其の19「現在(いま)、必要なのは」
笹野の登場で、無事に香里たち、町人を避難させるコトに成功した皐月。
ひとっこ一人いなくなったこの町人街。商店エリアで唯一の人間となった皐月と唐丸。
互いに無言でにらみ合い、攻撃に向けるきっかけを探りあっていた。
沈黙を破ったのは唐丸だった。
「…威勢のいい啖呵を切ってくれたのはいいが、どうやってこの西龍1号に勝つ?
貴様の攻撃、この西龍1号に有効打を一撃も入れられていないコトを忘れるなよ?」
唐丸は表情に余裕を取り戻す。
先程はヒーローにしてやられはしたが、まだまだ優位に立っているのはこちらだ。
相手はこちらにダメージを入れられない。なので焦る必要はない……
笑みを浮かべ、ヒーロー=皐月をバカにするのであった。
「……やっぱり頭にくるねえ、そのツラ。」
皐月は眉をひそめ、その表情に苛立ちを加える。
そんな皐月に、遠く離れた天才少女が、マイク越しに話し掛ける。
「"なあに、だったらあの大トカゲをぶっ倒して、あの表情を驚愕に変えてやればいい。"」
弥生の声に余裕が生まれていた。
そう、町人たちが無事に避難した、というコトは、気兼ねなく"射撃装備"が使える、というコトだ。
「"とりあえず、憂いがなくなったワケだし、遠慮なく"射撃装備"が使えるようになったな。
"弓"でもいいけど、出し惜しみする意味はないだろ。
ここは武器最強の火力の………"」
と、弥生が上機嫌で提案する中、皐月がその発言を遮る。
「悪い弥生。 "銃"は使わないよ。
無論、"弓"もだ。」
「"な!?"」
まさかの皐月の宣言に、唐丸より先に弥生が驚愕の表情を浮かべる結果になってしまった。
「"どういうつもりだ、皐月!
まさか卯月の発言を気にしてるワケじゃないだろ!?"」
「"ふえぇぇ!?"」
突然引き合いに出され、卯月が間抜けな声を上げる。
もし先の「皐月の射撃の命中率が低い」という発言を気にしているのであれば、それは撤回するつもりだった。
が、
「ああ……そういやそんなコトも言ってたっけか。
けど、そんなのはどうでもいいさ。」
どうやらそれが理由ではないらしい。
「ここは”拳”でいく。」
皐月が提案したのは、近接戦闘用の打撃装備だった。
「””拳”!? 正気か、皐月!
初手、無手だったとはいえ、お前のパンチは全く効かなかったんだぞ。
だから、他の武器でいこう、って話になったんだろうが。それを忘れたワケじゃないだろ。
意味が分からん!!!”」
皐月の意味不明な選択に、通信機越しの弥生の声は戸惑いの色を見せる。
「”...ほぼ通用しないであろう、と、想像に難くない”拳”を敢えて選ぶ理由を是非、聞かせてくれ。”」
全く理由が想像できない弥生は、皐月に訊ねた。
「あいつらの顔面、思いっきりぶん殴ってやりたいからさ!
あのアタシらをバカにしたあいつらのムカつくドヤ顔に一撃ぶちこんでやらないと、アタシの気が治まらん!!!」
”ぶん殴ってやりたいから”
至極単純で、実にシンプルな、とても分かりやすい理由だった。
もっと理知的な、それっぽい理由が……
そう、先程の”刃”ではなく、あえて”棍”を選んだときのような、訳あっての選択かとも思ったのだが、今回は感情に走ったチョイスだったようだ。
と、呆れた弥生ではあったものの、
「”……分かったよ。好きにしな。”」
「”ふえ!? いいんですか!! 弥生さぁん!!!”」
ため息と共に彼女は今回はあっさりと折れた。
あまりのあっさり具合に、卯月が困惑するほどだった。
「”こうなった皐月は頑固だからな。もう何言っても聞きやしないだろ?
だったら好きにさせるさ”」
「サンキュー弥生。」
皐月は笑顔で、通信機の弥生の声に礼を告げた。
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「やりたいコトと、出来るコトは違うと思いますぅ!
精神論で勝てたら苦労はないですよぉ!」
研究室、大画面のモニターの前で、卯月は隣の席の弥生に抗議していた。
「………それがなあ。皐月が精神論を口にして、”やりきる”、って宣言すると、やりきっちまってるのが事実なんだよなあ。」
と、弥生は両手を後ろ手に、頭の後ろ、後頭部に当てて、天井を仰ぐ。
事実、先刻の火炎放射をロッドで凌ぎきったときもそうだった。
それだけではなく、皐月がヒーロー=ダイアレスターになってから、活動してきた今日までのあいだ、何故か似たようなコトがままあった。
天才である弥生は、これが不思議でならなかった。
理屈では無理な筈な事象を、皐月は感情でやり遂げてしまう。
傍から見ると、無茶なコトであり、一見すると無謀にしか思えない皐月の行動に、弥生たちはいつも動揺し、警告し、止めようとするが、結局それをやりとげる皐月。
とくにここ一番の感情が乗ったときの皐月の行動は、眼を見張るものがある。
恐らく、今回の”ここ一番”は現在だろう。
なんとなく、弥生はそう感じていた。
「……確かに、過去の戦歴を振り返ってもぉ、
皐月さんが”気合い”や”根性”といった感情の単語を口にしてからの行動はぁ、スゴいものがありますぅ。
でもぉ、それが通じない、最初の一回が、今来ない、とも限りませんよぉ、弥生さぁん。」
卯月は納得しかねている様子だった。
卯月もどちらかと言えば、感情論よりもデータ派の人間のため、承服しかねるのだろう。
本来は自分も、そうあるべきなのだろうし、少なくとも、この「ヒーロー活動」を始めるより以前の自分であれば、一笑ののちに却下にしたものだろう。と苦笑を浮かべながら弥生は思う。
恐らく見てみたいのだ。皐月が理論を感情で越えるところを。
なんだかんだで、それを楽しみにしている自分が何処かにいるのだろう。
そして、それを特等席で観るコトが出来、かつ、その手助けを出来る現状が、弥生自身、気に入っているのだと思う。
だから、不安な表情を浮かべる卯月に、弥生はこう続けた。
「皐月のやりたいコトをサポートするのがボクたちの仕事だ。
皐月が”拳”でいきたい、って言うのなら、それで倒せるような手段をボクたちで考えよう。
それがボクたちの現在出来るコトだ。」
「……分かりましたぁ。」
卯月は暗い表情のまま、しかし断ることなく、弥生の提案に従う。
「そうと決めたら卯月。取り急ぎ確認して貰いたいことがある。」
「はぁい。何でも言って下さぁい。」
弥生は早速卯月に、”皐月がナックルで勝つためのヒント”を探すために必要な、ある作業を頼んだ。
「(さあ皐月。今回もバシッ、っと決めてくれよ?)」
振り回されっぱなしではあるものの、それでも人を惹き付けるなにかを持ち合わせる妹分に、
弥生は改めてワクワクしながら、次は何を見せてくれるのかを期待しつつ、モニターのヒーローの姿に注力した。
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「……しのごの悩むのは止めた!
現在必要なのは、迷ったり、悩んだりするコトじゃない!!
現在必要なのは………」
皐月は深呼吸し、一度眼を閉じる。
一呼吸置き、眼を開くと決意を乗せ、大きく叫ぶ。
「必要なのは”気合い”と根性”!!!
あとは”やる気”で、
―――――成せば成る!!!!」
アレストチェンジャーを取りだし、顔の横に持ってくると、右手 親指の腹で、側面の突起を倒す。
呼ぶのは七つのツールの中で、皐月が最も気に入っている装備。
一番多く使い、一番決め処に多用する愛器……
「おいで、”拳”!!!」
ガシャン!という効果音の後、ガイダンス音声が鳴り響く。
「”Tool choice!!
[Arrest knuckle],
――come on!!!!!!"」
音声と共に、皐月の両腕が光に包まれる。
光がおさまると、そこには二つでワンセットの近接ツール、
「アレストナックル!!!!!」
右腕と左腕、両方に籠手が出現。
左掌の方がやや大きいものの、両腕同デザイン、元々のダイアレスターの腕部プロテクターを覆う形で、肘近くまで延びた左右対象の装備だ。
「……一体、いくつ武器を持ってやがるんだ。」
唐丸が呆れたように呟く。
「さあてね? ただ、少なくとも見せるのはコイツが最後さ。
何故ならこれで………」
右手を握り、拳を作る。
左手は広げ、胸の前に持ってくる。
そして、
右拳で左掌を叩く。
バシッ、と、良い音が鳴った。
この一連の動作ののち、皐月は宣言する。
「トカゲはお天道様の元に帰るからさ!!!」
構えを取る皐月。
腰を落とし、左手は広げ、前方に、右手は拳のまま、右頬横に引く。
大トカゲを真っ直ぐ見据え、堂々の気合いをぶつける。
「これ以上の武器のお披露目はもうないよ!!
さあ!! これで最終ラウンドとしようや!!!」
「頭の悪いやつだ。
何が飛び出そうと西龍1号には効かんというのに、
よりによって来たのが拳とはな。」
唐丸は皐月の選択にバカにしたような呆れ顔を見せた物の、皐月の最終ラウンドという発言が自身の闘志に触れたのか、すぐに笑みを浮かべ発言を続ける。
「よかろう! 最終ラウンドと行こう!!!
ただし、ヒーロー! 貴様の最終ラウンドだがな!!!」
唐丸は西龍1号を一瞥すると、すぐさま皐月の方へ向きなおし、叫ぶ。
「思い知らせろ!!! 西龍1号!!!!!!」
西龍1号に命じ、唐丸はヒーローに向け突進させる。
体当たり攻撃だ。
三メートルを越える金属の塊が、皐月目掛け、砂埃を上げつつ、なかなかの速度で迫ってくる。
皐月は慌てず、迫ってくる西龍1号を引き付け、ある程度近づいたところで、
「ほっ!!!」
側転でかわす。
西龍1号はその勢いのまま、誰もいない方向へ真っ直ぐ行ってしまう。
「あれじゃトカゲじゃなくて猪だな。」
皐月は呟くと、西龍1号の背を追い掛け駆け出す。
「背中ががら空きだよ!!!!」
ジャンプすると、皐月は肩甲骨の辺りに狙いを定め、身体を捻り、右拳を構える。
「(いかん!!!!)」
唐丸が間に割って入り、皐月のナックルによる右手パンチを、忍者刀で防いだ。
「やらせん!!!!」
叫んだ唐丸だったが、自身の気合は手の中の得物には伝わらず。
ガキンッ!!
という金属音が響き、忍者刀が折れる。刀の刃の上から三分の二が折れて宙を舞った。
「こんのぉ!!!!」
が、唐丸も根性を見せ、折れた忍者刀の根本、残った部分で皐月に斬りかかる。
皐月は左腕のガントレット部でそれを受け………
「てええええい!!!!」
「ぐはっ!!!!」
右拳で唐丸の頬を殴ったのだった。
この間、すべて空中での出来事。
皐月は余裕で地に着地し、唐丸はなんとか受け身を取ったものの、立て膝の姿勢で起き上がるのがやっとだった。
「……まずは一発、やり返せたね。」
皐月は笑顔を浮かべ、左拳は腰に、右拳は肩の位置に上げ、決めポーズを取る。
「お、おのれええぇ………」
唐丸は鼻血を出しながら、上目使いで、恨みを込めた視線で皐月を睨む。
「今度はこの拳、アンタに入れてやるよ!」
逃した西龍1号はある程度走ったところで立ち止まり、反転していたようだ。
ズシンズシンと音を立てながら、こちらに向かって歩いて戻ってきた。
皐月は戻ってきた西龍1号に向け、右拳を突きだし、そう宣言したのだった。
「”だったら拳は、背中に入れるのが正解だ。”」
次回に続きます。




