サンジョウの獲物
『アスト』にやってきた瞬間、サンジョウは周囲を確認すると、すぐにその場から姿を消した。
聖光の衣。
光の中に紛れ、姿を消せる衣。
『アスト』について経験し、己の『力』を体験し、誰よりも早く、先んじるために。
サンジョウは皆から離れ、様々なことを試していった。
『軟体の力』で何が出来るのか。
結果とすれば、サンジョウが思っていた、『地球』で読んだ『異世界チート』系の小説に出てくる『スライム』と、ほとんど同じことが出来ると判明した。
分身も出来るし、武器を取り込めば同じ武器をコピーできる。
少々違う点は、物体に関してはただ体に取り込み、溶かしきればコピーできたのに、魔物を含む生き物に関しては、少量を少しずつ取り込み、慣らしていかないと、十二分に取り込むことが出来ない点だった。
おそらく、拒絶反応みたいなモノだろうと、サンジョウは考えている。
それらの力を試し、身につけた頃には、『アスト』に到着してすでに一週間は経過していた。
『軟体の力』を得てから、屋根のある家で休むことを望まなくなったし、身につける衣服にも興味がなくなった。
食べるモノに関しては、大量に必要になってはいたが、魔物を取り込んでいれば、何も問題なかった。
ただ、ひたすらに、自分の『力』を磨く時間。
一週間で、大量の魔物を取り込んだサンジョウは、おおよそ25メートルの学校のプールを満杯に出来るだけの体積を持つ体を手に入れた。
その一週間というのはとても早く経過して、サンジョウにとっては、とても楽しい一週間であった。
しかし、サンジョウには、『八十八人の『力』を全て手に入れる』という『天啓』がある。
そのため、行動を開始することにした。
取り込んだ『シュザリア』の力を使い、国中に『カラス』の目を放つ。
王都には、剣を持った、剣丘 善雨が、女子生徒たちと一緒に連んで行動している。
他にも数名、元同級生の『力』の持ち主がいたが、イケメンのヨシフルは、良い人のフリをしたい人物だ。
王都にいる同級生を狙えば、ヨシフルたちが確実に行動を起こすだろう。
(さすがに、複数人の相手はまだまだ厳しいだろうな)
『アスト』での初戦だ。
慎重に行きたい。
王都以外にいる、元同級生をサンジョウは探すことにした。
しかし、最初に『アスト』で目覚めた聖域の周辺にもサンジョウはカラスを放ったが、誰の姿も捉えられないし、なぜか数匹、連絡が取れなくなる。
(……誰かいるのか? いるけど、『シュザリア』を一瞬で消すことが出来る実力者か。そんなやつと戦うのもゴメンだな……他にも、港町と、繁華街も消されているな。ちっ、僕以外にも、強い奴は結構いるのか)
丸一日、探し続け、サンジョウはとうとう獲物を見つける。
そして、彼の元へたどり着いた。
彼は、小川が流れる深い谷の底で、大きな剣を肩に掛け、岩に座っていた。
「……なんだ? お前? どっかで見たな……ああ、あのとき質問していた奴か」
百鬼目 童治。
あの、『力』を貰うとき、サンジョウよりも唯一、早く『力』を手に入れた、ガラが悪い集団の一人だ。
(お誂え向きだな。こいつが一人でいるなんて。持っている『力』も知っているし、その力も『鬼王の力』どう考えても、パワー型の、馬鹿なコイツにぴったりの単純な力だ)
サンジョウは、笑っていた。
マダラメ相手に、負けるビジョンなど、何一つなかったからだ。
(僕の『軟体の力』は文字通り軟体。どんな攻撃を受けても、バラバラになっても元に戻れる。どうせ、マダラメがやることなんて、ただ、あのデカい剣を振り回すだけだ。何をされても痛くも痒くもない。手に入れてやるぞ『鬼王の力』)
「なんか気持ち悪いな。お前、用事がないなら向こうに行けよ。俺は今気分が悪いんだ」
「そうはいかないよ……だって、お前の『力』は僕のモノだからなぁっ!!」
サンジョウは、『スライム』の体を広げ、マダラメに襲いかかった。




