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現れたモノ

「あー……けどビビりすぎたかな? 一応SSランクだからって丸一日も観察して弱点探るなんてしなくても、所詮『火の力』なんだから、正面からいってもどうにかなったかもな」


目の前で燃えている『火の力』の持ち主だった、今夏嘉颶智を見ながらサンジョウは笑う。


「いや、初見じゃ危なかったか? 『火の力』のカウンター。でも、弱点丸わかりだったからな」


採取しながら魔物に背後から襲われていたカグチを観察し、サンジョウはすぐにカグチの『火の力』のカウンターの欠点に気がついた。


ほとんど同時に二匹が攻撃をしかけると、一匹が少しだけ遅れて燃えていたのだ。


つまり、複数を同時に燃やすことができないということ。


それに、もう一つ。


「なんか、魔物の死体を見てイヤな顔をしているときは、明らかにカウンターの反応が悪かったからな。『力』が感情に影響される。よくあるパターンだ」


サンジョウは呆れたように、体を丸め始めた、燃えているカグチを見る。


「焼死体を見るのがイヤなら、最初から『火の力』なんて選ぶなよな、バカが。『火の力』なんて、戦いにしか、殺すことにしか使えねーだろ。ったく、単純にカッコいいとでも思ったのかね? これだから『火の力で序盤にツエーして調子に乗って死ぬウェイ系』は嫌いなんだよ。って、コイツはウェイ系じゃねーか」


サンジョウはハハと笑う。

その間にも、カグチの体が徐々に黒くなっていく、炭化しているのだ。


「あーそろそろ取り込まないと不味いか? いや、味的な意味じゃなくて。燃えちまった奴を食ったことはないからな。ちゃんと取り込めるかわからないし。じゃあ、手を合わせて。完全にその『力』……いや、お前の『全て』を『いただきます』」


サンジョウは手を合わせたまま、体を大きな口に変え、燃えているカグチの体を包み込んだ。


あとはこのままカグチの体を完全に溶かし、吸収すれば、すでにカグチの体の一部を取り込んでいるのだ。

拒絶反応を起こすことなく、カグチの『全て』を。

カグチの『火の力』を手に入れることが出来る。


(……まず一つ。そうだな、このまま一緒に北の大国 『ゾマードン』にやってきた二十人を食べて……それから、復讐してやる。マダラメに!)


それだけの力があれば、あの『鬼王』にも勝てるだろう。


復讐の為の始まりの一食。


サンジョウはゆっくりと味わうようにカグチの体を溶かしていって……


突然、サンジョウの体が弾け飛んだ。


「ぎゃっ!?」


完全に燃え落ちた、白い大きな木を越えて、ビチャビチャと体をまき散らしながら、サンジョウは落ちる。


「……な、なんだ?」


すぐに周囲に散らばった体を集め、顔だけ成形して、自分に何が起きたかサンジョウは確かめる。


「あ、あれは……」


そして、自分の体が散らばった原因と思える存在を視認に、サンジョウは息を飲んだ。


大きな、火の固まりがいた。


綺麗な、綺麗は、火の固まり。


この世の全ての美辞麗句をつくしたところで語れないほどに、美しい火。


その火があまりに美しくて、その火が何を象っているのか、数秒間は理解できなかった。


ただ、火を見ることしかできない時間。


体が止まり、思考が止まる時間。


あまりに短く、しかし濃厚な時間からなんとか抜けだし、サンジョウはようやく、その美しい火がどんな形をしているか認識する。


(……と、鳥?)


翼がある。


三対六翼の翼。


尾羽はクジャクのように長いが、その雄大さと可憐さは比べることさえ烏滸がましい。

例えるなら、虹。


虹のような、尾羽。


そして、残る特徴といえば、足が三本あるのだが、それら全てをまとめても、やはり一番の特徴はその鳥は燃えているということ。


だから、その鳥はまぎれもなく、


(……火の鳥)


火の鳥が、優雅に、体を伸ばす。


(……デカい)


そう、サンジョウは火の鳥を認識したのだが、実際の大きさはわからない。

なぜなら、火の鳥は文字通り火だったからだ。



火の大きさを正確に把握出来る者などいない。


常にゆらめき輝く火を、人は把握することなど出来ないのだ。


ただ、圧倒され、サンジョウはもう人の体を形成することが出来るくらい飛び散った自分の体を集めていたのだが、起きあがることが出来ないでいた。

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