白い木との楽しい夕食
「……ただいま」
もはや、この『アスト』において、実家のような安心感さえある聖域に、カグチはたどり着く。
そこに待っているのは、白い木。世界樹(仮)
『お帰りなさい!!!』と言うように、ブンブンと枝を振り、まだ暗くもないのに、発光している。
(……ヒナも小さいときはこんな感じだったな)
まるで、本当の家族のようだ。
ほっと息を吐き、カグチは白い木の元へ歩いていく。
謎の観察者は、何もしてこなかった。
「ただいま……なんだ、これ?」
カグチが白い木の元にたどり着くと、大量の果物や野菜が葉っぱの上に落ちていた。
「誰か来ている……わけじゃないのか。もしかして、お前がしたのか?」
白い木が、ブンブンと枝を振る。
『そのとおーり』とでも言いたいのか。
おそらく、盛りつけようとしたのだろう。
白い木は、結局、木でしかないのだから、葉っぱと実を落とすことしかできない。
だから、落とす順番を考えて、白い木なりに、ご馳走に見えるように、精一杯、工夫したのだ。
今日で、カグチとお別れだから。
白い木には、明日王都に向かうことは、話している。
「……ありがとう。よし、とりあえず水浴びをしてくるから、そのあとはパーティーだ。まだ明るいけど、今日は沢山楽しもう」
『イエーイ』と白い木が枝を振る。
出てきそうな涙をカグチは笑顔で隠していた。
「……今日のは、また一段と旨いな」
水浴びを終えたカグチは、白い木が用意してくれた木の実に舌鼓を打つ。
桃みたい果物、トマトみたいな野菜、松茸のようなキノコまである。
それらを、いくつかは生のまま食べたり、絞ってジュースにして飲んでいく。
また、鍋でスープもつくり、油で揚げてアヒージョも作った。
どれも、素材だけで、『地球』の一流レストランに負けない味になっている。
「お前も、旨いか?」
カグチの質問に、白い木は発光しながら答えてくれる。
『おいしい』と。
白い木が食べている……というか、栄養を吸収しているのは、足下に蒔かれた黒い水。
「……そうか。おかわりいるか?」
カグチの言葉に、白い木は大喜びで発光して揺れていく。
『うおおおお!お願いシャッス』とか言っているに違いない。
白い木の反応を見て、カグチは白い木の木の実を一つ、手で握る。
そして、『力』を込めると、あっと言う間に木の実は燃え、灰になった。
「……灰にするのは簡単なんだよ」
『火の力』の『火力』の調整はまだ苦手だが、灰にするのは簡単にできる。
この出来立てほやほやの木の実の灰に、『運水の筒』で作ったおいしいお水を混ぜて、それを白い木の根本にかけてあげる。
すると、白い木は嬉しそうに震えだした。
『プッハァー!! これこれ! この一杯のために生きている!!』
とか言い出しそうだ。
「喜んでくれて何より」
白い木の様子に、頬をゆるめ、カグチも白い木の木の実で作ったジュースを飲んでいく。
こんな夕食を、カグチはこの10日間、繰り返してきた。
最初は一人で食べていたが、白い木にも何かご馳走したいと考えたこの灰水は、白い木が思ったよりも喜んでくれて、毎日与えている。
与える度にイイ反応を見せてくれる白い木の様子に、カグチは本当に誰かと食事を食べている気がして、本当に、夕食は楽しかった。




