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採取

「……さて、やるか」


カグチは、腕を回す。


場所は、昨日、勢いのまま走り去ってしまった、聖域を覆う森の中。


カグチは、その森を歩いていた。


何かを探すように、見つけるように。


「……お、これは」


そして、ギザギザとした葉っぱに目を付ける。

それは、カグチが『アスト』ではじめて見る葉っぱだった。


道沿いの雑草にも、生えていなかった葉っぱ。


けど、『地球』では似たような葉っぱを見たことがある。


「ヨモギにそっくりだ。こっちじゃどうかわからないけど……刈るか」


カグチは『浄土の小刀』の手に、つぎつぎとヨモギみたいな葉っぱを刈り取っていく。


そう、昨日カグチが思いついたこと。

それは、採取だ。


(……『火の力』を手に入れてしまったから、なんとなく魔物退治をしないといけない。魔物退治でお金を稼がないといけないって思ったけど……そんなわけないんだよな。別に)


ヨモギみたいな草をある程度刈り取ったカグチは、次に、ベニバナに似た花を見つけた。


それも、次々に刈り取る。


(『火の力』で、魔物の素材が回収できないなら、魔物退治をしなくていい。狩人ハンターなんて、目指さなくていい。道は、一つじゃないんだ。『火の力』の使い道は、一つじゃない)


黙々と、刈り取っているカグチの背後から、大きなネズミ、『デッドワズ』が襲いかかる。


しかし、『デッドワズ』は一瞬のうちに炭になり、崩れて消えた。


それを見ないようにしながら、カグチは採取を続ける。


(……もう『カウンター』で死ぬのはしょうがない。襲ってくる奴が悪い。『火の力』の使い道は……これだ)


魔物を狩るためではない。

『火の力』は、自分の身を守るためにつかう。

それが、カグチが出した結論だった。


カグチは、次々と、森に生えてた道沿いの雑草の中には見あたらなかった草や花、キノコや木の実を採取していく。


採取したモノは、『虚無の箱』に入れた。


「……とりあえず、こんなモノか」


2時間ほど採取をし、一通り目に付いたモノは、刈り取ることができた。


とりあえず、『地球』で見かけた薬草に似てるモノなどは多めに取ったが、どれがどうなるか分からない。


採取については、インストールされている情報がほとんどなかったのだ。

村や町の外では、魔物を狩ることがメインで、草や果実などで有用なモノは、村の中で栽培している。


わざわざ、採取をしに行くことはないようなのだ。


「……だから、逆に天然物や、栽培できないモノは貴重……だったらいいなぁ」


最近、期待通りに物事が運ばないことが多いカグチは、そんな願望を口にしながら森を出る。


「さてと、どっちに行くべきか」


雑草の草原も抜け、カグチは道に出た。


ちなみに、森も、当然雑草の草原も、魔物が襲いかかってきてはいたのだがが、皆炭になり、散っている。


カグチは、森から出て太陽が昇っている方に目を向ける。


そちらは、地球と同じ、東側だ。

東側に、北の大国 『ゾマードン』の王都もある。


「……あっちには、あいつらが向かったよな」


昨日、遭遇した馬車は、東に向かっていた。

とりあえず、繁華街か、王都を目指す方針なのだろう。

それは、間違いではない。

何を成すにも、人が集まる場所にいかなくてはいけない。

この国で一番人がいる場所は、やはり王都なのだ。


「……じゃあ、俺はこっちだな」


だから、カグチは逆の道を歩き始めた。


「どうせ王都に行くんだったら、今はそっちには行かなくていい。それに、今日は様子見だからな」


カグチがこれからすること。

それは採取して手に入れた植物たちの売り込みだ。


そもそも、売れるのかどうか分からないのだ。


もしかしたらとんでもない赤っ恥をかくかもしれないし、逆に変に目を付けられるかもしれない。

そのとき、最終的には向かうことになる王都に近い村よりも、少しでも遠い村の方がいいだろう。


「あとは……この先には確実に、歩ける範囲内に村があるしな」


昨日、きつ目のポニーテール女子たちが、馬車に乗った村があるはずなのだ。


10人近い団体で行動しても、半日ほどでたどり着ける場所にある村。

それはカグチにとってちょうどいい距離だった。


それからしばらく歩き続け、カグチは昨日見つけた野営の跡と同じような場所を見つける。


「……休憩するか」


白い木が、お弁当を持たせてくれたのだ。

そこらへんに転がっていた丸太に腰をかけると、木の実と筒を取り出し、食事を始める。


「うん、美味い」


本当に、いろいろな木の実を白い木は用意してくれた。

今カグチが食べているのは、ナッツのような触感と味がする木の実である。


「でも、ちょっと塩気がほしいかも……昨日から、甘い奴が多いし……調理器具がいるな」


なんて言いながらポリポリと木の実をかじっていると、また馬車が道の向こうからやってきていた。


「……あ」


乗っていた人物が、見覚えのある人で、カグチは思わず声を上げる。

もっとも、乗っていた方が気がついていなかったが。

乗っていたのは、カグチの担任……だった人物だ。


『魅了の力』を使おうとして、失敗した人である。


王都へ向かって、王女様でも狙うつもりか、それとも、昨日魅了することに失敗した女子生徒たちを追いかけているのか。

どちらにしても、ろくなイメージがわかない。


「……ま、いいか。俺が向かう村から離れてくれたってなら、万々歳だ」


カグチは木の実を食べ終えると、立ち上がる。


「さてと……あの馬車が朝に出発したんだったら……昼ぐらいには着くかな?」


伸びをして、カグチは道の先を見る。


「なんか体調もいいし、行くか」


カグチの足取りは、実に軽やかだった。


それからしばらく歩き続け、


「……これが村か」


カグチの予想通り、昼頃には、村に着いた。


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