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其の1「女同心 笹野兵衛」

〔さあてお待たせしました皆々様!!

 

 お待ちかねの第2幕、幕開けなのでございます!!!


 人差し指と中指で、

 二を表せば、それはブイ!!!


 勝利を表すブイサイン!!!


 ヒーローよ!

 2幕も勝利で決めてくれ!!!


 ブイブイ行こうぜ第2幕!!!



 あ! 始まり、始まり~!!!!〕

 ヒーロー、ダイアレスターがトカゲもとい、ドラゴンメカ=西龍1号を撃退して二日が経った。


 まだ二日、されど二日。

 避難していた人々は事件当日には復興を始め、その逞しさを見せつけていた。

 幸い人家が密集する居住区、町人エリアではなく、商業店が立ち並ぶ商店エリアであったことも不幸中の幸いであったと言えよう。


 死人は出ず、大きな怪我人も出ず、住む家を、帰る家を失った、という辛い人間が出なかったコトは大きい。

 店が破壊され、商売上がったり………という気の毒な者は多々いたが。

 そこは”命あっての物種”だと、思って貰おうではないか。



 とはいえ、そこはタフさが売りのオエドっ子たち。


「二日もあれば”摘まれたモヤシも再び芽を出さあ”」と悲しみの感情も吹き飛ばし、商魂逞しく、中にはゴザやシートを敷いて、そこに商品を並べ、物を売る、なんて根性を見せる。


 ”オエドタウン魂、ここにあり。”という姿勢を見せつけられるのであった。




 さて、主人公 皐月は、というと、

 この二日は事後処理やら、復興の手伝いやらに追われ、てんやわんやであった。


 変身スーツのメンテナンスに、開発者 弥生の元に顔を出せば、「また無茶しやがって」とガミガミお小言を貰い、


 どういうワケか、睦月が作った借りを自分が返す羽目になり、仲間である水無月と文月の元へ顔を出した結果、それぞれの雑用(二人の表向きの仕事の手伝い、主に復興の手伝い、力仕事)を手伝わされ、


 さらには、勝手に町奉行の名を使って上司笹野を説得した、と聞けば、口裏合わせに、町奉行の元に走りお願いをしたり………


 と、中々にせわしない二日間だった。



 余談だが、町奉行は皐月の裏の仕事、つまりヒーロー活動のコトは承知しており、

 皐月が頭を下げに来たときには、


「そんなこと気にしなくていい。自分の名前を出して物事がスムーズに片付くのならいくらでも使うがいい。」


 と笑いながら許してくれ、労いの言葉まで頂戴してしまった。



 睦月始め、仲間のどいつもこいつもが自分勝手な連中の中、町奉行の優しさに、皐月の眼にちょっと涙が浮かんだのはここだけの話である。




 ………いや、仲間も皆、皐月のために動いた結果の言動なワケなんだが。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



 さて、そんな多忙な事後処理をようやく片付け、皐月は現在(いま)、番所にいた。

 皐月の表の仕事、岡っ引きの上司である笹野に会うためである。


 そう、笹野が追っている”連続女性誘拐事件”の捜査の進捗を確かめ、その捜査に加わるつもりだった。


 ………のだが、





「捜査の打ち切り!? なんで!!」


 笹野の口から飛び出したまさかの発言に、皐月は思わず声を上げてしまう。


「………幕府(うえ)からの圧力らしい。

 今朝、辞令がきた。」


 そう口にする笹野の表情は暗い。


「……ここに来る前に大岡さまの所に顔を出して来たけど、そんなコト言ってなかったし、そもそもそんな素振り欠片も見せてなかったよ。」


 皐月に見せたあの笑顔は心からの笑顔ではなかったのか。

 腹に逸物を抱え、それを窺わせずに、自分に労いの言葉を告げたのか。



 いや………、




兵衛(ひょうえ)のコトも、宜しく頼む。 これからも助けてやってくれ。”



 思い返せば、町奉行=大岡さまは別れ際、自分にそう告げてきた。

 それを受けて、皐月はその足で笹野のいるであろう番所に顔を出そうと思ったのだ。


 

 もしや遠回しに、自分に指示を出していたのか。





「いや、勘助さまは関係ない。

 通達は北町奉行から同心を通してこちらに来た。」


 

 皐月の先の発言に、笹野はフォローを入れる。 


 

 この広いオエドタウン、

 当然一つの奉行所のみで治安を維持しているわけではない。


 オエドタウンを大きく四つに分け、東西南北、四方向にそれぞれ奉行所を設置している。


 皐月たちが所属し、町奉行大岡勘助(おおおかかんすけ)が仕切るのは”南町奉行所”。

 此度の辞令は、北町奉行所が出し、他の三つの奉行所並びに同心たちに通達されたものだったワケだ。


「そんなの北町奉行が誘拐事件と繋がってる、って言ってるようなもんじゃないか!

 それどころか幕府内部にもそれを黙認するどころか、悪事の手助けをする輩がいる、って公言してるもんだろ!」


 皐月は興奮のあまり、座っていた椅子から立ち上がる。

 座っていた椅子はその勢いで、横倒しに倒れてしまった。



「……滅多なコトを口にするな、皐月。そんな証拠は何処にもない。

 想像だけで決めつけるような発言は控えろ。」


 笹野は立ち上がった皐月の顔を見上げる形で諭す。


 本当は笹野も皐月と同意見なのだろう。

 宮仕えの身分故、町人である皐月を口では諭しているワケだが、その瞳には怒りの感情が籠っていた。

 それは決して、皐月のともすれば無礼にあたる発言を咎めての怒りなのではないだろう。


「こんな通達、意味ないだろ!

 犯人捕まえて吐かせれば、真実はお天道様の元に曝されるさ!

 無視して捜査を続けようぜ!!」


 皐月は捜査の続行を提案する。


 だが、笹野の回答は………




「………ダメだ。直属ではないとは言え、上司にあたる町奉行からの正式な辞令だ。


 例え仮に北町奉行が幕府上層部に泣きついた形にしろ、

 あるいは逆に幕府官僚の誰かが、捜査の手が伸びるのを恐れて北町奉行を動かしたにしろ、

 いずれにしても、この辞令は幕府からの命令の形をとっているワケだ。


 役人としては破るワケにはいかない……。」



 回答はNO。眼を伏せ、俯く笹野。

 それに対し、怒りの言葉を笹野に向ける。


「こんな辞令クソ食らえだ!!! 町方は幕府のために働くのか!?

 違うだろ! 市井の民、町人のために動くもんだろが!!!」



「法は、ルールは守るためにある。

 ルールを破れば、それは秩序の崩壊に繋がる。


 役人はルールを守ってこそ、権力を振るえるのだ。

 ルールをポンポン破れば、権力をかざして傍若無人な振る舞いが蔓延り、やがては………」


「言ってるコトおかしいぞ! 笹野さん!!!

 それは正しいルールの中での話だろ!!


 今回のコレは、ガキが見たって分かるレベルで、辞令の方が間違ってる!!!!

 こんな辞令を守ってやるコトこそ、秩序の崩壊だろうが!!!」



 業を煮やした皐月は笹野の胸ぐらを掴み、怒鳴りこむ。

 が、笹野は決して皐月に眼を合わせようとせずにいた。



 

 何かがおかしい。笹野は正義感の塊のような人物だ。

 確かにルールを大切に重んじるお堅い性格で、ともすれば頑固とも取れる言動は取るときもあるものの、


 熱い心を持ち合わせ、特に女性が被害者に回った事件には揺るがない絶対の信念を見せるのが、笹野兵衛という人物じゃなかったのか。





 

”女が物のように扱われる、これが堪らなく私は悲しい……”

 






 二日前、ここ、この場所で、

 拐われた女性たちを思い、沈痛なおもむきで口にしたあの言葉は一体どうしたのか………。




「……仮に辞令を無視して捜査したらどうなる?」




 皐月は笹野の胸ぐらを掴んだまま訊ねる。



「………幕府からの正式な命令だ。

 破った役人は、関係者全員、クビ(お役御免)だな。」



 合点がいった。

 笹野は()()()()を気にして、捜査から手を引こうとしている。


 皐月は笹野の胸ぐらから手を離し、その言葉を告げる。







「………大岡さまに迷惑が掛かるコト、気にしてんのか。」




 


 

 笹野の眼が見開く。

 が、すぐに眼を細め泣きそうな表情に変わった。




「……私()()がクビを切られるのなら捜査を続けるさ。

 だが、今回のコレは、私の進退だけでは済まない……



 私の身勝手な行動のせいで、勘助さま(あの方)が役職を辞されるコトになってしまったら………

 ………私は………」


 椅子からズリ下がり、床に座り込んでしまう笹野。




 

 笹野はかつて、かどわかしに遇いそうになった危機に、町奉行=大岡本人に助けられ、その恩に報いるため同心になった過去を持っていた。


 市井の民のために。

 特に女性のために戦う、彼女のその姿勢は嘘ではない。




 だが自らの同心としての出発点、原点は”大岡勘助のため”。

 それが根底に根付いていたのだ。



「怒ってくれ皐月。

 罵って、軽蔑してくれて構わない……


 皐月、私はな、自分で自分に呆れている……」


 俯く笹野。前髪で隠れ、彼女の目元は確認できない。


 髪の上から額に手を当て、頭を左右に振る癖……

 笹野が物事に呆れたときに取る癖だ。




「……連れ去られた女性たちを助けたい、

 この気持ちは本物のはずだった…………


 だが、私は、大岡さまに迷惑を掛けてしまうコトを最も恐れてしまっている……


 被害に遭っているであろう女性たちよりも、上司の進退を気にし………

 見捨てようと………」



 ポタポタ、と水滴が床に落ちる。

 彼女のその声は泣き声だった。




「……大岡さまは、自分のクビ(そんなコト)気にしないよ。

 そんな懐の小さいお人じゃあない……。」


 皐月は笹野にそう告げる。

 が、笹野は顔を伏せたままだ。



「………お前に言われずとも分かってるさ……

 あのお方は構わないと口にするし、捜査を続行させようとするだろう……

 例え本当にそれでお役御免になろうともな……



 だが、あの方の奉行としての生命を断つのが私の行動だと思うと、私は動けなくなってしまう。

 あの方に引導を渡すのが、私だと考えてしまったとき、私は動けなくなってしまった。


 私は……」


 

 頭にクソが付いてしまうほど真面目な笹野にとっては辛い現実だったのだろう。


 憧れの存在。

 力になりたい、と血の滲むような努力をして同心となったきっかけの存在。


 町奉行 大岡勘助とは、笹野にとってはそれほど大きい存在だった。



 その憧れの存在の奉行生命を絶つに等しい行ないを自分がする……

 真面目な笹野には耐えられないコトだった。



「……捕まった女性たち、諦めるのか?」

 皐月は静かに笹野に訊ねた。



「……………。」

 笹野は答えなかった。

 答えられなかった、が正しいだろう。



 顔は俯いたまま。

 脱力してしまった両腕は床についてしまっていた。



 皐月は屈み、笹野の両肩を両手でバンッ!、と叩く。




「アタシがいる!!!」




 笹野は顔を上げ、皐月と眼を合わせる。

 その顔は涙に濡れ、今尚、頬を涙が流れ続けていた。



「笹野さんが動けない、って言うのならアタシが動く!!

 捕まった女性たち、アタシがきっと見つけてみせる!!!」


 皐月の発言に、笹野は声を荒げる。



「だ、ダメだ!!!

 皐月! それでも同じだ!!!!


 お前の行動でも、勘助さまの進退は………!」






 笹野の発言を遮り、皐月は彼女の口に人差し指を当てた。







「大丈夫。

 アタシは役人じゃなく、町人。

 同心じゃなく、岡っ引きさ。


 それに縛られず、自由に動ける岡っ引きだよ?」



  皐月は笹野に押し当てた人差し指を、自分の口に当てる。


 

「ここでトカゲの話をしたときに約束したろ?

 トカゲの案件、片付いたら笹野さん守ってあげる、って。」



 そのとき皐月は笹野に笑顔でいて欲しいと考えていた。

 図らずしも、再び同じことを考える。


 この上司には笑顔でいて欲しい。


 たまに見せる笑顔が素敵なのだから、それを覆い隠してしまうこの泣き顔を止めさせたい。


 

「……胸ぐら掴んだりして悪かったよ。」


 皐月は謝罪を口にし、笹野の着物の裾を正す。


「信じてくれていいんだよ。

 一人で苦しまないで、頼ってくれよ、笹野さん……」


「頼ったところで……

 この状況では……」


 再び眼を伏せる笹野。

 そうだ、気合いだけではこの状況は覆せない。



 皐月が動いたとしても、結果は同じ。

 命令違反を咎められ、結局は笹野が、ひいては大岡がクビを切られてしまう。

 それに変わりはないはずだろう。


 しかし、


「大丈夫! そうならない()()があるんだ!

 笹野さんは信じて私に任せてよ!」



 そんな笹野の考えを、皐月は笑顔で否定した。


 

”兵衛のコトも、宜しく頼む。 これからも助けてやってくれ。”



 大岡さまがどういう意図でこの発言を投じたのかは分からない。

 けれど、分かってて言ったにしろ、偶然の一致にしろ、アタシは今、大岡さまの願い通りに、ひいてはそんな大岡さまの進退を案じている笹野さんのために、



「(アタシは笹野さんを助けるよ!!)」



 そう決意し、皐月は笹野の両肩に再び手を置いた。


「笹野さんの()()、部下のアタシが確かに引き継ぐよ!!!」


「絶対悪いようにはしないからね」と皐月は結んだ。




 笹野は混乱したものの、ただひとつ分かったことに意識を傾ける。

 にっちもさっちも行かなくなってしまった自分を見捨てず、助けてくれると宣言する者がここに現れた。

 自分が手離そうと、諦めてしまいそうになった女性たちの命(もの)も拾い上げると宣言する者が現れた。



 根拠はない。

 どうやるのかも全く想像もつかない。



 だが、自分に向けられたこの言葉を、何故か笹野は信じられる気がした。




 ならば頼ろう。この少女を。


 ならば信じ、任せよう。この少女の選択を。

 被害に遭った女性たちの命の無事を。




 笹野は姿勢を正し、皐月に頭を下げた。





「すまん皐月。お前を信じる……

 頼む、助けてくれ。」




  

 自分を、上司 大岡勘助の進退を、そして女性たちの身を……。

 女同心は、部下である岡っ引きの少女に。


 ―――そうとは知らなかったが、この町のヒーローに。


 助けてくれ、と委ねるのであった。






 そんな笹野の願いに、皐月は笑顔でサムズアップを向け応えるのであった。












「(まーた方々(ほうぼう)に借りを作るコトになるな、こりゃ。返すのが大変だけど………



 笑顔のためなら安いもんさ!!!)」 










第2幕=第2話始まりました。

宜しくお願い致しますm(_ _)m

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