其の9「情けは人の為ならず」
少々遅れてしまいましたが、書き上がりました。
今回ちょっと長いです。
投稿します。
無事、香里の拠点が決まったコトで、皐月の懸念がまたひとつ片付いた。
安心した皐月は、ここで香里と別れ、捜査に戻るコトにした。
玄関を出て、外に出た皐月を、香里とお美代はわざわざ見送りについてくる。
「悪いな、引っ越しの手伝い 出来なくて……」
「とんでもない。言うほど荷物は多くないですし一人で充分ですから。
……それに、」
香里は後ろに立つお美代の方を振り返りながら、続きを口にする。
「こんなにいい宿を紹介して貰いましたから。
皐月さんには感謝しかありません。」
香里にそう言われ困ったように笑うお美代。
面と向かって自身の宿を誉められ、照れているのだろう。
「これで挽回できたかな?」
「ええ、お釣りが出ますよ。」
笑顔を向け合う、皐月と香里。
さて、心地好い時間に浸っていたい気持ちは尽きず。
大変名残惜しいが、香里との楽しい時間はここまでだ。
「わざわざ見送り、ありがとうな。
……お美代さん、香里のコト、宜しくね。」
香里に、そしてお美代に、順に声を掛ける皐月。
「はい。確かに任されましたよ。
皐月さん、そっちもしっかりね。」
「うん。」
まるで母親に言われているような感覚だ。
やっぱりこの人は”おふくろさん”だな。
「ちょくちょく顔 出すよ。
香里...兄貴、見つかるといいな。」
その言葉に、香里は笑顔でこう答える。
「見つけますよ。 必ずね。」
こりゃあ一本とられた。と、皐月は苦笑した。
なるほど、アタシの言い回しだと運の要素も入って来る。
幸運がないと発見出来ない、とも取れる。
一方の香里の発言は、自分の手で見つけ出す、って意思を込めた回答だ。
こっちが好ましい。
うん、アタシの好きな言い方だ。
皐月はますます香里に好感を覚え、自然と笑顔になった。
頑張って欲しい。
こころの底から願い、それと同時に、
絶対に力になろう。
と皐月は思った。
「それじゃ……」
二人に別れを告げ、表の方に振り返る皐月。
「おみよさーーーーん!」
ちょうどそこへ、何かが皐月の身体目掛け、飛び込んできた。
「おっ、と…」
皐月は慌ててそれを受け止める。
「あ、ごめんなさい!」
「気を付けてな。」
謝ってきたその存在に、皐月は笑顔を向ける。
小さな少女だった。
見かけない娘だな、と皐月は思う。
彼女の容姿から、皐月はアイやおリカと同じくらいの歳だなと推察した。
「あらあら春菜ちゃん。どうしましたか? そんなに慌てて。」
春菜、というらしい。元気な女の子だな、という感想を持つ皐月。
そして香里も含めた三人は、この少女に注目する。
「おみよさん、みつかったよ!
トラマルとトラミ、かえってきたよ!!」
興奮気味に話す少女。
お美代に笑顔で報告している。
彼女は両腕で何かを抱えていた。
注意深くそれを見ると……
「あ! それ!!!」
「あ!」
皐月と香里が気づく。
彼女は茶色い物を抱え、もとい抱き締めていた。
もぞもぞ動くそれは……
「「さっきの!!」」
「……ミィ。」
今しがた皐月と香里、二人が助けた仔猫だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まあ、そんなコトがあったんですか。
じゃあお二人はトラマルとトラミさんの命の恩人ね。」
「命の恩人、って、そんな大袈裟な物ではないですよ。」
お美代の発言に、香里は困惑する。
「おねーさんたち、トラマルとトラミをたすけてくれて、ありがとう!!」
春菜が眩しい笑顔で二人に礼を告げる。
「いや、あれは主に皐月さんが……」
「アタシたち二人で……だろ?」
謙遜する香里に、皐月は訂正を入れる。
間違いなく香里がいなければ助けられなかったのだ。
二人で力を合わせて助け出したのだ。
皐月はそれを曲げたくなかった。
「……そうですね。
二人で、です。」
香里は謙遜を改め、笑顔で答える。
立派な行動だったんだ、胸を張るべきである。
「ミィ。」
なんだか、仔猫……トラマルも、
”そうだぞ胸を張れ、ありがとな”
と、言ってる気がした。
「……ニャア。」
いつの間にか、皐月の足元に。茶トラの猫がすり寄ってきていた。
このトラミと呼ばれた猫。
やっぱりトラマルの親だったらしい。
ちなみに母親である。
「春菜ちゃんはね、この近所に最近越してきた娘なんですが、
今朝からずーっとトラマルを捜していたんですよ。
トラミさんも息子を捜して走り回ってたみたいでしてね。
本当に見つかって良かったです。」
お美代が困ったような笑みを浮かべつつ、そう説明する。
それを受け、皐月は内心納得していた。
成程。トラマルは好奇心でドンドン木を登ってしまい、やがて登ったはいいものの降りられなくなってしまい、一方母のトラミは我が子を見つけたものの、やはりあの高さまで辿り着けずに困り果てていた、というわけか。
「トラマルはすぐ、まいごになっちゃうの。
いつもわたしとトラミでさがすのよ?」
どうやら迷子の常習犯らしい。
で、この親子、
助かって、まずは、駆けずり回る春菜を安心させるために、
一目散に走っていった……
と解釈するのは、アタシのご都合主義かな、なんて思う皐月。
「おねーさんたち、ほんとうにありがとう」
「ニャア」
なんだか母猫のトラミも礼を言っているように聞こえた。
「香里はともかく、アタシは岡っ引きだからね?
困っている人がいたら助けるのが信条さ。」
この場合は 人 ではない、
のだが、それは言わぬが花、であろう。
「おかっぴき、って?」
どうやら少女は岡っ引きを知らなかったようである。
「皐月さんのような、困っている人を助けたり、悪い人がいたら懲らしめる人のコトを言うんですよ?」
お美代さんが説明してくれる。
「ヒーローのコト?
じゃあおねーさん、あのヒーローなの!!」
岡っ引きイコールヒーロー、と誤解させてしまったようだ。
「ヒーロー……ですか?」
オエドタウンにはまだ疎い香里が首をかしげる。
「おねーさんしらないの?
このまちにはね、わるいひとをやっつけてくれる、
カッコいいヒーローがいるんだよ?」
町方や同心のコトを言っているのか、と考えた香里だったが、どうやらそれは違うらしい。
少女の言う、「ヒーロー」なる人物が、他にいるようだ。
尚、香里は気づいていなかったが、
このとき皐月は気まずそうに目を逸らしていた。
「わたしのおとっつあんもヒーローにたすけてもらったんだよ。」
「なんだって?」
思わず皐月が反応する。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
一週間ほど前、港の倉庫街でヤクザが武器商人相手に武器の取引を行なった案件があった。
深夜の闇取引、その情報を聞き付けたヒーローは、ヤクザと武器商人を相手取り、大銃撃戦を行なった。
無事に全員捕縛したものの、武器商人は最後、証拠の隠滅を図り、倉庫を爆破したのだった。
その際、関係のない民間の倉庫も爆破に巻き込まれ炎上。
ヒーローは取り残された従業員を数名救出していた。
春菜の話を鑑みるに、どうも春菜の父はそのときの救出された従業員の一人だったようだ。
(あれは厄介だったな。
解決したと思ったら、まさかの爆破だし。
おまけに、いないと思っていた周りの倉庫にまだ人がいた、ってんだから慌てたよ。
幸い死人は出なかったし、大きなケガ人も出さずに済んだからね……
けど………)
その際、ちょ…………っと無茶をしたせいで変身スーツに若干の不具合が出てしまい、
そのため現在、変身スーツはメンテナンス中……
実は現在、変身アイテムは開発者に没収されたままであった。
(弥生も神経質すぎるんだよなあ。
あのくらいでメンテが必要、って騒いでさ。)
ちなみにそれを開発者本人の前で口にして、こっぴどく叱られるのが皐月という人物。
まあ、とにもかくにも、そんなわけで現在 皐月は変身出来ない状態。
その原因となった事件に、目の前の少女の父が関わっていたとは、
世間は狭いものである。
「ヒーローのおねーさん、おとっつあんをたすけてくれて、どうもありがとう!!」
「あー。いや、そのー……」
この少女、皐月が父を助けたヒーローだと、完全に思い込んでしまったようである。
……まあ実際そうなのであるが。
事情があって、ヒーロー活動を隠している皐月は、困ってしまった。
バラすのはちょっとまずいし、かといって子どもの夢を壊すのもどうかと焦る。
しどろもどろの対応で困り果てていると、お美代が助け船を出してくれた。
「春菜ちゃん、皐月さんはね、おとっつあんを助けてくれたヒーローさんとは違うんですよ。」
「え? ちがうの?」
本当は違わないのだが………
「だってヒーローさん、鎧とか仮面とか付けてた、って言ってたでしょう。
皐月さん、そんな格好してないでしょう。」
うん、それはヒーロー時の姿だからね。
「皐月さんも正義の人だけど、正義の人はたくさんいるんですよ。
香里さんだって町人なのに、トラマルやトラミさんを助けてくれた、言ってみれば正義の人ね。
困っている人や、猫さんや……犬さんも動物さんたちも、大きく言えば、この町を……
いろんな正義の人が守っているんです。
ヒーローさんもその一人なんですよ。」
と、お美代が語る。
「春菜ちゃんも正義の人ね。」
「わたしも?」
そう続けたお美代の言葉に、春菜は首を傾げる。
「ええ、トラマルがいなくなって、必死になって捜したでしょう。
トラミさんが心配していたし、春菜さんも心配してましたよね?」
「うん、ケガしたりしたらかわいそうだし。」
「そう、誰かが傷つくのは嫌だし、いなくなって欲しくない、笑っていて欲しい……
そう願って誰かのために動ける人。
自分の為だけじゃなく、誰かのために戦える人のコトを、
人は、正義の人、って呼ぶんですよ。」
だから春菜ちゃんも、正義の人の一人ですよ、と、お美代さんは結ぶ。
「そうなのね、せいぎのひと、ってたくさんいるのね。
わたしもそうなんだー。」
ヒーローとおんなじ、と言われ春菜は嬉しかったようである。
「でも、そっかー、
さつきおねーさんはヒーローのひとじゃないのね。
まちがえてごめんなさい。」
「いやー、謝らなくていいよー。」
だって間違ってないし。
まあ若干のウソも混じってしまったが、春菜がご機嫌になったから良しとしよう。
と皐月は苦笑しつつ、大げさに後ろ頭をかくのだった。
「お美代さん、ありがとう。」
「どういたしまして。」
純粋な少女にバレずに済んだ。
皐月はお美代に深く感謝するのであった。
「でもそうよね、やさしいひとはたくさんいるものね。
あのきつねさんも、おおきなとかげさんをしんぱいしてたし。」
ふと呟いた少女の言葉。
そこに聞き逃せない単語が出てきた。
「……春菜ちゃん、今トカゲ、って言った?」
先ほどまでの和やかなムードは吹き飛び、皐月は一瞬で真顔に変わる。
皐月は自らの耳に届いた少女の言葉が聞き間違いではないか確認する。
「うんそうよ。
あのきつねのおじさんも、きっとせいぎのひとなのね。」
きつねのおじさん………
「なあ、春菜ちゃん。
その”きつねのおじさん”と何処で会ったんだい?
大きなトカゲもそこにいた?」
「皐月さん?」
先程までの陽気な雰囲気が消え失せ、シリアス表情になった皐月を香里は不思議に思った。
急に、どうしたんだろう、と。
「ふつかまえかしら?
よるにトラマルがいなくなって、さがしにでたの。
このこすぐいなくなっちゃうから。」
「あらあら、春菜ちゃん。
夜に子供一人で出歩いてはダメですよ。
危ないですからね。」
「……ごめんなさい。」
お美代さんの注意は最もだし、大事なコトだ。
だが、申し訳ないが、今はそれどころではない。
皐月は屈み、春菜の目を見ながら先を促す。
「それで?」
「トラマル、すぐにみつかったんだけど、
みつけたところ、くさむらだったの。
くさむらから、たくさんのおとながあつまってるのがみえて……」
「そこに大トカゲがいた?
...そのトカゲ、羽とか生えてた?」
「うん、りょうてが、はねになってた。」
やはり噂の大トカゲだ。
どうやら春菜は、大トカゲに何かしている集団を目撃したらしい。
幸い、春菜は小さいナリだから、草むらの陰になって、運良く見つからなかったのだろう。
「……大人が集まってた、って?」
「うん、6にんくらいいた。
みんなくろいふくきて、かおをかくしてた。」
まあやましいコトをやっているのだ。
顔くらい隠すだろう。
しかし分からない……
「きつねのおじさん、ってのはなんだい?」
この単語の意味が分からない。
狐顔、ってコトだろうか。
いや、春菜は、大人は全員、顔を隠していた、と言っていた。
「あのね、とかげさんをしんぱいしてた、えらいおじさん。
だいじょうぶなの? もんだいはかいけつした?、って
ほかのひとにきいてた。」
この次の単語が、答えだった。
「そのりっぱなふくのえらいおじさん、
みんなに”コンさま”、”コンさま”、
って呼ばれてた。」
皐月の眼が見開く。
皐月の中で、答えに結び付く。
「……左近守だ。」
トカゲ案件の首謀者がわかった。
これは大変有り難かった、得難い情報だ。
春菜がいなければ、この情報に辿りつけなかった。
さらに言えば、猫を助けなければ、
春菜はここには現れず、まだ今も、猫を捜して、町中を歩き回っていただろう。
皐月と香里が、猫を助けたから、巡り巡ってこのタイミングで春菜に会えたのだ。
そして情報が得られたのだ。
急がば回れ。
情けは人の為ならず、とはよく言ったものだ。
「やっぱ人助け、ってしとくもんだね。」
笑みを浮かべ、そう口にした皐月。
巡り巡って自分に益がかえってきた。
首謀者が判明したこのあと、どう動くかを皐月は決めたのであった。
尚、やはり 人 ではない、とツッコずにいたほうがいいだろうか。
次回、敵が登場します。(ようやく)




