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『道具袋』

「あと、今日はこの植物たちも物々交換できませんか? それなら、少しは高い価値になりませんか?」


次のカグチの申し出には、職員さんは意外そうに固まる。


「いいけど……ここには大したモノはおいていないよ? 村に入らずに外で野宿する冒険者アドベンチャー用にちょっとした野営用の道具を置いているくらいで……」


「そういったモノが欲しいんです。鍋とか、テントとか、採取したものを入れる袋とか、タオル……布の切れ端とか。あと、塩とかの調味料はありますか?」


「わかった。でも君が言った程度だと、2,000ロラあれば十分だよ?」


「そうですか。じゃあ、残りはお金でもらいます」


職員が倉庫からカグチが欲しいと言っていた道具一式と調味料を持ってきた時だ。


「ようし、小僧。まだおったな。『カルラウネ』はまだ売っていないな。よしよし」


ウィッスンが、銅のような赤茶色い布地のリュックサックのようなモノを背負って帰ってきた。


「……本当に持ってきたんですか? 『道具袋』まで持ってきて、いったいどんな変な薬を売り込むつもりですか? 言っておきますけど、『カルラウネ』の採取ができる有能な新人をつぶすようなモノなら、即刻叩き出しますからね」


メディは厳しい目つきでウィッスンをにらむが、ウィッスンは飄々とメディの視線を受け流す。


「アホウ。そんなこと儂がするか。それに、持ってきたのは薬ではない……ほれ、小僧。これと『カルラウネ』を交換じゃ」


ウィッスンは、背負っていた銅色のリュックサックを、カグチに差し出す。


すると、カグチ以外のその場にいたモノが皆ギョッと固まった。


「えっと……これは……」


「なんじゃ?知らんのか。まぁ、こんな田舎だと珍しいかもしれんのう。これは『道具袋』と呼ばれる種類の『神秘物アーティファクト』じゃ」


「……『神秘物アーティファクト』?」


なんだろうと、インストールされている知識をさぐっていると、すぐに答えは出た。


「『神秘物アーティファクト』は、神秘が残っている『迷宮ダンジョン』や、遺跡から見つかる、現代の人間の技術じゃ再現することが難しい神秘を起こせる宝物よ。ほとんどの冒険者アドベンチャーは、『神秘物アーティファクト』探索か、魔物の討伐を目指すものなんだけど……知らないの?」


メディに怪しまれ、カグチは慌てて手をふる。


「へ? いや知っていたよ? けど、まさかそんな珍しいモノが出てくると思わなかったからさ。ア、ハハ」



「……珍しい、のう」


苦し紛れに笑っているカグチを見て、ウィッスンはぽつりと言う。


「へ?」


「いや、なんでもない。それより、これなら十分じゃろう。儂のお下がりとはいえ、銅クラスの『神秘物アーティファクト』。しかも便利な『道具袋』じゃ」


「便利って……そういえば、その『道具袋』の効果はなんですか?」


「そのものズバリ、モノを大量にいれることが出来るんじゃよ。これには空間の魔法が込められていての、だいたいこの袋の三倍くらいのモノを入れてもへっちゃらじゃ。どうじゃ、スゴイじゃろ?」


ウィッスンが自慢げに見せている『道具袋』を見て、カグチは口をとざす。


(うーん……び、微妙)


カグチの反応が悪いのも当然だろう。

なぜなら、ウィッスンが見せている『道具袋』の容量が、その見た目の3倍なら、カグチが10個も持っている『虚無の箱』と同じか、やや少ないくらいの量しか入らないのだ。『虚無の箱』の方が、圧倒的に小さいのに、である。


どうしようか悩んでいると、ウィッスンが少しだけ距離を積め、そして、カグチにだけ聞こえるくらいの声で、こう言った。


「……それに、これなら、こそこそする必要もなくなるがの」


ウィッスンの言葉にぎょっとっするが、ウィッスンはすでにカグチから離れていた。


「さて、どうするかの?」


「……じゃあ、お願いします」


カグチは、交換を受け入れることにした。


(……元々、袋は欲しかったからな)


今回『虚無の箱』は見せない方がいいだろうと、持ってきた植物達は全部『威風の外套』に包んでいたのだ。


毎回それでは不便だと思っていたし、先ほど総合組合ギルドとの交換の際にも袋は希望していたのだ。

2時間程度で採取したモノと交換ならお釣りがくるだろう。


しかし、不満というか、不安はある。


「よしよし。じゃあ、これからもよろしくのう、有望な小僧よ」


そういってウィッスンが拳を出してきた。

この世界での、握手のようなモノだ。


ウィッスンと拳を合わせ、カグチは気を引き締めた。


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