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疾風堂々!ダイアレスター ~オエドタウン岡っ引き小町捕物帖~  作者: 発素勇気
第1幕「オエドタウンの守り神」の巻
3/88

其の1「岡っ引きの日常」

先に「序幕」が投稿されています。

併せてご一読願います。

どうぞ宜しくお願い致します。

 舞台はオエドタウンの町人街。

 市井の人々が生活を送る、木造の平屋が立ち並ぶ一角。



 物語は、この中の一軒から始まる。



 お日様も昇り、人々が一日の活動を始めている中、

 一人の少女も起床し、その日の活動を始めていた。

 寝室の窓を開け、まずは天気の確認をするのが彼女の日課。


「お天道様がよく見える。今日もいい天気だ。」




 彼女の名は間宮皐月(まみやさつき)、この物語の主人公である。




 ラフな寝巻きの格好のまま、寝室のある二階から一階に降りると、まずはある部屋に入り、部屋の一角を目指す。


 それは仏壇。

 線香に火を付け、お鈴を鳴らし、手を合わせて挨拶する。


「おはようじっちゃん、おっかさん…

  今日も一日頑張るよ。」


 現在(いま)は亡き家族に挨拶を済まし、寝巻きのまま台所へ。



 さてここはオエドタウン。

 電気も通っていれば、水道も完備されている。

 顔を洗い、朝食の支度。

 ガスコンロも電子レンジも活用し、まずは一日の活力源の確保。


「やっぱりミヅホ人は米だよな。じっちゃんもおっかさんも言ってたし。」


 余談だが、この世界、もちろんパンもある。

 が、皐月はご飯党。

 まあこの辺は育ててくれた家族の影響。

 別にパン党をバカにしていないし、ミヅホ人は米しか食べない……なんてことは当然なし。


 朝食を済ませ、歯磨きやら、着替えやら、

 朝の身支度を整えると、そこには仕事モードの皐月の姿。


「んじゃ、じっちゃん、おっかさん。行ってくるよ!」


 こうして彼女の一日が始まる。





ーーーーーーーーーー





 間宮皐月は岡っ引きである。


 町奉行配下の同心から任命された、同心個人の部下。

 役人扶持ではなく、あくまで町人。


 皐月の場合はとある同心の部下扱いであるのだが、結構縛られずに自由に活動している。


 自由に活動していることは上司の同心も、更に上役の町奉行も許可を出しており、とくに町奉行は皐月の活動に便宜を図っている。

 それには、皐月の個人的な事情も関わっているのだが……


 

 比較的自由に活動している皐月。


 奉行所から事件の捜査や依頼が舞い込まない限りは、こうして街を見回るのが彼女の日課であり、仕事である。

 ……日課なんていうと散歩のような語弊があるから、パトロールとでも言い直そうか。


 まあ言葉はともかく、

 街に異常はないか、トラブルは起こってないか、

 人々の生活は平和なのかを確かめるのが彼女の平時の仕事。


 よく躍起になって、トラブルは起こってないかを探すことが仕事になっている、目が血走っている同心や岡っ引きがいるが、それは間違いだ。


 確かにそういう事件をたくさん見つけて、たくさん解決すればポイント稼ぎになるし、上司からの評価に繋がるかもしれない。

 出世のチャンス、あるいはお給金の査定に繋がるかもしれない。


 でもそれはイコール「事件が起こって欲しい」と暗に願う行動である。

 自分の欲のために、誰かの不幸を願う行為だ。


 岡っ引き(じぶん)の仕事は平和を守ること。


 市井の人々が笑顔で日々の生活を送り、ささやかな幸せを享受する。

 この日常を守ること。




 ”何も事件がなければそれでいい。

  いや、()()()いい。

  暇で身をもて余す。これ 平和の証拠だ。”




 今は亡きじっちゃんの言葉が皐月の頭をよぎる。




 目的を履き違えてはいけない。


 誰かの平和を守るため、その平和を邪魔するトラブルを排除する。誰かの平和の手助けをする。

 そのために岡っ引きは存在するし、そのために自分は存在している。



 そんなことを考えながら、皐月は町の笑顔たちとすれ違っていくのであった。




ーーーーーーーーーーーーーー



「おや、皐月ちゃん、おはよう。」

「おチカさん、おはよう!」


「おう皐月ちゃん、今日も元気だな。」

「元気じゃないとオエドタウンの平和は守れないからね! 辰蔵さん!」


「お梅さん、腰の調子は大丈夫?」

「あらさっちゃん、今日は具合がいいわ。」


「よ、岡っ引き小町。調子はどうだい?」

「おう、アタシも町も調子いいよ! 権助さんは娘さんと仲直り出来た?」

「おう、岡っ引き小町のおかげでな! ありがとよ!」


「皐月坊、今日は新鮮な魚入ってるよ、どうだい?」

「いいねえ、あとで寄らせてもらうよ!」


 知り合いに声を掛けたり、掛けられたり……


 じっちゃんの跡目を継いで岡っ引きとなり幾月々、

 町の人々は皐月を町の顔と認めており、

 皐月の姿を見かければひと声ふた声、挨拶をするのが普通となっている。

 

 挨拶をすることは平和の確認。

 相手の顔を見れば、異常があるかないかも確認できるし、

 姿を見せなければ、その人に何か変わったことが起こっているかと推察し動くことが出来る……


 と、いう岡っ引きの心得のようなものに乗っ取った行動といえるのだが、

 皐月自身、こうして見知った顔と挨拶をすることを好んでおり、

 理屈抜きで挨拶して回っていたりする。


 が、岡っ引きらしい行動も忘れたりはしない。





「やあ一造(いちぞう)さん、景気はどうだい?」



 皐月が顔を出したのは一軒の屋台。

 ちょっと変わり者の店主がやっている、風変わりな料理屋台である。


「おう皐の字(さつのじ)、いらっしゃい。

 ん~……今日はイマイチかな?」


 一造と呼ばれたこの店主がやっている屋台。

 どう風変わりかというと……


「で、今日は何 売ってんの?」


 やる内容がコロコロ変わることで有名なのである。

 蕎麦やラーメンは定番として、おでんや焼き鳥、かき氷、

 タコ焼きやお好み焼きなんてのもあったし、

 サンドイッチやらホットドックやらもやってたし、

 変わり種と称して、サラダバーをやってたのは記憶に新しい。


「今日はドリンク系でな。選べる花茶、ってのをやってる。」


 なんでもホットもコールドも選べるとか。

 ジャスミンやら、カモミールやらのメジャーどころから、

 はとむぎ茶やセンナ茶といった、どこぞの漢方屋か?と思わせるようなラインナップで販売していた。


「……アイディアは面白いんだけどさあ、わざわざ屋台で買うか?

 自販機やスーパーで買えるだろ、こういうの。」


 呆れ顔で述べられた皐月の感想。


「うん、三組のカップルにおんなじコト言われたわ。」


 既に言われていた意見のようである。

 どうも腑に落ちない様子で、「でもそれ言ったら、屋台の食いモンって究極、なんでもスーパーで買えちゃうじゃん…」などと、ブツブツと呟いていた。


「んじゃあ、気の毒な一造さんの屋台の売り上げに貢献するか。一杯頂戴な。」


 中年に片足を突っ込み始めた男のへこみ具合を気の毒に思った少女は、ささやかな提案を申し出る。


 すると一転、この商売男。

 先程までのテンションの低さがウソのように、元気を取り戻す。


「よ、流石 皐の字(さつのじ)! 優しいねえ!!

 んじゃ、この端から端まで試してもらって……」

「それ、試飲、って意味じゃねえよな。

 金 取るって意味入ってるよな。

 一杯だけ、つってんだろうが。」


 ピシャリ、とツッコミを入れ、店主の何処まで本気なのかやや不明瞭な発言をかわし、飲み物の注文に入る。


「まあしょうがないよね、なんにする?」

「しょうがなくねえからな?

 普通のコトしか言ってねえからな?


 ……アタシ、花 全然分かんないんだよね。

 オススメは?」 


 いや、ボケはもういいから、と、

 ツッコミ疲れた皐月は、やや投げやりに質問で返す。


「どんなの飲みたいか、にもよるねえ。

 甘いの苦いの酸っぱいの……

 色とか香りの好みでも注文出来るし、

 あとは……

 リラックスしたいとか、美肌効果が欲しいとか、

 そんなザックリしたリクエストでもいいよ?」


 なんだかんだで商売人の一造。

 注文選びの中々に的確なアドバイスを入れる。


「じゃあそうだなあ。

 なんか”元気 出る”ヤツ。」


 一造のボケに疲れてた、というのもあるが、

 リラックスやら美肌やらにピンと来なかった皐月は、

 元気が取り柄の、”如何にも自分らしい注文だな”、と言ってから気づく。


「あいよ!

 んじゃ、皐の字のイメージも合わせて……

 これだな。」


 出てきたのは、透き通るような真っ赤なドリンク。

 紙コップの底も見えるほど澄んでいる。

 

「なんだい? コレ。」


 一瞬、元気が出るドリンクで、赤い飲み物なものだから、

 スッポンかなんかの血かと思ってしまった。

 が、漂う花の香りに”花茶”を注文したことを思いだし、気を取り直す皐月。


「ハイビスカスティーだ。

 元気が出る効能がある。


 まあ、ハイビスカスティー、って言っても、

 あの花からお茶作ってるワケじゃないんだが…

 赤で、ハイビスカスは皐の字にピッタリだからな。

 酸っぱいから気を付けてな?」


 なんだかんだで真面目に、自分のリクエストに応えてくれた一造の仕事振りに、頬が緩くなるの感じる皐月。


 財布から小銭を出し、一造に手渡す。


「あいよ、いただきます。」

「まいどあり、皐の字!」


 この男の料理は、何を作らせても「不味い」とか、「口に合わない」といった感想が出たことが一度もない。

 なので口にする際に気にすることは、一造が言った「酸っぱい」という一点だけだろう。


「……くぅぅ~。 なるほどね。」


 なるほど確かに、これは酸っぱい。

 けれど決して不快な感覚ではなく、花のいい香りもあいまって背筋が伸びるような、

 シャキッと元気が出る、そんな味だった。



 さて、元気が出たところで、

 ここに来た目的を済ませようか。

 皐月は気を取り直し、笑顔で用件に入るのであった。


「ところで一造さん……」



「其の2」はこのあと朝9時頃、投稿致します。

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