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弟の友達

「……ヒナ? なんで、お前がここに……」


「やっぱり、兄さんだ。良かった。探していたけど、見つからなくて。ちょうど僕の後ろの方の列にいたんだね。死角だったんだ」


「そんなことはどうでもいい! なんでお前がここにいるんだよ!」


カグチは、ヒナヒコの肩を掴む。


「え? ほら、今日、オープンキャンパスだったでしょ? だから、兄さんの学校を見に来ていたんだよ」


弟の笑顔に、カグチの顔がゆがむ。

死んでいるわけじゃない。

でも、魂を複製され、連れてこられた。


自分はいい。

本物が母の近くにいるなら、自分は複製として、新しい世界を楽しもうと思えている。


でも、弟が、家族が同じ状況になって、心を乱さないわけがない。


沸いてくる激情を、目の前の弟にぶつけてもしょうがないことは分かっている。


だから、カグチはとりあえず、力を込めて目をつぶり、そしてあけた。



「そうか。わかった。でも、だったらお前だけじゃなくて、他の人もいないとおかしいだろ。ここにいるのは、ほとんど、俺のクラスか両隣のクラスの奴らだし……」


部屋にいるのは、カグチのクラスを中心に、両隣に位置するクラスの生徒達と、その担任教師ばかりだ。


少しだけ違う、別の制服を着ている生徒なんて、気がつけないほどに、見ていない。


「いや、実は、ちょっとオープンキャンパスの説明会を抜けてきてさ。ハノメの奴が兄さんの授業を受けている様子が見たいって……」


「……ハノメって……」


「うっす! 先輩!! いやぁ、なんか大変な事に巻き込まれましたね! これは大変だぁ!!」


ひょこりと、どこに隠れていたのか、ヒナヒコの後ろから、小柄の、ヒナヒコと同じ系統の学校であると分かるデザインを来た女子生徒が顔を出す。

彼女の名前は、秋山あきやま 葉乃芽はのめ

カグチの弟、ヒナヒコの同級生の女の子だ。


「なんか急に真っ白な光が光って『うひゃーまぶしいー』なんて思っていたら、変な白い場所にいて、高校生の先輩方が周りにうじゃうじゃいるじゃないですか。いやーぶっちゃけパニクりましたよね。『やべーこえーおっかねー』って。せめて、他に知り合いがいないか、ってか私とヒナくんの知り合いなんて先輩しかいないんッスけどね! とにかく、先輩がいないか探していたんですけど、ちゃんといたんですね! いや良かった良かった! そういえば、先輩、聞きたいことが……」


「相変わらずめちゃくちゃしゃべるな、お前は!」


ぺらぺらと、饒舌にしゃべり続ける弟の同級生、ハノメに、カグチは若干イラつきながらツッコむ。


「いいか? 今は……」


「あ、そういえば。先輩。先輩に渡したいモノがあるんです。かわいい後輩からのプレゼントですよーちょっと待ってください」


カグチの話を遮り、ハノメは制服のポケットに手を入れる。

胸のポケットにいれて、スカートのポケットに入れて。


パンパンと、全身のポケットを叩き、中に手を入れ、そして、またたたく。


「……先輩! プレゼントがないッス!!」


「知らねーよっ!!」


ハノメが近づいてきたので、カグチは慌てて上体をそらす。


そうしないと、当たるのだ。


彼女の、年齢の割に育ちすぎている、おっぱいが。


ツリそうなほどに、上体をそらしているのに、ハノメはグイグイとカグチに近づく。


「なんでないんッスか!? 先輩っ!」


「だから知らねーって!! ……たぶん、俺たちは魂の状態だからな、着ていた服は再現されても、持ち物までは、再現されていないんじゃないか?」


「そ、そんな……」


ハノメが、うつむき、息を落とす。


さすがに、年下の女の子に、そんな顔をされれば、カグチも邪険に出来ない。


「あー……えっとその、なんだ。まぁ、俺たちは複製された魂だし、いや、これ悪い意味じゃなくて、たぶん、そのプレゼントはしっかりと、本物の、地球の俺が受け取っていると思う、ぞ?」


しどろもどろになりながらも、かけたカグチの慰めの言葉に、ハノメは顔上げる。


「……そうッスね。そう思いましょう」


ニカリと、笑顔を見せたハノメに、カグチはほっと息をつく。


「今頃、生きている私が先輩のビビって腰を抜かしている様子を見ていると信じましょう」


「……まて、お前、俺に何を渡そうとしていたんだ?」


「……え? このまえガチャガチャで見つけた、引き抜くと血塗れの指が出てくるガムのおもちゃですけど……イタイタイタイ!!」


カグチはハノメの頭をつかみ、握りしめる。


「お前、こんな状況で何くだらないモノを渡そうとしていやがったんだ?」


「こんな状況って、渡そうとしたのは、学校にいるときッスよ!?」


「さっきも渡そうとしていたじゃねーか!」


ギャイギャイと悲鳴を上げるハノメと彼女を叱るカグチに、ヒナヒコは苦笑いを浮かべながら声をかける。


「あー、兄さん。それより、なんか慌てていたけど、それは大丈夫なのかい?」


「……あ」


ヒナヒコに言われて、慌ててカグチは杯の方を向く。


「……しまった」


杯の前には、きれいに、ぴっしりと、一部の隙もなく、行列が出来ていた。

七十人は確実にいる。

力の掲示から、『端末スマートフォンの力』が、消えた。


ガチャで消えたのではない。

選ばれて、消えていく。


「……彼の奉仕の心が、滅私の意思が、皆に伝わり、広がっていく。……ああ、主よ。私は今、奇蹟の前にいます」


天使は感涙しながら、並んでいる生徒たちにFの力を授けていく。


カグチは、完全に、Fの力を得る機会を。『異世界をハズレスキルで俺ツエー』をする機会を、逃してしまっていた。


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