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其の5「毒舌少女と一つの誓い」

遅くなりました!

書き上がりましたので、投稿致します!

m(_ _)m

「このじかんまで、ごはんをたべないでいる………

 しょくじをわすれて、そうさにぼっとうしている おかっぴきのかがみ とでもほめてほしかったか……わらわせる。


 おかっぴきはからだがしほんだろう。たいちょうかんりも、しごとのうちだ。それで、たおれたら ほんまつてんとう だな、おろかものめ。」



 まだ五歳ほどのガキんちょからお叱りの言葉を頂戴してしまった。


 そもそもコイツは本当に子供なのだろうか。

 弥生みたいに”見た目は幼女、中身は大人”なんじゃあるまいか……。


 皐月は半眼でその幼女…アイを見ながらそんなコトを思っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



 皐月がアイを含め、仲のいい子供たちの集団と出会ったのは月見亭へと足を運んでいた途中だった。


 道中、店を営む知り合いたちに声を掛け、声を掛けられの応酬をしつつ、皐月は目的地を目指す。


 さりげなく「若い綺麗な女性が誘拐されているから気を付けるように」と話をした商店の人間には注意を促したが、

 冷静に考えると話をしたのは大抵おっちゃんおばちゃんだった。


 中には「あら大変、気をつけないと」と返す人もいたが、相手は昔の美人。

 四十年前だったら分からなかったかもね、なんて皐月は軽口を叩きながら店を後にする。


 まあ店主に娘さんがいたり、雇っている従業員に若い女性がいたり、常連の客に美人さんがいたり、というコトは考えられるのだ。

 注意しておいて悪いことはないだろう。



 そんなやりとりを一通りこなした後だった。


 

 月見亭へ続く大通りを歩いていると、向こうから賑やかな声が自分に近づいているコトに気づく。


 聞き覚えある声たちに、皐月は「悪ガキどもか。」と笑みを浮かべる。



「ようお前ら………あれ?」



 皐月は少年少女たちに声を掛けるが、声を掛けて気づく。

 皐月が見知っているメンバーより人数が増えていた。


 リーダー格のゲンタに眼鏡のコウイチ、ちょっと気弱なおリカと毒舌少女アイ……

 この四人に一人メンバーが新しく加わっていたのだ。


「春菜じゃないか。お前ら知り合いだったの?」


 そう、加わっていたのは先のトカゲ案件で皐月が知り合った少女、春菜だった。

 確かに年格好は同じくらいの印象だった。

 加わっても違和感はない。


「さつきおねーさん!」


 春菜は皐月に気がつくと、集団を抜けトトト…と駆け寄ってきた。


「元気そうだね、春菜。ゲンタたちと一緒なのかい。」

「うん! おととい、ともだちになったの!!」


 話を聞くと、どうやら二日前のトカゲ案件の折り、避難先で春菜は四人と知り合い、仲良くなったとのコトだった。


「あ、さつきだ。」

「しごとはいいんですか、さつきさん。」


 春菜に遅れて連れ四人がゾロゾロと追い付いてきた。

 ゲンタは相変わらずタメ口で、コウイチは丁寧口調だが、その実 嫌みの意図を籠めながら話しかけてくる。


「仕事中なんだけどね、この時間まで夢中になっていろいろこなしてたらさ、昼飯食いっぱぐれちまってさあ。

 これから月見亭で遅い昼食をと思ってね。」


 皐月の発言に反応するのはおリカ。

「ごはんはちゃんとたべないとダメだよ、さつきおねーさん……おなかすくとげんきでないし、かなしくなっちゃう。」


 皐月の着物の裾をクイクイ、と引っ張りながら、悲しそうな顔で心配してくれた。

 皐月はそんなおリカの、ちょうどいい位置にあった頭を優しく撫でながら発言する。


「心配してくれてありがとな。おリカは本当に優しいねえ。」



「わたしもしんぱいするよ!! さつきおねーさんたおれたらかなしいもん!!」


「ま、ぼくもしんぱいしてさしあげますよ? あなたがたおれたら、このまちのおかっぴきがへってしまいますからね。

 ちあんがわるくなるかもしれません。」


 おリカを贔屓して礼を言ったからか、春菜とコウイチが負けじと発言し始めた。

 ただ、春菜は純粋に心配してくれての発言だが、コウイチはどうなのだ。

 照れ隠し……と思いたいが、表情に赤みが欠片も浮かんでいない。


 というか何故上から目線なのか。お前のその発言は部下を持つ上司なのか。

 いつからアタシはアンタの部下になった……



「…二人もサンキュー。皆、優しくて嬉しいよ。」


 コウイチの発言に何か釈然としない物を感じつつも、皐月は素直に礼の言葉で返すことにした。



「まあ、おまえがたおれたらつまらねえからな。せいぜい気をつけろよな。」


 リーダーのゲンタが腕を組んで発言する。が、決してこちらを見ようとはしなかった。

 そうそう、照れ隠し、ってのはこういう分かりやすいのがいい。


「おう、せいぜい気を付けるわ。気に掛けてくれてサンキュー、ゲンタ。」


 ゲンタの後頭部に向かって、皐月は礼の言葉を投じる。

 頑なにこっちを見ないわけだが、よく見ると耳が赤くなっていた。


「ゲンタくん、かおあかいよ? だいじょうぶ?」


 春菜がゲンタに聞いてしまう。


「うるせえ! あかくねえし!!」


 顔を覗きこんできた春菜から、ゲンタは顔を反らす。

 が、それは失敗だ。

 顔の角度が変わったコトで、皐月にも見えてしまった。


 ゲンタの顔は気のせいではなく赤かった。



 思わずクスッと笑ってしまう皐月だったが、ゲンタが意地を張って照れを隠そうとしてるんだから、ココは気づかない振りをしてやろう。


 話題を変えるべく、皐月は残る一人に声を掛けるコトにした。



「……こんだけいい子たちが労いの言葉をくれてるんだ。

 アンタもアタシを労ってくれたってバチは当たらないんじゃないかい? アイ。なんか言葉をくれよ?」



 皐月はアイに声を掛ける。





「このじかんまで、ごはんをたべないでいる………


 しょくじをわすれて、そうさにぼっとうしている おかっぴきのかがみ とでもほめてほしかったか……わらわせる。




 おかっぴきはからだがしほんだろう。たいちょうかんりも、しごとのうちだ。それで、たおれたら ほんまつてんとう だな、おろかものめ。」




 


 辛辣な言葉でお叱りの言葉を頂戴してしまったのだった。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーー



「おひるもわすれてのそうさ……なにか、やっかいなじけんですか?」


 場の空気を変えるべく、眼鏡のコウイチが皐月に質問を投げ掛ける。


「……あんまり怖がらせたくないんだけどね。

 若い女性が次々に拐われてる。


 しかもまだ犯人が見つかってないんだ。」


 皐月はコウイチを見ながら質問に答える。


「ゆうかいですか……なにかてがかりはみつけたんですか?」


「いや、それがな…

 無差別に、若い、美人と評判の女性ばかりが誘拐されてる。

 本当にアトランダムで誘拐される女性に法則も共通点もないから参ってるところさ。」



 皐月は正直に答えた。

 コウイチは伊達に眼鏡を掛けてないのか、四人……いや、五人か、

 ともかくこのグループの中で、一番頭がいい。

 ……毒舌に関する語彙と頭の回転なら、アイの方に軍配は上がるのだが。



 ちなみにそう考えながらアイの方に眼をやると、


 俯きながら「ゆうかい……」と呟いていた。



「……こういうばあい、はんにんのきもちになってかんがえてみるのも、ひとつのてではないでしょうか。


 どういうじょせいをさらいたくなるのか、それをかんがえてみて、はんにんのこうどうパターンをよそうしてみるんです。」



 コウイチの発言に、アイ以外の三人の幼児が「おおぉ」と声を上げた。



 どや顔のコウイチにゲンタや春菜、おリカが羨望の眼差しを送る。

「やるじゃねえか、コウイチ」

「プロファイリング、ってやつですよ。」

「かっこいい!!」

「すごいよ、コウイチくん」

 と子供たちは盛り上がっていた。



 ちなみにコウイチの意見だが、それは犯人が単独犯だった場合なら、あるいは有効な考えだろう。


 だが残念ながら今回の事件の誘拐実行犯は複数名。

 しかも何か共通の条件を満たす女性を狙っているワケではなく、本当のアトランダム……。


 申し訳ないが使えない意見だ、と皐月は思った。



 まあ五歳児に言ってもしょうがないし、そもそも犯人が組織立った複数犯だとは皐月は口にしていない。

 それならばこういう回答でも当然だし、むしろ五歳でそれだけの考えを捻り出せることがスゴいコトだろう。


 せっかく周りから尊敬されている空気になっているんだ。

 言わぬが華、皐月は苦笑いを浮かべながら黙っているコトにしたのだった。



 賑やかな空気になっている子供四人を尻目に、アイが珍しく考え込んだ表情で黙っている。

 余談だが、()()()()()()この娘は上等なお嬢様に見える。



「どうした? アイ」



 皐月は黙り込んだアイを気に掛け、声を掛ける。



「もし……」

「?」


 深刻そうな表情でアイは話し始める。





「もしわたしがさらわれたら……

 さつきはたすけてくれるのか?」




 突然の発言に、皐月は面くらい、珍しくアイが冗談を口にしたのかと考え軽口で返す。




「なーに言ってんだ。若い美人の女性ばかり、って言ったろうが。

 お前みたいなチンチクリンの幼女を拐う物好きが何処に……」




 と、ここで皐月は気づく。

 アイの表情が真剣だったからだ。これは冗談なんかで尋ねてきたワケじゃない。

 

 何か意図があって、真面目に皐月に聞いてきている。



 皐月は顔を引き締め、アイを正面から見つめると、静かに、ゆっくりと、

 しかし力強い声で語り掛け始める。



「………助けるさ。必ずな。」


「……さつきはいつもわたしにおこってる。

 そんなわたしでもか?」

「当たり前だ!」



 

 アイの発言に、皐月は食い気味に言葉を被せる。


 その声の大きさから、アイは少し身体を強張らせた。

 他の四人も皐月のその声でこちらに一斉に振り向く。



 皐月は屈むと、アイの両肩を掴み、アイの眼を見て話を続ける。



「悪い、大きな声出して。


 ……助けるさ、必ずな。

 約束してやる。

  

 何処に連れていかれても、このアタシが、絶対に助けに駆けつけてやる。」


  

 アイは皐月から眼を逸らし、顔を背けながら答える。




「……おとなのいう”やくそく”はしんじられない。

 おとなはへいきでウソをつくし、かんたんにやくそくするくせに、へいきでやくそくをやぶる。」



 アイは少し、泣きそうな顔で呟いた。



 この娘は何かを知っているのか。

 知っていて、口にしたいけど、誰に言っていいのか分からず困っているのか。


 信頼できる、頼れるものを求めているのか。




 信じたいけど、信じられない。

 そんな迷いがアイの表情からは読み取れた。



「アイ……何か知ってるのか?」


「………なにかしらないと、

 なにかをわたさないと、たすけてくれないのか、おとなは。」



 その言葉を受け、皐月はアイの両肩から手を離す。


 アイが「あっ……」という呟きと共に慌てて顔を皐月の方に向けると、そこには皐月の笑顔があった。



「大人、子供と歳に関係なく、アタシら友達だろ?

 友達なら対価なんかいらないだろうが。


 困ってるなら助ける……当然だろうが。」



 皐月はアイの頭を撫でる。

 普段のアイならば、その手を払いのけるところだろうが、今日はされるがままにさせていた。




「……じけんについてはなにもしらない。

 でもきいててこわくなった。


 わたしがゆうかいされたら、だれがたすけにきてくれるんだろう……って。」



 頭を撫でられながら、アイは続けた。

 この娘には、この娘の悩みがあるのだろう。


 考えてみれば、いくら大人顔負けの毒を吐くといってもまだ五歳だ。

 幼児の心には受け止めきれない悩みや不安を抱えているのかもしれない。


 ……親や家族、プライベートで何かあるのか。

 そう言えばアタシ、この娘の家庭について何も知らないな、と気づく。



「アイ。

 家で何かあるのか?」



「………なにもない。」



 嘘だと気づくが、皐月はそれを追求しない。

 無理に聞き出そうとしても、きっとこの娘は答えないだろう。



 だから皐月は代わりにという意味を込めて、アイの両手を掴むとそれを自らの両手で包み、アイの眼を見ながら発言した。



「言えないなら言わなくてもいい。

 けど忘れるなよ、アタシはアイの友達だ。

 アンタの身を心配する友達の一人だ。


 アンタに何かあったら絶対に助けに行ってやる。」 


「……”やくそく”なのか? けど……」


 

 アイの表情に再び陰りが浮かぶ。

 ”約束”という単語に、何かしらのトラウマがあるのかもしれない、と皐月は感じていた。



「”約束”って言葉で信じられないんなら、

 ”誓い”でも”誓約”でも、なんだっていいさ。

 アンタが安心出来る言葉の物を取り交わしてやる。


 なんなら念書でも起こすかい?」


 皐月が笑みを溢しながらアイに告げる。



「………こどもあいてにそんなものをおこそうとするな、おろかものめ……」


 そう口にしたアイだったが、心なしかその言葉に悲しみの響きは含まれているようには感じられなかった。



「じゃあ念書は書かないよ。


 けど、困ったらアタシに言え。助けるって誓った。

 だったらアタシはアンタを全力で助けるだけさ。」



 皐月は屈んでいた身体を持ち上げると、深刻に見守っていた他のメンバー全員を見ながら続きを口にする。



「お前らもだぞ。

 皆、アタシの友達なんだからな。

 

 困ったら助けるさ、だから困ったら口に出して言え。

 ”助けて”って口に出されないと、助けていいのか分からない

 アタシに直接でも、他の誰かにでもいいさ。


 困ったら声に出せ。

 聞いたヤツはアタシに伝えろ、アタシは駆けつける。


 いいな!!」



 うん! と皆いい声で返事をする。

 皐月はゲンタたち四人の元に歩みより、笑顔を向けた。



 そんな皐月の背中を見て、アイは一人、言葉を呟く。




「………かんたんに”ちかう”とか”ぜったい”とかくちにするな、おろかものめ。


 ……しんじたくなるだろうが、ばかもの……」




 そう呟いた幼女の顔には、うっすらと笑みが浮かんでいたのであった。







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