総合組合(ギルド)の新人職員2
会話の途切れ。
メディは、少年が持ってきた薬草たちに目を向ける。
会話しながらも、一通り目を通していたが、どれも上質だ。
昨日のアドバイス通り、需要が高く、買い取り価格がいいモノを選んできている。
(……これだけの腕があれば……)
本当に、採取だけで生きていけるかもしれない。
もっとも、そのためには、この村よりも買い取り価格が高い、王都か、繁華街、もしくはこの一帯の領地で一番大きな町、シャフラーの港町にいく必要があるだろうが。
(……本当に、もっと高く買い取ればいいのに)
昨日、グルグが提示した、あまりに安い買い取り価格を思い出し、メディの気分が悪くなる。
別に、もうけるな、なんて言わないが、価値があるモノに、正当な評価がされないことが、どうにも許せないのだ。
自分の姉と、姉の大切な人のことを思い起こし、メディはどうしても苦い思いが沸いてくる。
ふと、視線を感じ、メディは顔を上げた。
少年が、こちらを見ていた。
「あ……あはは、なにかな?」
気まずさを隠すように、メディは逆に聞いてみた。
仕事中に、どうしようもない、しかも自身のことでもない妬みに身を任せようとは、未熟である。
それを隠す質問だが、気まずいのは少年も同じのようだ。
少年はあわてて言葉を探す。
「へ? いや、あはは……えっと、その……あ、そうだ。さっき、俺……僕、のこと、なんか、実力が低いみたいなことを言っていましたけど、どうやってそんなことわかるのかな、って」
言いながら、ちょっと思うところがあるのだろう。
少年が、少し不満げにメディに問いかけてくる。
「あー……あはは。気にしたの? それはごめんなさい」
「いや、謝ることじゃないですけど……実際、弱いとは思いますし」
少年が、肩を下げる。
「そう。自分の実力を把握しているのは良いことだと思うわ」
「そんな風に、うれしそうに言われると、もの凄く落ち込むんですけど」
少年が不満げな顔を浮かべ、それが何となくおもしろくて、メディは頬をゆるめる
そんなメディの様子が、少年にはおもしろくないのだろう。
少年の眉が、さらに寄る。
「で、その、なんでわかったのか、って話なんですけど……」
「ああ、そんなの簡単よ。立ち振る舞い、手とか体の傷や筋肉の付き方、それに、何より目よ」
「……目?」
少年は、自分の目尻に手を当てる。
「ええ、順風満帆な人生、というわけではなかったのかもしれないけど、貴方、純粋で、それにとても単純な、優しい目をしているから」
「単純な……って」
「無垢って言ってもいいのかもね。まるで、生まれたての赤ちゃんみたいだから」
「生まれたて……」
少年が、なにやら気まずそうに口をとがらせる。
「ああ、ごめんなさい。さすがに赤ちゃんは言いすぎたわ」
「へ? いや、大丈夫です。そう、気にしていたわけではないので」
少年があわてた様子で手を振る。
「でも、だからこそ、気をつけてね。『力』を身につけた人は、『力』に蝕まれるっていうから」
「……『力』に蝕まれる」
「ええ、神秘をその身で起こすんだから、影響がないわけない。このまえも……」
言い掛けて、メディは口をつぐみ、眉を寄せる。
話したくない話題なのに、つい出してしまった。
それに、少年が食いついてくる。
「……このまえって何かあったんですか?」
「いや、その……」
「つい先日、『力』の持ち主から、ヒドい目にあわされそうになったんじゃよ、この弟子は」
いつの間にか、メディの師匠であるウィッスンが、総合組合にやってきていた。
上機嫌に、意地悪な笑顔でニヤニヤしているウィッスンをメディはにらむ。
目で言うのだ。
『言うな』と。
「……師匠」
「その力が、またやっかいなことに『魅了の力』でのう。この馬鹿弟子はもろに『魅了』されて、よく知りもしない男の尻にフラフラついていってな」
「師匠!!」
目で言っても、伝わらなかった。
思い出したくもない出来事に、メディの顔は真っ赤になる。
そんなメディの様子が面白いのか、ウィッスンの話は止まらない。
「たまたま見かけて、なんか、変な感じじゃったから、気付け薬をブッカケて、なんとか正気に戻したがのう。ワシが気づかなければ、今頃コヤツはあの男の都合のいい愛人にでもなっていただろうな」
カラカラとウィッスンは笑う。
しかし、そんなウィッスンの話を聞いて、少年はクスリともしなかった。
むしろ、深刻そうに、眉を寄せている。
「……それで、どうなったんですか?」
「ん? どうなった、とは誰のことじゃ? メディか、それとも、『魅了の力』の持ち主かのう?」
少年の質問に、眉を上げてウィッスンが聞いてきた。




