたからね。
すぐに料理来ますよ?」
アヤメは皐月の斜め前、お美代の前に座ると、いい笑顔で皐月に告げる。
それは有り難い……のだが、
「……ありがたいけど、アタシ、なんにも注文言ってないんだけど。」
そう、皐月が食べたい料理を告げる前に、アヤメは飛び出してしまったため、注文も何も言っていない。
アヤメは皐月にそう言われ、初めてそれに気づいたようだ。
「あっ……」という表情を浮かべた。
アヤメの向かいに席を陣取るお美代が「アヤメさん…」と呟きながら、呆れたように額に手を置いた。
が、一人小首を傾げ疑問の表情を浮かべる者がいた。
「そうだったんですか? 荒磯さん、皐月さんが来た、って聞いたら自信満々に厨房に入って自然に材料を選んでましたから、私てっきり……」
そう口にするのは皐月の正面の席に腰を下ろした香里だった。
「そうなんですよねえ。荒磯さん、何も聞かなくても、心得た、って感じで自然に料理に入ってましたから、私も何も疑問に感じなくて……」
とは、ハハハと苦笑いを浮かべながら述べるアヤメの言。
「何作ってんだろ……?」
皐月は眉を潜め、腕を組む。
クゥゥゥ……というお腹からの催促の声が響き、皐月はそのままテーブルに突っ伏してしまった。
「……まあなんでもいいか。とりあえず食べられればなんでも。」
本音を言えばカツ丼を食べたかった皐月。
これから拐われた人々を助け出しに行くワケだ。
「勝ちに行く」という分かりやすい験をかついでおきたかった。
それになんと言ってもここのカツ丼は絶品だ。
あのサクサクとした熱々の衣に、噛むと肉汁が溢れる肉。
甘めに味つけられた出汁と共にとじられた卵。
シャキシャキとした玉ねぎとほんの僅かな苦味がアクセントとして他の甘味をより引き立てる役割を果たす三つ葉……
それらが渾然となり旨味を吸ったご飯と共にかっ込む。それが堪らなかった。
すっかり口と胃袋がカツ丼になっていた皐月だったワケだが、そんなコトを口に出せる空気ではないし、何を作っているのかは知らないが、休憩時間をわざわざ削って料理してくれている料理長に他の物に作り直してくれ、なんて頼みにくい……
今日のところは時間も惜しいし、我慢しよう。
と皐月は自分の中で結論付けたのだが、
「大丈夫ですよ? 皐月さん。」
と不敵な笑みを浮かべるのはお美代。
皐月はテーブルに突っ伏しながら、顔だけお美代の方に向ける。
「……食べたい物があるんでしょう?
大丈夫です。荒磯さんも分かってますから。」
自信満々に告げるお美代に、皐月も、アヤメも、そして香里も頭の上に疑問符を浮かべた。
三人の娘は顔を見合わせ、「本当に?」という視線を一斉にお美代に向ける。
そんな視線を物ともせず、お美代は笑顔のまま、
「信じてませんね?」
と口にする。
「(いや、無理だろう……)」
皐月は口に出さないが、表情で応える。
毎日通う常連客ならまだしも、自分は食堂にはたまに顔を出す程度の客だ。
そりゃあ直接料理長にいつも注文を頼むくらいの親しい間柄、と言うのなら、それでもまだ納得できるが、皐月は料理長とはそこまでツーカーの仲ではない。
料理長の名が荒磯というコトさえ、忘れかけていたほどだ。
料理長の方も、毎日「これはあの客の注文した天丼だ」とか、「これはあの客のカレーだ」とか考えながら作ってるワケじゃないだろう。
皐月がいつも何を注文してるのか、給仕のアヤメは知っていても、厨房の料理長は知る由もない。
そこまで考えて、皐月は「無理」という結論に達したのだった。
そしておそらく、アヤメも似た結論に至ったのだろう。
”食べたい物がある”というお美代の言葉を受けたこともあり、アヤメは皐月に、
「小町さん、私、料理長に今からでも伝えてきましょうか……?」
と、申し訳なさそうに提案する。
「いやそれは……」
いらないよ、大丈夫、と答えるところだった。
ふいに、皐月の鼻腔をくすぐる香りが漂ってくる。
皐月が振り返ると、そこには、お盆に何やら載せながらこちらに歩いてくる料理長の姿があった。
「うそ……」
お盆の上には、蓋のついた丼の姿。
漂う香りは甘い醤油のそれ。
料理長、荒磯は皐月の座るテーブルにたどり着くと、黙って皐月の前にお盆を置く。
皐月が慌てて蓋を取ると、蓋のために閉じ込められた香りが湯気とともに解放され辺りにより漂い広まる。
そこにあったのは、黄色と白のコントラストが敷き詰められ、三つ葉の緑がアクセントとして存在感を放つ、まごうことなき……
「……なんで?」
皐月の渇望した、カツ丼であった。
「……アタシ言ってないよね? 食べたいもの。」
料理長は表情を変えず、そそくさとその場を後にする。
皐月の呟きに、アヤメも香里も”当たった”という事実に気づき、目を見開いた。
料理長はエスパー……超能力者だったのか。
皐月は、いや、アヤメも香里もそんなコトを考えながら、料理長の背中を見送る。
「言ったでしょう。分かってる、って。」
お美代の発言に、三人娘は一斉に振り返り、お美代を見る。
「なんで分かったんですか?」
香里の疑問に、お美代は笑顔で答える。
「ファンは好きな相手のコトは知っておきたいものでしょう。
皐月さん、気づいてないかもしれないけど、荒磯さん、ああ見えて熱心な”岡っ引き小町”のファンなんですよ?」
皐月は疑問符を浮かべたままだったが、アヤメと香里は合点がいったように笑顔になる。
「モテる女はいいですね? 岡っ引き小町さん♪」
お美代の締めに、皐月は「モテる女? アタシが??」という、当人はまるでピンと来ていないという表情を浮かべる。
岡っ引き小町、当の本人は預かり知らぬが、老若男女を問わず、中々に人気があるのである。
隣の芝生は青く見える、とはよく言ったもので、
なんてコトはない。
皐月もまた、モテる女の称号を持ち合わせているのであった。
ナンパされたりするモテ方とは違うけどね……。
書きたいフラストレーション溜まってます!
今日中に次の話、投稿したい!!
頑張ります!!!




