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総合組合(ギルド)の新人職員

「今日も、こんなに良く採ってこられたわね」


総合組合ギルドの新人職員、メディは目の前に積まれた採取物を見て、感嘆する。


昨日、碧色の外套を纏ってやってきた、メディには年下に見えるこの少年は、今日も大量の植物を採取してきた。


素材などの買い取りは、総合組合ギルドの主な仕事の一つだ。


普通は、『ドルフ』の村の総合組合ギルドの代表であるグルグが責任を持って買い取りに当たるのだが、なぜかグルグから『ドルフ』の村で一番新人であるはずのメディが指名されて、少年の買い取りを担当することになった。


(まぁ、昨日と一緒で、薬草に一番詳しいのが私だからでしょうけど)


メディは、この村では薬剤師であるウィッスンの弟子でもある。


総合組合ギルドで、メディより植物に詳しいモノはいないのだ。


いないのはわかるが、まさか、わざわざ休憩中に呼び出されるとは思わなかったが。


(……普通なら、休憩を切り上げてまで仕事なんてしたくないけど……)


これほど大量に、新鮮で質のよい薬草などの天然の植物を見る機会はない。


グルグから、後で別に休憩時間を取ってもいいからと言われたこともあり、メディは気分良く少年が持ってきた植物達を手に取る。


そんな上機嫌のメディに、少年が不思議そうに話しかけていた。


「そんなに多いですかね?」


少年が採取してきた植物の量のことを言っているのだろう。

なんとも、とぼけたことをいう少年に、メディは感心と同時に呆れを覚えた。


「多いって……これ、採取するのに何時間もかかったでしょう? どこで採取しているか知らないけど、朝から採っていたとしても、普通この量は無理よ」


「そうなんですか?」


「ええ、ただ採るだけなら出来るかもしれないけど、魔物も出るじゃない」


「あっ……」


メディの指摘に少年は納得と同時に、何か、心配するような顔を浮かべた。


そんな少年の顔にメディはひっかかりを覚える。


「……どうしたの? そんな変な顔をして」


「へ? いや、あの……そういえば、みなさん魔物はどうしているんですか? その、採取する人は」


「普通に、魔物を倒しながら、採取するわよ。『力』を持っているなら、結界を張る人もいるらしいけど……」


「『力』?」


少年が、妙に話に食いついてきた。


「ええ、人智を越えた、神秘を扱える『力』。生まれつき持っている人もいれば、神秘に触れて、扱えるようになる人もいるけど……」


いいながら、どうしても不思議に思い、メディは続けて言った。


「でも、あなたも持っているんでしょう?『力』」


「うえっ!?」


少年が、目を見開いて、固まっている。


「何? そんな『スターク』に吠えられた顔をして。まさか、隠しているつもりだったの?それは申し訳ないけど、貴方くらいの実力で、これだけの植物を採取してくるなんて、普通に考えて『力』を持っているとしか考えられないわよ」


「……はぁ、そうなんですか」


少年が、気が抜けた顔をしている。


ちなみに、メディに少年が持ってきていた植物の鑑定と買い取りをお願いしたグルグは、彼らの近くで書類仕事をしているフリをしていたのだが、メディの少年への指摘に、内心で『よし!』と拳を握っていたりする。


「まぁ、安心しなさい。どんな『力』を持っているかなんて、不躾な質問はしないから」


「……聞かないんですか?」


「ええ。迷惑をかけられたわけではないし、法律を違反しているわけでもない。そんな人に持っている『力』のことを聞くのはマナー違反よ」


へー、と少年が感心する。


少年がどこの出身か知らないが、この国の文化について教えていた方がいいのだろう。


そのままメディは話を続ける。


「『力』を否定する国がない訳じゃないけど、この国ではむしろ重用される方だから。魔物狩りの報償金も他の国より高めなのよ。そういえば……」


昨日から、疑問に思っていたことをメディは聞くことにした。


「君は、魔物の『討伐証明部位』はどうしているの? これだけ採取してきているんだから、さすがに一匹も倒していない、なんてことはないんでしょう?」


メディの質問に、少年は固まり、若干気まずそうにする。


「えっと、言いたくないことなら別に聞かないけど……」


「いえ、そういう訳じゃなくてですね。うーん、なんて言えばいいのか……」


少年は、少しだけ悩むと、言葉を続ける。


「狩ってはいるんです。ただ……」


「ただ?」


「解体するのが苦手で」


ははは、と少年が気まずそうに笑う。


「……解体するのが苦手、って魔物の?」


「はい。気持ち悪くて」


少年の、あまりに情けない発言に、メディは頭を抱えた。


「気持ち悪いって……魔物を解体出来ないと、狩人ハンターどころか、冒険者アドベンチャーも厳しいわよ」


「やっぱり、冒険者アドベンチャーにもなれないですか?」


「……魔物を解体しなくても、素材を採れる迷宮ダンジョンとかに籠もるなら、生計を立てられなくもないけど、でも、解体が苦手っていうなら、そもそも魔物を倒すのも、イヤじゃないの?」


メディの意見に、少年は目を開き、そして細めた。


「……そう、ですね。本当に、その通りです」


「あー……でも、これだけ採取して来られるんだから、才能はあるわよ。『力』もあるし、あまり話には聞かないけど、採取だけで生計を立てられるようになることもなくもないないのかもしれないけど」


「ないがめちゃくちゃ多いですね」


少年がクスリと笑う。


メディは、気まずそうに顔を背ける。


「うっ……だって、今は初夏だから、薬草も多いけど、冬になると、どうしても採取は難しくなるから……そうなると、ね」


「冬はやっぱり寒いんですか?」


「ええ、五大国の中で、一番寒いわ。だから、採取だけでこれからもやっていくつもりなら、冬の前にガッツリ稼ぎなさい。それか、別の稼ぐ道を考えていた方がいいわよ」


「……ありがとうございます」


少年が頭を下げた。

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