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其の3「美しい物、素敵な物」

実は前回の話、書いた物を二つに分けたんです。

書き上がったのを見たら六千文字オーバーしていたので(汗)

(=ここまでが其の2でした。)


なので分けた結果、ちょっと短く感じるかもしれません、ご容赦を!(汗)

「………なるほど。おおよその事情は把握しました。」


 皐月がクタクタなりながら用件を伝え終えると、睦月は内容を噛み砕くようになんども頷き、顎に指を付けながら発言した。


「まあ皐月の思惑通り、捜査打ちきりの撤回なら和公守さまに願い出るのが一番でしょうね。」


 そう発言した後、睦月は皐月をじっと見据える。



「? どうしたんだい? 睦月。」



「確認ですが皐月。どうしてこんな回りくどい方法を選ぶのですか?」


「なんでって………」


 皐月は睦月の問いにたじろいだ。

 自分はなにか間違った選択を取ろうとしているのだろうか。と不安になる。


「捜査の打ち切り撤回を申し出なくとも、ヒーロー(あなた)が勝手に動いて独自に解決させてもいいではないですか。


 で、有無を言わさず、事件解決の事実を突きつける。

 結果、連れ去られた女性たち()助けられる。


 それで問題はないですし、充分だと私は思いますが………」



 睦月が確認したかったことは、既に先程皐月が考察済みで却下にしたコトの蒸し返し。

 つまり、論点は、


 ”何故笹野のコトに拘る?”


 というものだった。



 皐月が考え、和公守に頼らなければいけないと思った最大の理由は、突き詰めれば笹野(それ)だった。

 皐月は笹野に捜査に加わって貰いたく、笹野の手でこの事件の幕を引いてもらいたい。

 ここに拘るため、端からみると、しなくてもいい行程を増やしている、とも取れた。




 だから睦月は皐月の口から聞きたかった。


 ”何故笹野に拘るのか?”というコトを。







「……睦月はさあ、誰かに本気で惚れたコト、ある?」







 ”私に愛の告白ですか?”と茶化そうかと一瞬思った睦月だったが、思い止まる。

 そう口にした皐月の表情が固い、真面目な物だったからだ。



「………生憎、恋愛には縁遠いものでしてね。」



 睦月は真面目な表情で返した。口許だけうっすらと笑みが浮かぶ。


「それはアタシもさ。

 お互い()()()()()()は、恋愛事(こんなこと)を考える必要もない環境にいたせいも影響しているのかもしれないけどね。」


 皐月は苦笑する。



「………本気で()()()()()って経験ならしてるんだけどな。」



 皐月は目を伏せ、足元を見る。


 ふと思い出していた。とある人物のコトを………。

 ……それは皐月にとって思い出したくない、けど忘れられない、忘れてはいけない、苦い思い出。



 睦月もその人物のコトを知っており、皐月が恐らく現在(いま)思い出しているであろうコトにも検討がついていた。



「皐月。」



 睦月は皐月に声を掛け、過去から現在に皐月の心を呼び戻す。

 睦月の心配をする声に、皐月はハッと気づき、話題を戻した。



「ごめん、つい思い出しちゃって………」


「……()()()と関係があるんですか?」


「いやごめん。今回のコトは()()()とは関係ないんだ。悪い。」



 皐月は慌てて手を振り、撤回した。



「その……さ。


 多分、笹野さんさ。

 大岡さまのコト、本気で惚れてるんだと思うんだ。」



 糸目の睦月の右目がほんの少しだけ開く。



「惚れた男の迷惑になってしまうから、って動けなくなるほど悩んでさ………

 かといって被害女性たちを助けたい、って気持ちは本物で………


 辛くて苦しんで、普段あんなにキリッとしてるのに、それを忘れさせるような涙をみせてさ………」



 地面に向けていた視線を皐月は再び睦月に向ける。



「被害女性を見捨てる、って、同心としては恥ずべき行為なんだろうけどさ。

 本気で惚れる男の身を案じての決断だったんだ。


 アタシはあれを咎められないよ」



 皐月は睦月を見据える。



「なあ睦月……

 人ってさ、本気で惚れたら、他のコトは二の次になるのな。


 他の人間のコトも、自分の立場も、自分の命でさえも。

 自分の全部を、すべてを、相手に捧げられるもんなんだな。」



 ”……私()()がクビを切られるのなら捜査を続けるさ。

 だが、今回のコレは、私の進退だけでは済まない……



 私の身勝手な行動のせいで、あの方が役職を辞されるコトになってしまったら………

 ………私は……”


 笹野はそう口にした。


 ”……連れ去られた女性たちを助けたい、

 この気持ちは本物のはずだった…………


 だが、私は、大岡さまに迷惑を掛けてしまうコトを最も恐れてしまっている……


 被害に遭っているであろう女性たちよりも、

 上司の進退を気にし……… 見捨てようと………”


 笹野は確かにそう口にした。



「惚れた男のために、自分の信念よりも男を取って泣きながらそう決断したんだ。


 誉められる行動ではないコトは承知してるさ。

 本人も罵って軽蔑してくれ、って泣いてアタシに訴えてたさ。



 けどね、睦月………」



 皐月はそれを受けて、こう思った。







「アタシはそれを、美しい、と思った。」



 



 笹野の選択はよくないコトだと、岡っ引きとしても、ヒーローとしても思わなければいけないものだろう。

 被害者を見捨てて、男に走ったわけなのだから。



 だが、皐月はそれを咎める気持ちが失せた。

 本気で惚れた男の進退を案じての選択だったからだ。


 力のないものが、無慈悲に、自分の力ではどうしようもない難題をつきつけられ、しかも場合によっては、自分ではなく、惚れた男に迷惑を掛けてしまう………



 そのために流した涙。



 被害に遭っている、誘拐された女性たちとその関係者……家族や友人たちからすれば「ふざけんな」と罵られて然るべき行動だ、これは。



 被害女性たちに申し訳ない、という慚愧の念にかられた涙。

 恨むのなら自分を恨んでくれ、という悔いの涙。



 惚れた男のために、苦渋の選択をした結果の涙。




 心を持った者ならば、それを見て心動かされるものだろう。


 あるいは皐月が女だったからなのか。

 同じ女として、”あるいは笹野の選択は、女だったら普通にとってしまう選択だ”と心の何処かで共感してしまったのか。




「もしアタシが男だったら、あんな惚れられたら落ちるね。

 あんな一途に想ってくれるいい女………」



 

 だから助けたい、と強く思った。

 本気で惚れた女の姿をこの眼で見たからこそ、自分の無力さを嘆いた”いい女”の苦悩の姿を、

ちからを持つ自分の手で、助けたい、と。



 そして、



「確かに、被害女性たちのコト()()を助けようってんなら、睦月の言う通りアタシ一人で充分さ。

 和公守さまの手を煩わせる必要はない。」


 幸い笹野の傍には皐月(じぶん)がいた。

 この町にはヒーロー(じぶん)がいた。



 彼女たちを救出する、という点では憂いは一切ない、

 けれど―――





「けどアタシは、あの笹野兵衛(いいおんな)も助けたい!


 このままアタシの力だけで終わらせたら、絶対笹野さんの心に遺恨が残るよ!!

 それを無くしたいんだ!!!」


「アタシのこの選択、間違ってるか?」と皐月は締めた。





 皐月の演説に、口を挟まずにいた睦月。

 腕を組み、考え込むようにしていたが、それは果たして何秒のことだったのか。


 返す回答、結論が決まったかのように口を開く。



「我々はその実、和公守さまに仕える組織と()()はなってます。謂わば主君ですね。

 仕えるべき主君に、逆に我々の都合でそのお手を煩わせるワケですから、納得のいく理由が必要です。


 皐月、貴女の言い分は、自分でも言ったように私情に走った物です。

 本来しなくても済むコトなのに、敢えて私情でそれをする。しかも主君を巻き込んで………。」



 そこまで考えてなかった……と、皐月は顔を青くし始める。

 やっぱりまずかったか、という考えが頭を過る。


 が、睦月は言葉を続けた。



「本来は宜しくありませんが、しかし、私個人としては好ましい考えでした。

 以前も言いましたが、”機械的な任務の遂行”よりも”感情に走った行動”の方が尊く、素敵なものです。」


 呆けて聞いていた皐月、しかし……


「それじゃあ……」


 頭の中で、睦月が言わんとするコトを噛み砕く内に、ようやく発言の意味が伝わり、皐月が笑みを浮かべる。



「翁には私から上手く伝えましょう。

 皐月、貴女が被害女性は勿論のコト、笹野(かのじょ)のために動くというのなら、私は貴女のために動きましょう。」


「こちらのコトは任せなさい」、と睦月は穏やかな笑顔で締めた。




「ありがとう、睦月。」


「兄ですからね。」




 「兄じゃないだろうが」、と皐月も笑顔で返す。 

 







「皐月、そこまで宣言していろんな方を巻き込むんです。

 全部まるごと、救ってみせなさい。」



「おう!!!」




 睦月の言葉に、力強い笑顔と言葉を添え、皐月は右拳を睦月に向けながら答えるのであった。








 

言いたいことは決まってるのに、いざ文章にすると上手く書けない(汗)


特に惚れたはれたは難しいです(大汗)


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