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火の鳥

ゆっくりと、火の鳥が口を開ける。


一言、そう鳴くと、そのまま火の鳥は鳴き始める。


火火火火火火カカカカカカ!!」


火の鳥の声は、オーケストラのような、複雑で心を揺らすような音色だったが、不思議とどんな声であるのか、はっきりと伝わる声だった。


笑っているのだ。火の鳥が。


そして、火の鳥は、すでにほとんど炭になっているカグチに目を向ける。


「アア……まったく、この屑が。こんな奴が、我が宿主とは、情けなくて笑えてくるわ。我が力の一部とはいえ、よりにもよって燃えるとはのう……」


もう一度、火の鳥が『火火火カカカ』と笑う。


クラクラと、火の鳥の声に没頭したい気持ちになるのをサンジョウは押さえ、現状をどうするか思考する。

あの火の鳥が何なのか考える。


(今夏嘉颶智を見ながら、あの火の鳥は『我が宿主』って言っていた。だから、あれが、多分『火の力』の本体なんだ)


まさか、『力』そのものに意志があるとは想像していなかったが、しかし、『火の力』はSSの力だ。


それくらい、あり得るのかもしれない。


(そう言えば、カウンターもあったしな。『火の力』には。『火の力』に意志があったなら、カウンターも不思議じゃない)


しかし、重要なことは、それではない。

サンジョウが思考すべきことは、そうじゃない。


サンジョウはそれをしっかりと意識していたし、すぐに、答えを導いていた。


その答えは、以前、聞かされているモノだったからだ。


「あ、あの……!」


だから、十分な勝算をサンジョウは確信していたのだが。

それでも、声を出すのに勇気が必要だった。


天使に質問した時よりも、サンジョウは緊張していただろう。


そのことに気がつかないほどに。


火の鳥が、声をかけられたことで、はじめて気がついたように、サンジョウに目を向ける。


「は、はじめまして」


にこやかに、友好的にサンジョウは火の鳥に声をかけるが、火の鳥は何もサンジョウに返さない。


(だ、大丈夫か?)


そんな火の鳥の反応に、サンジョウ自分の勝算に不安を感じるが、すぐに打ち消す。


(だ、大丈夫だ、だって、僕は聞いたんだ。はっきりと。だから、いける)


自分にミスはないと確信し、サンジョウはさらに火の鳥に話しかける。


「僕の名前は、サンジョウ サトル。サトルって呼んでよ。ハハ……えっと、君の名前はなんて言うの?」


名乗り、名前を聞いても、火の鳥は何も返さない。


(……なんで無視するんだよ? 僕は……僕はおまえの……)


火の鳥が何も返さないことに、焦り、苛立ち、確信していた勝算の一つが思考に浮かび、サンジョウはつい、それを口にしてしまう。


「な、何か返せよ! 僕は、おまえの新しいご主人様だぞ!!」


サンジョウの言葉に、火の鳥はようやく反応をしめす。


「……主人?」


「あ、ああ。そうだ。僕がおまえの新しいご主人様だ。わかったら、少しはそれらしい態度を……」


「……はぁ、つまらん」


火の鳥は、呆れたようにふぅと息を吐く。


「……つまらん?って……」


「我に畏怖せずに話しかけてきたかと思えば、ただ魅了された虫とはのう。つまらん、それにくだらん」


火の鳥はそう言うと、本当に興味を無くしたのか、サンジョウを見ることを止めてしまう。


「お……おい、つまらん、くだらんって……それに、虫、だと?」


バカにされている。


はっきりと、サンジョウは理解した。


頭に血が上り、激情が押さえられなくなる。


「おい! 調子に乗るなよ!? お前は『火の力』なんだろ? だったら、聞いたはずだ! 天使様が、おまえは僕の『力』になるべきだって! 『火の力』であるおまえは、僕のモノなんだよ!!」


サンジョウの勝算を込めた激情の指摘に、しかっし火の鳥は呆れた顔を隠さずに言う。


「……天使とは、もしかして、あの下っ端か?」


「下っ端……だと?」


「神にもなれぬ、『神秘』どころか、『奇跡』も起こせぬ下の下の者が。あの下っ端の言うことを真に受けて、我を自分のモノに出来ると勘違いしたのか、この虫は」


嘲りの顔を、火の鳥が浮かべる。

サンジョウは、何も言えなくなった。

前提としていた知識の違いに、脳が混乱している。


(天使様が、下っ端? というか、この言い方だと、まさか『火の力』の方が上なのか? 天使様より? じゃあ、僕が『火の力』を得ることが出来るってのは……いや、そもそも、あのとき天使様はなんて……)


「……うわっ!?」


突如起きた突風で、サンジョウは地面を転がっていく。


火の鳥が、羽を広げた。


それだけで、経験したこともない風が起きたのだ。


「そろそろ虫との会話も飽きた。去れ。ここはお前のような者がいていい場所ではない」


高貴。


自分で決して近寄れない高さに火の鳥がいることを、サンジョウは痛感する。


しかし、あきらめたくなかった。

サンジョウの目的は、神以上になること。


自分より位が高いモノが、この『アスト』にいることが、我慢できなかった。

だから、言う。

もう一つの勝算。


「ぼ、僕が宿主になるぞ!」


転がり、倒れた体を起こし、サンジョウは声を上げる。


「僕が、お前の宿主になってやる。そんな屑より、よっぽど使える宿主だ。お前もイヤだろ? まともに力も使えない、屑なんて。その点、僕は優秀だ。お前の力を、『火の力』を最大限に、有効活用してやる!!」


火の鳥は、確かにカグチのことを屑だと言った。

情けないと罵った。

そんなカグチと自分なら、勝算はあるとサンジョウは本気で思っていた。


「……ふむ。そこまで吼えられたのは、初めてだ」


火の鳥が、広げた羽を元に戻す。


そして、サンジョウに一歩、また一歩近づいていく。


「……来いよ。一緒に、この世界で、神以上の存在に、なるんだ」


微塵も、サンジョウは自分の勝利を疑っていなかった。

全てを手に出来ると、未だに思っていた。

軟体スライムの力』があれば。

『異世界チート』で活躍する知識さえあれば。


(こういった場面で、ビビらずにちゃんと我を通せば、こういう存在は興味を示す。テンプレ通り。さすが僕だ)


サンジョウが差し出した手の上に、火の鳥がそっと翼を乗せる。

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