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『主人公』の敗北

 サンジョウとマダラメの戦いは、一時間もしないで決着した。


「……ひぃー……ひぃー……ひぃー……」


「ちっ、やっぱり気持ち悪いな。なんだよ、ぐちゃぐちゃじゃねーか」


サンジョウの体は、バラバラに飛び散り、原型を保てていない。

25メートルのプールを埋め尽くせるほどに大きくなっていた体も、もはや人の形を作るだけで精一杯になっていた。


一方、マダラメは大きな剣を構えたまま、岩から動いていない。


「で? なんで俺を襲ってきたんだ? お前、喧嘩上等じゃなかっただろ?」


一時間、何度も何度もマダラメに吹き飛ばれて、バラバラにされたサンジョウの心は、完全に折れている。


サンジョウは何も答えず、ただ壊れた笛のような音を発しているだけだ。


「ちっ」


しかし、何も答えないサンジョウにイラついたのか、マダラメは大きな剣を振り上げる。


そんなマダラメの様子を見た瞬間、サンジョウは慌てて答え始めた。


「い、言います! 言います!! 『力』が欲しかったんです! 『力』を集めて、強くなろうとしたんです!!」


「『力』?」


「はい、『力』です! 僕の『軟体スライムの力』は、取りこんだモノを吸収して、扱えるようになるんです」


サンジョウの言葉に、マダラメは興味を示す。


「へー……つまり、お前は俺を殺して、食べて、俺の『力』を手に入れようとしていたわけか。俺の、『鬼王の力』を」



「は……はいぃ……」


ガクガクと震え、サンジョウは頷いた。


「で、それで? お前は俺の『力』を手に入れて……何をしようとしていたんだ?」


「はい?」


「だから、強くなって何をしたかったんだって聞いているんだよ」


「ひぃ!?」


マダラメが苛立った声を上げ、反射的にサンジョウは縮こまる。


「つよ、つよ、つよくなって何をしたかったなんて、そんなの決まっているじゃないか」


サンジョウは、なぜこんな簡単なことがわからないのか理解出来なくて、少しだけ力強く言う。


「強くなって、最強になって、この世界を、『アスト』を僕のモノにするんだ。この世界の『王』に、……いや、『神』に、いやいや『神』以上に、僕はなるんだ」


サンジョウの答えを聞き、マダラメは一瞬目を開いて固まっていた。


「ぷっ……」


しかし、しばらくすると、マダラメは吹き出した。


「アハハハハ、『神』以上ってなんだよ、お前馬鹿じゃねーのか? 夢見すぎだろ、そんな真面目なナリして」


サンジョウは、マダラメの言葉に何も返せない。


ただ、少しでもマダラメの機嫌を損ねたくなくて、サンジョウは口を閉ざし続けた。

一方のマダラメは笑い転げている。

そして、ひとしきり笑ったあと、その身を起こした。


「あー……なるほどなぁ。でも、考えてなかったわ。こんだけ強い『力』を持っているのに、何になるのか考えていなかった。確かに、そうだよな。『鬼王』なんだ。だったら、『王』以上を目指さねーと、『神』以上を目指さねーと、面白くねーよな」


「そ、そうだよな?わかったら、僕はこれで……」


サンジョウは、マダラメが笑っている間に、ジリジリとマダラメから距離を取っていた。


そのまま、何事もなかったかのよう、逃げだそうとしていたのだが。


「しかし、お前の、その『スライム』? だっけか? そんな変な奴でも、別の奴を食べたら『力』を手に入れることが出来るなら……俺も出来るんじゃねーのか? だって俺、『鬼王』だぜ?」


マダラメは、笑いながらサンジョウを見る。

その目は、まさしく鬼。


寒気が走る。


サンジョウは、より強く、自分の立場を思い知った。


(……食われる!)


自分が、マダラメにとって、タダの捕食対象であることを。


「ありがとな。退屈だったんだ……けど、ようやくこのくそツマラネー世界でやることを見つけた。俺が全員、『食って』、なってやるよ『神』以上に」


マダラメが、振り上げた大剣を振り下ろす。


走った衝撃は大地を抉り、跡形もなくサンジョウを吹き飛ばした。


「……って、しまった。これじゃあ『食え』ねーじゃねーか。あーあ、まぁ、いいか。不味そうだったし、アイツ」


あちゃーと、マダラメは軽く頭を抱える。


「てか、よく考えると俺、このままでも『神』になれるんじゃねーか? こんだけ強いんだし。他の『力』なんて必要ないか。よし、じゃあまずは『国』を作って『王』にでもなるか。んで、世界中を支配して、『神』になる……ん? その『神』以上ってなんだ? まぁ、いいか」


そんな計画を立て始めたマダラメを遠めで観察しつつ、その場を離れるモノがいた。


(……逃げないと)


小川に溶け込んでいた、サンジョウだ。


マダラメに吹き飛ばされる度に、少しずつ、少しずつ、自分の体を川に紛れ込ませていたのだ。


小川の流れに乗り、サンジョウはマダラメから離れていく。

マダラメの最後の一撃で、また体積が減っているのだ。


そのため、溶け込ませた体を全て集めても、元の体の形を整形するのが精一杯だった。


この一週間の努力が、ほとんど無に帰している。


(くそくそ! こんなことになるなんて!!)


サンジョウは、後悔していた。


(あれが『鬼王の力』! 手も足も、体のどこも出すことが出来なかった! ただ蹂躙されただけだった!!)


震えるほどの恐怖が、未だに全身に残っている。


マダラメが大剣を一振りするごとに、自分の体が削られ、消滅していく感覚。


圧倒的な『鬼王』の膂力に、寒気がする。


(間違えた!間違えた!間違えた!順風満帆の『異世界チートで俺ツエー計画』の、最大の間違えだ! こんな序盤で『負け組でも実は最強なチートを持っている主人公』である僕が、あんな奴に負けるなんて、駄作も良いところ!!)


サンジョウは、激しく後悔する。


(……そうだ、僕は初めから、始めから、間違えていたんだ! 考えが足りなかった。あんな風に、戦いを挑むべきじゃなかったんだ。同級生だぞ? 同じ『力』を持っている者同士なんだぞ? あんな戦いを、挑むべきじゃなかった!そんなこと、主人公がするべきことじゃない!!)


後悔し、反省する。

自分の行いを。


(正面から堂々なんて、本当に間違えていた。もっと観察し、弱点を探り、えげつなく、卑劣に、罠にはめて、徹底的にやるべきだったんだ! それが今流行の主人公の姿だ!! 絶対に負けない主人公の挑むべき姿勢だ!! そうすれば、あの馬鹿にも勝てていたはずなんだ)


自分の戦う姿勢を。

後悔する。


(次は、うまくやる。ハハ、なんか頭がスッキリしてきた。僕はなんて愚かだったんだ。がむしゃらに焦って、戦いを挑み敗北するなんて。そうじゃないだろ? 主人公は、いつも知恵を使って勝利を掴むべきなんだ)


サンジョウは、妙にスッキリとした思考に、気分を良くし、次の行動を考える。


(まずは……回復だな。とりあえず魔物を食いまくって戻らないと……たぶん、取り込んだはずの武器の分も消耗しているな、回復回復……このままいけば、到着するのは……そうだ)


サンジョウはこの川の行き着く先を考え、そして思い出す。


(そういえば、天使様が初日の夕方ごろに話しかけてきたな。聖域にアイテムを用意したって。あれは、まだあるんじゃねーか?)


サンジョウが次に思い浮かべたのは、国中に散らばっていた同級生たちだ。


(一週間であれだけ散っていたんだ、初日から、スタート地点を離れようとした奴らばかりのはずだ。天使様もアイテムを用意したのは力がないFランクのやつらの人数分だって言っていたし、可能性はある)



しかし、スタート地点。聖域で、サンジョウが飛ばした『シュザリア』がかき消されていたことを思い出す。


(そういえば、消されていたな。どうする?でも、今の状況なら追加のアイテムはほしい。まずは……そうだな、誰がいるのかくらいは確認するか。それで、観察して勝てそうなら、追加のアイテムを……いや、せっかくだし『準備』で手に入れたアイテムも……いやいや、せっかくだから……)


『全て』を、いただこう。


サンジョウはそう考え、小川の流れに乗り、聖域の近くの森までたどり着いた。


そこには、なにやら採取をしている、『火の力』の持ち主であるカグチがいて……サンジョウは、彼から奪うことにした。


追加のアイテムを。


『準備』のアイテムがないから、代わりに彼がこれまで手に入れてきたモノを。


そして、彼の命を。

彼の『火の力』ごと。


手に入れることにしたのだ。


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