表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/50

白い木との楽しい夕食

「……ただいま」


もはや、この『アスト』において、実家のような安心感さえある聖域に、カグチはたどり着く。

そこに待っているのは、白い木。世界樹(仮)


『お帰りなさい!!!』と言うように、ブンブンと枝を振り、まだ暗くもないのに、発光している。


(……ヒナも小さいときはこんな感じだったな)


まるで、本当の家族のようだ。


ほっと息を吐き、カグチは白い木の元へ歩いていく。

謎の観察者は、何もしてこなかった。


「ただいま……なんだ、これ?」


カグチが白い木の元にたどり着くと、大量の果物や野菜が葉っぱの上に落ちていた。


「誰か来ている……わけじゃないのか。もしかして、お前がしたのか?」


白い木が、ブンブンと枝を振る。

『そのとおーり』とでも言いたいのか。


おそらく、盛りつけようとしたのだろう。


白い木は、結局、木でしかないのだから、葉っぱと実を落とすことしかできない。

だから、落とす順番を考えて、白い木なりに、ご馳走に見えるように、精一杯、工夫したのだ。


今日で、カグチとお別れだから。


白い木には、明日王都に向かうことは、話している。


「……ありがとう。よし、とりあえず水浴びをしてくるから、そのあとはパーティーだ。まだ明るいけど、今日は沢山楽しもう」


『イエーイ』と白い木が枝を振る。


出てきそうな涙をカグチは笑顔で隠していた。



「……今日のは、また一段と旨いな」


水浴びを終えたカグチは、白い木が用意してくれた木の実に舌鼓を打つ。


桃みたい果物、トマトみたいな野菜、松茸のようなキノコまである。


それらを、いくつかは生のまま食べたり、絞ってジュースにして飲んでいく。


また、鍋でスープもつくり、油で揚げてアヒージョも作った。

どれも、素材だけで、『地球』の一流レストランに負けない味になっている。


「お前も、旨いか?」


カグチの質問に、白い木は発光しながら答えてくれる。

『おいしい』と。


白い木が食べている……というか、栄養を吸収しているのは、足下に蒔かれた黒い水。


「……そうか。おかわりいるか?」


カグチの言葉に、白い木は大喜びで発光して揺れていく。


『うおおおお!お願いシャッス』とか言っているに違いない。


白い木の反応を見て、カグチは白い木の木の実を一つ、手で握る。


そして、『力』を込めると、あっと言う間に木の実は燃え、灰になった。


「……灰にするのは簡単なんだよ」


『火の力』の『火力』の調整はまだ苦手だが、灰にするのは簡単にできる。


この出来立てほやほやの木の実の灰に、『運水の筒』で作ったおいしいお水を混ぜて、それを白い木の根本にかけてあげる。


すると、白い木は嬉しそうに震えだした。


『プッハァー!! これこれ! この一杯のために生きている!!』


とか言い出しそうだ。


「喜んでくれて何より」


白い木の様子に、頬をゆるめ、カグチも白い木の木の実で作ったジュースを飲んでいく。


こんな夕食を、カグチはこの10日間、繰り返してきた。


最初は一人で食べていたが、白い木にも何かご馳走したいと考えたこの灰水は、白い木が思ったよりも喜んでくれて、毎日与えている。


与える度にイイ反応を見せてくれる白い木の様子に、カグチは本当に誰かと食事を食べている気がして、本当に、夕食は楽しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ