『火の粉』
「……いた」
カグチは、五十メートルほど先の、木の上に止まっている大きなカラス、『シュザリア』を見つける。
野営の跡地から一時間ほど歩き、やっと見つけた、道から見える場所にいる、魔物の姿。
通常、魔物は、生き物もそうだが、何かに身を隠している。
今回、『シュザリア』は、木の上だから、姿を見せても、人間や他の生き物が攻撃してきてから、十分に対応出来ると判断しているのだろう。
姿をさらしてはいるが、油断は一切していないし、カグチを見逃すつもりはないようだ。
カグチが『シュザリア』を認識し、警戒しているため、木の上にいる『シュザリア』はまだ襲ってこないが、カグチは少しでも意識を別な事に向けたり、攻撃したら、『シュザリア』は、カグチに飛びかかってくるだろう。
そんな『シュザリア』に対して、カグチは今から、攻撃するつもりだ。
野営の跡地で、サイズの調整を練習した『火球』で。
「これを見て、どんな反応をするのか知りたいしな」
カグチは、手のひらの上部、五センチほどの場所に、『火球』を作り出す。
ボール、といっても、それは、小さな、小さなモノだった。
大きさは、パチンコ玉くらいだろうか。
「やっぱり、逃げないよな、こんなモノじゃ。これじゃあ、『火球』というより、『火の粉』だし」
『シュザリア』は、カグチが作り出した『火の粉』が見えているのか、いないのか。
まったく動こうとしない。
「……じゃあ、やってみるか」
カグチは、そのまま『火の粉』を飛ばす。
風に乗るように、ユラユラ揺れながら、『火の粉』は『シュザリア』に向かって飛んでいく。
『シュザリア』は、まったく動かない。
五秒経過したころだろうか。
いきなり、木の上に、火の手があがった。
五十メートル離れた場所からでも、はっきりと分かる大きさの炎は、『シュザリア』の全身を焼いていた。
燃える『シュザリア』の体が木から落ちていく。
「……あれでも、まだデカいのか」
想定していたよりも『火力』が出ていたことに舌打ちをしながら、カグチは落ちてしまった『シュザリア』に向かって走り出す。
ガサガサ音を鳴らしながら、雑草が生い茂る場所を走れば、当然『デッドワズ』などの魔物たちが
襲ってくるが、『カウンター』であっさりと燃えていく。
「ギィイ! ギィイ!!」
カグチが『シュザリア』の元へついたとき、『シュザリア』は全身を炎に包まれながら、暴れていた。
「……カウンターより、『火力』は落ちたけど……」
全身が燃えている以上、素材の回収は絶望的だろう。
「ギィイイ!! ギィイイキイイイイ!!」
それでも、『討伐証明』の部位は、回収出来るかもしれない。
そう思い、カグチは『シュザリア』を見ていたのだが……
「……うっ」
カグチは、口元に手をやる。
肉の焼ける臭いが、漂ってきた。
断末魔を上げ、暴れ続ける、『シュザリア』が放つ、焼ける臭い。
「……これは、考えていなかったな」
魔物の体を残すため、『火力』を落とした弊害。
魔物たちが、火に苦しむ姿を、見なくてはいけない。
自分が発した害により、苦しむモノを見る。
そうなると、どうなるか。
そんなこと、カグチは考えたことがなかった。
だって、カグチが読んできた創作物は、そんなこと、教えてくれなかったから。
三分は、続いただろうか。
殺虫剤を浴びたゴキブリのように、悶え、苦しんでいた『シュザリア』の動きが、止まる。
『シュザリア』の体は、完全に黒い炭になっていた。
火力を落としても、結局、素材も『討伐証明』の部位も、得られそうにない。
なら、カグチがしたことは、『シュザリア』を無駄に苦しめただけ。
「う……えっ……」
数度目の、嘔吐。
カグチの目には、涙が浮かんでいた。
(……最悪だ。だから、『火の力』は……)
ふらふらとふらつきながら、カグチは『シュザリア』の焼死体から離れていく。
そんな、弱り切ったカグチに向かって、魔物たちが襲ってくるが、『カウンター』で、一瞬で炭に変わる。
それが、またカグチの気分を害するのだった。




